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第七章 ケモナーと精霊の血脈
『大嵐』前の静けさ
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短い休暇だったが、サイジャルに戻らねばならない。
この三日間は完全に休みだからと利用させてもらったが、もう一樹月半もすれば長期の休みがとれるんだ。
基本的にのんびりとさせてもらった。
ピクニックに行ったり、画材屋に行ったりもした。店主のザックおじさんと挨拶をしたんだが、父様がいいっといったからしたが、よかったのか?俺は姿を隠してないといけないと思っていたんだが…ザックおじさんはあいかわらず顔がいかつかったが、変な目で俺をみなかった。
代わりに酒場付近は来ないでくれといわれた。行く予定はなかったから了承したが、荒くれ者がいそうだし、ケルンは子供だから行くわけがないんだが。
父様も頷いてたし、間違いはないな。
絵や彫刻を作成したり…あんまりサイジャルと変わらないことをしてたんだが、こっちの方が気が楽だったな。
勉強も少しした。少しってか、知らなくていいと内緒にされていたことを教えてもらったぐらいか。
貴族の格付けとかな…建国貴族がまさか王族とそこまで差がないとは思ってもみなかった。
それからフートを夜に呼び出して話をしたんだったな。
ケルンが契約した精霊様の名前を聞こうとしたんだ。
「申し訳ござりませぬ。某の口からは…許可されておりませぬ」
という。さすがに俺たちも変だと思った。なにせ、わざと伏せているとしか思えないからだ。
「何で隠すんだ?」
「…教えたくないの?」
ほら、みろ。ケルンがしょんぼりしているぞ。それをみたフートが慌てて膝をついて頭をたれる。
「主殿!何とぞそのようなお顔をなされないでくだされ!…あの方の名は契約者に捧げられておるのです」
「契約者に捧げる?何をだ?」
聞いたこともない話をフートがするので、思わず俺が口にする。フートは渋々といった様子だったが、説明してくれた。
「我ら意志ある精霊は初めて契約をする者に名を捧げまする。名を捧げ、我らは契約者と縁を繋げ契約者は魔力を精霊に渡し、世界に干渉するのでござります」
「初めて契約をするときだけ?僕はどうなの?」
「そうでござります。某の場合はお屋形様に捧げました。主殿は二人目でございますな」
初めてってそういう意味だったのか?…いや、含みがあるいい方だったし…触れないでおこう。
それよりも、名を捧げることと、名前を教えないことがどうして繋がるのかいまいちわからない。
「なぁ、名を捧げたらどうして、名前を教えてくれないことに繋がるんだ?別に俺たちが知ったらいけないとかじゃないだろ?」
少なくともフートは前のお屋形様って人に名前を捧げても俺たちに教えているし…それこそ、契約者ではない俺にも教えたぐらいだからな。
「教えたくても教えれないのです…あの方の契約者はかなり力の強い方で、その上、契約をされたまま姿を消されたのです」
「消えた?」
「どこかに行っちゃったの?」
契約をしたまま消えた…っていっても消えたから教えれないじゃ話が通じな…捧げる…何となく浮かんだことを口に出す。
「捧げる…ってのは、その消えた契約者ってのが精霊様の名前を握ってるってことか?」
教えたくても教えれないってことは、名前を誰かが握っているということなのかと思ったのだ。知識として確かに名前で縛るということができると俺は知っている。
確か、スキルとか魔術でもあったはずだ。
「兄御殿がおっしゃるとおりで。故にあの方々はこちらに出ることもなく、このごろは力を行使することもできず、某のようなものを斡旋しておられるのです」
「方々ね…」
複数系…あの運動部系の水の精霊様もだろうか。契約者に名前を握られているから、斡旋業をしてるっての大変な話だ。
確かに忙しいってなるわな…だから別な精霊様を紹介できたってとこか。
でも、契約者はどこに行ったんだろうな。
「その契約者って何者なんだ?有名な魔法使い?」
「ゆーめいじん?」
現役の冒険者とか?はたまた魔法使いとか?誰にしろ、迷惑なやつだ。
「それが…わからぬのです」
「わからない?」
「なんでー?」
契約者が誰かわからないとかあるのか?
フートは苦笑しながら理由を語った。
「あの方々は確かに契約をされたそうなのですが、かなり古く…それ故に誰が契約をしたのかはわからず…」
かなり古い…精霊様のかなり古いって…どんだけ昔だよ。
「…生きてんのか?契約者って」
普通に考えたら死んでるだろ。死んでても契約が続くとは思えないんだけどな…死んでも続く契約って呪いとかしいえないんだけど。
「生きておられると思いますぞ。以前は他の契約者にお力を貸されておりましたから」
「生きてるのかよ」
何歳だよそいつ。ケルンも俺もびっくりだよ。
「今も魂は感じるそうですが…某が話せるのはここまででございます」
フートが語ったことは大きな宿題になりそうだ。
そう感じたが早々に還ってもらった。教育に悪いことをケルンに教えようとするからだ。
痔に効く軟膏の作り方とか覚えたくなかったわ!…いや、うちのクランに痔主がいたから、有益な話だったかもしれない…座り作業が多いとどうしてもなるそうだ。
ケルンは身長があれだから立っての作業が多いし、身長が大きく伸びても立ってさせよう。聞いてて大変そうだったからな。
教育に悪いで思い出した。
ケルンが寝てからこっそり、痴杖にも精霊様の話をしてみようと思ったんだが、やっぱりあいつはだめだ。
『も、もうちょっと待ってくれっす…ふ、複雑で…ま、満月までに整理しとくっす!』
「そうか。早くしてくれよ」
あえて記憶から消しているが、言葉の合間に喘ぎ声と「らめぇぇ!いっぱいになるぅ!」とかお前の容量のことは聞きたくないってか、容量とかあんの?杖なのに?
余分な下ネタとか削れたらいいなぁと思う。むしろゴミ箱にぽいだ。
上級になると時間がかかるものなんだろうな。あれから静かでとてもいい。ケルンのポケットからはみだしもしないしな。
あっという間にサイジャルに戻るときがき来た。ずるずる時間をのばして、三日目の夕方に屋敷から出るまで過ごした。
もっと早く戻るつもりではあったが、つい、森の動物たちとの触れ合いとか…母様が嬉しそうにしてるから、戻りにくかったのだ。
「ちゃんとお勉強をするのよ?エフデ」
「いや、なんで俺なんですか。そこはケルンでしょ!」
父様が爆笑している。いや、だって俺は臨時職員だし!ケルンは学生だから学ぶのは当然だが、俺は関係ないじゃんか!
「ケルンはしっかりお勉強をするもの。貴方は礼儀作法のお勉強をケルンと受けてきなさい。わかったわね?」
「えー!僕も?」
「夜会用のはまだでしょ?ほら、二人とも嫌そうにしないの!」
おー、ケルンからも伝わってくるわ。
『礼儀作法のお勉強は嫌!』
『わかる。肩がこる…俺には肩がないけど』
二人で内緒話をしていると、母様は気付いているのか「もう…」と何かをいいかけて急に止まる。
どうしたのだろうかと母様を見れば、目を見開いて遠くを見ている。
「本当に心配だわ…」
「母様?」
「どうしたの?母様?」
また体調が悪くなったのかとケルンが母様に心配そうに抱きつくので、俺も母様の顔をまじまじと見る。
顔色は悪くなってない。超絶美人だ。本当に人なのかな?
母様は少し悲しそうに俺たちを見つめる。
「…もし、どうしてもだめだと思ったら…楽にさせてあげなさい」
母様は女神様のように慈悲深い声で俺たちに告げる。
神秘的な母様の赤い瞳が燃え上がった気がした。
「なんのこと?」
「楽に?」
楽にさせる。不吉でありながら、それは何かを救うかのような慈悲の言葉に俺は感じた。
俺の中の何かがきゅっと締め付けられる感覚もする。
「ただの予感…ね」
母様の言葉でその場にいた俺たちをのぞく全員が神妙な顔になった。
俺たちは訳もわからず、サイジャルに戻るのをやめようといいだす父様を母様と説得してサイジャルに戻った。
実は俺も母様がいう前から、なんとなく予感めいたものがあった。
このまま屋敷に留まっていた方がいいんじゃないかと。サイジャルにまだ戻りたくないというケルンと俺の気持ちがそう錯覚させたの、かと思った。
でも俺たちは自分たちの意思でサイジャルに戻った。父様を説得してまで戻らないといけないと思ったのだ。
例えそれが誰かを切り捨てる…取捨選択の始まりと知っていたとしても、俺たちはあの場に戻っただろう。
切り捨てさせないために、俺たちはいるんだから。
この三日間は完全に休みだからと利用させてもらったが、もう一樹月半もすれば長期の休みがとれるんだ。
基本的にのんびりとさせてもらった。
ピクニックに行ったり、画材屋に行ったりもした。店主のザックおじさんと挨拶をしたんだが、父様がいいっといったからしたが、よかったのか?俺は姿を隠してないといけないと思っていたんだが…ザックおじさんはあいかわらず顔がいかつかったが、変な目で俺をみなかった。
代わりに酒場付近は来ないでくれといわれた。行く予定はなかったから了承したが、荒くれ者がいそうだし、ケルンは子供だから行くわけがないんだが。
父様も頷いてたし、間違いはないな。
絵や彫刻を作成したり…あんまりサイジャルと変わらないことをしてたんだが、こっちの方が気が楽だったな。
勉強も少しした。少しってか、知らなくていいと内緒にされていたことを教えてもらったぐらいか。
貴族の格付けとかな…建国貴族がまさか王族とそこまで差がないとは思ってもみなかった。
それからフートを夜に呼び出して話をしたんだったな。
ケルンが契約した精霊様の名前を聞こうとしたんだ。
「申し訳ござりませぬ。某の口からは…許可されておりませぬ」
という。さすがに俺たちも変だと思った。なにせ、わざと伏せているとしか思えないからだ。
「何で隠すんだ?」
「…教えたくないの?」
ほら、みろ。ケルンがしょんぼりしているぞ。それをみたフートが慌てて膝をついて頭をたれる。
「主殿!何とぞそのようなお顔をなされないでくだされ!…あの方の名は契約者に捧げられておるのです」
「契約者に捧げる?何をだ?」
聞いたこともない話をフートがするので、思わず俺が口にする。フートは渋々といった様子だったが、説明してくれた。
「我ら意志ある精霊は初めて契約をする者に名を捧げまする。名を捧げ、我らは契約者と縁を繋げ契約者は魔力を精霊に渡し、世界に干渉するのでござります」
「初めて契約をするときだけ?僕はどうなの?」
「そうでござります。某の場合はお屋形様に捧げました。主殿は二人目でございますな」
初めてってそういう意味だったのか?…いや、含みがあるいい方だったし…触れないでおこう。
それよりも、名を捧げることと、名前を教えないことがどうして繋がるのかいまいちわからない。
「なぁ、名を捧げたらどうして、名前を教えてくれないことに繋がるんだ?別に俺たちが知ったらいけないとかじゃないだろ?」
少なくともフートは前のお屋形様って人に名前を捧げても俺たちに教えているし…それこそ、契約者ではない俺にも教えたぐらいだからな。
「教えたくても教えれないのです…あの方の契約者はかなり力の強い方で、その上、契約をされたまま姿を消されたのです」
「消えた?」
「どこかに行っちゃったの?」
契約をしたまま消えた…っていっても消えたから教えれないじゃ話が通じな…捧げる…何となく浮かんだことを口に出す。
「捧げる…ってのは、その消えた契約者ってのが精霊様の名前を握ってるってことか?」
教えたくても教えれないってことは、名前を誰かが握っているということなのかと思ったのだ。知識として確かに名前で縛るということができると俺は知っている。
確か、スキルとか魔術でもあったはずだ。
「兄御殿がおっしゃるとおりで。故にあの方々はこちらに出ることもなく、このごろは力を行使することもできず、某のようなものを斡旋しておられるのです」
「方々ね…」
複数系…あの運動部系の水の精霊様もだろうか。契約者に名前を握られているから、斡旋業をしてるっての大変な話だ。
確かに忙しいってなるわな…だから別な精霊様を紹介できたってとこか。
でも、契約者はどこに行ったんだろうな。
「その契約者って何者なんだ?有名な魔法使い?」
「ゆーめいじん?」
現役の冒険者とか?はたまた魔法使いとか?誰にしろ、迷惑なやつだ。
「それが…わからぬのです」
「わからない?」
「なんでー?」
契約者が誰かわからないとかあるのか?
フートは苦笑しながら理由を語った。
「あの方々は確かに契約をされたそうなのですが、かなり古く…それ故に誰が契約をしたのかはわからず…」
かなり古い…精霊様のかなり古いって…どんだけ昔だよ。
「…生きてんのか?契約者って」
普通に考えたら死んでるだろ。死んでても契約が続くとは思えないんだけどな…死んでも続く契約って呪いとかしいえないんだけど。
「生きておられると思いますぞ。以前は他の契約者にお力を貸されておりましたから」
「生きてるのかよ」
何歳だよそいつ。ケルンも俺もびっくりだよ。
「今も魂は感じるそうですが…某が話せるのはここまででございます」
フートが語ったことは大きな宿題になりそうだ。
そう感じたが早々に還ってもらった。教育に悪いことをケルンに教えようとするからだ。
痔に効く軟膏の作り方とか覚えたくなかったわ!…いや、うちのクランに痔主がいたから、有益な話だったかもしれない…座り作業が多いとどうしてもなるそうだ。
ケルンは身長があれだから立っての作業が多いし、身長が大きく伸びても立ってさせよう。聞いてて大変そうだったからな。
教育に悪いで思い出した。
ケルンが寝てからこっそり、痴杖にも精霊様の話をしてみようと思ったんだが、やっぱりあいつはだめだ。
『も、もうちょっと待ってくれっす…ふ、複雑で…ま、満月までに整理しとくっす!』
「そうか。早くしてくれよ」
あえて記憶から消しているが、言葉の合間に喘ぎ声と「らめぇぇ!いっぱいになるぅ!」とかお前の容量のことは聞きたくないってか、容量とかあんの?杖なのに?
余分な下ネタとか削れたらいいなぁと思う。むしろゴミ箱にぽいだ。
上級になると時間がかかるものなんだろうな。あれから静かでとてもいい。ケルンのポケットからはみだしもしないしな。
あっという間にサイジャルに戻るときがき来た。ずるずる時間をのばして、三日目の夕方に屋敷から出るまで過ごした。
もっと早く戻るつもりではあったが、つい、森の動物たちとの触れ合いとか…母様が嬉しそうにしてるから、戻りにくかったのだ。
「ちゃんとお勉強をするのよ?エフデ」
「いや、なんで俺なんですか。そこはケルンでしょ!」
父様が爆笑している。いや、だって俺は臨時職員だし!ケルンは学生だから学ぶのは当然だが、俺は関係ないじゃんか!
「ケルンはしっかりお勉強をするもの。貴方は礼儀作法のお勉強をケルンと受けてきなさい。わかったわね?」
「えー!僕も?」
「夜会用のはまだでしょ?ほら、二人とも嫌そうにしないの!」
おー、ケルンからも伝わってくるわ。
『礼儀作法のお勉強は嫌!』
『わかる。肩がこる…俺には肩がないけど』
二人で内緒話をしていると、母様は気付いているのか「もう…」と何かをいいかけて急に止まる。
どうしたのだろうかと母様を見れば、目を見開いて遠くを見ている。
「本当に心配だわ…」
「母様?」
「どうしたの?母様?」
また体調が悪くなったのかとケルンが母様に心配そうに抱きつくので、俺も母様の顔をまじまじと見る。
顔色は悪くなってない。超絶美人だ。本当に人なのかな?
母様は少し悲しそうに俺たちを見つめる。
「…もし、どうしてもだめだと思ったら…楽にさせてあげなさい」
母様は女神様のように慈悲深い声で俺たちに告げる。
神秘的な母様の赤い瞳が燃え上がった気がした。
「なんのこと?」
「楽に?」
楽にさせる。不吉でありながら、それは何かを救うかのような慈悲の言葉に俺は感じた。
俺の中の何かがきゅっと締め付けられる感覚もする。
「ただの予感…ね」
母様の言葉でその場にいた俺たちをのぞく全員が神妙な顔になった。
俺たちは訳もわからず、サイジャルに戻るのをやめようといいだす父様を母様と説得してサイジャルに戻った。
実は俺も母様がいう前から、なんとなく予感めいたものがあった。
このまま屋敷に留まっていた方がいいんじゃないかと。サイジャルにまだ戻りたくないというケルンと俺の気持ちがそう錯覚させたの、かと思った。
でも俺たちは自分たちの意思でサイジャルに戻った。父様を説得してまで戻らないといけないと思ったのだ。
例えそれが誰かを切り捨てる…取捨選択の始まりと知っていたとしても、俺たちはあの場に戻っただろう。
切り捨てさせないために、俺たちはいるんだから。
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