選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第二章 事件だらけのケモナー

謎を解く

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「坊ちゃま?どした?」

 小気味いい包丁の音をとめて、目的の人物はこちらをみた。

 換気をしていても、調理している匂いや、調味料の匂いがそこかしこからしている調理場。
 ここならば、ランディも匂いで苦しむことはないだろう。

 調理場は、朝早くから稼働する。そのため、扉には防音と防臭の二種類の魔法がかかっていると父様がいっていた。防臭は屋敷の中に、調理の匂いをいれなだけではなく、屋敷からの匂いも防いでいる。

 さらに、料理人だからか、ハンクはかなり鼻がきく。本人いわく、カルドより少し鼻がきかないだけというのだからすごい。なにかのスキルなんだろうな。

「ねぇ、ハンクは匂いとか気にならない?」
 
 ケルンの問いに、ハンクは鼻をひきつかせる。
 
「匂い?」
「おうちのね、匂いが変なの!」

 ハンクは調理場の横の小部屋を部屋にしているから、屋敷の匂いに気づいていないのかもしれない。屋敷に部屋を用意した時に、広すぎて落ち着かないと、寝室を元々は酒樽置き場だった場所に作ったのだ。
 今でも天井で寝るのが落ち着くとかいうのでたまに天井で寝ている。故郷では木の上で住んでいたとかいうが、世界には色んな人たちがいるもんだ。

 あとランディ。はちみつの壺をみない。あげたくなるだろ。お昼のデザートに何かだしてもらうからな。

「…屋敷の匂い?…気づかなかった…匂い…変。この匂い。この国。ない匂い」

 調理場の扉を開いて、すぐに顔をしかめて扉を閉めた。
 ハンクのいつも無表情な顔が、眉をしかめ…怒っている?

「ご禁制」

 そう一言をいって、食材置き場を漁りだした。調理の続きでもするのかな?美味しそうな匂いがしてるもんな。
 シチューかな?あとオーブンで焼かれているのはカモ?アヒル?オレンジ系のソースもあるし、アヒルかな?昨日の牛肉の野イチゴソースがけも美味しかったが…いやー楽しみだな。

「はらぺこさん?」
 はっ!…いや、ついな。えーと…そう、ご禁制!ご禁制な!
「ごーきんせい?」
 抗菌性みたいな発音はやめような。ご禁制っていうのは、国が扱ってはいけませんって決めた品物だ。売ったり買ったりすると、えーと…偉い人に、めっ!てされてしまうんだ。

 俺の説明に納得したのか、しちゃいけないことと認識してくれたようだ。
 ごそごそと何かを探していたハンクは、食材をいくつか持ってやってきた。

「この匂い…蟻…蜂…同じ。上、誰か、教える。長く吸わせる。頭…はっきりしない」
「あれか?女王蜂とかが持ってる匂いとかのことだか?」

 ハンクの言葉にランディが返した。養蜂もちょっとやっているから、ランディも知っているのか。
 階級分化フェロモンの女王フェロモンだったか。その作用でコロニー階級の支配を潤滑に行っているんだったか。

「それ。同じ。認識、すり替える。洗脳、近い」

 洗脳。つまり、うちのケモ耳組を洗脳しようとしているってことか。
 なんていうことをしようとしてんだ!マルメリー!

「長く、使う。頭、ダメになる。いつから?」
「昨日からだよぉ…大丈夫かな?」

 ケルンもランディも心配そうな表情だ。長く使えば体に悪影響を与えるなんて、本当に最低だ。まるで麻薬みたいなものだ。
 早くなんとかしないと…匂いがこもっているのが原因なら、窓をあけてまわるか?それか、窓ガラスを割ってしまうか…我が家の財政を考えると割りたくないが、ケルンの身長では届かない場所もたくさんあるのだ。母様や香水で屋敷にいれないランディは手伝えないだろう。まともに動けそうなのは、ケルンとハンクだけだ。

 背に腹は代えられない!グレたわけじゃないんだから、セーフだぞ!
「窓を割るのはめっよ?ばいくぅ?で走るの?」
 五歳の昼!じゃねや。盗みとは関係ないから。

 ああだこうだと俺たちが話し合っていると、ハンクがランディに状況を確認していた。

「昨日?…昨日?…本当に昨日?」
「らしいだ。おらも詳しくきいていないだが…伯爵の娘が花嫁修業でくっから、一週間ほど屋敷に来るときは気をつけろって、カルド様にいわれたただよ」

 ハンクは少し考えてから、頭をふった。

「こんなの、使う。伯爵娘?…それおかしい。俺、少し、考えた。でもおかしい」
「おかしい?」

 包丁を握って、持ってきた食材を刻みながらハンクはまた眉をひそめた。

「匂い。しみ込んでる。何度も…カルド、なんで気づかない?…老いて、ボケた?山椒さんしょと蜂蜜食わす?」
「いやいや、ボケてないべ?ただ、最近うっとういしい客が来るっていってたべ。疲れがでたんでねぇか?」
「そうそう!ガマ商人が来すぎなんだよ!」
「ガマ…あいつ臭い?」

 あ、遠目からしかハンクはみていないのか、人嫌いだからな。こそっと見るだけだったんだろう。

「香水がプンプンだよ!そういえば、マルメリーもプンプンしてる」
「どんな?臭い?」
「えーと…ガマはオレンジとか…かんきつけー?で、マルメリーはね、花のねぇ…んートイレのにありそうなねぇー金木犀きんもくせいの匂い!」
「そんないい匂いじゃないだよぉ…四日溜めた下着の匂いに、濡れた地面の匂いだよ…」

 ハンクが食材を切りだしてから、鼻を押さえたままのランディが嫌そうにいう。
 え?そんなきつい匂いしなかったけど。
 ってか、ランディはまた洗濯をため込んでいるようだな…フィオナに報告しておこう。

「そう。なら、間違いない…できた。これ」
「なーに?これ?」

 食材を刻んだり、調味料を混ぜて何かのソースを作り終えたのか、それを霧吹きにいれたものを見せてくれた。んー、ケルンの下には合わなそうな組み合わせだったが、オーブンのアヒルには、オレンジソースでお願いしたいな。

「俺、薬師できない。でも、真似事できる。これ薬。吹きかける。一発」
「…頼むから、オラにはかけねぇでくんろ…ここからでもそれが危険だってわかるだよ」

 怯えるようにして、身をちじこませているけど、これぽっちも小さくなっていない。代わりに、ベア毛が逆立っている。そこまで嫌がるほどなのか。元は食材なのに。

「じゃあ、みんなを呼んでかければいいね!」

 なんだ、そんな簡単に戻るなら、みんなをすぐに呼べば解決だ。そのあとで、マルメリーを取り締まって、一件落着!

「それはダメ」
「えーどうして?」

 ハンクは首を振って、ケルンの案を却下した。

「洗脳の初歩。解かそうとする者。妨害。一番最初。刷り込む」

 なるほど…確かに、相手からすれば洗脳を解かれるのが問題か…防衛本能を利用でもしてるのか?…洗脳はこれだから嫌いだ。

「じゃあ、どうするの?」
「だから…吹きかけてやる。まずカルド。ようやく、下克上!」

 無表情でもわかるほどにやる気満々で霧吹きを見せてくれるが、カルドを相手にハンクが勝てるのかな?カルドは瞬間移動持ちなんじゃないかと思うほどの速さの持ち主だし…それに早くエセニアを元に戻したい。
 エセニアは一番ケルンと一緒にいる。それこそ、ケルンにとっては大好きな姉のような人なのだ。仮に獣人じゃなくて、あのかわいいケモ耳がなくたって、ケルンは…俺だってエセニアが大好きだ。

 そんなエセニアを洗脳しようとしている?ふざけんな。

「ハンクー!僕もやる!エセニアは僕が助けるの!」
「ん。確かに…カルド相手…時間かかる…でも大丈夫?坊ちゃま?」
「大丈夫!エセニアはね、僕を傷つけないもん!」

 しばらく考えたあと、テーブルに持っていくときに出す、調味料のソースなどをいれる小瓶に作った液体を注いだものを俺とランディに渡してきた。

「いい?一人ダメ。もしもある。ランディ、頼む。俺、カルド、始末したら、いく」
「わかっただ…始末はしたらいけねぇだよ?」

 どんだけカルドに恨みがあるのかわからないけど、普段はそこまで険悪ではない。まぁ、カルドはハンクに任せるか。
 あとは俺たちが頑張るのみ!

 これを使って全部元通りにするんだ!
 …あれ?探偵って戦闘するっけ?…まぁいいか。








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