勇者と朝チュンしたので逃げます

竹端景

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旅の終わり近くでの逃亡

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 もうすぐ長い戦いも終わるからと大酒を飲みまくったのは覚えている。
 勇者や戦士、魔法使いに僧侶。あたしらは役職しか知らない関係だった。

 敵に名前を知られたら家族を探して人質に取られるかもしれない。旅の途中で死んでしまうかもしれないし、宛がわれた人員が変わるかもしれない。
 だからお互い深く知ろうともせず、ただ旅をしていた。
 お互いのことを…少なくてもあたしは知らない。

 幸いなことに、命の危険はたくさんあったが誰も欠けたりせず、あたしら四人で魔王を倒せそうなところにまで来ていた。

 勇者だけが男で他は全員女だ。
 あたしが飛び抜けて歳上で、十歳も離れた他のやつらは…弟や妹だと勝手に思っていた。
 まだまだどこか抜けていて、正義感だけはやたらと強い勇者。魔法に自信はあるけれど、落ち込みやすくて、すぐに泣き出す魔法使い。優しいけれど、一番しっかりしていて、歳上のあたしですら叱りつけるような僧侶。

 一番歳下なのが勇者、その次が二つ上の魔法使いと僧侶。あたしだけがもう引退近い戦士だ。

 最初はあたしが全員を引っ張っていた。あたしが選ばれたのも指導員としてだ。仕事とはいえ冒険者としても、実力でもこの子たちよりもあたしが上だ。だから守らなきゃと思っていた。
 でも一年もすればあたしの知識をみんなが吸収して、あたしよりも剣が上手くなった勇者と攻撃力の高い魔法使い、手当て程度だった回復力が半死でも治せるようになった僧侶とどんどんあたしの居場所はなくなっちまった。
 唯一、飯だけは得意だったから変更をされなかったが、あたしは戦士だ。戦ってこそのあたしだ。魔物が出ても、勇者があたしの獲物を横取りばかりしてくるようになってからは、そのこともとことん自信はなくなっちまった。

 男としての自信がついたんだと思う。
 十代の勇者が魔法使いや僧侶と夜な夜な何かしらしているのは知っていた。若いんだし、旅をしているんだから、男女関係になっていても不思議ではない。
 冒険者じゃ娼館を利用するか、お互い割りきっての関係だってたくさんある。命のやりとりをしているんだ。不思議じゃない。勇者は娼館を利用しているところをみたことがないが、割りきっての関係か色恋なのか…あたしにはわからないけどね。
 毎回三人でとなると、魔法使いや僧侶も納得しているのだろう。仲がいいからね。三人で仲良くした晩の次の日は必ず休みで何故か勇者とあたしを二人でいさそうとするのは、理解できないけれど。

 そろそろ、そういった話をしてくれてもいいだろうに、あたしはのけ者さ。仕事仲間として面倒をきちんとみているが、この子たちからすれば口も悪くて乱暴で…早くおさらばしてやりたいと思っているんだろうさ。

「んっ…戦士さん…」

 だというのになんだい。
 なんで、あたしは勇者と裸で寝ているんだ。ここはあたしの部屋だよ。
 一応確認はしてみたが、シーツは濡れていない。腹や顔や口も違和感はない。掃除したとは思えないがおそらくやってない。
 勇者のは朝だから元気そうだが…若いね。ただ、少し離れさせもらうよ。くっつけようとするんじゃないよ。まったく。

 ベッドに腰かけて考えよう。
 あたしは寝るときに全裸で寝るのは安全なとこだけだ。普段は鎧を着込むから町中の宿屋で、魔法使いと僧侶が結界を張っていて、安心しているからこそあたしは全裸で寝ている。だからそれは変ではない。
 鎧は蒸れるし、締め付けるし、とにかく寝るときぐらいはゆっくりしたいのさ。

 勇者は知らん。あたしの前だと緊張しているか、ぼうっとしていているかのどちらかで、寝るときや下の話はしていない。
 のけ者になっているとあたしが強く思うのはここさ。
 少しでも仲良くしとこうかと、何気なく勇者をほめたり下の話でもしようかとすれば、勇者は挙動不審になる。
 魔法使いも僧侶も何故だかわからないが、勇者がおろおろしていても助けようとせず、しきりに勇者に口パクで何かをいっている。離れろとかいってるんだろうが、あたしの顔をちろちろとうかがっている勇者には伝わらないから、あたしが離れなきゃならない。

 そのあと勇者に魔法使いと僧侶がかけよって怒鳴っているのを聞くと、あたしでも寂しく感じちまうんだけどね。あたしは何もしていあにっていうのに…見た目が悪いからかね。

 冒険者をしていれば仲良くするには下の話をしていればいいんだが…初対面の頃があまりにも純朴で子供だったからね…今ではハーレムなんてやっているけれど、初めて会ったときは14歳だったこいつももうすぐ17歳だ。
 まだ二十代の前半だったあたしも後半になっていた。この冒険を最後に貯めた金で商売とか、冒険者向けの居酒屋とか、はたまた指導員でもなろうかと思ってたんだけどね…気を抜いちまったか。
 あたしが男寂しさに連れ込んじまったんだろう。かわいそうなことをしちまった。やってないってことは、できなかったんだろうね…怖くて変なトラウマがなきゃいいけど…まぁ…元気そうだし、二人に恨まれることはないはずさ。あたしとはやれないってことだろうし。

 寝言であたしの名前をいっているのも、怖くてだろうね。
 本当にこの子は悪くない。ただ寝ていただけさ。でも、現場をみれば勇者のことだ。いくらやってなくて、ただ裸で寝ていたとはいえ、無駄に責任感が強いこいつなら、あのハーレムにあたしをいれようとするだろう。旅でも思ったがこいつはなかなか義理堅い男だからね。

 女の戦いは面倒だ。男を分け合うと決めているならまだいい。あたしのような年増が参加してみろ。大事な戦いに支障が出るだろう。
 あたしも妹みたいにかわいがってるあの子らに恨まれたくはないから…仕方ないか。

「…逃げよう」

 勇者の頭をなでてやって頑張るんだよと声をかけて急いで服を着こんで…世話になったと書き置きと、あたしが推薦する戦士を書いておこう。あたしの後輩であたしを「師匠」と慕うあの子なら安心だ。今じゃ剣聖を名乗っているあの子の方が…勇者たちにふさわいしからね。

 財布も確認して…一応あたしの取り分らしいけど…何もしていないあたしが、パーティで得た金なんだから返すべきかもしれないが…路銀は必要なんでちょっと貸しておくれね。あとでギルドづてに返すよ。窓からあたしは飛び出した。
 一人でやってきたんだ。また一人に戻るだけさ。
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