選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第三章 運命の出会いとケモナー

ありえないぐらい

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 非常になんともいえない空間だ。
 ナザドはお兄さんを全力で許否しているが、お兄さんはフレンドリーな空気をかもしだしている。

「お兄ちゃん、ミルデイ…どうしよう」
 逃げたいけど、ナザドとお兄さんを二人にするのは何が起こるかわからないから…やめた方がいいだろ。
「あの…ナザドさんのことはよく知らないんですが、執事長かメイド長をお呼びすればよろしいのでは?…どのみち、あの男についても説明をせねばなりませんし」

 なるほど。ミルデイの案はわりといいかもな。どのみちナザドにはバレている。黙っているように頼めば黙っているだろうけど、お兄さんのことは、黙っていないと思うしな。

「だいたい、あんたに級友とかいわれたくないんだけど。あんた兄さんと同じ歳じゃん」
「えぇー。歳は俺が上でもぉ、入学した時が同じだったでしょぉ?でぇ、友達じゃないかぁ」
「はぁ?いつ友達になったって?願い下げだぁ!何度もあんたの問題を片付けさせられてきたんだ!」
「またまたぁ。飛び級までしちゃう天才魔法使いが嘘をいっちゃ駄目だよぉ」

 あ、これは駄目だ。ナザドとお兄さん、まったく仲が良くない。お兄さんは仲が良いと思っているようだけど、ナザドはそう思っていない。
 しかも、ナザドに天才とかいっちゃうから、火に油を注ぐようにさらに怒りだしたぞ。
証拠に、少し離れていても、髪の毛が静電気で逆立ち始めたし、何より、黒い影みたいなものがナザドから少し出始めた。

「そうだよなぁ…忘れてたよ…昔からそうだったな…あんたのそういとこが、嫌いなんだよ!坊ちゃまに近づくな!不幸が移る!」
「やだなぁ。これは先祖代々の呪いでぇ…」

 お兄さんが、ナザドが庇うケルンをみて、首をかしげる。

「坊ちゃま…って、その子のことぉ?」
「決まってんだろ?どこまで節穴なんだよ?」
「ナザドが坊ちゃまっていっていてぇ…仕えているってぇ…もしかして、ここってフェスマルク家?それに、君は先生の息子さんなのぉ?」
「なにいってんだ、あんた。旦那様に…旦那様はどこに?…坊ちゃま?旦那様にこいつは連れてこられたんですよね?」
「え、えーと」

 お兄さんは不思議そうにナザドをみていたが、徐々にはっとした表情になっていった。
 ナザドは父様が姿を見せないことに気づいたのか、ケルンに、尋ねてくるが…どうしよう。

 とりあえず、このお兄さんは父様とナザドの知り合いだから大丈夫なはず。
 訳を説明しようとしたら、お兄さんが代わりに説明をしだした。

「それがぁ…『転移』に失敗しちゃって…この子に助けてもらったんだよぉ。ポルティに間違って飛んじゃって」
「はぁ?あんた、魔法を禁止されて…ちょっと待て。坊ちゃま?もしかして、なにも知らずに連れて来ましたか?ですよね?だって、僕は坊ちゃまをこんな、奴に紹介していないし、旦那様だってそうだ。兄さんならこんなゴミ一族を坊ちゃまに近付けさせるなんてしない。キャスも。そうだ、きっと坊ちゃまの優しさにつけこんで。そうですよね?やっぱり、こいつら滅ぼしましょう。そうだ、それが」

 ケルンの肩をつかんで、ノンブレスで段々とハイライトのない瞳になっていくナザド。
 ほら、ミルデイがどん引いてるぞ。
 まだそんなに付き合いがないから知らないだろうけど、ナザドのこれはデフォルトだ。ゆっくり慣れていってほしい。

 ナザドは友達がケルン以上にいないからなぁ…学園でのストレスをどこにもぶつけることができないから、つい自分の世界に入ってでてこなくなるんだ。

「ナザドはいい子なのにねぇー」
 言動は時々おかしくなるけどな。

 基本は物知りだし、面白いし、すごい魔法を使うし。
 三兄弟の中で一番やべぇけど。
 まだぶつぶつと呟いているが、そろそろ現実に戻ってほしい。

「ナザドー、僕の話を聞いてくれる?」
「もちろんです!坊ちゃま。」

 すぐに、ハイライトが戻ってきた。よし、たぶん、糖分をぶっこんで、軽く一眠りさせれば治るな。あとで、ハンクに甘めのハーブクッキーでも焼いてもらおう。

「クッキー…」
「クッキーですか?」
 あ、ケルン!クッキーはあとで!
「クッキーはあとで、ナザドと食べる!」
「はい!」
 よし、あとは、ゆっくりでいいから説明だ。
「あ、それでね、お兄さんがポルティで困ってたから助けてあげたの」

 すぅっと、ナザドのどんぐり眼が細くなった。

「坊ちゃま?最近、ポルティは、人が増えて危険だそうです。なんでも貴族の誘拐未遂もあったとか」

 それはケルンのことだな。
 ナザドにはケルンがいなくなって、怪我をしたことを伝えていない。家族の全員からいわれたのだ。
 あのティルカですら、ケルンに頼み込んだほどだ。

「坊ちゃま。悪いんだけど、怪我をしたことや、今回のことはナザドには内緒にしてくんねぇか?」
「うん。でもなんで?」
「そりゃあ…さすがに身内を討伐したくはなぁ…エフデ様も頼みますよ?坊ちゃまがいわないようにとめてくださいね?」
「お兄ちゃんがまかせろーって。もう!僕だっていわないもん!」

 そういっていた。とりあえず黙っているようにケルンによくいっておいたので、ばれてはいない。危ないことはあったけどな。

 ナザドにミルデイを紹介するときも、ミルデイは、カルドが見つけてきた新人だからとちらっとみて興味をなくしていたけど。

 そんなナザドでもケルンを叱るときは叱る。

「どれほど危険かわかっていますか?たまたまこいつだったからよかったですが…もし犯罪者だったら…それで坊ちゃまに何かあったらどうするつもりだったんですか?」
「ごめん…」

 ナザドが謝るケルンをぎゅっと抱きしめた。

「もし、坊ちゃまに何かあったら、僕は必ず魔王になって、世界を滅ぼしますからね」
「それは…やだなぁ」

 すごく震えているナザドの背中を優しくたたく。

 ナザドは三兄弟の中で唯一魔法の才能があった。
 いや、ありすぎたのだ。

 両親が獣人でありながら、魔力の多さと特殊な精霊と契約して、希少な魔法を使えることで、ずっと重圧にたえてきていた。
 嫌なことをたくさんされたり、させられたりもしてきたそうだ。
 それを愚痴れるようになってから、ナザドにとって、ケルンが一番になったのだ。
 最初はこんなじゃなかったけどな。冷たい人だと、ケルンが記憶していたほどだ。

 今は見た目の年齢ぐらいの精神年齢なのかもしれない。
 とりあえず、お兄さんの殺害計画は保留にしてくれるようだ。

 なんて、平和に納めようとしたのに。
 
「ねぇ、君の顔を俺によくみさせてよぉ」

 お兄さんがそういって、ナザドからケルンを剥がしとった。
 そう、引き離したのだ。

「んー。確かに似ているかもぉ。よくよくみれ」
「おい」

 地をはっているような低い声がナザドから漏れてくる。

「失敗してきたって?」
「そうなんだよぉ」
「黙ってきたってことだよな?」
「お、当たりぃ!さすが、元天才少年だぁ!」

 ああ。たくさんの地雷を踏んでいく。地雷原でサッカーをして、花火をやってそのうえ、火薬をぶちまけていく。
 おろしてくれたけど、そんなことより、早く謝ってくれないかな。また機嫌が悪くなったじゃないか。

「それじゃぁ、あんたも仕事があるだろうし『転移』を教えてやるよ」

 にっこり。
 軽い笑みではない。そう、鈍い音が聞こえるような笑みを浮かべた。

「ナザドがぷんぷんになった」
 そりゃ、あれだけナザドの嫌いなことを的確につくんだからな。

 ナザドは、懐から指揮棒のようなものを取り出して、お兄さんにむける。

「…精霊よ…我が声を聞きたまえ。我が魔力を糧とし、我が面前の者をの故郷、の家へと…」
「え?なんでぇ、『転移』の詠唱をするのぉ?しかも俺の家にぃ?それも完全詠唱じゃないかぁ?」

 お兄さんの足元に方位磁石のような針があらわれて、ぐるぐると周りだした。

 『転移』ってのは、こんな風なのか。
 父様とかは使っているけど、送る側は何気に初めてみるな。受け取りだと、何もないとこに送られるけど。

「届け、届け、届け。いざ…」
「ちょっとぉ、やめてよぉ。俺、まだ用事がぁ、あっ」

 あっ。

 お兄さんがナザドの魔法をとめようとむかおうとして、足がもつれた。

「危ないっ!」

 思わずケルンが手をのばした瞬間とナザドの魔法の完成はほぼ同じだった。

「道を開くなり!『テレポート』!えっ!」
「坊ちゃま!」

 驚くナザドとミルデイの声が聞こえた。
 何重にも。

 お兄さんの手とケルンの指先が触れたと思った瞬間、ずるりと世界がゆがんでいったのだ。
 俺たちは、お兄さんと『転移』していた。
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