生徒怪長は"ぬらりひょん"

詩月 七夜

文字の大きさ
2 / 8

第二ひょん 怪長はだまされる

しおりを挟む
 俺達の高校の生徒会長は特別住民ようかいである。

 俺の名前は打本うちもと 越一こしかず
 この降神おりがみ高校の二年生。
 で、生徒会で書記なんかやったりする。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 さて、今日も生徒会室での会議がある。

「諸君」

 生徒会長改め「生徒怪長」である詩騙うたかた 陽想華ひそかさん(ぬらりひょん)が、生徒会役員達を見回す。

「諸君らも知ってのどおり、もうすぐ『アレ』がある」

「『アレ』ではなく具体的にお願いいたします」

 すかさず、眼鏡を光らせつつ副会長が眼鏡のブリッジを押し上げる。
 それに「愚問」と書かれた扇子をパラリと広げる怪長。

「おやおや、いちいち説明が必要かな?この時期に催されるものと言ったら『アレ』しかあるまい」

「ですから、具体的にお願いいたします」

 ゆらぁりと立ち上がった副会長の声が固い。
 鋼鉄もかくやというほどだ。

「議題の明確な提示は、役員間で共通認識を持つために必要不可欠ですから」

 副会長の声が、さらに硬化する。
 もはや神鋼鉄アダマンチウムもかくやというほどに。
 しかし、怪長は動ずること無くフッと笑った。

「『アレ』いえば『アレ』だよ。いわずもがなだね」

「…」

「…」

 対峙する怪長と副会長。
 同時に室内の空気がピーンと張りつめ、その場にいる全員が身構え始める。
 軍手をはめ、拘束用チェーンを持ち出す者。
 抗不安薬銃トランキライザーガンに薬剤を注入し始める者。
 怪長の逃走状況を捉えようと、撮影機材一式を広げ始める者。
 さすがに場馴れしてきたようだが…
 みんな何か違った方向に特化してないか…?

「怪長、午前中に僕からご説明させていただいた『アレ』について、どうぞ明確にご明言ください」

 副会長の呼気が「がしゅぅぅぅぅぅ…!」と蒸気じみた音を発する。
 …いまさらだけど、この人も特別住民ようかいなんじゃないだろうか…?

「懇切丁寧に!説明していただきたい!『分かった分かった』とお返事してくださった!『アレ』について!」

 一歩一歩、語気を強めて怪長に近付いて行く副会長。
 それに微妙に視線を泳がせ「窮地」と書かれた扇子をあおぐ怪長。

「ふむ…どうやら記憶の混濁があるようだ。これは極めて不幸なアクシデントと言えるな」

「…つまり?」

 副会長の柳眉りゅうびが逆立つ。
 怪長がハッハッハッと笑いながら「忘却」と書かれた扇子をパラリと広げる。

「記憶にない」

「詩騙アアアアァー!!」

 お約束どおり、副会長が鬼と化して掴み掛かろうとした瞬間、

「各部活及び委員会の新入生説明会のことですね」

 と、俺が告げる。
 その一言で怪長は俺の隣に瞬間移動し、キレた副会長に備えつつあった役員達が構えを解く。
 中には「いいとこだったのに…」と、小さく舌打ちする奴までいた。
 何でだ。

「さすがは打本、私が言わんとしたことを察するとは見事だ」

 「延命」と書かれた扇子を広げる怪長。
 副会長がジロリと俺を見るが、俺はなだめるように両手を広げて言った。

「副会長、お気持ちは分かりますが、今回は極めて重大な問題があります。一旦落ち着いてください」

「そうだぞ、副会長。カルシウム不足が露呈するような真似はつつしみたまえ」

「怪長は少し黙っていてください!」

 俺がそう釘を刺すと、ぶうたれたように横を向く怪長。
 構わずに俺は続けた。

「確か、新入生説明会では各部活と委員会、そして俺達生徒会も勧誘のPRを行うんっすよね?」

「…そのとおりだ」

 良かった、副会長の目に理性の光が戻ってきた。

「でも、問題なのはPRを行うのが各団体の長…つまり、俺達生徒会の場合は怪長ということになります」

 しーん。

「終わったな」
「ああ、終わりだ」
「どだい不可能なんだよな」
「新入生達の白い視線が今から目に浮かぶぜ」
「私、その日は休むわー。全校生徒の前でさらされたくないし」
「あ、あたしもー」

 てんで好き勝手言い始める役員達。
 …まぁ、気持ちは分かる。
 外見は凛然としている怪長だが、口を開いた瞬間にメッキが盛大に剥がれる。
 生徒会の業務だって、あの手この手でサボってる始末だ。
 PRなぞやらせるのは、赤ん坊に選挙演説をやらせるようなものだ。
 俺はパンパンと手を打つ。

「待て待て、みんな!それをどうにかするための会議をやるはずだろ!」

「でもさー、怪長だぜ?」

 ボヤく役員の一人に俺は頷いた。

「言いたいことは分かるけど、そこを何とかしなきゃ、新しい役員の獲得は望めないぜ?それでいいのかよ?」

 それに途端にざわつく役員達。

「確かに…このまま現役メンバーで繋いでいくのもなぁ」
「初々しい後輩、欲しいよねー」
「生徒会がメンバー不足で沈没って、シャレにならねぇよな」

「そういうことだ」

 完全に人間に戻った副会長が、眼鏡を押し上げる。

「事は生徒会の未来にも関わる問題といえる。それに、ここで新入生達にうまくアピールし、一人も後続を獲得出来ねば僕達はいい笑い者だ」

「そのために、私の出番ということだな」

「席巻」と書かれた扇を見せびらかし、怪長が胸を張る。

「安心したまえ、諸君。それこそ私がPRすれば、有能な新戦力がわんさか訪れるはずだ」

 全員が怪長を無言で見てから、溜め息を吐く。

「無理だな」
「ああ、無理だ」
「どだい夢物語なんだよな」
「新入生達の呆れ顔が今から目に浮かぶぜ」
「私、その日はサボるわー。赤っ恥かきたくないし」
「あ、あたしもー」

 …いかん。
 このままでは堂々巡りだ。
 俺は考え込んでいる副会長を見やった。

「副会長、何かいい方法は無いですかね?」

 すると、怪長が胸を張って一歩進み出る。

「心配するな、打本。私がいれば…」

「だから、怪長は少し黙っていてください!」

 俺がそういうと、怪長は再びぶうたれたように横を向く。
 その時、副会長がおもむろに口を開いた。

「…一つだけ方法がある」

「マジっすか!?」

 俺をはじめ、役員達が副会長に注目した。

「…というか、これしかない。いささか問題がある方法ではあるが、全ては生徒会の未来のためだ」

 そこで一旦怪長を室外に追い出し、副会長が皆の前で明かした「いささか問題がある方法」は、紆余曲折の後、何とか満場一致で可決された。


 それから数日後。

「…ということで、当生徒会は新入生の皆さんの入会を待っています。以上で、生徒会の紹介を終わりとさせていただきます」

 体育館の新入生説明会。
 そうがマイクで述べると、パチパチと新入生達から盛大な拍手が上がった。
 とりあえず、ホッとする俺達。
 さすがは副会長、新入生達の反応は上々だ。

「お疲れさまっす、副会長」

 俺のねぎらいの言葉に、笑顔を見せる副会長。

「ああ。これも皆の協力の賜物たまものだ」

「…でも、良かったんっすか、これで?」

 その一言に、副会長は苦悩の表情を浮かべた。

「言うな。全ては生徒会の未来のためだ」

 そう言うと、俺達は生徒会室に向かった。
 周囲に誰もいないことを確認し、中に入る。
 中には男女一組の生徒会役員がいて、俺達の姿を見ると敬礼した。

「経過はどうだ?」

 副会長がそう尋ねると、二人は頷き合い、

「はい。異常無しです。は何の疑いもなくです」

 同時に「資料室」と書かれた隣室のドアの中から、声が聞こえてくる。

「ごひゃくじゅうろく、ごひゃくじゅうなな…もーいーかい?」

 施錠されたドアの向こうから、怪長の声が聞こえてくる。

「「「「まーだだよ」」」」

 俺達の声がそうハモりつつ答える。

「まだかー…仕方がないな、ええと、ごひゃくじゅうはち、ごひゃくじゅうきゅう…」

 と、再び数え始める怪長。

 全ては副会長の作戦だった。
 新入生説明会が始まる直前に「オール生徒会役員かくれんぼ大会」をでっち上げる。
 案の定、まんまと乗ってきた怪長を鬼にして数を数えさせ、その隙に副会長が説明会で代行でPRを行う。
 無論、万が一に備えてドアには気付かれないように施錠もしてある。

 普通なら、こんな陳腐な手に引っ掛かる奴なんているわけがないが、そこに引っ掛かるのが怪長だ。
 怪長のポンコツ具合をよく把握している、副会長ならではの見事な封殺作戦である。

「…で」

 俺は副会長を見た。

「この後、どうするんっすか?」

 副会長は諦めたように言った。

「やるしかないな、かくれんぼを」

 閉ざされたドアの施錠を解く副会長。
 そして、俺達を見やる。

「役員各位に通達。『怪長が放たれる。全員本気で逃走せよ隠れろ』…以上だ」

 俺達は全員で溜息を吐いた。
 やりたくはないが、ウソをホントにしとかないと、後で怪長がぶんむくれるのは火を見るより明らかだ。

「もーいーかい?」

 何も知らない怪長の無邪気な声が聞こえてくる
 やれやれ…
 超いまさらだけど、俺、何で生徒会ここに入っちゃったんだろう…
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ラン(♂)の父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリー(♀)だった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。 しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は騒然となった。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

『俺アレルギー』の抗体は、俺のことが好きな人にしか現れない?学園のアイドルから、幼馴染までノーマスク。その意味を俺は知らない

七星点灯
青春
 雨宮優(あまみや ゆう)は、世界でたった一つしかない奇病、『俺アレルギー』の根源となってしまった。  彼の周りにいる人間は、花粉症の様な症状に見舞われ、マスク無しではまともに会話できない。  しかし、マスクをつけずに彼とラクラク会話ができる女の子達がいる。幼馴染、クラスメイトのギャル、先輩などなど……。 彼女達はそう、彼のことが好きすぎて、身体が勝手に『俺アレルギー』の抗体を作ってしまったのだ!

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

陰キャ幼馴染に振られた負けヒロインは俺がいる限り絶対に勝つ!

みずがめ
恋愛
★講談社ラノベ文庫新人賞佳作を受賞しました!  杉藤千夏はツンデレ少女である。  そんな彼女は誤解から好意を抱いていた幼馴染に軽蔑されてしまう。その場面を偶然目撃した佐野将隆は絶好のチャンスだと立ち上がった。  千夏に好意を寄せていた将隆だったが、彼女には生まれた頃から幼馴染の男子がいた。半ば諦めていたのに突然転がり込んできた好機。それを逃すことなく、将隆は千夏の弱った心に容赦なくつけ込んでいくのであった。  徐々に解されていく千夏の心。いつしか彼女は将隆なしではいられなくなっていく…。口うるさいツンデレ女子が優しい美少女幼馴染だと気づいても、今さらもう遅い! ※他サイトにも投稿しています。 ※表紙絵イラストはおしつじさん、ロゴはあっきコタロウさんに作っていただきました。

距離を置きたい女子たちを助けてしまった結果、正体バレして迫られる

歩く魚
恋愛
 かつて、命を懸けて誰かを助けた日があった。  だがその記憶は、頭を打った衝撃とともに、綺麗さっぱり失われていた。  それは気にしてない。俺は深入りする気はない。  人間は好きだ。けれど、近づきすぎると嫌いになる。  だがそんな俺に、思いもよらぬ刺客が現れる。  ――あの日、俺が助けたのは、できれば関わりたくなかった――距離を置きたい女子たちだったらしい。

処理中です...