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第三章の裏話
追話 エセニアの冒険 ➈
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嫌にぬめりを増していく黒い皮膚。顔はなく、口もあいていないというのにアルシンドの声が聞こえます。
まるで不快な不協和音だけを合わせたような、低音と高音が耳障りに聞こえます。
「夜鬼は触れた瞬間に宵がお主らを包み…永遠の夢へと連れていく。そして我が神のための贄となるのだ」
蝙蝠の羽根のような膜が逆立、そこから無数のミミズが放たれました。
ミミズたちの口には鋭い歯がはえており、紫色の滴りが地面に触れると、じゅっという音とともに煙が出ています。
酸性の…毒?どちらにしろ回避ができない速度ではありません。
ノーンで切り伏せ、一兄さんが作ってくれるすきを見逃さないように、一兄さんの剣をみつめました。
アルシンドの姿をみると、まだ吐き気に襲われてしまいます。
私の耐性よりも強いなにかなのでしょうが、その正体をかんがえる時間はありません。
「それはお断りだな!」
顔には出していませんが、一兄さんも焦っています。
なぜならアルシンドが先ほど肉体を得てから、その威圧がどんどん増しているのです。
それに合わせて、肉体までもが強化されていっているかのようです。
しかし、障壁がなくなっている今ならノーンが効果を出すはず。
そう一兄さんも思ったのです。
「ちっ!」
「ノーンが効かない!」
刃が通らない!これではアルシンドには届かな…っ!
「あっ!」
「捕まえたぞぉ!」
腕を捕まれた。
アルシンドは最初から一兄さんを眼中から外して私を狙っていた。
捕まれた腕は、おぞましい触感が襲っています。何百もの足のある虫に触られているかのような感触…気持ちが悪い…のに、気が遠く、まるで眠りに落ちかけるような安堵感があります。
「身共の体は今や鋼鉄よりも硬い…しかもこれは肉のあるもの。ゆえにその刃は身共には届かぬ」
ああ…力が抜けて…からんっと音を立ててノーンが…離れ…て。
「妹を放せ!」
一兄さん…足を引っ張って…ごめんなさい…暗く…坊ちゃま。
「なんだぁ!」
かっと、私を包むかのように光が…リボンが光っている?
光のおかげで、落ちていくかのような感覚が消えました。
「はな…しなさい!」
「ごきゃぁ!」
渾身の蹴りでしたが、いつもよりも威力があがっている?
アルシンドを蹴り飛ばして距離を稼ぎました。
「大丈夫か!?妹!傷物にされてねぇか!」
「一兄さん…もう少しいい方を」
「っていっても、お前、頑丈だもんな!」
心配をしてくれてるのは、嬉しいですが、なんですかそのいい方。
絶対に帰ったら坊ちゃまにいいつけますから。
「なぜだぁ…身共の術を防ぎ…夜鬼の術を防ぐ護符だと?そんなものがこの世にあるだとぉぉ」
地を這うような恨みがましい声でアルシンドが呟いています。
「精神の隙間も未熟ながら防ぎおった…肉体に関わることを防ぐ護符というわけか…ならぬ…ならぬぞぉ…それはならぬぅ」
私たちの存在を忘れたかのように護符の正体を考えているようです。
これは少々まずいです。坊ちゃまにたどりつかれてはいけません。
「おい、アルシンド。一つ聞きたい。みたとこ…魔族の混ぜ物を使役したってとこか?」
ぶつぶつと呟いていたのをやめて、私たちの存在を思い出したのか、アルシンドが翼をはためかせました。
「くかかか!夜鬼は偉大なる魔族様の亡骸より産まれたもの…この体は憎悪と贄への渇望に満ちておる!」
自慢気に語りだす。
魔族の亡骸…先ほどの山賊ですら強化されていました。
魔族を使ってだとするとどれほどの強化がされ、強さもはわかりません。
「一兄さん」
「心配すんな…お前は休んでろ…わかったな?髪がほどけたら女がすたるってもんだ」
護符のことをアルシンドに気づかせるな。
そう言外に含ませたのでしょう。
「最初っからその体を使ってねぇってことは…制限時間があるってことだろ?」
一兄さんがアルシンドに刃をむけて、再度斬りかかりました。
「…くかかか!いかにも!身共であっても夜鬼の制御は難しい…気を抜けば身共の魂すら食われてしまうだろう」
踏み込みの速度は先程よりも早いのに、簡単に腕で止められてしまいました。
その腕には傷がなく、一兄さんの剣にヒビが入りました。
「しかし、身体はこの通り」
ミスリルよりも硬い肉体から、一兄さんが避けるよりも速く、重い一撃が放たれ、一兄さんに、直撃しました。
「ぐっ!」
「一兄さん!」
口から血を流す一兄さんを久しぶりに見ました。それこそ、奥様の本気の一撃を受けたときにしか、そのような怪我をしないのに。
一兄さんが膝をついた。
「ふるべをたより、たよりてふさぎ…縛術目縛!」
アルシンドは一兄さんの頭部を掴むなり詠唱をして、何かの術を行使したようです。
一兄さんはアルシンドの腕に飛び付いて、腕を折って離れました。
「どうだ?身共の術は?」
ごきりと腕をアルシンドが払うと、骨折が完治したのか折れていた形跡すら見当たりません。
「頭を潰さねぇなんざ…なめたことをしやがって」
「贄は綺麗に使わねば…傀儡にするにしてものぉ」
にちゃりと音をたててアルシンドは笑いました。
「…俺の耐性を貫いたか」
「一兄さん!目が!」
一兄さんの目か真っ白に!視界を奪われた…兄さんは幼い頃から今まで、血反吐を吐いて、枯れるほどの修行を行ってきています。
目だって何千回と潰されてきて、耐性だってあるというのに、それをこえて…?
「身共の術はさらに高まり貴様の目すら簡単に奪える…だからこそ、うぬらは勝てぬ…しょせんは、ただの贄よ!くかかか!」
気味悪い笑い声を高らかにあげる。
勝てない。
どうあがいても勝てない。
私なら。
「『審判』を使って、魔力は回復しきってもねぇ」
何度も使えるスキルではない『審判』を仮に今使えても使わないでしょう。
「体力も削れて視界も奪われた」
手足がもがれても決して諦めないでしょう。
「武器なんて、国からの支給品だ」
例え、伝説の武器でも、その辺にある木の棒でも変わりないでしょう。
「頼みのノーンも通らなくなっちまったしな」
元々、妹に頼る気などないくせに。
「命乞いをしても無駄ぞ?とくに貴様は英雄に連なる可能性が高い…この場で我が神に捧げる!」
アルシンドはひどい勘違いしていて、それを、訂正せずにきました。
「命乞い?」
一兄さんは護符の作成者を、坊ちゃまに害をなすとアルシンドが口に出してからいままで、怒りをためていました。
「たかが、魔力がからっけつで、目が見えねぇ。武器がまともに刃を通さねぇぐらいがなんだってんだ」
けれども、本気になど一切なっていなかった。
「俺は坊ちゃまの剣だぞ?…斬り倒せねぇもんなんざねぇんだよ!」
その宣言は決して折れない。一兄さんが掲げる一兄さんの存在意義。
本気になったケルン・ディエル・フェスマルク様の一の家臣『天秤のティルカ』の矜持。
「『身体強化』『身体加速』『身体超加速』」
とても、静かに。
一兄さんの体から鼓動が聞こえなくなるほど、静かになっていく。
そっと目を閉じた。
「『心眼』」
剣をしまい、右手は胸に置かれ、ただ祈っているかのように微動だにしない。
「愚か!愚かなりぃ!それだけのスキルではどのようなことをしても貫けるはずなどないわ!せめて魔法か術を使えばのぉ!くかかか!」
アルシンドは高笑いとともに、私の目にはとらえきれない動きをみせました。
「死ねぇぇぇ」
かろうじて見えたのは一兄さんの胸を貫こうとした瞬間。
「ノルリス流…静ノ型『剣魂破砕』」
ただ、そこに一兄さんはいません。
代わりにその場にいるのは、翼を、足を切断されたアルシンドです。
「ばかなぁぁ!」
叫び声をあげて、頭部は胴体から離れ地面に触れると、細切れになり、残った肉体も同じような姿になりました。
「いったろ?斬り倒すってな」
そういった一兄さんの瞳の色は戻っていました。アルシンドの術が解けたようです。
「…支給品じゃ、これが限界か…奥様の試練もこれで達成ってとこかな」
手元にある剣は刀身がありません。柄だけです。ミスリルの刀身はどこにもありません。
『剣魂破砕』というのは、魂すら切り伏せる『剣魔術』です。
霊体でも生き残れるアルシンドでしたが、魂すら斬り崩されれば終わりでしょう。
さすがに一兄さんの腕でも、ミスリル程度では刀身が持たなかったようです。
魂を切るとは神の領域です。その一端をわずかばかりでも触れるとなると生半可な腕ではできません。使用者によっては武器だけでなく、自らも消失してしまうほどのものです。
現に一兄さんは全身から止めどなく汗を流し、息を整えていますが、顔色もかなり悪いです。
「もしかして…奥様から?」
色々と制限をかけられている一兄さんですが、全て奥様のご指示です。
ぎりぎりまで本気になってもいいといわれていなかったのでしょう。
「奥様はなんでも、ご存じだからな…おかげでまさかの特訓つきだ」
「だから武器がそれだったんですか?」
本来の一兄さんの武器は奥様から、借用している物を使っています。
ミスリルの剣は軍の仕事や典礼用で、アルシンドと戦うにしては不似合いだとは思いました。
「これも悪くなかったんだがな…ミスリルじゃ、刀身が持たねぇ…」
「あの…奥様は銅の剣でもできるそうでしたが」
「奥様だからなぁ…」
とりあえず、頼まれたことは終わりました。
早く坊ちゃまの元へと…あ、坊ちゃまに謝罪せねばなりません。早くお側に戻るといって時間がだいぶかかっています…すごく腹が立ちますね。
「報酬は貰えますよね?…坊ちゃまとお買い物に行きますから」
「あー…陛下と旦那様には頼んでおくから…俺も」
「だめです」
「…ノーンを忘れんなよ」
「わかっていますよ」
ふて腐れようと、今回は一兄さんは抜きです。ミルディも、連れて行って坊ちゃまの好みに合わせるんですから。
ノーンを取りに気を抜いたのが間違いでした。
ぞわりと急に感じた殺気に、確認もせずよければ、それは私のリボンを狙っていた。
「リボンが!」
アルシンドが、放ったミミズが坊ちゃまからのリボンをくわえ、噛み千切り、それと同時に弾け飛びました。護符に触れたからでしょうが、ただ一つの疑問が頭を埋めてしまいます。
あのミミズがどうして!?
「そんな!」
「構えろ!」
身動きが止まったのを見ていたかのでした。
ぱきりと、軽い音を響かせてそれは出てきた。
転がっていた髑髏が割れてそこから霊体となったアルシンドが!
「くかかか!もらったぁぁぁ!」
・・・・・・・・・・・・
遅れました。
明日は二話更新します。
ブックマークが増えていてびっくりしつつ、戦闘描写苦手を克服したいという気持ちでいっぱいです。
面白いとおもっていただけたら嬉しい限りです。
まるで不快な不協和音だけを合わせたような、低音と高音が耳障りに聞こえます。
「夜鬼は触れた瞬間に宵がお主らを包み…永遠の夢へと連れていく。そして我が神のための贄となるのだ」
蝙蝠の羽根のような膜が逆立、そこから無数のミミズが放たれました。
ミミズたちの口には鋭い歯がはえており、紫色の滴りが地面に触れると、じゅっという音とともに煙が出ています。
酸性の…毒?どちらにしろ回避ができない速度ではありません。
ノーンで切り伏せ、一兄さんが作ってくれるすきを見逃さないように、一兄さんの剣をみつめました。
アルシンドの姿をみると、まだ吐き気に襲われてしまいます。
私の耐性よりも強いなにかなのでしょうが、その正体をかんがえる時間はありません。
「それはお断りだな!」
顔には出していませんが、一兄さんも焦っています。
なぜならアルシンドが先ほど肉体を得てから、その威圧がどんどん増しているのです。
それに合わせて、肉体までもが強化されていっているかのようです。
しかし、障壁がなくなっている今ならノーンが効果を出すはず。
そう一兄さんも思ったのです。
「ちっ!」
「ノーンが効かない!」
刃が通らない!これではアルシンドには届かな…っ!
「あっ!」
「捕まえたぞぉ!」
腕を捕まれた。
アルシンドは最初から一兄さんを眼中から外して私を狙っていた。
捕まれた腕は、おぞましい触感が襲っています。何百もの足のある虫に触られているかのような感触…気持ちが悪い…のに、気が遠く、まるで眠りに落ちかけるような安堵感があります。
「身共の体は今や鋼鉄よりも硬い…しかもこれは肉のあるもの。ゆえにその刃は身共には届かぬ」
ああ…力が抜けて…からんっと音を立ててノーンが…離れ…て。
「妹を放せ!」
一兄さん…足を引っ張って…ごめんなさい…暗く…坊ちゃま。
「なんだぁ!」
かっと、私を包むかのように光が…リボンが光っている?
光のおかげで、落ちていくかのような感覚が消えました。
「はな…しなさい!」
「ごきゃぁ!」
渾身の蹴りでしたが、いつもよりも威力があがっている?
アルシンドを蹴り飛ばして距離を稼ぎました。
「大丈夫か!?妹!傷物にされてねぇか!」
「一兄さん…もう少しいい方を」
「っていっても、お前、頑丈だもんな!」
心配をしてくれてるのは、嬉しいですが、なんですかそのいい方。
絶対に帰ったら坊ちゃまにいいつけますから。
「なぜだぁ…身共の術を防ぎ…夜鬼の術を防ぐ護符だと?そんなものがこの世にあるだとぉぉ」
地を這うような恨みがましい声でアルシンドが呟いています。
「精神の隙間も未熟ながら防ぎおった…肉体に関わることを防ぐ護符というわけか…ならぬ…ならぬぞぉ…それはならぬぅ」
私たちの存在を忘れたかのように護符の正体を考えているようです。
これは少々まずいです。坊ちゃまにたどりつかれてはいけません。
「おい、アルシンド。一つ聞きたい。みたとこ…魔族の混ぜ物を使役したってとこか?」
ぶつぶつと呟いていたのをやめて、私たちの存在を思い出したのか、アルシンドが翼をはためかせました。
「くかかか!夜鬼は偉大なる魔族様の亡骸より産まれたもの…この体は憎悪と贄への渇望に満ちておる!」
自慢気に語りだす。
魔族の亡骸…先ほどの山賊ですら強化されていました。
魔族を使ってだとするとどれほどの強化がされ、強さもはわかりません。
「一兄さん」
「心配すんな…お前は休んでろ…わかったな?髪がほどけたら女がすたるってもんだ」
護符のことをアルシンドに気づかせるな。
そう言外に含ませたのでしょう。
「最初っからその体を使ってねぇってことは…制限時間があるってことだろ?」
一兄さんがアルシンドに刃をむけて、再度斬りかかりました。
「…くかかか!いかにも!身共であっても夜鬼の制御は難しい…気を抜けば身共の魂すら食われてしまうだろう」
踏み込みの速度は先程よりも早いのに、簡単に腕で止められてしまいました。
その腕には傷がなく、一兄さんの剣にヒビが入りました。
「しかし、身体はこの通り」
ミスリルよりも硬い肉体から、一兄さんが避けるよりも速く、重い一撃が放たれ、一兄さんに、直撃しました。
「ぐっ!」
「一兄さん!」
口から血を流す一兄さんを久しぶりに見ました。それこそ、奥様の本気の一撃を受けたときにしか、そのような怪我をしないのに。
一兄さんが膝をついた。
「ふるべをたより、たよりてふさぎ…縛術目縛!」
アルシンドは一兄さんの頭部を掴むなり詠唱をして、何かの術を行使したようです。
一兄さんはアルシンドの腕に飛び付いて、腕を折って離れました。
「どうだ?身共の術は?」
ごきりと腕をアルシンドが払うと、骨折が完治したのか折れていた形跡すら見当たりません。
「頭を潰さねぇなんざ…なめたことをしやがって」
「贄は綺麗に使わねば…傀儡にするにしてものぉ」
にちゃりと音をたててアルシンドは笑いました。
「…俺の耐性を貫いたか」
「一兄さん!目が!」
一兄さんの目か真っ白に!視界を奪われた…兄さんは幼い頃から今まで、血反吐を吐いて、枯れるほどの修行を行ってきています。
目だって何千回と潰されてきて、耐性だってあるというのに、それをこえて…?
「身共の術はさらに高まり貴様の目すら簡単に奪える…だからこそ、うぬらは勝てぬ…しょせんは、ただの贄よ!くかかか!」
気味悪い笑い声を高らかにあげる。
勝てない。
どうあがいても勝てない。
私なら。
「『審判』を使って、魔力は回復しきってもねぇ」
何度も使えるスキルではない『審判』を仮に今使えても使わないでしょう。
「体力も削れて視界も奪われた」
手足がもがれても決して諦めないでしょう。
「武器なんて、国からの支給品だ」
例え、伝説の武器でも、その辺にある木の棒でも変わりないでしょう。
「頼みのノーンも通らなくなっちまったしな」
元々、妹に頼る気などないくせに。
「命乞いをしても無駄ぞ?とくに貴様は英雄に連なる可能性が高い…この場で我が神に捧げる!」
アルシンドはひどい勘違いしていて、それを、訂正せずにきました。
「命乞い?」
一兄さんは護符の作成者を、坊ちゃまに害をなすとアルシンドが口に出してからいままで、怒りをためていました。
「たかが、魔力がからっけつで、目が見えねぇ。武器がまともに刃を通さねぇぐらいがなんだってんだ」
けれども、本気になど一切なっていなかった。
「俺は坊ちゃまの剣だぞ?…斬り倒せねぇもんなんざねぇんだよ!」
その宣言は決して折れない。一兄さんが掲げる一兄さんの存在意義。
本気になったケルン・ディエル・フェスマルク様の一の家臣『天秤のティルカ』の矜持。
「『身体強化』『身体加速』『身体超加速』」
とても、静かに。
一兄さんの体から鼓動が聞こえなくなるほど、静かになっていく。
そっと目を閉じた。
「『心眼』」
剣をしまい、右手は胸に置かれ、ただ祈っているかのように微動だにしない。
「愚か!愚かなりぃ!それだけのスキルではどのようなことをしても貫けるはずなどないわ!せめて魔法か術を使えばのぉ!くかかか!」
アルシンドは高笑いとともに、私の目にはとらえきれない動きをみせました。
「死ねぇぇぇ」
かろうじて見えたのは一兄さんの胸を貫こうとした瞬間。
「ノルリス流…静ノ型『剣魂破砕』」
ただ、そこに一兄さんはいません。
代わりにその場にいるのは、翼を、足を切断されたアルシンドです。
「ばかなぁぁ!」
叫び声をあげて、頭部は胴体から離れ地面に触れると、細切れになり、残った肉体も同じような姿になりました。
「いったろ?斬り倒すってな」
そういった一兄さんの瞳の色は戻っていました。アルシンドの術が解けたようです。
「…支給品じゃ、これが限界か…奥様の試練もこれで達成ってとこかな」
手元にある剣は刀身がありません。柄だけです。ミスリルの刀身はどこにもありません。
『剣魂破砕』というのは、魂すら切り伏せる『剣魔術』です。
霊体でも生き残れるアルシンドでしたが、魂すら斬り崩されれば終わりでしょう。
さすがに一兄さんの腕でも、ミスリル程度では刀身が持たなかったようです。
魂を切るとは神の領域です。その一端をわずかばかりでも触れるとなると生半可な腕ではできません。使用者によっては武器だけでなく、自らも消失してしまうほどのものです。
現に一兄さんは全身から止めどなく汗を流し、息を整えていますが、顔色もかなり悪いです。
「もしかして…奥様から?」
色々と制限をかけられている一兄さんですが、全て奥様のご指示です。
ぎりぎりまで本気になってもいいといわれていなかったのでしょう。
「奥様はなんでも、ご存じだからな…おかげでまさかの特訓つきだ」
「だから武器がそれだったんですか?」
本来の一兄さんの武器は奥様から、借用している物を使っています。
ミスリルの剣は軍の仕事や典礼用で、アルシンドと戦うにしては不似合いだとは思いました。
「これも悪くなかったんだがな…ミスリルじゃ、刀身が持たねぇ…」
「あの…奥様は銅の剣でもできるそうでしたが」
「奥様だからなぁ…」
とりあえず、頼まれたことは終わりました。
早く坊ちゃまの元へと…あ、坊ちゃまに謝罪せねばなりません。早くお側に戻るといって時間がだいぶかかっています…すごく腹が立ちますね。
「報酬は貰えますよね?…坊ちゃまとお買い物に行きますから」
「あー…陛下と旦那様には頼んでおくから…俺も」
「だめです」
「…ノーンを忘れんなよ」
「わかっていますよ」
ふて腐れようと、今回は一兄さんは抜きです。ミルディも、連れて行って坊ちゃまの好みに合わせるんですから。
ノーンを取りに気を抜いたのが間違いでした。
ぞわりと急に感じた殺気に、確認もせずよければ、それは私のリボンを狙っていた。
「リボンが!」
アルシンドが、放ったミミズが坊ちゃまからのリボンをくわえ、噛み千切り、それと同時に弾け飛びました。護符に触れたからでしょうが、ただ一つの疑問が頭を埋めてしまいます。
あのミミズがどうして!?
「そんな!」
「構えろ!」
身動きが止まったのを見ていたかのでした。
ぱきりと、軽い音を響かせてそれは出てきた。
転がっていた髑髏が割れてそこから霊体となったアルシンドが!
「くかかか!もらったぁぁぁ!」
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面白いとおもっていただけたら嬉しい限りです。
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