92 / 229
第三章 運命の出会いとケモナー
父と子
しおりを挟む
父様の一喝でガネリアガルはびくりと震えて顔を下げた。
だが、それは怯えではない。
そんな表情は本当は初めからなかったのだ。
今までに見せてきたものは全てが偽りだった。
そう思えるほどの変化がガネリアガルにはあった。
「くく…ふはははは!…よもやそこまで調べられておるとは!」
目を見開き父様たちをまるでなんとも思っていないような、曇った瞳でみている。
相手が自分よりも身分が高い者とは思っていない。まるでそこら辺に転がる石につまづいて腹をたてた程度の感情しか読み取れない。
「ガ、ガネリアガル侯爵閣下!」
護衛についてきていた兵士たちがおろおろと声をかけるが、ガネリアガルにはそれすらも聞こえていないかのような振る舞いだ。
そして、ガネリアガルから何か嫌な気配を感じた。
「長年の夢…長年の計画が泡沫と消えてしまった…なんという不幸か…」
「貴様らの思惑など叶う道理はない。私の部下を甘く見ていたな」
父様はガネリアガルの動向を警戒しつつも、目でカルドになにかの指示を送ったようにみえた。
かすかにだが、視線があったときに、カルドがうなづいたように、みえたのだ。
「ロイヤルメイジが王城に籠りっきりと思っていたようだが…貴様が捕らえていた人たちや、稀少な動植物はすでに押さえている。観念するんだな」
父様の言葉に、ようやく一つの感情が浮かんできたようだ。
だが、それは絶望や怒りではない。
それは初めて見せた恐怖だ。
それまでとは違い、よだれを垂れ流すほどにガネリアガルは恐慌状態になってしまった。
「私が…私財を投じてまで探した食材を…」
「食材?食材といったな?貴様が奉じる魔王はまさか!」
父様がみたことがないほど顔色を変えるなり、急激に空気が重くなった。
ざわざわと何かの気配も感じられるほどだ。
「首席の精霊たちが…」
ボリンさんが、目でみてわかるほどに震えだした。その目はただただ恐怖しか浮かべていない。
父様のすぐそばに、なんらかの存在がいる。
それが、今にもこの世に顔をだそうとしている。そんな風に思えるほど、この場が重くなっていっている。
「せっかくの獣人も…私の永遠の命も手に入らぬのなら…せめて!」
そういうなり、ガネリアガルは懐に隠していたナイフをエレス様に突き刺そうとした。
誰もが間に合わない。
いや、カルドなら間に合う。
そう思った瞬間にガネリアガルは消えていた。
「え?」
なんだ…?
まるでそこに、誰かがいたような跡だけを残してガネリアガルの姿はない。
遅れてかちゃんとナイフが地面を打つ音が聞こえる。
「ありゃあ…発動したってことは…すでに半分くらいは人を辞めていたんですかねぇ?」
「情報を得る前に…王城に処理されるとは…完全なる敵だったということですね」
エレス様が酷く残念そうにいうが、ガネリアガルを思っていての言葉ではないことは、誰がみてもわかることだ。
父様が気にしているように、情報を得る前に…ガネリアガルはこの世から消えたということだ。
王城にて王を弑することはできない。
そういったなにかしらの条件がこの王城にはあるのだろう。
なにせ、この王城は全てが魔道具なのだ。
後世になって増築をして、一つ一つに魔法をかけたというわけではない。最初から設計された作りだったのだ。
それがわかったのは、ロイヤルメイジの部屋をみたときだ。
部屋として機能はしているが、各自の個室としてくぎっていなかった。寝るのも仮眠室を用意すればいいのにそのままだったのだ。
つまり、増改築ができない単体の魔道具なのだろう。
「失敗しましたぁ…すいません、先生…」
エレス様は父様に謝罪するが、父様は恐縮した様子だった。
確かに王様に謝罪されるなんてありえないことだからな。
「いえ、陛下。こればかりは…ガネリアガルも情報を渡すつもりがなかった…ということでしょう」
ガネリアガルは、王城のことを知っていたのだろう。だからあえて、エレス様を狙ったのだ。
自分が持っている情報を渡さないために…それほどのことをしないといけないとは…どんな団体なのだろうか。
「ゲッペン将軍も利用されただけでしたからね…しかし、皇女だけでなく私の息子にも用があるとは…」
「旦那様」
父様とカルドが深刻な顔を見せた。
ケルンに用がある…ケルンは魔力が多いだけの普通の子供だが…もしかして棒神様に頼まれた件を魔族に知られたのか?
しかし、そんなことはないと思うのだがな…棒神様が魔族に漏らすとは思えないし…気のせいならいいんだがな。
「…心配するな。魔王を倒すとはさすがにいわないさ…一人ではな。いざとなれば声をかけてみんなで、行くさ」
「お供いたします…ですが」
「ケルンとはまたゆっくり話さないとな」
まるで死地へと赴く…いや、魔王を倒すといったのだ。そこは死地だろう。
父様は死ぬ覚悟をしている。誰のため。
それがわからなくもないだろ?
なぁ、ケルン?
「あ、先生ぃ。そのことなんですがぁ」
「なんでしょうか?」
ふいに、エレス様がかなり軽めな口調で父様にいいだした。
「お子さんと喧嘩をしていませんか?」
そういえば、エレス様にはいくつか愚痴ってしまっていたな…我ながら恥ずかしいことに、知らないお兄さんだからいいかと、ケルンの怒りを静めてくれないかな?とも思って…いや、俺も不満はあったんだけどな。
どうもケルンは俺にも隠しているなにかがあるようなのだ。ミケ君たちの一件でどうもケルンとの繋がりが少し切れたかのようなところがあって、そこにケルンの隠し事はあるようなのだ。
父様に文句がない…とはいえないが…少なくても俺は父様の気持ちがわかる。
「…私が悪いのです。王城にはフェスマルク家の子供を狙っている輩がいるとの情報を得ました。それゆえ、あがらせなかったのです」
父様がケルンを思って以外で行動するなどありえないのだ。
もし、黙って行動をしていたら、それはケルンの安全を確保するためだ。
父様はロイヤルメイジという立場だ。それだけでなく建国貴族という国に関わる人だ。
本来は国を優先すべきだ。
でも、父様の口からは真逆の言葉が呟かれた。
「我が子かわいさに…本当ならば情を捨てて国賊を一掃すべきなのでしょう。ですが、私はケルンが少しでも危険にさらされるなど…!耐えられません!」
王城にある部署の長としても、貴族としてもそれは誉められるものではない。それどころか、反逆同然だ。
自らの勤めを放棄しているのだから。
それでも父様の瞳はただ、真っ直ぐだ。
「あの子は私の…いえ、私たち家族の命です。あの子のためならなんでもする。それが親ですから」
胸があたたかい。嬉しいよな、ケルン。
「だってさぁ、ケルン君」
そう浸っている時もなく、エレス様は急に俺たちがいる方向に振り向いて、ボリンさんの手から『姿隠しの羽』を奪い取った。
「わぁ!」
「なっ!ケルン!」
「坊ちゃま!?なぜこちらに!?」
兵士たちが驚くのも無理はないが、父様たちの驚きようがすごい。
ボリンさんはロイヤルメイジの人だからそこまで驚かないが、確かにいるはずのない人間がいるってだけで、驚くよな。
「ごめんねぇ…俺、王城にいると魔道具とか一切効かないんだよぉ…ボリンも知らなかったよね?」
「初耳だ!…ああ…この城…一度解体したい…どれほどの叡智が眠っているのだ…」
「それはだめかなぁ。ご先祖様に呪い殺されちゃうよぉ」
ボリンさんはやっぱり危ない人だったのかもしれない。
いや、今はそれはどうでもいいな。
「ど、どうしてケルンが」
「父様!ごめんなさい!」
父様に抱きついて開口一番に謝る。
「ケルン?」
「父様…僕ね…父様が嘘をついてたのが嫌だった…悲しかった…」
今まで嘘なんてつかれたことがなかった。もしかしたら、悪いことばかりするから嫌われたのかとも思った。
「僕のこと嫌いなのかなって」
「そんなことはないぞ!ケルン!」
そういって強く抱き締め返されてた。
「父様が僕を大切に思ってくれて嬉しい!…それにね、お兄ちゃんのこと…ちゃんと息子っていってくれてね、お兄ちゃんも僕も嬉しいの!」
ケルンが隠していたことは、これか。
父様はエフデはあくまで架空の存在として認めていなかった。いくらケルンがいっても、遊びだと思われていた。
ケルンはそれが悲しかったのだろう。
大好きな父親を独り占めしている自分が許せないし、少しでも俺を父様に認めて欲しかったのだ。
「ああ。エフデも私の息子だぞ…ケルン…それに、エフデ。私の宝物たち。愛している」
「僕も!父様大好き!お兄ちゃんも大好き!」
ぎゅっと抱き締められ…本当にあたたかい。まるで俺まで二人に抱き締めらているみたいだ。
こうして、ケルンの小さな反抗期は終わった。
仲直りでできてよかったな!
で、終わればよかったんだけどなぁ。
父様はガネリアガルの件があってまだまだ仕事をしないといけないそうで、家に帰ってもすぐに仕事場に戻るという生活をしばらくするようだ。
寝泊まりはあの部屋でするらしいが…父様大丈夫かな?床に布団を敷いただけとか、体壊さないか?
そして父様と帰宅してからケルンのお腹は絶賛ずぶ濡れ中だ。
「ぼ、坊ちゃまぁぁぁ!坊ちゃまぁぁぁぁ!あああああ!」
「よしよし。大丈夫よー?よしよし。もう、泣かないでー」
そろそろズボンまで涙で濡れてきたぞ。
まぁ、誰のせいとはいわないでおこう。
特別に夜も一緒に寝ることになったけど、まだ泣いていた。
朝になって屋敷にやってきたティルカに真顔で思いっきり殴られ、キャスにも怒られ、エセニアからも冷たい視線を浴びせられていたようだが、ちゃんと次の日にはしっかりしていたからな。
あとはミルディかなぁ。
「ミルディ?目は大丈夫?」
「はい…でも…止まらないんです…」
涙が止まらないという事件が起こっていた。
ケルンが消えたということが、あまりにも衝撃的すぎたのと、下手に魔法の勉強をしていたから『転移』事故のことを知っていたのもあって、後追い自殺をしかけていたらしい。
生きているんだがな。
母様からも大変だったと聞いていたが、涙腺の蛇口が壊れたのか、時おりポロっと涙が落ちてくる。
「今日はお客様が来るから大変かもしれないけど…」
「…大丈夫です。坊ちゃま。涙はひきました」
「そう?無理しないでね?」
本当に涙はひいたようだけど…なんで、そんなぴりぴりしてるの?敵がくるみたいに思っていないか?
今日は大事なお客様がくるんだぞ?
なんでだろうかと、ケルンと二人で悩んでいるとカルドがノックとともに、部屋に入ってきて一礼をした。
「坊ちゃま。お時間ですよ」
「うん!」
出迎えにいくと、父様が魔法でお客様を連れてきた。最初にみえたのは、ぴんとはった猫耳、それに尻尾だ!
「いらっしゃい!」
そうして、初めて二人のお客様を呼んでのお茶会はとても楽しかった。
少しだけ大人になったケルンがしっかりとホストをしながら、二人をもてなしたお茶会はそれから学園に入学するまで、何度か開かれた。
ああ!幸せだな!
そんな日々の中で少しづつ、ケルンを取り巻く環境が変わっていていたことに、俺は気づけなかった。
全ては棒神様の願いでもあったのだと、そのときはわかっていなかったのだ。
ただ、全ては動き始めていた。
・・・・・・・・・・・・・・・
これで三章は終わりです。
補足や過去は裏話で書いていきます。
少し読み直していて誤字脱字がかなり多いので、一度チェックをしなおして直していこうと思います。
面白いとおもっていただけたらうれしいかぎりです。
だが、それは怯えではない。
そんな表情は本当は初めからなかったのだ。
今までに見せてきたものは全てが偽りだった。
そう思えるほどの変化がガネリアガルにはあった。
「くく…ふはははは!…よもやそこまで調べられておるとは!」
目を見開き父様たちをまるでなんとも思っていないような、曇った瞳でみている。
相手が自分よりも身分が高い者とは思っていない。まるでそこら辺に転がる石につまづいて腹をたてた程度の感情しか読み取れない。
「ガ、ガネリアガル侯爵閣下!」
護衛についてきていた兵士たちがおろおろと声をかけるが、ガネリアガルにはそれすらも聞こえていないかのような振る舞いだ。
そして、ガネリアガルから何か嫌な気配を感じた。
「長年の夢…長年の計画が泡沫と消えてしまった…なんという不幸か…」
「貴様らの思惑など叶う道理はない。私の部下を甘く見ていたな」
父様はガネリアガルの動向を警戒しつつも、目でカルドになにかの指示を送ったようにみえた。
かすかにだが、視線があったときに、カルドがうなづいたように、みえたのだ。
「ロイヤルメイジが王城に籠りっきりと思っていたようだが…貴様が捕らえていた人たちや、稀少な動植物はすでに押さえている。観念するんだな」
父様の言葉に、ようやく一つの感情が浮かんできたようだ。
だが、それは絶望や怒りではない。
それは初めて見せた恐怖だ。
それまでとは違い、よだれを垂れ流すほどにガネリアガルは恐慌状態になってしまった。
「私が…私財を投じてまで探した食材を…」
「食材?食材といったな?貴様が奉じる魔王はまさか!」
父様がみたことがないほど顔色を変えるなり、急激に空気が重くなった。
ざわざわと何かの気配も感じられるほどだ。
「首席の精霊たちが…」
ボリンさんが、目でみてわかるほどに震えだした。その目はただただ恐怖しか浮かべていない。
父様のすぐそばに、なんらかの存在がいる。
それが、今にもこの世に顔をだそうとしている。そんな風に思えるほど、この場が重くなっていっている。
「せっかくの獣人も…私の永遠の命も手に入らぬのなら…せめて!」
そういうなり、ガネリアガルは懐に隠していたナイフをエレス様に突き刺そうとした。
誰もが間に合わない。
いや、カルドなら間に合う。
そう思った瞬間にガネリアガルは消えていた。
「え?」
なんだ…?
まるでそこに、誰かがいたような跡だけを残してガネリアガルの姿はない。
遅れてかちゃんとナイフが地面を打つ音が聞こえる。
「ありゃあ…発動したってことは…すでに半分くらいは人を辞めていたんですかねぇ?」
「情報を得る前に…王城に処理されるとは…完全なる敵だったということですね」
エレス様が酷く残念そうにいうが、ガネリアガルを思っていての言葉ではないことは、誰がみてもわかることだ。
父様が気にしているように、情報を得る前に…ガネリアガルはこの世から消えたということだ。
王城にて王を弑することはできない。
そういったなにかしらの条件がこの王城にはあるのだろう。
なにせ、この王城は全てが魔道具なのだ。
後世になって増築をして、一つ一つに魔法をかけたというわけではない。最初から設計された作りだったのだ。
それがわかったのは、ロイヤルメイジの部屋をみたときだ。
部屋として機能はしているが、各自の個室としてくぎっていなかった。寝るのも仮眠室を用意すればいいのにそのままだったのだ。
つまり、増改築ができない単体の魔道具なのだろう。
「失敗しましたぁ…すいません、先生…」
エレス様は父様に謝罪するが、父様は恐縮した様子だった。
確かに王様に謝罪されるなんてありえないことだからな。
「いえ、陛下。こればかりは…ガネリアガルも情報を渡すつもりがなかった…ということでしょう」
ガネリアガルは、王城のことを知っていたのだろう。だからあえて、エレス様を狙ったのだ。
自分が持っている情報を渡さないために…それほどのことをしないといけないとは…どんな団体なのだろうか。
「ゲッペン将軍も利用されただけでしたからね…しかし、皇女だけでなく私の息子にも用があるとは…」
「旦那様」
父様とカルドが深刻な顔を見せた。
ケルンに用がある…ケルンは魔力が多いだけの普通の子供だが…もしかして棒神様に頼まれた件を魔族に知られたのか?
しかし、そんなことはないと思うのだがな…棒神様が魔族に漏らすとは思えないし…気のせいならいいんだがな。
「…心配するな。魔王を倒すとはさすがにいわないさ…一人ではな。いざとなれば声をかけてみんなで、行くさ」
「お供いたします…ですが」
「ケルンとはまたゆっくり話さないとな」
まるで死地へと赴く…いや、魔王を倒すといったのだ。そこは死地だろう。
父様は死ぬ覚悟をしている。誰のため。
それがわからなくもないだろ?
なぁ、ケルン?
「あ、先生ぃ。そのことなんですがぁ」
「なんでしょうか?」
ふいに、エレス様がかなり軽めな口調で父様にいいだした。
「お子さんと喧嘩をしていませんか?」
そういえば、エレス様にはいくつか愚痴ってしまっていたな…我ながら恥ずかしいことに、知らないお兄さんだからいいかと、ケルンの怒りを静めてくれないかな?とも思って…いや、俺も不満はあったんだけどな。
どうもケルンは俺にも隠しているなにかがあるようなのだ。ミケ君たちの一件でどうもケルンとの繋がりが少し切れたかのようなところがあって、そこにケルンの隠し事はあるようなのだ。
父様に文句がない…とはいえないが…少なくても俺は父様の気持ちがわかる。
「…私が悪いのです。王城にはフェスマルク家の子供を狙っている輩がいるとの情報を得ました。それゆえ、あがらせなかったのです」
父様がケルンを思って以外で行動するなどありえないのだ。
もし、黙って行動をしていたら、それはケルンの安全を確保するためだ。
父様はロイヤルメイジという立場だ。それだけでなく建国貴族という国に関わる人だ。
本来は国を優先すべきだ。
でも、父様の口からは真逆の言葉が呟かれた。
「我が子かわいさに…本当ならば情を捨てて国賊を一掃すべきなのでしょう。ですが、私はケルンが少しでも危険にさらされるなど…!耐えられません!」
王城にある部署の長としても、貴族としてもそれは誉められるものではない。それどころか、反逆同然だ。
自らの勤めを放棄しているのだから。
それでも父様の瞳はただ、真っ直ぐだ。
「あの子は私の…いえ、私たち家族の命です。あの子のためならなんでもする。それが親ですから」
胸があたたかい。嬉しいよな、ケルン。
「だってさぁ、ケルン君」
そう浸っている時もなく、エレス様は急に俺たちがいる方向に振り向いて、ボリンさんの手から『姿隠しの羽』を奪い取った。
「わぁ!」
「なっ!ケルン!」
「坊ちゃま!?なぜこちらに!?」
兵士たちが驚くのも無理はないが、父様たちの驚きようがすごい。
ボリンさんはロイヤルメイジの人だからそこまで驚かないが、確かにいるはずのない人間がいるってだけで、驚くよな。
「ごめんねぇ…俺、王城にいると魔道具とか一切効かないんだよぉ…ボリンも知らなかったよね?」
「初耳だ!…ああ…この城…一度解体したい…どれほどの叡智が眠っているのだ…」
「それはだめかなぁ。ご先祖様に呪い殺されちゃうよぉ」
ボリンさんはやっぱり危ない人だったのかもしれない。
いや、今はそれはどうでもいいな。
「ど、どうしてケルンが」
「父様!ごめんなさい!」
父様に抱きついて開口一番に謝る。
「ケルン?」
「父様…僕ね…父様が嘘をついてたのが嫌だった…悲しかった…」
今まで嘘なんてつかれたことがなかった。もしかしたら、悪いことばかりするから嫌われたのかとも思った。
「僕のこと嫌いなのかなって」
「そんなことはないぞ!ケルン!」
そういって強く抱き締め返されてた。
「父様が僕を大切に思ってくれて嬉しい!…それにね、お兄ちゃんのこと…ちゃんと息子っていってくれてね、お兄ちゃんも僕も嬉しいの!」
ケルンが隠していたことは、これか。
父様はエフデはあくまで架空の存在として認めていなかった。いくらケルンがいっても、遊びだと思われていた。
ケルンはそれが悲しかったのだろう。
大好きな父親を独り占めしている自分が許せないし、少しでも俺を父様に認めて欲しかったのだ。
「ああ。エフデも私の息子だぞ…ケルン…それに、エフデ。私の宝物たち。愛している」
「僕も!父様大好き!お兄ちゃんも大好き!」
ぎゅっと抱き締められ…本当にあたたかい。まるで俺まで二人に抱き締めらているみたいだ。
こうして、ケルンの小さな反抗期は終わった。
仲直りでできてよかったな!
で、終わればよかったんだけどなぁ。
父様はガネリアガルの件があってまだまだ仕事をしないといけないそうで、家に帰ってもすぐに仕事場に戻るという生活をしばらくするようだ。
寝泊まりはあの部屋でするらしいが…父様大丈夫かな?床に布団を敷いただけとか、体壊さないか?
そして父様と帰宅してからケルンのお腹は絶賛ずぶ濡れ中だ。
「ぼ、坊ちゃまぁぁぁ!坊ちゃまぁぁぁぁ!あああああ!」
「よしよし。大丈夫よー?よしよし。もう、泣かないでー」
そろそろズボンまで涙で濡れてきたぞ。
まぁ、誰のせいとはいわないでおこう。
特別に夜も一緒に寝ることになったけど、まだ泣いていた。
朝になって屋敷にやってきたティルカに真顔で思いっきり殴られ、キャスにも怒られ、エセニアからも冷たい視線を浴びせられていたようだが、ちゃんと次の日にはしっかりしていたからな。
あとはミルディかなぁ。
「ミルディ?目は大丈夫?」
「はい…でも…止まらないんです…」
涙が止まらないという事件が起こっていた。
ケルンが消えたということが、あまりにも衝撃的すぎたのと、下手に魔法の勉強をしていたから『転移』事故のことを知っていたのもあって、後追い自殺をしかけていたらしい。
生きているんだがな。
母様からも大変だったと聞いていたが、涙腺の蛇口が壊れたのか、時おりポロっと涙が落ちてくる。
「今日はお客様が来るから大変かもしれないけど…」
「…大丈夫です。坊ちゃま。涙はひきました」
「そう?無理しないでね?」
本当に涙はひいたようだけど…なんで、そんなぴりぴりしてるの?敵がくるみたいに思っていないか?
今日は大事なお客様がくるんだぞ?
なんでだろうかと、ケルンと二人で悩んでいるとカルドがノックとともに、部屋に入ってきて一礼をした。
「坊ちゃま。お時間ですよ」
「うん!」
出迎えにいくと、父様が魔法でお客様を連れてきた。最初にみえたのは、ぴんとはった猫耳、それに尻尾だ!
「いらっしゃい!」
そうして、初めて二人のお客様を呼んでのお茶会はとても楽しかった。
少しだけ大人になったケルンがしっかりとホストをしながら、二人をもてなしたお茶会はそれから学園に入学するまで、何度か開かれた。
ああ!幸せだな!
そんな日々の中で少しづつ、ケルンを取り巻く環境が変わっていていたことに、俺は気づけなかった。
全ては棒神様の願いでもあったのだと、そのときはわかっていなかったのだ。
ただ、全ては動き始めていた。
・・・・・・・・・・・・・・・
これで三章は終わりです。
補足や過去は裏話で書いていきます。
少し読み直していて誤字脱字がかなり多いので、一度チェックをしなおして直していこうと思います。
面白いとおもっていただけたらうれしいかぎりです。
20
あなたにおすすめの小説
スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜
櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。
パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。
車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。
ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!!
相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム!
けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!!
パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
【完結】憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
神のミスで転生したけど、幼女化しちゃった! 神具【調薬釜】で、異世界ライフを楽しもう!
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
旧題:神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!
電子書籍は、2026/3/9に発売です!
書籍は2026/3/11に発売(予約受付中)です!メロンブックス様より、特典の描き下ろしSSペーパーがあります。詳しくは、メロンブックス様へお願い致します。
イラストは、にとろん様です。よろしくお願い致します!
ファンタジー小説大賞に投票して頂いた皆様には、大変感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる