勇者と朝チュンしたので逃げます

竹端景

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僧侶さんは頭が痛い

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 魔王が百年ぶりに現れた。百年周期で現れる知性ある魔物。それが魔王。
 神により選ばれた四人の若者が討伐の旅にでる。

 実際は権威を上げるための行為だ。勇者は王族から選ばれるし、魔法使いは賢者の血筋、僧侶は聖者の血筋から選ばれている。
 唯一、戦士だけはギルドの中で最も勇者パーティに相応しい人が選ばれる。

 表向きには今回の勇者は孤児で、魔法使いは森の奥深くに住んでいた魔女の弟子で、私は教会にいた修道女ということにしている。
 戦士さんだけは表も裏もなく素晴らしい女性です。

 こういってはなんだが、私は戦士さんがいなかったら旅に出たその足で教会から逃げ出していただろう。
 王族の爪弾きに異端の賢者の孫。そして飲んだくれ聖者の娘である私では、旅に出てもろくなことになっていなかったはずです。世間知らずに、他人に興味のないものばかり。

 戦士さんは面倒見がいいというか、世話焼きというか…教会にはいないタイプの人間です。

「ほら、あたしは学がないからさ。代わりに生きることには必死で覚えてきたから…だからあたしはあんたらが生きれるように守るからね」

 そういって褐色の肌を桃色にそめておっしゃって…私が男なら即座に結婚を申し込んでます。
 料理やお裁縫に、お金の管理に私たちの体調管理、町での情報収集に、野宿をするときは安全の確認…数え出したらきりがありません。

 魔法使いさんはいっていました。

「戦士さんはママだ」

 …納得しました。さすが賢者の孫。私たちはそこから仲良くなりました。
 まぁ、唯一の男性である勇者君はかなり戦士さんを好きなようでした。 

「おはよう。勇者。よく寝れたかい?寒くなかったかい?」
「は、ははい!あ、あた、あたたかくて、あの!」
「緊張しなさんな…寝癖を直しといで。みんなで朝ごはんにしようね」

 普通に会話ができなくなっていましたからね。あの好色大魔王である国王の息子なのか疑いますが、戦士さんを見知らぬ愚か者にやるくらいなら勇者君に頑張ってもらおうと思いました。上手くいけば旅を終えても、ずっと戦士さんに会えますし、勇者君が失敗しても私や魔法使いさんは関係ないので会えますからね。
 どちらに転んでもいいのです。

 勇者君にはたくさんの知恵を与えてきました。あのヘタレでも頑張ればいい雰囲気にはなってきていました。
 というか、三年近くもかかるなんてどんだけ奥手なんですか。神様だってキレますよ?

 そして、お酒を二人がたくさん飲んで…私たちに聞こえるほど勇者君が告白して、二人は戦士さんの部屋へと行きました。
 魔法使いさんと握手を交わして、さっさと魔王をボコボコにしましようと語り合った翌日。

「なんで戦士さんがいなくなってるんですか…」
「俺に聞いても…おいヘタレ。戦士さんになにしたんだ?無理矢理とかだったら燃やすぞ?」

 魔法使いさんが号泣していて使い物にならない勇者君にわりと本気の殺気を飛ばしています。
 男口調ですが、見た目は幼女のような彼女はれっきとした私と同じ歳の女の子です。

「ぼ、ぼく!…でぎながっだんだよ!恥を…かかせて…」
「はぁ?ヘタレが。これだから童貞は!…ここはやっぱり俺が一本生やして戦士さんを」
「やめなさい?色々ダメだからね?なに、禁術使おうとするのよ」
「何って…ナニのため」
「天罰申請するわよ?」

 ヘタレな勇者君が最初で上手くいくなんて誰も思ってませんでした…戦士さんはそんなことを気にするかしら?

 魔法使いさんは戦士さんを本当に好きですから…見張っていないと性別をかえてさらいそうなんですよね…それは協定違反ですし、性別を変えるのは禁術です。教会から許可をもらわないと天罰がきてしまいますからね…それにズルいです。あたしも申請を…あら?

 戦士さんの手紙をよく読み返していると気になることがあります。

「後輩を呼んでいる…?間に合いませんよね?」
「もうすぐ魔王をぶち殺すってとこだからな」

 旅も間もなく終わります。魔王を倒せば、勇者は願いを一つ叶えてもらえます。戦士はギルドの最高位について民衆の近くで尊敬をあつめ、魔法使いは大賢者として学会にに逆らう者はいなくなり、僧侶は男性なら聖人、女性なら聖女として教会での発言力得て、みな後世まで称えられます。

「…そうだ…魔王を早く始末して…戦士さんを探そう…そうだ…そうだった!もっと早く気づけば良かった!魔王を倒した褒美に戦士さんとの結婚式を頼もう!そしたら戦士さんも僕の隣にいるもんね!あはははは!」

 勇者君は泣きながら笑うという、なかなか狂人みたいなことをします。せっかく男前になってきた顔が狂気に染まっていて、勇者より魔王みたいです。

「…壊れたぞ」
「泣いているよりはましです…一応、認めたくはないけど両片想いの二人でしたし」
「…ちっ…やっぱり生やして」
「だめですよ?犯罪にしななりませんから」

 絵的にも幼い少女が幼い少年になって戦士さんに言い寄るなんて…戦士さんを犯罪者にするつもりですか?

「早く…魔王を殺そう」

 少し勇者君が失敗して闇落ちしましたが、やる気にみちてくれて助かります。実力はあっても彼は精神面が弱いですから。

 しかし、困りました。神様が決めたことなんですが、四人で討伐をしなきゃいけないのに…その後輩さんとやらがこの町へとつくのもいつに…あれ?壁にひび?

「リュゼ師匠!ウチが来たっすよ!さあ!稽古を!主にベッドの上ぇぇぇぇぇ!男がいるぅぅぅぅ!きもいいぃぃぃ!」

 ひびが広がっていきそこから、剣を振り下ろしてわけのわからなあことを叫んでいるエルフが飛び込んできました。

 冒険でとっさの動きが身に付いていたおかげか、勇者君はすぐに剣を抜き魔法使いさんも詠唱を、私も神へと祈りを捧げて乱入者へ対応していました。

「おたくら!とくにそこの穢らわしい男!ウチのリュゼ師匠はどこだ!」
「何者だ!リュゼなんて知らない!」
「師匠を知らないだと!あの可憐で素敵なナイスバディで、未亡人なみの色気のある大人な女性を知らないだと!てめぇ、今すぐその使えないきたねえ一物をもぎとっちまえ!」

 あ、このエルフ。魔法使いさんと同じ匂いがします。魔法使いさんも似たようなことをよくいっていますからね。
 しかし…そんな特徴的な女性が世に二人もいるとは思えませんが…もしかして。

「ハーフダークエルフの女性か?」

 勇者君の目付きが変わりました。戦士さんの情報を持っていそうなエルフが飛び込んできたのです。逃すわけありません。
 魔法使いさんと目で合図をかわして、お互いが用意していた攻撃から、相手を押さえる魔法と、空間から逃げれないように神へと祈りを捧げるものへと変えました。

「決ってんだろ!ウチの師匠だぞ!どこに隠した!ここにいるって手紙には書いてあったんだ!はやくリュゼ師匠を出せ!」

 どうやら彼女が戦士さんの後輩らしいです。
 しかし…空間を切り裂くエルフ…エルフ王国の末姫が剣聖といわれるほど神ががった剣の腕前がたり、空間を自由自在に移動するとの話がありましたが…これが剣聖ですか。

「戦士さん…リュゼさんっていうんだ…素敵な名前だ…リュゼさん…探しますから…どこにいても…必ず…」

 あ、いけない。勇者君がまた暴走をする前に介入しないと。

「私の話を聞いてもらえます?」

 私の説明とある考えを聞いて、その足で急いで魔王を討伐に行きました。
 三日もいりませんでした。圧勝です。瞬殺に近かったかな。

 たった一言だったんですけどね。

「魔王を討伐したら戦士さんにほめてもらえませんかね?」

 みんなのやる気はすごかったです。
 さて私も教会に連絡を取って戦士さん…リュゼさんを探さないと。
 あの人のことです。無自覚に権力者とかの子息を落としてそうで…心配です。

「俺もたいがいだが…あんたもやべぇやつだよな」
「なにをいうんですか。私たちの母。つまり聖母様ですよ?」

 お側でお守りしないと。ああ、頭が痛い。早くなでてもらわないといけません。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
しばらくは戦士さんのパートが続きます。
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