選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第五章 影の者たちとケモナー

誘拐と試験

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 ヴォルノ君がいつまで経っても来なかったのは、練習だけではなかった。朝の挨拶をしてから彼は消えてしまったのだ。

 留学生であり、成績を落とさないように気を使っていて大好きな音楽の授業を無断で欠席なんてするはずがない。付き合いは短いが、俺たちが絵を描くのが好きなようにヴォルノ君はバイオリンが好きなんだ。

 すぐに音楽の担当職員が捜索を始めたがどこにも見当たらなかった。
 代わりに見つかったものがある。
 けれど、見つかったのはよくないものだった。

 チールーちゃんの襲われた証拠が出たのだ。彼女がかけていた眼鏡と、サンプルとして持ち歩いていた香水が割れて落ちていた。
 場所はサイジャルの市場近くの通りで、チールーちゃんはそこで朝ご飯を買ったり、香水に使う素材を漁るのを日課にしていたそうだ。

 人が多い場所で争ったのなら目撃者がいてもいいはずだ。職員や生徒の中には、チールーちゃんみたいな生活をしている者はいくらでもいる。
 しかし、誰もみていない。

 すぐに他に被害者がいないかを学園が調べると、新入生で寮に帰っていない者が他にもいたのだ。

 あまりの自体に、生徒は寮から出るのを禁じられた。

 職員は行方不明の生徒の捜索にかかった。俺も臨時職員として参加しようとしたが、ケルンのそばにいるようにナザドから頼まれたのと…ケルンがずっと心配で食事もあまり取っていなかったから、断念した。

 早くヴォルノ君たちを見つけてケルンを安心させてやりたかった。いや、俺も早く見つけてあげたかったのだ。

 チールーちゃんが襲われたであろう場所には血痕はなかった。けれど無事なのかはわからない。

 捜索の結果、何人かの生徒は門限を守っていなかっただけということがわかったのだが、それでも足取りが所在不明な生徒が何人もいた。

 追跡には職員だけでなく冒険者を雇ってまで探した。痕跡はあるのだが、ふつりと消えてしまいどこに行ったのかはわからない。
 あれから二日。二人の居所はいまだにわかっていない。

 失踪にしては人数が少ないことと、サイジャルから逃げる者もいることから、捜索は続けるが、学園は予定通りに試験を行うことになった。

 ケルンが取っていた魔法史の講義の試験も今日行われる。
 チールーちゃんも取っていた講義だ。

 ずっとケルンは元気がない。友達が行方不明なんだから、心配なのは当たり前だがな。

「大丈夫だ」
「でも…」

 教室の扉付近で待っていてもチールーちゃんは来ない。見つかったらナザドから連絡が来るようにしている。それがないということはまだ見つかっていない。
 それはヴォルノ君も同じだ。

「ヴォルノ君たちはきっと無事だ。信じていよう」
「うん…」

 何も見つかっていないなら、生きていると信じる。悪いことを思えば、悪いことを実現させてしまうから。
 きっとヴォルノ君たちは無事だと信じている。

「…今は試験に集中しよう」
「うん…わかった」

 心配と試験の緊張でケルンの顔色が少し悪いな。あまり食事も取っていないし…ハンクからの料理も消化によいものと、ジュース類がわざわざ送られてきている。紅茶ではなく、果実や野菜ジュースにしているのは、ちょっとでもケルンに栄養をとらせるためだ。

「ケルン!…大丈夫か?」
「ケルン様…おかわいそうに…」

 他の試験を終えて魔法史の試験を受けに来たミケ君とメリアちゃんがやってくる。
 アシュ君とマティ君は商業関係の試験を受けに別の教室に行っている。

 ミケ君たちが心配するのは仕方がない。いつもにこにこした顔のケルンが意気消沈していて、顔色もよくない。
 二人が来てくれたから、まだ元気を取り戻せた方だ。

「それじゃ、俺はここで待っているから」
「お兄ちゃん…やっぱり、一緒に入ろう?」
「それはだめだっていっただろ?」
「じゃあ、すぐ済ませるから!」
「それもだめだろ」

 筆記テストとはいえ、急ぐことはない。頭が回ってない今の状態ならろくなことにならない。

「大丈夫ですか?義兄上。やはり誰かを呼んでおきましょうか?」
「ミケ君も心配することはないよ。これだけ人がいるからな」

 ここは学園内だし、俺は臨時職員だから、生徒を狙った誘拐犯は狙わないだろう。
 もし、来たら取っ捕まえてやる。警備員さんを、呼んでな!ぎたぎたにしてやる。

「なんなら聴講生でもみつけてクランの話でもしておくよ」
「それなら…いいですが」

 ケルンの心配性が移ったのか、ミケ君の顔が曇っていく。

「お兄様?どうなさったの?」
「…わからない。どうも落ち着かなくて」
「試験前だからかな?深呼吸をしてやれば、できるはずさ」

 試験の緊張ってこともあるだろうからな。
 おっと、話していたら時間になったな。鐘楼から鐘の音がした。

「お兄ちゃん、待っててねー!」
「おう。頑張ってこいよー」

 三人を見送っても俺はその場にいた。
 廊下は広いから壁に座れる場所とかが作られている。二人ほどしか座れないから議論用だろう。そこに座って待っていてもよかったが…ケルンのことだ。本当にすぐに来るだろう。
 なら待っててやるか。

 十分…長くて二十分ぐらいで済ませれるだろ。それまで暇だな。

 誰か通ったらこの場で本当に何か議論でもしてようか。外の音は中には響かないから、扉の前で話をしていてもいいだろう。クランのやつは…聴講生だからって徹夜な気がするな。一応、元学園関係者と現役の関係者しか聴講生はいないんだけど…自分の生活は守って欲しいもんだ。

 時間つぶしに最適なのはスケッチなんだが、一人でやってるとケルンがすねるからな。
 次の授業の準備もいらないし、試験もないから…本でも読もうか。それか新作の構想とかでもいいな。ケルンが喜ぶ絵本でも考えようか。

 メモでもとろうかと懐に手をいれる。父様が俺の服にも収納魔法をかけてくれているから、ケルンのようにポケットから物を取り出すのはできる。俺の場合は上着からじゃないとさすがに細かくてできなかったそうだけど。
 父様は本当にすごい魔法使いなんだと、サイジャルでわかった。何気なくケルンが使っているけど、普通に収納魔法を服になんて、王侯貴族じゃないと施さないような魔法らしい。

 収納魔法を使えるのは極一部でそれだけで一生稼げるという魔法だ。空間に関わるのは光と闇の精霊様らしく、どちらかの魔法が使える人間ではないとまず習得のスタートラインにすら立てない。

 そこから、魔力の量や契約した精霊様の格に左右されることと、どれほど貴重な品物があるかなどを書いてあったのを読んで軽くめまいがした。

 冒険者が重宝しいる『収納鞄』にも俺らが使っている『フリーポケット』の魔法がかかっているそうだが、超高額で俺の絵が三枚は買える。

 しかも他と繋げれるのは父様だけだ。普通は同じ場所にしか繋げれない。『収納鞄』から別の『収納鞄』には繋がっていないのだ。

 それほど貴重なものではあるが、国と冒険者や医療関係者には似たものが支給されている。お世話になる予定はないがそれでも必要だからな。

 俺の上着はケルンの宝箱とポケットと繋がっている。おかげで本とかを取り出せる。色々あるんだけど、ドングリなんかもあったりするから…掃除しておかないとな。
 木の実とか…いつのだろ?ケルンはリスだったのかってぐらいある。
 俺の物も増えてきたし…あ、メモは部屋にだしっぱだったな。少しでもケルンを元気にしようと絵を描くときに使ったんだった。

「ってか、心配であいつのことばっかり考えてしまうな…実力を出せば大丈夫。俺が一番知ってる…心配だけど」

 ケルンにとって初めての試験だ。名前を書いただろうか。解答欄を間違えていたりしないよな?

 勉強はあまりできなかったが、普段からやってることを思い出せばできるはずだ。俺は外から手助けしてやりたいが、試験はフェアにやるべきだから、黙っていると事前に伝えている。
 本当にケルンの実力でやるんだから、頑張れよ。

 扉をじっと見ていたが、嫌な視線を感じたような気がした。そちらをみるが、生徒が歩いているぐらいだ。課題が多いのか、ケルンより何歳も上の生徒ばかりだ。
 本をたくさん持っている女生徒や、何かを議論している生徒がいる。あれ?

「なんだ?…地面が揺らいでる?」

 ゆらゆらとした陽炎のようなものがみえた。
 それが近づいてきている。

「きゃっ!なに!?」

 陽炎が女生徒にぶつかって荷物が散らばった。
 ぶつかるってことは、あれは陽炎なんかじゃない。

 こちらに、むかってくるなら逃げればいいと、反対に顔を向ければ俺の目の前が揺らいでいた。
 そして気づけば真っ暗な空間に落ちていた。
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