選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第三章 運命の出会いとケモナー

父と子

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 父様の一喝でガネリアガルはびくりと震えて顔を下げた。

 だが、それは怯えではない。
 そんな表情は本当は初めからなかったのだ。
 今までに見せてきたものは全てが偽りだった。

 そう思えるほどの変化がガネリアガルにはあった。

「くく…ふはははは!…よもやそこまで調べられておるとは!」

 目を見開き父様たちをまるでなんとも思っていないような、曇った瞳でみている。
 相手が自分よりも身分が高い者とは思っていない。まるでそこら辺に転がる石につまづいて腹をたてた程度の感情しか読み取れない。

「ガ、ガネリアガル侯爵閣下!」

 護衛についてきていた兵士たちがおろおろと声をかけるが、ガネリアガルにはそれすらも聞こえていないかのような振る舞いだ。

 そして、ガネリアガルから何か嫌な気配を感じた。

「長年の夢…長年の計画が泡沫と消えてしまった…なんという不幸か…」
「貴様らの思惑など叶う道理はない。私の部下を甘く見ていたな」

 父様はガネリアガルの動向を警戒しつつも、目でカルドになにかの指示を送ったようにみえた。
 かすかにだが、視線があったときに、カルドがうなづいたように、みえたのだ。

「ロイヤルメイジが王城に籠りっきりと思っていたようだが…貴様が捕らえていた人たちや、稀少な動植物はすでに押さえている。観念するんだな」

 父様の言葉に、ようやく一つの感情が浮かんできたようだ。
 だが、それは絶望や怒りではない。

 それは初めて見せた恐怖だ。
 それまでとは違い、よだれを垂れ流すほどにガネリアガルは恐慌状態になってしまった。

「私が…私財を投じてまで探した食材を…」
「食材?食材といったな?貴様が奉じる魔王はまさか!」

 父様がみたことがないほど顔色を変えるなり、急激に空気が重くなった。
 ざわざわと何かの気配も感じられるほどだ。

「首席の精霊たちが…」

 ボリンさんが、目でみてわかるほどに震えだした。その目はただただ恐怖しか浮かべていない。
 父様のすぐそばに、なんらかの存在がいる。
 それが、今にもこの世に顔をだそうとしている。そんな風に思えるほど、この場が重くなっていっている。

「せっかくの獣人も…私の永遠の命も手に入らぬのなら…せめて!」

 そういうなり、ガネリアガルは懐に隠していたナイフをエレス様に突き刺そうとした。
 誰もが間に合わない。
 いや、カルドなら間に合う。

 そう思った瞬間にガネリアガルは消えていた。

「え?」
 なんだ…? 

 まるでそこに、誰かがいたような跡だけを残してガネリアガルの姿はない。
 遅れてかちゃんとナイフが地面を打つ音が聞こえる。

「ありゃあ…発動したってことは…すでに半分くらいは人を辞めていたんですかねぇ?」
「情報を得る前に…王城に処理されるとは…完全なる敵だったということですね」

 エレス様が酷く残念そうにいうが、ガネリアガルを思っていての言葉ではないことは、誰がみてもわかることだ。
 父様が気にしているように、情報を得る前に…ガネリアガルはこの世から消えたということだ。

 王城にて王をしいすることはできない。
 そういったなにかしらの条件がこの王城にはあるのだろう。
 なにせ、この王城は全てが魔道具なのだ。

 後世になって増築をして、一つ一つに魔法をかけたというわけではない。最初から設計された作りだったのだ。

 それがわかったのは、ロイヤルメイジの部屋をみたときだ。
 部屋として機能はしているが、各自の個室としてくぎっていなかった。寝るのも仮眠室を用意すればいいのにそのままだったのだ。
 つまり、増改築ができない単体の魔道具なのだろう。

「失敗しましたぁ…すいません、先生…」

 エレス様は父様に謝罪するが、父様は恐縮した様子だった。
 確かに王様に謝罪されるなんてありえないことだからな。

「いえ、陛下。こればかりは…ガネリアガルも情報を渡すつもりがなかった…ということでしょう」

 ガネリアガルは、王城のことを知っていたのだろう。だからあえて、エレス様を狙ったのだ。
 自分が持っている情報を渡さないために…それほどのことをしないといけないとは…どんな団体なのだろうか。

「ゲッペン将軍も利用されただけでしたからね…しかし、皇女だけでなく私の息子にも用があるとは…」
「旦那様」

 父様とカルドが深刻な顔を見せた。
 ケルンに用がある…ケルンは魔力が多いだけの普通の子供だが…もしかして棒神様に頼まれた件を魔族に知られたのか?
 しかし、そんなことはないと思うのだがな…棒神様が魔族に漏らすとは思えないし…気のせいならいいんだがな。

「…心配するな。魔王を倒すとはさすがにいわないさ…一人ではな。いざとなれば声をかけてみんなで、行くさ」
「お供いたします…ですが」
「ケルンとはまたゆっくり話さないとな」

 まるで死地へと赴く…いや、魔王を倒すといったのだ。そこは死地だろう。
 父様は死ぬ覚悟をしている。誰のため。

 それがわからなくもないだろ?
 なぁ、ケルン?

「あ、先生ぃ。そのことなんですがぁ」
「なんでしょうか?」

 ふいに、エレス様がかなり軽めな口調で父様にいいだした。

「お子さんと喧嘩をしていませんか?」

 そういえば、エレス様にはいくつか愚痴ってしまっていたな…我ながら恥ずかしいことに、知らないお兄さんだからいいかと、ケルンの怒りを静めてくれないかな?とも思って…いや、俺も不満はあったんだけどな。

 どうもケルンは俺にも隠しているなにかがあるようなのだ。ミケ君たちの一件でどうもケルンとの繋がりが少し切れたかのようなところがあって、そこにケルンの隠し事はあるようなのだ。

 父様に文句がない…とはいえないが…少なくても俺は父様の気持ちがわかる。

「…私が悪いのです。王城にはフェスマルク家の子供を狙っている輩がいるとの情報を得ました。それゆえ、あがらせなかったのです」

 父様がケルンを思って以外で行動するなどありえないのだ。
 もし、黙って行動をしていたら、それはケルンの安全を確保するためだ。
 
 父様はロイヤルメイジという立場だ。それだけでなく建国貴族という国に関わる人だ。
 本来は国を優先すべきだ。

 でも、父様の口からは真逆の言葉が呟かれた。

「我が子かわいさに…本当ならば情を捨てて国賊を一掃すべきなのでしょう。ですが、私はケルンが少しでも危険にさらされるなど…!耐えられません!」

 王城にある部署の長としても、貴族としてもそれは誉められるものではない。それどころか、反逆同然だ。
 自らの勤めを放棄しているのだから。

 それでも父様の瞳はただ、真っ直ぐだ。

「あの子は私の…いえ、私たち家族の命です。あの子のためならなんでもする。それが親ですから」

 胸があたたかい。嬉しいよな、ケルン。

「だってさぁ、ケルン君」

 そう浸っている時もなく、エレス様は急に俺たちがいる方向に振り向いて、ボリンさんの手から『姿隠しの羽』を奪い取った。

「わぁ!」
「なっ!ケルン!」
「坊ちゃま!?なぜこちらに!?」

 兵士たちが驚くのも無理はないが、父様たちの驚きようがすごい。
 ボリンさんはロイヤルメイジの人だからそこまで驚かないが、確かにいるはずのない人間がいるってだけで、驚くよな。

「ごめんねぇ…俺、王城にいると魔道具とか一切効かないんだよぉ…ボリンも知らなかったよね?」
「初耳だ!…ああ…この城…一度解体したい…どれほどの叡智が眠っているのだ…」
「それはだめかなぁ。ご先祖様に呪い殺されちゃうよぉ」

 ボリンさんはやっぱり危ない人だったのかもしれない。

 いや、今はそれはどうでもいいな。

「ど、どうしてケルンが」
「父様!ごめんなさい!」

 父様に抱きついて開口一番に謝る。

「ケルン?」
「父様…僕ね…父様が嘘をついてたのが嫌だった…悲しかった…」
 
 今まで嘘なんてつかれたことがなかった。もしかしたら、悪いことばかりするから嫌われたのかとも思った。

「僕のこと嫌いなのかなって」
「そんなことはないぞ!ケルン!」

 そういって強く抱き締め返されてた。

「父様が僕を大切に思ってくれて嬉しい!…それにね、お兄ちゃんのこと…ちゃんと息子っていってくれてね、お兄ちゃんも僕も嬉しいの!」

 ケルンが隠していたことは、これか。
 父様はエフデはあくまで架空の存在として認めていなかった。いくらケルンがいっても、遊びだと思われていた。
 ケルンはそれが悲しかったのだろう。

 大好きな父親を独り占めしている自分が許せないし、少しでも俺を父様に認めて欲しかったのだ。

「ああ。エフデも私の息子だぞ…ケルン…それに、エフデ。私の宝物たち。愛している」
「僕も!父様大好き!お兄ちゃんも大好き!」

 ぎゅっと抱き締められ…本当にあたたかい。まるで俺まで二人に抱き締めらているみたいだ。
 
 こうして、ケルンの小さな反抗期は終わった。
 
 仲直りでできてよかったな!
 で、終わればよかったんだけどなぁ。

 父様はガネリアガルの件があってまだまだ仕事をしないといけないそうで、家に帰ってもすぐに仕事場に戻るという生活をしばらくするようだ。
 寝泊まりはあの部屋でするらしいが…父様大丈夫かな?床に布団を敷いただけとか、体壊さないか?

 そして父様と帰宅してからケルンのお腹は絶賛ずぶ濡れ中だ。

「ぼ、坊ちゃまぁぁぁ!坊ちゃまぁぁぁぁ!あああああ!」
「よしよし。大丈夫よー?よしよし。もう、泣かないでー」

 そろそろズボンまで涙で濡れてきたぞ。

 まぁ、誰のせいとはいわないでおこう。
 特別に夜も一緒に寝ることになったけど、まだ泣いていた。
 朝になって屋敷にやってきたティルカに真顔で思いっきり殴られ、キャスにも怒られ、エセニアからも冷たい視線を浴びせられていたようだが、ちゃんと次の日にはしっかりしていたからな。

 あとはミルディかなぁ。

「ミルディ?目は大丈夫?」
「はい…でも…止まらないんです…」

 涙が止まらないという事件が起こっていた。
 ケルンが消えたということが、あまりにも衝撃的すぎたのと、下手に魔法の勉強をしていたから『転移』事故のことを知っていたのもあって、後追い自殺をしかけていたらしい。

 生きているんだがな。
 母様からも大変だったと聞いていたが、涙腺の蛇口が壊れたのか、時おりポロっと涙が落ちてくる。

「今日はお客様が来るから大変かもしれないけど…」
「…大丈夫です。坊ちゃま。涙はひきました」
「そう?無理しないでね?」

 本当に涙はひいたようだけど…なんで、そんなぴりぴりしてるの?敵がくるみたいに思っていないか?
 今日は大事なお客様がくるんだぞ?

 なんでだろうかと、ケルンと二人で悩んでいるとカルドがノックとともに、部屋に入ってきて一礼をした。

「坊ちゃま。お時間ですよ」
「うん!」

 出迎えにいくと、父様が魔法でお客様を連れてきた。最初にみえたのは、ぴんとはった猫耳、それに尻尾だ!

「いらっしゃい!」

 そうして、初めて二人のお客様を呼んでのお茶会はとても楽しかった。
 少しだけ大人になったケルンがしっかりとホストをしながら、二人をもてなしたお茶会はそれから学園に入学するまで、何度か開かれた。

 ああ!幸せだな!
 そんな日々の中で少しづつ、ケルンを取り巻く環境が変わっていていたことに、俺は気づけなかった。
 全ては棒神様の願いでもあったのだと、そのときはわかっていなかったのだ。

 ただ、全ては動き始めていた。




・・・・・・・・・・・・・・・
これで三章は終わりです。
補足や過去は裏話で書いていきます。
少し読み直していて誤字脱字がかなり多いので、一度チェックをしなおして直していこうと思います。

面白いとおもっていただけたらうれしいかぎりです。
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