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高級な酒場
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「あたしにゃ、あんたが無理しているように見えるね」
あたしがそういうと目の前の軽薄そうにしている男が驚いた表情のまま固まった。
魔王討伐の祭り気分を一日味わって、噂のバカ様がいるという街へと向かい、半日もせずにたどりついた。
朝早くに出て何事もないなんて、本当に運がいい。
キャラバンの集会場に集まって、あたしがついていっていた商隊から金をもらう。
銀貨六枚。六日分の生活費になる。ここまではどちらかというと、旅のためと食費を浮かせるためにしてきたことだ。一週間分以上も飯を食えたのを考えたら、多めにくれた方だね。
「ありがとうね…助かるよ」
「食事を作ってもらったお礼も入ってます…やはりダメですかね?」
獣人の彼女は商隊のリーダーらしく、しきりにあたしをこのまま商隊の一員にならないかと誘ってくれた。
とても嬉しい誘いなんだが…あたしはこの辺りを拠点にしていたわけじゃない。元々の拠点には知り合いが何人かいるし、必ず帰ると約束していた。
それに…ありえない話だけど顔を合わせたくやつもいる。
「すまないね…あたしは旅を続けるよ」
最後の断りを聞くと、彼女はあきらめてくれた。
「そうですか…わかっていました…いえね、姉さん。私らも…男でもめた行き場のない連中なんですよ」
「あたしは」
「いや、姉さん。詳しくいわなくてもわかります!私は商人ですよ?…浮気されたって一目でわかりました」
なんってこったい。あたしゃそんな風に見られていたのかい。
「姉さんみたいないい女をほって浮気するなんざ、魔王みたいな男です!勇者様に斬られちまえばいいんだ」
「いや、そりゃあね」
そもそも誘ったのはあたしなんだろうし、その勇者が…あたしは斬られないといいなぁ。
ちょっとは男として見直したんだ。そこをくんでくれないかね。
力が抜けて訂正する気力もなくなってしまった。
その足でギルドの酒場にむかう。次の商隊がいなくて、共同クエストでも受けようと思ったのだ。一つの依頼を複数でやっているものがあれば参加させてもらおう。
酒場は…酒場なんだよな?あたしの知っている酒場は酒とゲロの臭いが充満していて、若いのから年寄りまで目がぎらついているのしか知らないんだけど。
これはどういうことだい。
「いらっしゃいませ。麗しき冒険者様。お席へ案内いたします」
どこの貴族向けの食事場だい。
席に案内されつつ、店内を確認する。座っている人間は女がほとんどだ。それも剣や弓を携えている女たちだから、間違ってはいったわけではなさそうだ。
数少ない男たちは居心地悪そうで、連れの女が呆れている。男だけの入店はないようだね。
「こちら当店からのサービスでございます」
グラスにやたらと綺麗なピンク色の酒を持ってきた給仕係は男だが…酒場の店員という風にはみえないね。ひ弱そうで、荒くれもの相手にする酒場の者には見えないよ。
「すまないけど、あたしは依頼を探してるんだよ」
「失礼ですが、文字は読めますか?」
「ああ。読み書きはできるよ。補助員はいらないよ」
読み書きができない者のためにギルドが用意してくれている補助員は、あたしには必要ない。婆さんがみっちり教えてくれたからね。
「でしたら、まずはこちらのメニューからお食事をお選びください。すぐにお持ちしますから。その後に依頼書をもってまいります」
「はぁ…」
メニューに書かれている金額は軒並み高い。どれも銀貨一枚だ。あたしら冒険者ならあまり気にならないが、一日の食費が飛ぶなんて…銅貨の値段のものを探すが…ないね。甘味なんざ、一個で銀貨二枚…フルーツ盛りなんざ五枚だ!
「酒は…高いね…悪いんだけど、腹に入るもんで、一番安いのを持ってきてくれ」
「かしこまりました」
そうして去っていった店員は、ギルドの職員だったのだろうね。
ギルドじゃどこでも手付金がいる。酒場で一杯も飲めないようなやつは保証しないと、まずは酒場で一杯飲んでから依頼を受ける。
ここのギルドはかなり高いが…その分依頼料も高いのだろう。
町の裕福さは砂漠が近くにありながらも水が無料で配られていることでわかる。他じゃ水を買いに行くから税金をあげていたりするが、水に困っていない分、住民たちの懐が潤っているんだろう。
どうみたって新人の若い子たちがフルーツを山盛りにしたものを平然と食ってるんだ。こりゃ、稼げそうだね。
「麗しいお嬢さん…お暇なら私とお喋りしませんか?」
真っ白い服に首飾りをじゃらじゃらつけた軽薄そうにしている男が隣に座って話しかけてきた。
暇だし情報はほしいからお喋りの相手とやらになってもいい。
「いいよ…ただし、普通に話しておくれ」
「私はこれが普通なんですよ」
そううそぶく姿が滑稽だったからついいっちまった。
「あたしにゃ、あんたが無理しているように見えるね」
またお節介を焼いちまったかもしれないね。
あたしがそういうと目の前の軽薄そうにしている男が驚いた表情のまま固まった。
魔王討伐の祭り気分を一日味わって、噂のバカ様がいるという街へと向かい、半日もせずにたどりついた。
朝早くに出て何事もないなんて、本当に運がいい。
キャラバンの集会場に集まって、あたしがついていっていた商隊から金をもらう。
銀貨六枚。六日分の生活費になる。ここまではどちらかというと、旅のためと食費を浮かせるためにしてきたことだ。一週間分以上も飯を食えたのを考えたら、多めにくれた方だね。
「ありがとうね…助かるよ」
「食事を作ってもらったお礼も入ってます…やはりダメですかね?」
獣人の彼女は商隊のリーダーらしく、しきりにあたしをこのまま商隊の一員にならないかと誘ってくれた。
とても嬉しい誘いなんだが…あたしはこの辺りを拠点にしていたわけじゃない。元々の拠点には知り合いが何人かいるし、必ず帰ると約束していた。
それに…ありえない話だけど顔を合わせたくやつもいる。
「すまないね…あたしは旅を続けるよ」
最後の断りを聞くと、彼女はあきらめてくれた。
「そうですか…わかっていました…いえね、姉さん。私らも…男でもめた行き場のない連中なんですよ」
「あたしは」
「いや、姉さん。詳しくいわなくてもわかります!私は商人ですよ?…浮気されたって一目でわかりました」
なんってこったい。あたしゃそんな風に見られていたのかい。
「姉さんみたいないい女をほって浮気するなんざ、魔王みたいな男です!勇者様に斬られちまえばいいんだ」
「いや、そりゃあね」
そもそも誘ったのはあたしなんだろうし、その勇者が…あたしは斬られないといいなぁ。
ちょっとは男として見直したんだ。そこをくんでくれないかね。
力が抜けて訂正する気力もなくなってしまった。
その足でギルドの酒場にむかう。次の商隊がいなくて、共同クエストでも受けようと思ったのだ。一つの依頼を複数でやっているものがあれば参加させてもらおう。
酒場は…酒場なんだよな?あたしの知っている酒場は酒とゲロの臭いが充満していて、若いのから年寄りまで目がぎらついているのしか知らないんだけど。
これはどういうことだい。
「いらっしゃいませ。麗しき冒険者様。お席へ案内いたします」
どこの貴族向けの食事場だい。
席に案内されつつ、店内を確認する。座っている人間は女がほとんどだ。それも剣や弓を携えている女たちだから、間違ってはいったわけではなさそうだ。
数少ない男たちは居心地悪そうで、連れの女が呆れている。男だけの入店はないようだね。
「こちら当店からのサービスでございます」
グラスにやたらと綺麗なピンク色の酒を持ってきた給仕係は男だが…酒場の店員という風にはみえないね。ひ弱そうで、荒くれもの相手にする酒場の者には見えないよ。
「すまないけど、あたしは依頼を探してるんだよ」
「失礼ですが、文字は読めますか?」
「ああ。読み書きはできるよ。補助員はいらないよ」
読み書きができない者のためにギルドが用意してくれている補助員は、あたしには必要ない。婆さんがみっちり教えてくれたからね。
「でしたら、まずはこちらのメニューからお食事をお選びください。すぐにお持ちしますから。その後に依頼書をもってまいります」
「はぁ…」
メニューに書かれている金額は軒並み高い。どれも銀貨一枚だ。あたしら冒険者ならあまり気にならないが、一日の食費が飛ぶなんて…銅貨の値段のものを探すが…ないね。甘味なんざ、一個で銀貨二枚…フルーツ盛りなんざ五枚だ!
「酒は…高いね…悪いんだけど、腹に入るもんで、一番安いのを持ってきてくれ」
「かしこまりました」
そうして去っていった店員は、ギルドの職員だったのだろうね。
ギルドじゃどこでも手付金がいる。酒場で一杯も飲めないようなやつは保証しないと、まずは酒場で一杯飲んでから依頼を受ける。
ここのギルドはかなり高いが…その分依頼料も高いのだろう。
町の裕福さは砂漠が近くにありながらも水が無料で配られていることでわかる。他じゃ水を買いに行くから税金をあげていたりするが、水に困っていない分、住民たちの懐が潤っているんだろう。
どうみたって新人の若い子たちがフルーツを山盛りにしたものを平然と食ってるんだ。こりゃ、稼げそうだね。
「麗しいお嬢さん…お暇なら私とお喋りしませんか?」
真っ白い服に首飾りをじゃらじゃらつけた軽薄そうにしている男が隣に座って話しかけてきた。
暇だし情報はほしいからお喋りの相手とやらになってもいい。
「いいよ…ただし、普通に話しておくれ」
「私はこれが普通なんですよ」
そううそぶく姿が滑稽だったからついいっちまった。
「あたしにゃ、あんたが無理しているように見えるね」
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