選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第二章 事件だらけのケモナー

見習いメイド

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 ガマ商人(命名ハンク)はあれからもちょくちょくやってきていて、屋敷の空気が少し悪くなってきていた。
 特に相手をしているカルドは、疲労がたまってきているのが、誰の目にも明らかだった。エセニアもガマ商人が顔を出すたびにいらついているようだった。

「香水の匂いがきつすぎるんです」

 獣人組全員がげんなりしている。確かに残り香でも、きつい匂いが残っている。しかも柑橘系の匂いだった。エセニアたちには特に苦手な匂いなのだ。
 屋敷の窓をあけても数分間は残っているとか、かけすぎなんじゃないか。

 おかげで遊びに制限がかかっていて、ケルンは不服そうだ。俺じゃなくケルンがな。俺は大人だからな。我慢できるさ。
 どうやったらガマ商人が来なくなるかを思考するぐらいは大人だ。

「なんでもう来ないでーっていっても来るのかなー?」
 まぁ、利益のためとしかいえないな。それに、あながち間違ってはないところを攻めてきてるんだ。
「間違ってはない?」
 安全策については、俺も気にしている。それに、一部地域の人や、一部の酪農家のみに使用させるなど、差別的ではないかってところだな。

 ただ、うちのわずかな領地内での実験的使用ってことを全面的に出しているので、そこまで外野にいわれることはない。
 しかし、父様がそこまで大きく出てこないってことは、ガマ商人の後ろには貴族でもついているんだろうな。貴族に文句をいえば済むだろうが、蜘蛛の巣のように変なところに繋がりがあるかもしれないのだ。お詫びと称して付き合いが始まって、派閥争いに取り込まれることもある。
 キャスの歴史の授業でも、貴族同士の喧嘩はめんどくさいの一言から始まってるぐらいだからな。

「お外で遊べないからつまんなーい!…噴水もめっ?」
 ダメだろうな。ガマ商人からもろみえだから。

 暑さもやわらいだとはいえ、まだじとっとした暑さがある。こんな時は、噴水をプール代わりにして、水遊びをすのは最適だった。公共施設ではなく、家の噴水だから入って遊んでも構わないし、監視もエセニアやフィオナ、作業を終えたランディとかが参加して安全面も万全。
 冷蔵庫で冷やした果実を絞って飲むミックスジュースを噴水のふちで、みんなと飲むのも楽しいから夏のケルンのお気にいりなのだ。

 「もう、お誕生日近いから…入れるかなぁ…」
 微妙なとこだなぁ…秋になったら寒くなるし、風邪をひかないように噴水でのプールは禁止になるだろう。

 ここ連日、ケルンの誕生日のこともあって業者も出入りしだした。まだ先とはいえ、今回の誕生日は特別盛大にやるので、かなり前から用意が始まっているのだ。

 そのため、ガマ商人が一番多く来ているが、他にもやたらと来客が多い。毎日、今までみたことがない人が顔を出している。
 色んな人が来るから、あまり長く外に出れず、ここ、二、三日ほどは室内遊びのみになっている。

 仕方がないので、作業場で絵を描いたり、彫刻してみたり、絵の具用の魔石を調合して時間をつぶしていた。

「坊ちゃま。どうかなさいましたか?」

 外で他の人が近づいてこないように見張っていたエセニアが、扉から声をかけてきた。

「エセニアー、噴水で遊ぶの、めー?」
「申し訳ありません…坊ちゃま。今日も商人などがお屋敷にきているようでして…ご不便をおかけします」

 ケルンの要望を、エセニアは本当に申し訳なさそうな声色で断ってきた。だいたいのおねだりを叶えてくれるエセニアが断るとしたら…またきたのかガマ商人。

「んー…退屈!」

 絵を描くのも楽しいが、何か面白いことでもないものか。ケルンがつまらないと、俺はもっとつまらないんだ。
 サプライズ、求む。


「見ならーい?」

 父様のひざに座って、みんなとお茶を楽しんでいると、父様が新しい使用人を雇うといいだした。それも、見習いメイドとのことだ。メイドなのに見習い?なんだ、それ?それじゃ、雇えないんじゃないのか?

「ああ。急な話だが、三日後に知り合いの伯爵の五番目の娘さんが、行儀見習いがてらに来たいそうだ」
「旦那様、どちらの伯爵様ですか?」

 カルドが眉をひそめている。カルドも聞いていいなかったことなんだろうか。使用人の雇用関係は全部、カルドが決めているから、カルドを通して決めているはずなのに、今回はそうじゃないみたいだ。

 しかし、伯爵か…あ、まだこの国の爵位しゃくいの順番を学んでいない。キャスが「あんなもの最後でいいです。坊ちゃまが覚えなくても大丈夫ですので」なんていうからだ。まぁ、うちは貧乏だし、偉い人ばかりなんだろうな。
 しかし、伯爵の五番目の娘って…子沢山だなぁ。

「カルドも知ってるだろ?ほら、砂糖で有名なあの」
「ああ。フレーシュ伯爵閣下ですか。あの方は温厚ですが…ご息女の方はいかがですか?」

 フレーシュ地方の人か。フレーシュは、クウリィエンシア皇国の国境近くの田舎だが、農業、とくにフレーシュ大根の産地で、クウリィエンシア皇国の砂糖の大半を作っている地方だったはずだ。
 別名、お菓子の楽園。どの野菜も甘みが強く、大根は汁をすりおろして、煮詰めるだけで砂糖になるほど甘い。砂糖が畑に生えているようなものだ。

 カルドも知っているようだが、温厚な伯爵のようだな。伯爵ってきくと、なんだか怖い印象があるんだけど。お化けとかにいるじゃないか?…苦手なんだよなぁ。
「お化けはやーよ?」
 なー。ケルンも小さくぼそっというほどお化けは嫌いだ。

 父様はカルドの質問に軽く笑って答えた。

「大丈夫だ。フレーシュ伯爵本人と話したんだが、伯爵とそっくりらしいから、心配はいらないだろう。それに、一週間だけだ。我が家に奉公にきたという事実が欲しいだけだ」
「それって、その娘さんはどなたかとご結婚の予定が?」

 恋バナセンサーが働いたのか、母様が少し食い気味で父様にきいている。
 結婚前に親の知り合いの貴族の元で奉公をするのは、嫁ぎ先で何かがあったときに、逃げ込める場所を少しでも増やすための慣習らしい。

「ゲッペン将軍の息子と結婚する予定だそうだ」
「ゲッペン将軍?」

 父様の言葉に、母様は少し驚いたようだ。あれ?母様はそういう軍人とは縁がないと思うんだが…ああ、時々、王都でのお茶会で噂を仕入れてきているのかもしれないな。
 だって、母様は深窓の令嬢みたいな人だから。ヴェルムおじさんを平手で吹き飛ばしても、軍人とは関係ないだろう。
 そう思いたい。

「少しは丸くなったんだろう。でなくば、子供の希望をきくわけがない」

 父様もしみじみというってことは、問題のある人なのかな?まぁ、丸くなったということは、悪いことではないな。
 それに、息子さんの結婚相手が花嫁修業の一環でくるわけだ。なら、どんな将軍でもきにすることはないだろう。

「なんでも、息子さんの一目惚れだとか。息子さんの方から、食べる姿がかわいいとのろけてきたよ」
「あらあら。仲良しなんて素敵じゃない」
「仲良しなのは、すてきー!」

 両親もケルンも、カルドたちすら笑顔になってしまう。
 一目惚れとかいいじゃないかな。我が家では、一目惚れの結婚が基本だからな!エセニアから、両親やカルドやフィオナの話を聞いているから、好感度アップな情報だ。

「では、行儀見習い程度でよろしいですか?」
「ああ。本来の目的は、あくまで花嫁修業だ。本格的なメイドではないからな」

 見習いの話は、久しぶりに家の空気をよくした。
 そんなわくわくしつつ、三日後、噂の見習いさんがやってきた。

「お初にお目にかかります、フェスマルク様、ならびに奥様。フレーシュ伯爵が娘、マルメリー・フレーシュと申します」

 屋敷にやってきた伯爵の娘さんは、ぴしっとのびた背筋に、切れ長の目と、黄金色に輝く髪を後ろにまとめた美女だった。
 驚いた。日に焼けているのか元の色なのか、なかなかエキゾチックな美女がやってきた。確かに美人だから男の人が一目惚れするのもわかる。
 まぁ、母様の方が美人だけど。

 マルメリーも、母様をみて、一瞬固まったからな。だいたいの人は母様の顔をみて固まるんだよな。気持ちはわからなくはないけど。

 ところで、ケルンは挨拶の場にはいない。こっそり扉からのぞいているのだ。マルメリー以外には、ばれているだろうけど、どんな人なのか見てみたかったのだ。
 
 今までも何人かきているのだが、直接、会話をしたことがないのだ。というよりも、屋敷の全員がお試し期間の執事やメイドとは一緒にさせてくれない。

「どこの馬の骨ともつかぬ者となど、坊ちゃまを会わせる必要はありませんので」

 と、カルドがダメだといったのだ。
 リンメギンの人たちが来たときみたく、偉い人が会いたいというときは、仕方なく会わせてくれるが、それ以外はほぼない。直接会うにしても父様の知り合いとかかな。

 しかし、今回フレーシュ地方出身と聞いては、そうはいかない。
 フレーシュ地方の作物が甘い。その作物を主食とする家畜はどうなのかというと…かなり特殊な動物がいるらしい。
 フレーシュ牛。砂糖大根を主食とするその牛は、ピンク色で、フレーシュ牛からとれるミルクはなんと少し混ぜるだけで、最高級のホイップクリームになるのだ。『転移』で王都に運ばれるやいなや、王都のお菓子屋が買い取りに必死になるとか。

 ちなみに、我が家のお菓子に使っている。父様の働いている部署がその『転移』をしている部署よりも上だから、顔が利くらしい。とはいえ、横流しではなく、酪農家さんと専属契約を結んでいるのだ。
 お礼がてらに、冷風機を送っているほどだ。
 まぁ、うちはハンクがいるから王都のお菓子がケルンの口に入らないっていうのも大きいからな。父様が気を利かしてくれたのだ。

 ケルン…いや、正直になろう。俺はぜひその牛さんについて知りたいと思った。どんなかわいさがあるのか、鳴き声は?大きさは?
 伯爵の娘とはいえ、自分の領地の特産だ。少しは知っているだろうと思って、話を聞きたかったのだ。

 マルメリーが一週間ほど寝泊りする部屋をエセニアが案内した。
 カルドは父様と打ち合わせをしていて、ちょうどフィオナも母様のお世話でいない。

 絶好の機会じゃないか!

「あ、見習いメイドさん、こんにちわー!」

 エセニアが離れたすきをついて、マルメリーに挨拶だ。

 しかし、返されたのは冷ややかな視線と冷たい言葉だった。

「はっ!養子風情が話しかけないでくれる?」

 好感度がドーンと下がったぞ。
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