選ばれたのはケモナーでした

竹端景

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第七章 ケモナーと精霊の血脈

出された課題

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 サイジャルでの学園生活は普通の学校とはかなり異なる。一般教養といったものは学園に入る前にだいたいの生徒が家庭学習で修了を終えている。

 もちろん全員ではないし、将来、教師を目指す者のために生徒が一般教養を教える授業なんてものもある。
 様々な分野のスペシャリストたちが各々好き勝手に教えているからこそ、学園都市は発展しているといっても過言ではないだろう。

 ある程度学習をした者にとって、ここは暇なのだ。
 まるで就活しかない大学生の如く。

「だいがくせー?」
「大楽聖って称号とかありそうだな。音楽関係…バルテン先生とか持ってそう」
「持ってるのかな?」
「たぶんなー」

 わしゃわしゃ。

 暇ではあるがここでしか学べないこともあるし、繋りなんかもできるから、そういったことに重きを置いてもいい。

 そのためにクラス分けをしてクラスメートと交流する機会なんてものもあるようなんだが、これが上手く機能していない。
 それともケルンのクラスだけの話なんだろうか?

 ケルンにたくさん友達を作ってほしいところなんだが、今のところ歳上と他国の子たちばかりだ。もちろん、ミケ君たちも友達なんだが、自国の同じ年頃の子はあんまりって感じだ。

「これから班編成をしてもらいます。班には課題を出しますので必ず全員で取り組んでください」

 出張しているナザドの代わりにサーシャル先生が説明をしてくれる。帰ってくるまでの代理らしいが、サーシャル先生は杖の研究を専門としているから手が空いていたかららしい。

 一応、他の職員というか副担当もいるんだが安心して任せれるかというとそうではないから、サーシャル先生が来てくれてよかった。知らない人だといちいち説明をしないといけないからな。

「みんなをこうしてみるの久しぶりだね」
「ケルンと選択している授業とかほとんど被ってないもんな」

 同じ0クラスの子たちが一緒に集まるなんて必修程度だ。だけど、他のクラスの子たちもいるため、全員の顔を見ることはない。

 というか、ぶっちゃけ避けられている。
 どんな子もケルンが声をかけても会釈で終わる。
 魔法の威力をみたからか?…それなら仕方ないんだが、ケルンもしょんぼりしていてかわいそうだから、仲良くしてくれたらいいんだがな。

 たまに集まったかと思えば、今日は班編成を発表されて、班ごとの課題を配れば解散となるそうだ。
 交流を深める気はないのか、もう少し打ち解けたらいいんだがな。

「エフデ先生。何かみなさんに話すことはありますか?」
「いえ。自分からは何も」

 あとは生徒の自主性に任せるといった感じだ。各自で勝手にやれ。ともとれる。
 そんな中で俺が何か話す?いやいや。罰ゲームみたいで何か嫌だ。

 臨時職員の俺がケルンの机に腰かけて話を聞いていても怒られない理由は、俺が副担当に任命されたからだ。
 我ながら頼りにならない副担当に俺はなっていることだろう。
 サイジャル側の意向ではなく、副担当にしてもらえるように俺から頼み込んだ。

 他の授業はいいんだけど、ナザド一人に任せておけないからだ。平気で贔屓をしやがるから、俺が注意している。改善はまったくない。

 なんて考えていたらみんな次の授業に行くのかさっと退席する。十分もいなかったんだが…ケルンもあれー?って首をかしげている。

「ケルン。何をしているんだ?早く行くぞ」
「次の授業がありますから急ぎましょう」

 ミケ君たちがそう声をかけてくれる。アシュ君やマティ君は足早に出ていく他の子たちと二、三話しているみたいだが…いいなぁ。ケルンも混ぜてくんねぇかな?

「ケルン。忘れ物はないな?」
「ないよー。全部しまったー」

 忘れ物がないならよしだ。まぁ、出された課題を受けとるだけだったから机には何も出していいないけど。
 さて行くかとケルンの肩に乗っかったらサーシャル先生が声をかけてきた。

「エフデ先生。よければ今後の授業について話し合いませんか?」

 ケルンに教室の出入り口で待つようにいうと少し駄々をこねたが、職員の話だからと納得させる。
 じっとこっちを、見てるけど。

 サーシャル先生はまるでもう一人の副担当になったみたいで、心強いんだが、その提案は受け入れられないんだよな。

「そうですね。ただ、ナザドが帰ってからにしませんか?勝手に決めたら、へそを曲げますので…ケルンが絡んでなければ勝手に決めてもいいんですけどね」

 あいつのことだから、勝手に決めたと文句をいいまくってくる。確実に疲れる。
 あと、ケルンが待ってられない。今もまだかな?まだかな?って落ち着きなくしてるから。

「確かに、ナザド君ならへそを曲げますね…彼、そういうとこめんどくさいんですよね」
「そうなんですよ。しかも根に持つんで」

 めんどくさいっていわれてるぞ。その通りだけどな。
 まぁ、ナザドとサーシャル先生は犬猿の仲みたいだからどのみち普通の話し合いで終わるわけがないだろう。

「ちゃんとした話し合いになればいいんですが」

 それは難しいだろうな。
 話し合いをしたいというサーシャル先生も隠すことなく今もトゲがあるいい方をしているんだ。
 どうあがいても喧嘩になる。

「よくいっておきますよ」
「頼みますね。では私は次の授業に行きますので。あ、そうでした。課題の手伝いはしてはいけませんよ?」
「もちろん。いくらケルン相手でも俺は教えませよ」

 ちらっと課題を見せてもらったから断言するが、俺にはちんぷんかんぷんな課題だった。
 だから手伝うもなにもできるはずがない。

「では、提出日に」
「はい。それでは」

 サーシャル先生が出ていくのを見送ると、即座にケルンに『トライアレイ』で呼び寄せられた。この魔法、ケルンが覚えたらダメなやつだったわ。
 移動が楽チンだからいいっちゃいいんだけど。ケルンがものぐさになりそう。

「なんか距離を感じるよなー他の子たちと」

 わしゃわしゃ。

「きょり?そうかなぁ?まだおしゃべりしてないからじゃない?」

 わしゃわしゃわしゃ。がっ!わしゃわしゃ。

「かもしれねぇー…でも、何でなんだろうなー…保護者同伴だからとか?」

 わしゃわしゃ。びくっ!わしゃわしゃ。わしゃわしゃ。

「ほごしゃ?って何?」
「俺とか父様たちのこと」

 わしゃわしゃ。わしゃわしゃ。びくっ!びくっ!わしゃわしゃ。わしゃわしゃ。わしゃわしゃ。

「もうやめたって!ヴォルノはんの顔が!あかんって!」

 授業も終わっていつものようにヴォルノ君の練習を見学させてもらいに来ていた。
 この場にいるのは、俺とケルン。お茶の用意をしてくれているミルディ。今日はひまだからとついてきたマティ君とお菓子目当てにチールーちゃんがいる。

 ミケ君とアシュ君は授業を多くとっているからまだ勉強中だ。メリアちゃんは班の子と仲良くなるため寮で話している。

 いつもの挨拶の延長線のつもりで、ついでに気になっていることをケルンと話し込んでいたらマティ君が止めにはいる。

 手持無沙汰だから、ヴォルノ君を軽くもふっていただけなんだけど、どうしてそんなに慌ててるんだ?

「ヴォルノはん、同級生やいうても俺らより歳上なのに容赦ないな…」
「ケルンのお兄さんも手の動きが見えなくなってた…ヴォルノ、生きてる?」

 チールーちゃんまでひどいな。
 ヴォルノ君は優しい子だからよろこ…泣いてね?

「ごめんね、ヴォルノ君!ついやっちゃった」
「あー…ごめんな?大丈夫かな?」

 うるうるとしてるから、もう一回わしゃわしゃしたいとこなんだけど、ダメかな?
 というか、うるうるとしてて、股を押さえて…これは…もしかしなくても…やばい。

「トイレ行く前…だったから…おいら…また…ちびっちゃった…ぐすっ」
「あっ…」

 やっぱり!嬉ションさせちまった!
 おろおろと泣いているヴォルノ君を俺とケルンで慰めていたら、真後ろから鬼が来た。

「坊ちゃま。エフデ様。反省してください」

 鬼じゃなくて蛇がいた。
 本当に怒り方がエセニアにそっくりだった。
 チクるなよ?

「お婿に行けない体にされちゃうとこだった…」
「ヴォルノ君はかっこいいから、お婿に行くんじゃじゃなくて、お嫁さんをもらえるよ!」

 着替えてきたヴォルノ君に再び謝ると気にしないでといって、目線をそらしてそんなことをいう。
 面白い冗談をいうよ。ヴォルノ君はやはりいい子だ。

 爆笑しながら先に一人でクッキーを頬張っているチールーちゃんをみても、じろっとにらむまでに押さえてるんだから。
 チールーちゃんが鬼だったかもな。

 それにしても…はて?ケルンってば、ヴォルノ君はお嫁にするっていわないんだな。ミケ君と同じ男の子で獣人なのに。男の子でも関係ないと思ってたんだが、そうじゃないのか?猫派とか?

「それでおいらに何のようだったの?」

 うっかり挨拶で用件を忘れてしまっていたので、ケルンが代表して用件を伝える。

「ヴォルノ君にね、これを教えてもらおうと思って」

 そういって渡したのは記号としか思えないほど複雑に書き込まれた楽譜だった。
 みっちり書き込まれた楽譜というわけではなく、模様のようになっていて、刺繍でもしてこいといわれるのかと思ったのだ。

「これは楽譜…だけどこれじゃ、曲にならないね。もしかして、課題?」
「そうなんだー。班の課題でね、いくつかの曲が混じっているからそれらを抜き出してきなさいって」

 留学生なだけあって、ヴォルノ君は賢い。詳しく話さなくても察してくれる。
 今回、班の課題として出されたのが楽譜の解読だ。
 音楽の得意なヴォルノ君を真っ先に頼ったのはケルンの知り合いで音楽といえばヴォルノ君だと浮かんだからだ。

「ちょっと待ってね…これと…ここと、ここで…そうだね。おいらが見てわかるのは三つかな?たぶん、合ってると思う。演奏をするの?」
「うん。何かねー貴族のたしなみ?っていってた。班で取り組んでねって」

 ある程度の年齢の貴族の子弟が集まってそういった遊びをするらしい。サロンみたいなもんかな?曲を混ぜた楽譜を持ち寄って、使用された曲を演奏して正否判定をする。教養がないとできない遊びだ。

 課題じゃなかったら絶対にやらないし、やらせないものだった。

 ケルンの演奏の腕前?屋敷の全員が全力でやめさせる程度だ。備品が破壊されるなんて当たり前な腕前だからな。演奏をしなきゃならないってなっても…カスタネットとかで代用させるかな。それでもテンポがとれないかもしれない。

 歌ならまだいけそうなんだ。
 映画の主題歌『飛ぶよペギン君』はケルンが歌ったおかげかサイジャルで人気だ。

 王都でも映画を上映しているが、そっちで人気にでもなったら演奏会で歌ってほしいってバルテン先生にいわれた。
 まぁ、そんなことは起きるはずないからケルンが「いいよー」なんて了承していたけど。

「班編成か。誰と組むの?」
「んっとね、僕でしょ、ミケ君、メリアちゃん、アシュ君、マティ君それと、クラリスちゃん」

 水のクラン戦でヴォルノ君たちの『楽団』の演奏で歌っていた子だ。
 今はメリアちゃんと話をしているだろう。

「クラリス?『歌姫クラリス』?」
「歌姫?」
「それで合ってるで」

 ケルンが聞くとマティ君が肯定した。つまらなそうにいっているが、もしかして面識があるのか?…建国貴族の子供同士ならあるのが、当たり前か。

「なるほどね。おいらはあんまり知らないけど、ケルンたちは偉い貴族なんでしょ?マティのところはおいらの国でも店があるから知ってたけど、こういうのって得意なんじゃないの?」

 そういってマティ君に話を振るが、マティ君は首を振って答える。

「ヴォルノはん。残念やけど、俺はそういうのは苦手やわ。わけわからん。帳簿やったらすぐに、わかるのに」
「そう?でも、演奏会とかよく行ってるでしょ?」
「まぁ、行ってるわな。呼ばれるし」

 すごいな…ケルンなんて演奏会に行ったことないぞ。初めての演奏会が『楽団』の演奏だったぐらいだ。
 だからあんまり曲を知らない。

「ねーねー、それで、何の曲だったの?」
「三つとも歌だね…答えはいわないよ?課題にならないからね」

 そりゃそうだよな。ヒントをもらえただけでも助かる。あくまで班の課題だし…俺はわかっても見守ることにしよう。

「歌?僕やるー!」
「ケルンはそこだろうな…というか、そこにしてくれ」

 みんなの耳と心と窓ガラスのためにもだ。

「んー…これぐらいならいいか。どれも合唱だよ?誰と歌うの?エフデ先生はだめでしょ?」
「俺は無理。やれてもやらない。絶対にな!で、合唱か。だったら、あの子と歌うのか?」

 引き立て役にケルンはなってしまうが、クラリスちゃんに是非にでも歌ってもらおう。実力はわかっているから、安心だ。

「あー…いや、それは難しいんとちゃいます?」
「どうしてだ?」
「昔から知ってるんやけど…人見知りが激しい子なんよ」

 昔から知ってる…産まれてまだ七年ぐらいのマティ君がいう昔って何年ぐらい前からなんだろうかね?
 子供特有の大人っぽいいい方に憧れでもあるのかな?だったらマティ君もまだまだ子供だな。
 なんて、内心で思っていた。

「まぁ、アシュがおるからなんとか話せるんちゃうかな?俺よりも顔は合わせてるからな」
「それはまたどうして?」
「お互いの家の事情でな」

 にやにや笑うマティ君は悪い顔をしていた。
 君は本当にケルンと同じ歳なのかな?実はもっと、上じゃないか?
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