選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第三章 運命の出会いとケモナー

反抗期

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「僕は怒ってます!」
 おー。そうだなぁ。とりあえず、馬車で立つのはやめような。

 さて、なんで、ケルンが怒っているかの説明をしよう。
 まずは本校に通うと決めてから、すでに二ヶ月もすぎ、新年を迎えた。
 ミケ君やメリアちゃんとは手紙のやりとりだけだったが、もう少ししたら屋敷で遊べるとのことだ。

 あの襲撃者については犯人もすでに捕らえられている。神聖クレエル帝国とクウリィエンシア皇国を統合しようとしている派閥のしかけたことらしい。
 若手の将軍によって捕縛されたとミケ君の手紙でおおまかな内容とともに教えてもらった。

 そうそう、あのとき襲撃者をひきつけてくれたエセニアだが、怪我一つせず無事だった。リボンは犠牲になったみたいだが、お守りだったんだしそれは別にいい。ただ、そのエセニアからも本当に本校に通うのかとたまに聞かれるけど。

 事件の概要をミケ君から教えてもらったってのも、ケルンの怒っている点なのだけどな。

「父様のうそつき!ちゃんと話してくれるっていったもん!エフデだって聞いてたよね?」
 そうだけど…父様も忙しいんだろうし、ケルンにはまだ難しいんじゃないか?
「僕には難しいかもしれないけど、エフデが聞いて僕に教えてくれたらいいの!」
 いや、それぐらいはしてやるけどな。

 あれから父様は本校に行かなくていいとかしか話していない。なんで黙っていたとか、他にもケルンに関してなにか隠しているのはわかっている。

「後で教えるからな」

 なんて言葉を真に受けているケルンはずっと待っているし、何度も尋ねたりしているのだ。

「僕…なにも知らないの…やだなぁ…」
 ああ…またミケ君やメリアちゃんに色々話を聞いたりしような?今度遊ぶんだろ?
「うん…ごめんね、エフデ」
 なにがだ?
「僕だけ二人と遊んで…エフデだって遊びたいよね…?」
 ん?なんだそんなことか。気にするな。俺はお前が楽しんでくれたら、俺も楽しくなれるんだからな。
「うん…」
 ほら、そろそろ着くんだから用意しろ。外は寒いぞ。ちゃんとコートを着ろよ。

 ここのところ、ケルンはやたらと俺を気にしている。薄々だが、以前より俺の存在が希薄になっていると気づいたのかもしれない。
 さすがに二ヶ月では、欠落した知識の補完は難しい。それに、戻ってくる様子もみられない。
 
 前に棒神様がいっていた。

『全ては無に帰る』

 あの言葉から知識の一部は無になったのではないかと思う。まぁ、なくなったら、もう一度たくわえればいいだけだ。
 そのためにも、色んな物をみて、本も読まないとな!あとは、ケルンに色々と体験してもらうか。そうすれば自然と回復していくと思う。

「坊ちゃま。足元にご注意ください」
「ありがとう。ミルデイ。寒くない?」
「ええ。コートがとても暖かいです。坊ちゃまはお寒くありませんか?」
「うん。大丈夫だよー」

 馬車置き場の係りの人に馬車を頼んで二人でポルティに来た。
 なんと二ヶ月でミルデイはケルンと二人での外出を許可されたのだ。
 あの襲撃のときに、なにもできなかったのが悔しかったのか、一ヶ月ほど集中して稽古をつけたらしい。
 カルドやティルカ、それに母様が。

 そのため、屋敷にいながら、たまにしか会えなかったが、怪我だらけだった。一番酷いときは、顔の半分が崩れたんじゃないかというほど膨れ上がっていて…ケルンが大泣きしたが、俺も泣きたくなったな。
 なにせ、ミルデイの造形は俺も協力したのだ。自信作といっていいのかわからないが、とても綺麗な顔なんだ。
 しかも、初めての友達が家族にぼこぼこにされるとか、トラウマものだった。

 幸いなことに、父様やザクス先生の薬で後遺症もない。
 カルドと、ティルカには文句をいった。そこまでしなくていいだろうと思ったのだ。

 でもミルデイから頼んだことだといわれた。ミルデイ本人もいっていたのだ。

「坊ちゃま。私は強くなります。そして、必ず貴方を守ります」

 あんな風に力強くいわれて、微笑まれたら「うん」としかいえない。
 それにしても、母様からなにを学んだろう?礼儀作法?将来女の子になっても大丈夫なように勉強をするとかいってたし、それかな?

 ミルデイは今は普通の執事服だけど、屋敷だけで過ごす日はフリルがついた執事服を特注して着ている。
 ぱっとみ女の子の服みたいだが、母様が用意したものだ。本人はなにもいっていないし、母様はエセニアにもフリル付きを送ってたし、そういうのが好きなのかな?

 あと、ランディがミルデイをちゃん付けしている。ランディがちゃん付けで呼ぶのは女の子だと思ってのことだが、訂正を誰もしない。つまりそういうことなのだろう。
 やっぱり、たくさん本を読まないといけないな。

 しかし、まだ二人だけでのポルティは二回目だ。安全面を考慮してか、先に誰かが連絡したんだろう。画材屋のおじさんが迎えにきてくれていた。
 画材屋のおじさんは、顔が結構恐い。筋肉もすごいし、所々古い傷が顔面に広がっている。
 昔は冒険者をしていて、実家を継いだらしい。顔はあれだが、愛想もいいし、普通のおじさんだ。

 時々面白い話をしてくれるしな。伝説の貴族パーティーの遺跡荒らしの話とか面白い。ただ、カルドの前でねだったらそれから話してくれなくなったけど。カルドは貴族が嫌いなのだろうか?
 
 面白かったんだけどなー。魔法使いが魔法を打ちすぎて遺跡を壊したり、僧侶が頭をぶつけたら罠が作動したとか、戦士がいつも二日酔いだったとか、暗殺者がとにかく怖かったとか。
 バランスがすげぇ四人組で、本もあるとかで買って読んだが、いつのまにか屋敷から消えたんだよな…誰かが気に入ったのかな?続編も出てたし、買っておくのもありか。
 
 画材やちょっとしたものを選んで購入した。今日は時間もあるし、もう少し気晴らしをするのもいいかもな。今回は、とくに買いたいものがあってではないけど。

「じゃあ、ミルデイ!今日は時間まで家出するからね!」
「はい、かしこまりました」

 苦笑するミルデイにいったように、幼児をすませたらおやつ前まで家出をする気できたのだ。
 ちゃんと母様の許可はとっている。むしろ母様はくすくす笑っていた。

「家出してらっしゃい。あ、変な人には気を付けてね?」

 とはいわれたが。
 どうもケルンは反抗期らしい。まぁ、反抗期といっていいのかわからないけどな。一次ぐらい?本当の反抗期はどうなるかだいたい予想はついているが、あんまり変わんないだろうな。

 しかし、そんなに頻繁ひんぱんに、変な人には会わないと思うんだがな…とはいえ、新年があけて、行商人も多く賑わっているし、変な人には気を付けねばな。

 変な人には気を付ける。
 そう心に決めて一時間もしないうちに、迷子に出会うとはさすがの俺も想定できなかった。
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