選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第三章 運命の出会いとケモナー

飛ばされた先

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 ぐるぐる。ちぎれては戻るような不思議な感覚。
 棒神様と会ったときを思い出すような浮遊感だ。

 ――――
 ん?何だ?
 ――――
 だから!なんだって!
 ――――
 …わからない。
 ――――
 何をいっているんだよ。
 ――――
 …泣くなよ。
 ――――
 なぁ、俺がいてやるからさ?だから泣くなよ。
 だって、世界は楽しいんだぜ?

 そうだよな?

「エフデ!」

 ふわっと水から飛び出すように感覚が広がる
 涙混じりにケルンに呼ばれて、俺はようやく現状の把握をすることにした。

 あれ?何か思考をしていたか?初めての『転移』だったから、感覚にずれでもあるのか?
 まぁ、なにもなかったしいいか。
 
 ナザドの『転移』魔法がお兄さんだけではなく、ケルンまで巻き込んでしまった。

 つまり、事故。
 どこもおかしいとこはないな?あ!お兄さんは!
 よかった。隣で倒れてるけど、息はしているし、どこも欠けていないみたいだ。

「ねぇ!エフデ!」
 お、おう。どうして泣いてるんだ?、どこもおかしくはなってないだろ?

 やけに焦っているし、泣いてるが、そんなに『転移』が怖かったのだろうか?確かに危険ではあるけど、そんなことでケルンが泣くとは思わないんだけど。

「もう!なんで、黙ってたの!心配したんだからね!いくら呼んでも返事をしないから!…エフデが…お兄ちゃんが、ひっく…死んじゃったかと、ひっく思って…う、ひっく…うわぁぁぁ」
 うぇ!っちょ。ひっく、ま、て!ひっく!俺までつられるからな!俺は大丈夫!な!ちょっと考えごとをしてただけ!
「うえぇぇん…ひっ…ほ…ほんと?…どこも痛くない?」
 おう!それどころか、元気だぞ!今ならたくさん勉強できるぐらいにな!
「よかったぁ」

 ふぅ…なんでケルンからの呼びかけに反応できなかったのだろう?それに、本当に調子がいい。
 エネルギー満タンって感じだ。

 しかし、ほんと一瞬なんだな。巻き込まれて…って、ここどこだ?お兄さんの家?

 どうやらここはどこかのバラ園らしい。しかもただのバラ園ではない。すごく細かく作り込まれた庭園だ。あの舗装された道は…どうみても魔石だ。照明がわりに魔石を使いまくってる。
 それに、青いバラ園。

 この世界では青いバラはあるが、かなり希少なはずだ。それを惜しげもなく使うとは…お兄さんが屋敷をみてそこそこだというわけだ。安くみてもこの庭園だけで、屋敷が建てれるだろうな。
 
 と、するならばお兄さんの服装はかなり変だな。

 お兄さんの格好は普通なのだ。多少質がよくても、普通の服だ。こんな庭園の所有者が着るようなものではない。
ポルティでも買えるような服をお金持ちが着るだろうか。

「んっ…」
「お兄さん!大丈夫!?」

 お兄さんがケルンの泣き声によってなのか、目を覚ました。見た感じだいじだとは思うが、内臓とかにダメージはないよな?さすがにそれはわからないぞ。

「ここ…は…えっ?なんでぇ、君がいるのぉ?」

 お兄さんが周りをきょろきょろとしたながら、ケルンをみて酷く驚いている。

「お兄さんがねー、転びかけたとき、手が触れたの。それでかな?」
 助けようとして、手が触れたもんな。
 
 そう思ってお兄さんにいったのだが、お兄さんは強く否定した。

「いやいや、あのねぇ。それは絶対にないよぉ?だって、ナザドは、俺だけを指定したんだからぁ」
「え?触ってたら一緒に『転移』するんじゃないの?」
「それも『転移』だけどぉ、ナザドが使ったのは『テレポート』っていってねぇ、指定したものだけを飛ばすんだよぉ。不特定多数…わかるかなぁ?たくさんの人とかなら『ゲート』とか『ポータル』とかなんだけどぉ」

 お兄さんは途中からケルンにむけてではなく、自分にむけていっているようだ。
 どうもありえない魔法の結果らしい。

 魔法は精霊様に、魔力を渡して使うのが普通だ。
 精霊様に…精霊様が関係しているのか?

「精霊様が何かしたのかな?」
「精霊がぁ?…もしかして精霊のイタズラ?…でも…そういや先生の息子さんだもんなぁ。精霊に愛されてるなら…でもなんでだぁ?」

 精霊のイタズラ?って、父様がたまにされてるっていうあれか?変なとこに飛ばされるってやつ。
 フレーシュ地方との繋がりもそれのおかげだったりするし、悪いことはないんだけど…なんで、ケルンに?

「というかぁ…ここは」
「こちらから泣き声が…やはり、誰かいましたわね」

 お兄さんがいやに慌てていると、女の人の声が聞こえた。

 そちらに顔をむけると、緑のドレスをきた綺麗な女の人がいた。周りには鎧姿の女の人たちが護衛のように…って!剣をこっちにむけないで!

「なに奴か!ここを」
「お待ちなさい」

 すごい剣幕で鎧の女の人が問いただすのを、ドレスの女性がとめた。

「子供に剣をむけるなど、わたくしが許しません…それに、いつまで座りこんでいるつもりですか?説明なさい」
「あははは…すいません」

 ドレスの女性がお兄さんにそういうと、お兄さんは立ち上がりながら謝罪の言葉を女性に伝える。
 だが、鎧の女の人はその行為が許せないようだ。

「この無礼者!」
「いいのよ、剣をおろしなさい」

 またも剣を構える女の人の腕をとって、一言を告げる。

「私の息子よ。…顔を見せに来ない、親不孝なね」
「はい、お母様。その…ご無沙汰しております」

 すると女の人は顔を真っ青にさせその場で膝をついてしまった。なにかを言おうと口をぱくぱくさせているが声にでていない。

「まったく…許してあげてね?女の園に殿方がくるなんて珍しいもの。先触れもないし…それで、その子は?」
「はい、あのぉ」

 ドレスのすそが汚れてもいいのか、しゃがんでケルンをみる女性。お兄さんの母親にしてはかなり若くみえるなぁ。
 お兄さんの母親なら、うちの母親と同じ歳ぐらいだろ?いや、母様の年代といえばいいか。母様とても若いから。確か、ポルティで母親と同じ歳の人がいたけど…四十代後半から五十代って人が多かったけど…斧人たちより若いというか輝いてるというか…あれ?赤い瞳だ。

「母様とおんなじだぁ…赤いおめめ…」
「私と?…あら、坊や…よくみたら、そっくりじゃないの!もしかして、ケルン君かしら?」
「うん!僕を知ってるの?えーと…お兄さんのお母様?」

 なんでお兄さんのお母さんがケルンを知っているんだ?
 そもそもお兄さんとこの人はどんな人なんだ?普通の人ではないし、貴族でもない。

 クスクスと…その笑い方が母様の仕草とまったく同じだった。

「私のことは、おばさんでいいわよ?…そうね、よく知ってるわよ」

 やはり、この人はなにか母様と関係がある人なのだろうか?

「ディアから聞いてるの」
「母様から?」

 母様を愛称で呼ぶほどで、ケルンを知っていて…どうみても身分が高いような人…貴族ではなくても身分が高い…待てよ。確か貴族ではないが身分の高い一族がいたぞ。
 おい、まさか。

「ええ。だって、私の大切なお茶のみ仲間で…大事な従妹ですもの」

 そういって、皇太后様は母様そっくりに笑ったのだ。





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あと少しで二百人!
二百人をこえたら、その日だけ二話更新をしようと思います。
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