選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
83 / 229
第三章 運命の出会いとケモナー

お誘い

しおりを挟む
 皇太后様は驚いて動けないケルンをひょいっと持ち上げた。

「ティスとディアの息子って、こんなにかわいいのね…少しティスが強めでかしら?男の子だものね。男の子ってこの時期が一番かわいいわ…でも、ほんと、ディアに似すぎなくてよかったわねぇ…あの子昔っからあの容姿で苦労したもの」
「あ、あの」
「あら?なにかしら?」

 いや、色々とあるんだけど、まずは確認したい。
 皇太后様がさっき、お兄さんを、息子といった聞き違いかな?

「あの、お兄さんって、皇太后様の息子さんなんですか?」
「そうよ。あら?教えてなかったの?エレス」

 エレス?それがお兄さんの…あっ。

「そういえばぁ、してなかったねぇ。俺はエイファレウス・クウリィエンシア・ファルメリオン。この国の王様だよぉ。昔風にいえば皇帝陛下だぞぉ!」
「こら、エレス。クレエル帝国の人が聞いたからうるさいんだから、皇帝とかいわないの」
「あはは。よかったら、エレスおじさんと呼んでもいいよぉ?」

 お兄さん、いや、エレス様が自分の正体を教えてくれると皇太后様がエレス様をたしなめた。

 皇太后様がいったのは、ファルメリオン王朝に関わる話だ。以前、キャスの授業でも習ったことだが、クウリィエンシア皇国は王朝が変わっている。
 以前までは皇帝が国を統治していたが、王様のご先祖様が圧政を行っていた父親や兄弟を追い出してから始まった。そのとき、皇帝という名称でもめたのだ。

 そのため、クウリィエンシア皇国は、皇国ながら王様と呼ぶ。ミケ君やメリアちゃんが、皇子や皇女と呼ばれるのは名残だ。昔はスメラギコ、スギラミメとかいわれてたが、おうじ、おうじょって方が、二人には合っていると思うけどな。

 クウリィエンシア皇国と神聖クレエル帝国。
 クレエル王朝という元は同じ血筋の王族同士だが険悪であった。

 でも、先王様と皇太后様が結婚したことで少しはましになったそうだ。一年間に小競り合いが何十回もあったのが、数年に一度あるかないかまで下がったそうだ。
 とくにここ数年は平和らしい。

 しかし、えらいことになったな。王族に抱えられるとかすごい経験だ。
 今までの知識でもそんな経験がひっかかることはないぞ。

 皇太后様はそのままケルンを抱き上げて庭を歩き出した。
 お兄さん、じゃなかった。エレス様が皇太后様の後ろを歩いて鎧姿の女の人は…この世の終わりみたいな顔で、かおいろも悪いな。ミルデイよりも白い。さっきまでは、青色だったのだけどな。

 って、どこにつれてかれてんだ?

「ちょうど外でお茶をしようと思っていたのよ。ご一緒にいかがかしら?」

そういわれたが…屋敷に連絡をしていない…いや、しかし、皇太后様の誘いを断れるか?国で一番偉い人の母親だぞ?

「でも、あの…」
 ケルン、いいんじゃないか?どのみち屋敷についでに連絡してもらう必要もあるんだ。父様に連絡をしてもらうとかさ。
「お兄ちゃんがいうならいいけどぉ…でも、大丈夫かな?」
 なにがだ?
「ナザド」
 あっ。

 すぐに『転移』で追いかけてこないということは…よし。まだ大丈夫なはず。一刻も早く帰らないといけないけどな。

 とりあえず、皇太后様のお茶のときに、使用人の人がいるだろうから、頼もう。
「えーと、んーと…最初に使用人の人に、僕がここにいるって」
「どなたとお話ししているの?」

 皇太后様がケルンに尋ねられた。
 そういえば、俺たちの会話って一人言にしては長いから変だよな?やばっ、家族の前以外だってことを忘れていた!

 ケルン、ちゃんと。
「あのねー、お兄ちゃん!」
 誤魔化してくれよ。

「お兄ちゃん…もしかして、噂の?」

 ケルンのもちもちのほっぺをつまみながら皇太后様はいわれる。つままないでください。
 というか噂?え?噂のっていわれるようなことは…あんまりしていないぞ!

「確か…動物が好きで、弟を弟子にして絵を描いていて、何かあると無茶をする…あの、エフデ?すごい長男体質ってきいたんだけど、無理してない?体が弱いんでしょ?」
「うん!エフデはねー。僕のお兄ちゃんなの!時々ねー、僕より頑張っちゃって疲れちゃってねー、んーと…ケモ?だから、動物さんがいないとだめなのー」
「ケモ?」

 こら!ケルン!色々教えすぎだ!あと、ケモナーはお前もだからな!
 というか、長男体質ってなんだ!俺がしっかりするのは当たり前だっての。ケルンはまだ小さいんだし、俺がしっかりしないとな。

「優しくて色々知ってて、面白いよー。いいお兄ちゃんだって母様もいうよ?」
「そう…」

 恥ずかしくなるから、ほどほどにしてくれ。
 というか、皇太后様の顔つきが一瞬、辛そうな、顔になったような気がする。カルドが同じような顔をするんだよな。
 戦争や魔族の話を聞くとな。

「へぇー…あの子をかたるやつがいるって聞いてたけどぉ…今どこにいるのかなぁ?」

 え?こわっ。エレス様なんか、雰囲気がこわいんだけど。

「お兄ちゃん?んと…お部屋で…なんだっけ?」
 母様から、エフデは部屋で寝ている時間が長いから、人里離れた場所にいるっていわれたろ?
「あ、そっかぁ。ひとざーと?え?違う?人里?離れた場所にいるよ」
「そうかぁ…一度、話してみたいなぁ」

 ああ…王様とケルンが似ているはずだわ。母親同士が従姉妹だもんな。
 ひやっとする笑い方が一緒だ。

 そして、話すのは遠慮します。なんかこわい。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【完結】長男は悪役で次男はヒーローで、私はへっぽこ姫だけど死亡フラグは折って頑張ります!

くま
ファンタジー
2022年4月書籍化いたしました! イラストレータはれんたさん。とても可愛いらしく仕上げて貰えて感謝感激です(*≧∀≦*) ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆ 池に溺れてしまったこの国のお姫様、エメラルド。 あれ?ここって前世で読んだ小説の世界!? 長男の王子は悪役!?次男の王子はヒーロー!? 二人共あの小説のキャラクターじゃん! そして私は……誰だ!!?え?すぐ死ぬキャラ!?何それ!兄様達はチート過ぎるくらい魔力が強いのに、私はなんてこった!! へっぽこじゃん!?! しかも家族仲、兄弟仲が……悪いよ!? 悪役だろうが、ヒーローだろうがみんな仲良くが一番!そして私はへっぽこでも生き抜いてみせる!! とあるへっぽこ姫が家族と仲良くなる作戦を頑張りつつ、みんなに溺愛されまくるお話です。 ※基本家族愛中心です。主人公も幼い年齢からスタートなので、恋愛編はまだ先かなと。 それでもよろしければエメラルド達の成長を温かく見守ってください! ※途中なんか残酷シーンあるあるかもなので、、、苦手でしたらごめんなさい ※不定期更新なります! 現在キャラクター達のイメージ図を描いてます。随時更新するようにします。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

町工場の専務が異世界に転生しました。辺境伯の嫡男として生きて行きます!

トリガー
ファンタジー
町工場の専務が女神の力で異世界に転生します。剣や魔法を使い成長していく異世界ファンタジー

俺に王太子の側近なんて無理です!

クレハ
ファンタジー
5歳の時公爵家の家の庭にある木から落ちて前世の記憶を思い出した俺。 そう、ここは剣と魔法の世界! 友達の呪いを解くために悪魔召喚をしたりその友達の側近になったりして大忙し。 ハイスペックなちゃらんぽらんな人間を演じる俺の奮闘記、ここに開幕。

異世界ママ、今日も元気に無双中!

チャチャ
ファンタジー
> 地球で5人の子どもを育てていた明るく元気な主婦・春子。 ある日、建設現場の事故で命を落としたと思ったら――なんと剣と魔法の異世界に転生!? 目が覚めたら村の片隅、魔法も戦闘知識もゼロ……でも家事スキルは超一流! 「洗濯魔法? お掃除召喚? いえいえ、ただの生活の知恵です!」 おせっかい上等! お節介で世界を変える異世界ママ、今日も笑顔で大奮闘! 魔法も剣もぶっ飛ばせ♪ ほんわかテンポの“無双系ほんわかファンタジー”開幕!

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

処理中です...