選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第三章の裏話

追話 エセニアの冒険 ⑦

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「なんだぁ?」

 突如表れた天秤をみて、アルシンドは怪訝そうな表情を浮かべました。
 それも次第に驚愕のものへと変貌していきました。

「なんだぁ!なんなんだぁ!」

 一兄さんの後ろから巨大な二の腕が出てきて、右手は天秤を掴む。
 左手は真っ黒い石を持っていて天秤の片側に乗せる。
 けれども、天秤はまったく動かない。

「動けぬ!なんだこれはぁ!」

 アルシンドは何かをしようと思ったのでしょうが、審議が終わるまで身動きはとれないでしょう。

 スキル『審判』は一兄さんが滅多なことでは完全には使わないスキルです。
 理由はいくつかありますが、本人が一番嫌がっていることがあります。

 天秤に手をかざし、瞬きをすれば、一兄さんの表情はとても穏やかなものへと変わっています。

「告 審議内容は殺害数。善悪問わず」
「お前のぉそれはぁぁなんだぁぁ!」

 一兄さんの口から出た声は女性のものです。
 
 奥様が一兄さんのスキルについて教えてくださったことがあります。

 二十個ほど存在が確認されている意思のあるスキル。『憑依スキル』と呼ばれる内の一つである『審判』は使用者の体を意思を持つスキルが奪い取り、能力を行使するらしい。

 元はクウリィエンシア皇国にあったといわれる『スキル大全』という本に詳しく書いてあったそうです。
 現在はクレエル帝国に秘蔵されていて、奥様が読まれていたため一兄さんのスキルの特性がわかったのです。

 ただ、その能力は強力な反面、使用者が意図しない結果にもなるため、あまり行使されてこなかったとのことでした。

 一兄さんがあまり、乗り気ではないのは、体が乗っ取られたようになるのと、何が起こるか自分でもわからないことが嫌いだからでしょう。

 今回の審議内容はアルシンドと一兄さんの殺害人数…善悪を問わずですか…天秤を見れば乗せられた石が徐々に上がっていきます。

「裁量減刑なし…陪審員の投票…」

 右手を払えば地面から骨が生えてくるかのようにぼこぼこと出て来はじめました。手には真っ赤な石を持っています。
 骨は空いている天秤へと石を投げ込んでいきました。

 かたん、とやけに軽い音で天秤が完全に傾きました。
 審判がくだされるようです。

「判決…即時、両断」
「あがぁぁぁ!」

 二の腕が天秤を持上げてアルシンドを潰すかのように振り下ろしました。
 天秤はアルシンドをすり抜けて地面へと消えていき、二の腕も消えていきました。

「ぐ…きっつぃ!」
「一兄さん!」

 一兄さんが膝をついて呼吸を整えていると、アルシンドは自分の体を触って確かめていました。

「くかかか!なんぞ!たかが幻影か!」

 にたりと笑って何かの術を発動しようとしたのでしょう。

「はぁれぇぇ?」

 それと同時にアルシンドの体は左右に別れていきました。

 どしゃっと音をたてて、アルシンドは二つになりました。血液は一滴も流れてきません。
 断面も元々そうであったのかように潰れている場所は見られません。

 完全に動かないアルシンドをみて呼吸が楽になりました。
 出口の揺らぎもなく術者が死亡したことで結界がなくなったのでしょう。

 強敵ではありましたが、一兄さんの本気に敵うわけありません。私が着いてこなくても、一兄さん一人で倒せる相手だったわけですからね。

「終わり」

 一兄さんを労うように声をようとしたとき、私は一兄さんに、突き飛ばされていました。

 私の目に飛び込んできたのは。がきぃ!と一兄さんの剣が受けとめた姿でした。どこからか禍禍しい骨刀が独りでに私を殴打しようと狙ったようです。
 なさかまだ、他に仲間が?

「…さっきもいったろ、気を抜くなって」

 一兄さんが剣を戻すことなく、死んでいるはずのアルシンドへと向けます。
 すると底冷えがするような強い殺気がアルシンドから発せられました。

「たかが一回、真っ二つにされたぐらいでSランク相当とはいえねぇ…Sランクからは化け物と思え」

 べちゃり。べしゃり。
 両断された内蔵がまるでそういう生き物であるかのように動きだし、アルシンドも立ち上がったのです。

「我がにくたぃぃ…」

 ひゅーひゅーと空気が漏れる音を盛大にさせたながら、体を合わせてくっつけようとしているようですが、そのウゴキニ合わせてどんどん腹からこぼれていきます。

 どうにかして、体を合わせようとしても、肉体は修復をしません。
 魔法であっても難しいでしょう。

「悪いが、判決は終わってんだ。両断されたら、もうどうあがいてももう二度と繋ぐことはできねぇぞ?」

 少し呼吸が落ち着いた一兄さんが、アルシンドへというと、アルシンドは呼吸音を激しくさせます。

「ひゅー!ひゅー!」

 一兄さんのスキルの恐ろしいところは、事象の確定です。
 普段は限定解放しか使わないのは、完全解放で使ったときに何が起こるかわからないからでした。
 『審判』の内容はスキルを行使する度に変わっていきます。
 相手より自分の方が罪深い場合は使用者が裁かれます。

 どうやってか、延命をしているアルシンドもさすがに、そろそろ、命を終えるでしょう。生物であるなら回復もなくこのままでは呆気なく死ぬはずです。

 アルシンドも体を寄せるように抱き締めていた両腕をだらりとたれさせ、こちらをみて

「なれば、捨てればよい」

 すっと、それまでの怒りの感情がなくなり、冷静な声音になった瞬間。

 アルシンドの肉体は崩れ去り、そこには一兄さんぐらいの色黒の大男が立っていました。
 そして、先ほどよりもべったりと体にまとわりつくようなくうきをその男は放っています。

「霊体行動だと!…お前、まさか尸解仙しかいせんか!」

 尸解仙?一兄さんが警戒を今までになく強めるということは、かなり危険だといえます。

 いえ、危険です。知らずに私の重心は出口にむいてしまっています。
 逃げ出したい。それほどの恐怖をアルシンドから感じます。

「宵ぐれの二つ名…みせてしんぜよう」

 軽くアルシンドが手を振り上げると、風が巻き起こり、私の目の前は暗くなりました。



・・・・・・・・・・・・・・・
昨日は書いている途中で寝てしまいまして、スマホ片手に朝でした。
明日も二話かけたら書きます。
もし面白かったらブックマークや感想をお待ちしております。モチベーションがかなりあがります!
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