選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
44 / 229
第二章 事件だらけのケモナー

洗脳と防衛

しおりを挟む
 ハンクと別れて、ランディとエセニアを探しに行った。フィオナは母様と一緒にいるだろうから、先にエセニアを見つけて元通りにする。ケモ耳組の中で一番、エセニアが変だった。もしかしら、香水の効果が一番効いているのかもしれない。

「エセニアどこだろ?」

 鼻をつまんで急いで屋敷を見て回るがエセニアはいない。ついでに、マルメリーもだ。静かな屋敷に嫌な予感がする。

「坊ちゃま…外から、音がするだ」
「カルドとハンクかな?」
「いや…あの二人は森に行くだよ…人目があるとこじゃ戦わないべ」

 戦うこと前提だったのか。穏便にすませて欲しかったんだけど。

 鼻をつまんでいるのでくぐもった声でランディがいう。耳をすますと。外から何かが割れる音が聞こえてくる。
 音の位置は…作業場にしている小屋だ!

「ランディ!」
「わかっただ!」

 ランディに声をかけたら、すぐに担いで作業場へと走ってくれた。
 物音がまだしている作業場に近づくと、マルメリーの罵声が聞こえる。

「このグズ!なんでだい!ようやく聞き出してきてみたら、誰もいないじゃないの!ただの作業場に用はないんだよ!」

 ケルンが座る椅子が、窓ガラスを突き破って投げ出された。あの椅子は父様が選んでくれた椅子だ。ケルンが大きくなるごとに選んでくれる約束をした、最初の椅子。

 それが無造作に転がって、うえぇ?
「ふっ…僕の…いっす…うえぇぇ」
 な、泣くな!ケルン、うぇつ、俺もつら、れるうぇぇ!

「ぼ、坊ちゃま!よーしよし!坊ちゃまを悲しませるなんて…おらがこらしめてやるだ!」

 あー、ランディのぽんぽんで落ち着いてくれたか。いやぁ、ランディがいてくれてよかった。
 とりあえず、仕返しプランのレベルはどんどん上げてく。人の物を傷つけるやつに、優しさはいらないよな。

 しかし、何かを探すように漁っているようだけど…何を探しているんだ?作業場には材料ぐらいしか置いていない。あったとしてもデッサン帳ぐらいだ。でも部屋にいるって決まったときに、デッサン帳とかは持ってきているし…いや、ってマルメリーがいっていたな…そうか、用があるのか。

「エフデ?」
 どうも俺に用があるみたいだな。
 
 ケルンの家族を悲しませたり、酷いことをしやがって…でも、原因は俺か。

「坊ちゃま?あいつの目的はエフデなんか?」

 ランディはケルンの俺への呟きを自分へのつぶやきと思ったようだった。
 きかかえてもらっていたが、おろしてもらう。もしマルメリーが襲ってきたら、ケルンをかかえたままではランディの動きが制限されてしまう。

「だと…思う。昨日もエフデのことを聞いてきてたもん」

 空き部屋にやたらとマルメリーの残り香が残っていたのは、エフデが屋敷内にいると思ったから探していたのだと思う。
 どこで知ったのか知らないが、作業場にしている小屋はエフデ専用だ。屋敷にいないからそこにいると踏んで、地下に秘密の抜け穴がないかとか、情報を得るために家探しをしたってとこか。

 誰から聞き出したかはすぐにわかった。
 怒りで肩をいからせて作業場からでてきたマルメリーの後ろを、エセニアが付き従うように歩いてでてきたのだ。

「エセニア!」

 声をかけるが、どこかぼんやりとした表情で、マルメリーと俺を交互に見ている。
 まるで、ケルンがが二人いるので不思議に思っているかのようだ。
 もしかして、エセニア…マルメリーをケルンと誤認させられているのか!

「エセニアちゃん!なにしてるだ!」
「なんで、熊が!…獣人か…ちっ…まだこんなのがいたのかい…本当に厄介な場所だよ!」

 ランディの声にも反応が鈍い。代わりにマルメリーが驚いている。確かにマルメリーにランディを会わせていなかったが、厄介な場所ってどういう意味だっての。こんないいところを厄介なんていうんじゃねぇぞ!

「ランディ!エセニアを」
「何をしているんですか?」

 ランディにエセニアを救出してもらおうと思っていると頼れる人の声がした。

「フィオナ!」

 振り返った先でフィオナが仁王立ちしていた。あれほどの大きな音だったのだ。きっと何事かと駆けつけてくれ…あれ?そうならおかしい。
 母様は?母様はどこだ?

「フィオナ。母様は?母様はどこ?」
「奥様は…お眠りになってます…奥様から頼まれて…」

 フィオナの視線がこちらをみていなかった。まるで焦点の合っていない瞳だった。

「坊ちゃま…フィオナさんもやられてるだ」

 かばうようにランディがケルンを抱え直そうとした。
 でも、そこにはもうケルンはいなかった。

「えっ!エセニア!」

 気づけばエセニアに抱えられていたのだ。

「坊ちゃま!エセニアちゃん!坊ちゃまを放すだ!」

 ランディの叫びを無視して、エセニアはマルメリーの横に立った。にやりと笑ったマルメリーは、ケルンのあごを掴んだ。

「ちょうどよかったよ。あんたを探そうと思ってたんだ。エフデの友達なんだろ?エフデはどこだい?」

 力を少しずつこめてきていた手を払ったのはエセニアだった。

「ダメ…坊ちゃまを…傷つけ…させない…」
「エセニア…めをさましてよぉ!」

 焦点があっていない目だけど、ケルンを守ることだけはやめようとしない。

「ちっ!なんで、どいつもこいつも、ここまで忠誠心が強いんだい!だいたい睡眠薬じゃなく、毒にしろっていっただろ!この犬っころ!」

 マルメリーが手をさすりながらフィオナに悪態をつく。
 こいつ、今、なんていった?毒?

 ざわっと俺の知らない領域が波打った。なんだ、この領域は。

「毒?…奥様はお疲れで…ザクス様のお薬を…お身体がまだ…傷が…」
「おめぇ!フィオナさんになんちゅうことさせるんだ!許さねぇぞぉ!」

 フィオナはつらそうな表情で、しきりに「奥様…おかわいそうに…」と繰り返している。何かフィオナのトラウマを刺激させることだったのだろう。
 ランディもそれに気付いて怒っている。今まで一度も見たことがないほどの怒りだった。

「ふんっ!熊公は黙ってろ!あたしの仕事の邪魔をすんなら…おい!犬!お灸をすえてやれ!」
「はい…奥様…」

 フィオナはそういうなり手を天に向けて突き出した。
 これでわかった。マルメリーは、エセニアにはケルンを、フィオナには母様だと誤認させているのだ。非常にまずい。フィオナは母様のいうことを優先させる。

「ま、待ってくれ!フィオナさん!それはまずいだよ!」
「精霊よ…いかずちとなれ…」

 轟音と共に、落雷がフィオナの手の中に落ちた。落雷はそのまま形を変えて、一本の槍へと姿を変える。ばちりばちりと空気を震わせている穂先をランディにむける。

「ひゅー!北方式は派手な魔法だねぇ!」
 
 口笛をふいて、手をたたいて喜ぶマルメリーをにらむ。フィオナは母様やランディと同じ北方の出身だ。だけど、フィオナは北方が好きじゃなかった。魔法だってそんなに使わない。

 なぜ使わないか。北方式は攻撃的だとナザドから聞いている。だから、ナザドは父様から魔法を教えてもらったのだと教えてくれたのだ。
 母親の魔法の才能を受け継いだのが自分だけだと悩んでいたナザドを励ましたあのときに。

すんだ、フィオナさん!あぶねぇ!」
「貫け…『雷槍らいそう』」

 ランディが停止を求めても、フィオナは聞く耳を持たず。そのまま『雷槍』をランディに向けて投げつけた。
 ひゅっという音とともに、閃光が辺りを染め上げる。

「ランディ!」

 エセニアの腕から逃れようと暴れるが、いっこうにゆるむ気配がない。
 視界が戻る。
 そこには信じれない姿があった。

「ランディ…?」
「なんだい、ありゃ…」

 ランディを守るように、土塊つちくれの人形が立っていた。

「精霊様、ありがとよぉ…おらに雷は効かねぇだよ。そこかしこに土があるんだべ…精霊様、頼むだ『土纏つちまとい』」

 そういうなり、土塊の人形は崩れて、ランディを包み込む。まるで土の鎧のような姿をみせる。両手に小手のような物がついている。

「あら…また汚して…誰が洗濯すると…思っているの?」
「おーおっかねぇだよ、フィオナさん…すぐ戻してやっからな。ほんで、おらを叱ってくんろ」

 土をまとったランディをみて、いつものように小言をいうフィオナ。まるでいつも通りなその言葉に、とてもつらそうにランディが返す。

魂消たまげたねぇ…さすがはフェスマルク家。使用人も一流かい。それを操るあたしはもっと一流だけどね!ガキ、案内してもらうよ?おい、足止めしとけ!」

 そういって、この場から離れようとするマルメリー。屋敷の中を探すつもりか!

「ランディ!」
「坊ちゃま!」

 ランディに助けを求めようとも、フィオナがそれを許さない。回り込んで、邪魔をする。
 暴れるケルンを連れて屋敷の中へと入っていた。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

神のミスで転生したけど、幼女化しちゃった! 神具【調薬釜】で、異世界ライフを楽しもう!

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
旧題:神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜  ※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!  電子書籍は、2026/3/9に発売です!  書籍は2026/3/11に発売(予約受付中)です!メロンブックス様より、特典の描き下ろしSSペーパーがあります。詳しくは、メロンブックス様へお願い致します。  イラストは、にとろん様です。よろしくお願い致します!  ファンタジー小説大賞に投票して頂いた皆様には、大変感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...