勇者と朝チュンしたので逃げます

竹端景

文字の大きさ
2 / 6

恋する勇者君

しおりを挟む
 世界は神様が決めたことでまわっている。人が自由にできるのは、気持ちだけだ。
 少なくても僕のこの気持ちは誰かに決められたものじゃない。

 勇者は代々王族の者が勤めている。表向きは村人や孤児としているが実際は王族だ。
 神様が選ぶ血筋というのがあってそのことを知っているのは極一部だ。いってしまえば、血筋の者であれば身代わりも許されている。役職者とはそんなものだ。

 表だって王族が勇者だといえない理由がある。
 例え勇者でも死ぬときは死ぬからだ。みんなの希望が呆気なく死ねばそれだけで王族の権威は下がる。

 魔王は自然災害だ。魔物が知性を持って徒党を組んでしまえば勝てない。神様が決めた役割を全うすれば勝てるとみんな信じてきた。
 僕は血の繋がりがあっても心のない王族や、顔も知らない人のために強くなったんじゃない。
 全ては彼女のためだ。彼女のために僕たちは…僕は戦ってきた。

 王族でも身分の低い側室の王子はいないものとされる。母からも旅に出る前から、僕はすでに死んだものとされていた。男だから役に立たないといわれたぐらいだ。
 だからこそ魔王の討伐に選ばれた。死んだって構わない存在が僕だ。

 神様が選んでなくてもきっと僕が代わりに出されていた。
 名前を名乗るのを禁じて、旅の間は役職でのやり取りをするのはそのためだ。勇者が魔王を倒せばいい。僕じゃなくても次の勇者が倒せばいいだけだ。

 初めてその人に会ったのは神殿の一室だった。
 鍛えぬかれた体に、無駄のない動き。貴族子女みたいに無駄にこびたり、きつい匂いもなく、優しく頬笑む姿に僕は一目で恋に落ちた。

 魔法使いさんや僧侶さんも彼女の優しさにすぐ好きになっていた。僕よりも彼女のことが好きになった自信があるというが、僕の彼女へよ愛は負けるつもりはない。

「ほら、泣くんじゃないよ。汚れたら洗えばいいのさ」

 初めて魔物が襲ってきたとき、返り血で血だらけになって泣いてしまう僕らに彼女は傷だらけになっても優しくしてくれた。

「洗濯も料理もできない…なるほどね…あたしが教えていってあげるよ」

 役割分担を交代しようと彼女にいわれるままにできることをいえば、彼女は考え込んで、料理をしてくれた。
 今まで食べてきた中で一番美味しいのは彼女の手料理だ。あんなに優しい味を僕は知らない。ずっと彼女には料理を作ってほしいと願ってしまうほどだ。

 身の上話は禁じられていたけれど、勇者が王族から選ばれたこと、賢者の孫や聖者の娘が選ばれたことは知っていた。
 戦士だけは軍からではなく、民間のギルドから選ばれたのだが、神様はわかっていらっしゃる。
 僕らは彼女がいなければ旅なんてできなかった。

 箱入りでなにもできない。戦い方は知っていても生活力は僕らにはなかったのだ。
 とはいえ、さすがに好きな人に下着を洗われるのは恥ずかしく…理由も理由で、男の生理現象とはえ…あんな素敵な女性に触らせるのはだめだと失敗しながらも洗濯だけは必死で覚えた。
 でも彼女は気にしていなかったのだ。

「若いんだから仕方ないよ…処理できるように一人になれるようにしてあげようか?」

 なんていうもんだから、彼女の前だとどんどん恥ずかしく…夢で彼女と…なんて思い出したら、まともに話せなくなっていく。
 魔法使いさんや僧侶さんに相談をしだして、ちょっとでも親密になれたと思う。失敗して二人に怒られもしたけれど、上手くいっていた。

 お酒の力を使って告白もした。

「あたしも好きだよ?」

 一世一代の告白が大成功したと思ったら彼女がいった。

「…眠いから…一緒に寝るかい?」
「い、いいんですか?」
「仲良くするには一緒に寝るのが一番さね」

 という彼女に従って彼女の部屋に入った。
 初めてのキスをほほにされて舞い上がっていると、彼女は服を脱いでいく。

 王族は結婚式で初めて本当のキスをして、それまではほほにキスをする決まりがある。ひょっとしたら、彼女は僕が王族だと知っていたんだろう。
 むろん、キスはただの親愛の意味ではない。

 もしかしてと思っていると、早く脱げといわれて僕も脱いでいく。
 脱ぎながらも心臓は爆発しそうなほど高鳴っていた。とうとう…僕は彼女に…僕を捧げれて男になるときがきたんだ。

 守ってもらっていた。そんな彼女を守れるようになって、僕はやっと男として見られるようになった。

「男になったんだな…いつのまになったんだい?」

 と彼女がいってくれたときも、慢心せず頑張ってきた。それがついに報われたんだ。

 ベッドに横になる彼女と結ばれる喜びの中で…僕は失敗した。お酒と初めての緊張で…まったく反応しない。男女の営みを知らない僕は、王族の性教育で聞いていた初めては不能になりやすいという言葉を実感した。
 彼女に謝った。これでは彼女に恥をかかせてしまう。

「ご、ごめんなさい…緊張で…こんなの…初めてで…わからなくて…あの」
「なにがだい?…ああ…いいんだよ…ほら寝な…」

 お酒を飲みすぎてたから、眠くなったのだろう。
 そういってあの胸を枕に寝かしつけられてしまった。母性が強い彼女と裸で触れているだけで僕は安心と満足感でいっぱいになった。

 心は結ばれたんだ。次こそ僕を彼女に捧げる! 

 夢の中に落ちながら決意した。
 目が覚めたら少し肌寒かった。愛しい彼女を抱き締めようと目を開ければ誰もいなかった。
 もう用意したのかな?と脱いでいた服を着込みながらふと机の上の書き置きを見つけた。

 読み終えてすぐに、今までの冒険でも出したことのない悲鳴をあげてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...