勇者と朝チュンしたので逃げます

竹端景

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 ギルドに行って受け付けに頼んで手紙を渡して後輩にあたしの代わりをするように頼んだ。後輩なら次元を切り裂いてでもすぐに来てくれるだろう。

 用件を済ませて足早にギルドから出る。話しかけられたが、急いでいると断った。さっさと町を出たいんだ。構わないでおくれ。
 魔法速達でだいぶ路銀がなくなっちまったが、どこかに…あった。キャラバンの集会所だ。

 こういうキャラバンの集会所なら、ギルドを通さなくても護衛をいつも募集しているはずだ。幸いなことに、あたしらは来たばかりだ。キャラバンの集会所に集まっている商人たちは、あたしが勇者のとこにいた元戦士だとは気づかれない。

 しかもあたしにしては、運が良く女だらけの商隊に護衛の一人として雇ってもらえた。
 これが男ばかりだと、魔物だけに気を配るだけじゃないからね。護衛の男にも襲われかねないし、人をよく選ばないといけない。
 ギルドに行って仕事を貰えばお互いの身元保証はできるんだが、もしも…考えたくないが、あの子らが勇者の裸をみたっていうだけどあたしを殺す…その可能性が少しでもあるなら、あたしは逃げる。そうやってあたしは生き残ってこられたんだ。
 あたしはこういう勘は外さない。

「リュゼさんって貴族だったんですか?それとも貴族の恋人がいるんですか?」
「こら!…すいません。この子は新人で…あんた用心棒の人に喧嘩なんざ売るんじゃないよ!切り捨てられても文句はいえないんだからね?」

 あたしはそこまで乱暴者じゃないんだけど。
 人と獣人が混ざった商隊で、新人の…勇者くらいの女の子があたしのことを聞いてきた。もう、三日も経つというのに、あの子らを思い出すと寂しくなる。
 先輩らしき獣人の女性が叱るが、怖々とあたしを見ている。獣人はエルフやダークエルフを恐れる者がとても多い。
 昔、奴隷のような扱いをしていたそうだ。

 とはいえ、あたしは純粋なダークエルフではない。獣人だって…子犬みたいな男の子と数年組んでいたこともある。偏見はない。

「気にしないでおくれ…これのことかい?」

 新人が気になったのは手につけている指輪だ。戦士は装飾品をあまり手にはつけない。魔法の指環とかより、魔法の腕輪の方が人気だ。一流になればなるほど、手先の感覚が微妙になるとこだわるからね。
 しかし、この指環はただの指環だり

「あたしは孤児でね。これは親の形見…らしいよ」
「らしい?どうしてです?」
「こら!」

 理由を説明しないとわからないだろうけど…なかなか踏み込んでくる子だね。嫌いじゃないよ。

「あたしは混血のダークエルフで、片耳がこれだろ?ダークエルフじゃ、片耳は忌み嫌われてるんだと」

 そういって、髪で隠していた耳を見せる。獣人の女性は納得していたが新人は納得していない。人族にとってはどうでもいいんだろうけど、エルフやダークエルフは耳に神様の祝福がある思っているんだ。

 耳が長く立派なら美しく強く、幸運な人生を歩める。
 半端な耳は神の祝福がない者の証。

 だから捨てたんだろう。お情けで籠にいれてあった真っ黒な宝石は、ダークエルフ領でしか出ない宝石らしいが、値段は安いもんだ。

「森であたしを拾った婆さんがいってたことだから本当かどうかはわからないけどね」

 婆さんが拾わなきゃ、あたしは獣に食われるかそのまま死んでたはずだ。感謝もしているが…あたしはその恩を返していない。
 婆さんも何百年も生きる自称魔女だったけど…あたしが森を飛び出して十六年…死んでるかもね。

 身の上話は仲良くなるきっかけだが、あたしは少し怖がられている。あまり期待はできなかった。
 それでも飯炊きには自信があったから、あたしが飯炊きをするとみんな喜んでくれた。ありがたいね。話せるだけで満足さ。

 それから四日で中継の街へとようやくたどり着いた。一週間ほどの旅だ。道中の村や小さな町と比べてここは大きい。

 勇者たちは西にいる魔王を倒しに行っていた。東から北回りに行ったから、あたしは今回の南回りの旅が新鮮で楽しく思う。

 街に入れば祭りの日だったのか、みなが酒を飲んで歌って踊っている。そんな大規模な祭りの日にくゆとは…あたしの不運はどっかに行っちまったようだ。

「祭りだったとは…」
「いえ、祭りのはずないです。この前したばかりなんで」

 新人が教えてくれた。けれどどう見たって祭りじゃないか。
 みんなが笑顔で喜んでいるのは祭り以外にはないだろ?

「大変だよ!勇者様が魔王を倒したって!」
「えー!本当かい!これで西も落ち着くね!商売に行くわ!」

 商隊にいた女性の一人が街の住人に話を聞いてこの祭りの理由を知った。

 たいしたもんだ。たった一週間で魔王を倒しちまったのかい。
 あの子らの頑張りが報われたことにあたしは嬉しくなった…ちょいとばかしムネガ痛んだが…そうだ。無事を確かめないと。

 魔王の存在は珍しくはない。
 百年周期で魔王が出るんだ。途中で死んだり、魔王と相討ちになった勇者一行がいたこともある。

「ほら姉さんも!」

 街に入っていけば酒を誰彼構わず振る舞っていたのか、あたしらにも酒が配られた。ちょうどいい。ついでに確認しておくかね。

「ありがとう。あ、そうだ。誰か死んだとかないよな?」

 もしも誰かしらが死んだりしたなんて聞いたら…あたしは泣いちまうね。あの子らは死んじゃいけない子たちばかりだった。
 まだ親元にいたっていい年頃で、こんなあたしに叱られながらの冒険だったんだ。不憫じゃないか。

「馬鹿いっちゃいけねぇ!勇者様たちは誰も死なずに魔王を倒したっていうんだ!久しぶりに全員そろった勇者パーティーだ!」
「そうかい!…四人かい?」
「当たり前よ!」

 どうやら全員無事みたいだ。後輩もきちんとあたしの代わりを果たしてくれたみたいだね…今度お礼をしないと。
 酒をくばっていた中年のおじさんがさらにめでたいことを教えてくれた。

「なんでも勇者様は旅の仲間と結婚するんだとよ」

 めでたいね。あの子たちが結婚するのか。ご祝儀…いや、あたしがしたら嫌味だから、やめておこう。

「どんな方とだい?」

 魔法使い?僧侶?二人とも?勇者もすみに置けないね。男みせるなんざ、たいしたもんさ。

「それがよー…勇者様、大賢者様、聖女様、剣聖様の四人だろ?」
「魔王討伐は四人だからね」

 呼び方が違うが魔王を討伐したら役職の名前が変わるといっていたから、魔法使いは大賢者に、僧侶は聖女になったということだろう。

「勇者様はよー…聖母様と結婚するんだとよ」

 聖母?はて…あたしの知らない女でもいたのかね?あいつもなんだかんだとやっぱり男だったんだね。

「姉さん、なに怒ってるんだい?」
「起こってなんかないよ。あたしゃ、生まれつきこんな顔さ!」

 純朴そうな子だと思ってたけど…男ってもんは信用できないもんさね。少しだけ…あたしは嫌いじゃなかったんだけど。少しむかっときちまった。
 少しは男らしくてと思ったが…嫌な男になっちまってたのか。

「それで、勇者様は凱旋なされるそうだぜ?」

 なるほどね。北回りが近いからそちらを使うはずだ。あたしとはもう縁が切れちまったと思おう。逃げたあたしがいうんじゃないけどね。

「あー…勇者様をみたいけど…私らは今からあのバカ様の所へむかうのか」
「バカ様?」

 変わった名前だ。貴族ってのは変な名前をつけるのかい。初めて知ったよ。関わることなんてなかったから。

あねさんは知らないの?領主の息子の若様。これがとんでもなく女好きのバカでね…ちゃらちゃらしてるから、私らは嫌いなんだよ」
「だから、バカ様か」

 南回りは使ってなかったから噂話を回収もしていなかった。旅の道中で路銀稼ぎで噂話を集めて問題を解決して、謝礼をもらうことをしていたんだけど、事前に調べるにしても、北回りだけだったから無駄をはぶいちまってた。
 問題行為を繰り返す貴族は近づかないのが懸命だ。勇者がいても難癖をつけるやつもいるから、そういうやつは相手にしない。

「姉さんも気をつけなよ?そんなでも貴族だ。関わるもんじゃないんだから」
「大丈夫さ。あたしに惚れ込む男なんざいないからね。声をかけられることはないよ」

 いつかお前を倒してやる!なんてのは組んでた獣人の男の子からいわれたことはあるけどね。あいつもいい男になってればいいけど。
 あたしを倒さないといけないなんてきついことをいってから十年ほど会ってないけど…元気だろうか。
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