僕と彼の話

竹端景

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よっぱらい

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「ただ…あれ?」

 仕事で遅れて帰ってきたら、玄関に靴がちらばっている。僕と違って彼は靴をきちんと置く人だ。
 どんなに慌ててもここまでバラバラにしない。
 だとすると答えは一つだ。

 リビングに向かえば、普段は見せないような満面の笑顔と、何故か上半身裸でエプロンをつけて出迎えてくれた。

「おかえりなさいーん。ちゅー」
「くっさ。酔いすぎ」

 無精髭な痛くないのだろうか?そんなことをお構いなくって感じでほほをする。彼の髭があたっめ、僕の方が痛がるとは。
 あと、すごく酒の匂いがする。

「さびしかったんだよーん。だーりんをまってたんだぞぉ?新妻はぁ!ご飯…は食べてきたんだっけ?お風呂にする?それとも…ほら、俺を召し上がれよ!」
「はいはい。お酒を飲んだときはお腹を壊すからしない約束でしょ?それでマイハニーはどれだけ飲んだのかな?」
「ジントニックとースクリュードライバーと、テキラー!ショットで五発!」
「そりゃ酔うよね」

 新妻というほど新しくもないんだけどね、同居して長いし。明日は休みだし、誘いにのってもよかったけど、お酒を飲んでるなら今日はなしだ。
 僕よりもお酒がだいぶ強い彼が度数の低いお酒をカウントしないのを知っているから、たぶん、ビールとかを飲んではしご酒になったんだろうね。

「誰と行ったの?先輩?」
「こーはい!おごらせちゃったぁん」
「おごらせたの?珍しい」

 彼が後輩に財布を開かせるなんて珍しい話もあるものだ。ほとんど自分で支払いをする人なんだけど、どの後輩だろ?

「だってぇー、俺のお尻触ってくるからぁ…だーりんってばむかついちゃった?」
「ちょっとね」

 彼に気があると思われる後輩か。だったら破産するだけ飲んでもいいや。

「俺はお前のなのにな」
「死ぬまでお世話するよ、マイハニー」
「…んじゃ、お世話して…トイレまで…吐きそう」

 そりゃぁ、上半身裸でエプロンをつけて待ってたら吐きたくもなるよね。

 そ口を押さえた彼を慌ててトイレに連れていくと、吐いてすっきりしたようだ。うがいをしたあと、彼はお腹をさする。

「できちゃった」
「それじゃ、早く寝ようか、ママ」
「…ごめん、真顔でいわないでくれ。はずか死ぬ」

 酔っ払った彼は面白いけど、朝になったら思い出して身もだえるんだろうな。
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