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第七ひょん 怪長はおもてなす
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俺達の高校の生徒会長は特別住民である。
俺の名前は打本 越一。
この降神高校の二年生。
で、生徒会で書記なんかやったりする。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ボランティア?」
「生徒会の最後の良心」にして「鋼鉄の胃を持つ男」こと、副会長が口にした台詞に俺は思わずそう聞き返した。
頷く副会長。
「生徒会活動の一環でな。生徒会に在籍するメンバーや有志で高齢者福祉施設に赴き、慰問という形でイベントを開くことが慣例化しているのだ」
なるほど。
そう言えば昔、うちのばあちゃんも施設でそんなのを経験したって話してたな。
「半月後の日曜日なのだが、打本も参加できるか?」
「ええ。大丈夫っすよ」
予定なら、スマホ内のカレンダーアプリに入れてある。
確認すると、指定された日は真っ白だ。
休日っていうのは正直微妙だけど、ボランティア活動は未経験だし、一回くらいならやっておくのも面白そうだ。
欠席しても、父ちゃんに店でこき使われるのは目に見えてるし。
「で、一体どんなことをやるんです?」
俺がそう尋ねると、副会長は手にした資料をめくった。
「昨年は劇を披露したらしい。演目は『小公女』だったそうだ」
「小公女」…確かいいところの出身だったお嬢様が、父親の訃報で使用人の地位に落とされて辛い思いをするけど、最後には親切な富豪によって父親の遺産を引き継ぎ、幸せになるという話だったっけ。
まあ、児童文学らしいけど、心清らかな少女が健気に耐える物語みたいだし、高齢者のみなさんに見せるには当たり障りのない演目だ。
「当時のメンバーには演劇部の部員も加わっていたそうだから、出来栄えもなかなかだったらしいし、施設の皆さんにも好評だったそうだ」
資料を閉じながら、副会長がそう補足する。
「じゃあ、今回も演劇にするんすか?」
俺がそう尋ねると、副会長は顎に手を当てて考え込んだ。
「ふむ…候補にしたいところだが、今回のメンバー構成を見ると少々荷が重いと思う」
そうか。
今年度は演劇部の連中によるバックアップは望めないんだな。
「個人的にはハンドクラフトの体験会とか、本などの朗読。普通に話し相手になったり、将棋や囲碁の対戦相手になるだけでも喜ばれると思うのだが…」
「甘いな」
突然。
近寄る気配もなく「下策」と書かれた扇子を手に、生徒怪長こと詩騙 陽想華参上。
怪長の急な登場には慣れっこだった俺と副会長だけど、思わず飛びのいた。
「か、怪長!心臓に悪いからそういう登場は月に三回までにしてくれってあれほど…!」
「そのような些末事はどうでもいい」
扇子をピシャッと閉じ、怪長は副会長を見やった。
「副会長、いま君が述べたありきたりな内容で、人生の先輩方が喜ぶと思うのかね…?」
「い、いや、普通に喜ばれると思うのだが?」
反論する副会長に扇子を突き付け、怪長は真剣な表情で詰め寄った。
「いいか、副会長。人生の先輩方は世間の荒波にもまれ、家族を守り抜き、その過酷な役目から解放され、今は安らぎの中にいる尊い存在なんだぞ?」
「敬老」と書かれた扇子を手に、怪長は芝居がかった所作で手を天に向ける。
「そんな安寧に包まれた先輩方が、いまさらおしゃべりや工作の体験会などで癒されると思うのかね?いや癒されない…!」
無駄に反語を晒す怪長をジト目で見ながら、俺は言った。
「…要するに何が言いたいんです?」
「求められるのは『刺激』ということだよ、打本書記…!」
何でだろう。
自信満々な怪長を見ていると「刺激」と言うより「悲劇」に通じる未来しか見えない。
「『刺激』っていったって…一体何をするんだ?」
眼鏡を正しながら、副会長がそう尋ねると、怪長は胸を張って言った。
「先輩方には、かつて手にしていたものの、今は失ったものがある」
そして、自分の胸に手を当てて、怪長は続けた。
「そして、その失ったものを私達は持っている」
顔を見合わせる俺と副会長。
そんな俺達に、怪長は含み笑いを見せつつ宣言した。
「私達が持つそれを今こそ活用する時だ…!」
そう言って哄笑する怪長。
俺と副会長は限りなく不安な表情でそれを見ていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「それではよろしくお願いいたします。お父さん、施設の人に迷惑を掛けないようにね?」
そう言って手を振り、去って行く娘を見送りつつ、及川 源三は、ふと溜息を吐いた。
今年でちょうど80歳。
長く続けてきた仕事を閉じ、静かな老後に身を置いてきた。
連れ添った妻は昨年他界。
一人娘は結婚した後、自宅から嫁ぎ先へと旅立った。
しかし幸いにも孫が出来たのを契機に、独り暮らしの源三の身を案じた娘とその夫が、同居を提案してくれた。
そうして家族四人で仲良く暮らしてきたが、源三に忍び寄った老いの影は日常生活を送る力を徐々に奪っていく。
足腰がおぼつかなくなり、介助が必要になった時、娘から勧められたこの高齢者施設へ通うことを決意した。
源三としては、自分みたいな老人の世話にかまけて、仕事で多忙な夫婦の足かせにはなりたくなかったからだ。
その反面、自らの老いの進行に気分は落ち込む一方だった。
自由にならない体に加えて、腰痛や高血圧などの症状が、健康維持への不安を募らせる。
進化する情報技術にも追い付けず、買ってもらったスマホも電話機能以外は活用できない。
親しかった友人や隣人も一人二人と減っていき、途絶える年賀状も数を増していく。
そんな源三は、若かった頃に思いを馳せることが多くなった。
体力や気力に満ち溢れ、無謀なことにもくじけず、がむしゃらに食らいついて、しのぎきって来たあの頃。
何をするにも楽しかったし、仲間と笑い合って明日を語り、乗り越えてきた。
しかし、今は未来への不安しかない。
この施設へ通うのも、本音では気が重かった。
既につき合いが出来上がっているであろう高齢者達のコミュニティの中に、自分は上手く馴染めるだろうか?
簡単に友人が出来るほど社交的な性格ではないうえ、少々頑固な自分が、果たして受け入れてもらえるだろうか?
そんな不安に、思わず二度目の溜息を吐くと、付き添いの女性ヘルパーが声を掛けてくれた。
彼女の話では、今日、地元の高校生たちが慰問に訪れており、高齢者達と交流しているという。
道理で賑やかなはずだ。
だが、それを聞いて源三は少しだけ安堵する。
現役の高校生とは何の接点も持たなかった源三だが、若者達が来所しているこのタイミングなら、それに乗じて他の高齢者とも仲良くなれるかもしれない。
そんな淡い期待を込めて、源三は案内されたレクリエーションルームへと足を踏み入れた。
「…え?」
そこに広がる光景に、源三は目を丸くして立ち尽くす。
室内は多数の人間が過ごせるように、かなり広い空間造りになっていた。
高い天井に机や椅子、ソファーなどがいくつも備え付けられ、懇談できるような部屋だ。
源三は、そこで若者達が高齢者達と和やかに話したり、お茶を楽しんでいる光景を想像していた。
しかし…
「ハーイ、三番テーブルに玉露、湯飲みタワーで入りまーす♡」
「スゴーイ!テルちゃんお金持ち~♡マジヤバ~♪」
「男前~♡どーせなら遺産全注ぎいっちゃう~?」
「やだぁ♡おさわり厳禁って言ったっしょ~、エロじじいなんだから~♡」
暗幕で暗くなった室内。
天井にはショッキングピンクの照明とミラーボールが輝き、ロック調にアレンジされた演歌がBGMとして流れている。
テーブルやソファーには男女の高齢者がグループで座り、その間には数名の女子高生ギャルやホスト風の男子高生が接待していた。
そんな中をボーイ姿やメイド服の若者達が注文を取り、お茶やお茶菓子を運んでいく。
かと思えば、奥では簡単なステージが作られていて、その上では上半身裸のマッチョな男子高校生がポージングをし、おばあちゃんたちから黄色い声援やチップを受けていた。
「な…なな何だ…コレは…!?」
「ようこそ『BAR 鶴亀』へ」
呆気に取られている源三の前に、バニーガール姿の少女が「歓待」と書かれた扇子を手に現れた。
ラスベガスのカジノにでもいそうなその少女は、若さ溢れるボディを誇示するかのように笑っていた。
「お客さん、初めて?歓迎しますよ♡」
「そ、そうなんだが…いや、君、これは一体どういうことなんじゃ…!?」
健康的な若い肉体に思わず見とれそうになった源三は、首を振って我に返ると、そう問い詰めた。
「き、君達は高校生じゃろう!?なのに、何でこんな破廉恥極まる真似を…!」
その口を、閉じた扇子で押さえると、バニー少女はウインクして見せた。
「野暮なことは無しですよ♡ここは人生の先輩である皆さんを、私達が持っている若さで癒すための憩いの空間」
そう言うと、バニー少女は居並ぶ高齢者達を見やった。
「日頃、老いに心を曇らせている先輩方に、青春の日々を提供し、生きるための活力を補充してもらう…それが私達のボランティアなんです」
源三は改めて周囲を見回した。
各テーブルにいる高齢者達は、皆一様に笑顔だった。
派手なアロハシャツを着込んで豪快に笑うおじいちゃんや、ラメ入りのナイトドレスで華やかな着飾り、化粧までしたおばあちゃんもいる。
「がはははは!嬢ちゃん、めんこいのう!よっしゃ、玉露煎れたる!薬缶で持ってこい、薬缶で!」
「副会長きゅんってばホントイケメンね♡どう?ウチの孫にならない?あたし、遺産持ってるわよぉ~♡」
「あ、そーれ、いっきいっき!」
歳の差も老後の憂いも関係なく、どんちゃん騒ぎまくる高齢者達の姿に、源三は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「お客さん、初回でしたら開始30分はサービスで無料でいいですよ♡」
ニチャア、と笑うバニー少女に源三は目を剝いた。
「なっ…金をとっておるのか!?」
「あん、誤解なさらないで?私達がもらうのは、ただのお小遣いです」
小指を口元に当て、バニー少女は妖艶に笑った。
「ちょうど、おじいちゃんやおばあちゃんが、カワイイ孫を甘やかすのと一緒ですよ♡」
その台詞に再度喉を鳴らす源三。
逡巡する彼を煽るように、ド演歌ロックが鳴り響き続ける。
「…………い…」
「い?」
俯く源三の顔を、バニー少女が覗き込んだ。
「…一時間コースで…お願いする…」
すると、バニー少女はニンマリ笑った。
「まいどあり♡」
そして、店内(?)に向かって声を張り上げる。
「ご新規さんお一人様、一時間コースで入りまーす!!」
「「「いらっしゃ~い♡」」」
たちまち数人のギャルが寄って来て、源三を空いた席へとエスコートする。
戸惑いつつも、若いギャル達に囲まれ徐々に笑顔になっていく源三。
それを見て満足げにうなずくとバニー少女…今回の慰問の発案者である詩騙 陽想華は「養老」と書かれた扇子を広げた。
「命短し謳歌せよ老人。桜花の如く散るまでは…フッ、謳歌だけにな…!」
後日。
派手にやらかした生徒会メンバーは、学校側から大目玉を食らい、当面の間、校内清掃活動ボランティアへの従事を申し渡された。
同時に、高齢者福祉施設からは、慰問のアンコールが寄せられた。
あの慰問以降、高齢者達は見違えて元気になったからだという。
俺の名前は打本 越一。
この降神高校の二年生。
で、生徒会で書記なんかやったりする。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ボランティア?」
「生徒会の最後の良心」にして「鋼鉄の胃を持つ男」こと、副会長が口にした台詞に俺は思わずそう聞き返した。
頷く副会長。
「生徒会活動の一環でな。生徒会に在籍するメンバーや有志で高齢者福祉施設に赴き、慰問という形でイベントを開くことが慣例化しているのだ」
なるほど。
そう言えば昔、うちのばあちゃんも施設でそんなのを経験したって話してたな。
「半月後の日曜日なのだが、打本も参加できるか?」
「ええ。大丈夫っすよ」
予定なら、スマホ内のカレンダーアプリに入れてある。
確認すると、指定された日は真っ白だ。
休日っていうのは正直微妙だけど、ボランティア活動は未経験だし、一回くらいならやっておくのも面白そうだ。
欠席しても、父ちゃんに店でこき使われるのは目に見えてるし。
「で、一体どんなことをやるんです?」
俺がそう尋ねると、副会長は手にした資料をめくった。
「昨年は劇を披露したらしい。演目は『小公女』だったそうだ」
「小公女」…確かいいところの出身だったお嬢様が、父親の訃報で使用人の地位に落とされて辛い思いをするけど、最後には親切な富豪によって父親の遺産を引き継ぎ、幸せになるという話だったっけ。
まあ、児童文学らしいけど、心清らかな少女が健気に耐える物語みたいだし、高齢者のみなさんに見せるには当たり障りのない演目だ。
「当時のメンバーには演劇部の部員も加わっていたそうだから、出来栄えもなかなかだったらしいし、施設の皆さんにも好評だったそうだ」
資料を閉じながら、副会長がそう補足する。
「じゃあ、今回も演劇にするんすか?」
俺がそう尋ねると、副会長は顎に手を当てて考え込んだ。
「ふむ…候補にしたいところだが、今回のメンバー構成を見ると少々荷が重いと思う」
そうか。
今年度は演劇部の連中によるバックアップは望めないんだな。
「個人的にはハンドクラフトの体験会とか、本などの朗読。普通に話し相手になったり、将棋や囲碁の対戦相手になるだけでも喜ばれると思うのだが…」
「甘いな」
突然。
近寄る気配もなく「下策」と書かれた扇子を手に、生徒怪長こと詩騙 陽想華参上。
怪長の急な登場には慣れっこだった俺と副会長だけど、思わず飛びのいた。
「か、怪長!心臓に悪いからそういう登場は月に三回までにしてくれってあれほど…!」
「そのような些末事はどうでもいい」
扇子をピシャッと閉じ、怪長は副会長を見やった。
「副会長、いま君が述べたありきたりな内容で、人生の先輩方が喜ぶと思うのかね…?」
「い、いや、普通に喜ばれると思うのだが?」
反論する副会長に扇子を突き付け、怪長は真剣な表情で詰め寄った。
「いいか、副会長。人生の先輩方は世間の荒波にもまれ、家族を守り抜き、その過酷な役目から解放され、今は安らぎの中にいる尊い存在なんだぞ?」
「敬老」と書かれた扇子を手に、怪長は芝居がかった所作で手を天に向ける。
「そんな安寧に包まれた先輩方が、いまさらおしゃべりや工作の体験会などで癒されると思うのかね?いや癒されない…!」
無駄に反語を晒す怪長をジト目で見ながら、俺は言った。
「…要するに何が言いたいんです?」
「求められるのは『刺激』ということだよ、打本書記…!」
何でだろう。
自信満々な怪長を見ていると「刺激」と言うより「悲劇」に通じる未来しか見えない。
「『刺激』っていったって…一体何をするんだ?」
眼鏡を正しながら、副会長がそう尋ねると、怪長は胸を張って言った。
「先輩方には、かつて手にしていたものの、今は失ったものがある」
そして、自分の胸に手を当てて、怪長は続けた。
「そして、その失ったものを私達は持っている」
顔を見合わせる俺と副会長。
そんな俺達に、怪長は含み笑いを見せつつ宣言した。
「私達が持つそれを今こそ活用する時だ…!」
そう言って哄笑する怪長。
俺と副会長は限りなく不安な表情でそれを見ていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「それではよろしくお願いいたします。お父さん、施設の人に迷惑を掛けないようにね?」
そう言って手を振り、去って行く娘を見送りつつ、及川 源三は、ふと溜息を吐いた。
今年でちょうど80歳。
長く続けてきた仕事を閉じ、静かな老後に身を置いてきた。
連れ添った妻は昨年他界。
一人娘は結婚した後、自宅から嫁ぎ先へと旅立った。
しかし幸いにも孫が出来たのを契機に、独り暮らしの源三の身を案じた娘とその夫が、同居を提案してくれた。
そうして家族四人で仲良く暮らしてきたが、源三に忍び寄った老いの影は日常生活を送る力を徐々に奪っていく。
足腰がおぼつかなくなり、介助が必要になった時、娘から勧められたこの高齢者施設へ通うことを決意した。
源三としては、自分みたいな老人の世話にかまけて、仕事で多忙な夫婦の足かせにはなりたくなかったからだ。
その反面、自らの老いの進行に気分は落ち込む一方だった。
自由にならない体に加えて、腰痛や高血圧などの症状が、健康維持への不安を募らせる。
進化する情報技術にも追い付けず、買ってもらったスマホも電話機能以外は活用できない。
親しかった友人や隣人も一人二人と減っていき、途絶える年賀状も数を増していく。
そんな源三は、若かった頃に思いを馳せることが多くなった。
体力や気力に満ち溢れ、無謀なことにもくじけず、がむしゃらに食らいついて、しのぎきって来たあの頃。
何をするにも楽しかったし、仲間と笑い合って明日を語り、乗り越えてきた。
しかし、今は未来への不安しかない。
この施設へ通うのも、本音では気が重かった。
既につき合いが出来上がっているであろう高齢者達のコミュニティの中に、自分は上手く馴染めるだろうか?
簡単に友人が出来るほど社交的な性格ではないうえ、少々頑固な自分が、果たして受け入れてもらえるだろうか?
そんな不安に、思わず二度目の溜息を吐くと、付き添いの女性ヘルパーが声を掛けてくれた。
彼女の話では、今日、地元の高校生たちが慰問に訪れており、高齢者達と交流しているという。
道理で賑やかなはずだ。
だが、それを聞いて源三は少しだけ安堵する。
現役の高校生とは何の接点も持たなかった源三だが、若者達が来所しているこのタイミングなら、それに乗じて他の高齢者とも仲良くなれるかもしれない。
そんな淡い期待を込めて、源三は案内されたレクリエーションルームへと足を踏み入れた。
「…え?」
そこに広がる光景に、源三は目を丸くして立ち尽くす。
室内は多数の人間が過ごせるように、かなり広い空間造りになっていた。
高い天井に机や椅子、ソファーなどがいくつも備え付けられ、懇談できるような部屋だ。
源三は、そこで若者達が高齢者達と和やかに話したり、お茶を楽しんでいる光景を想像していた。
しかし…
「ハーイ、三番テーブルに玉露、湯飲みタワーで入りまーす♡」
「スゴーイ!テルちゃんお金持ち~♡マジヤバ~♪」
「男前~♡どーせなら遺産全注ぎいっちゃう~?」
「やだぁ♡おさわり厳禁って言ったっしょ~、エロじじいなんだから~♡」
暗幕で暗くなった室内。
天井にはショッキングピンクの照明とミラーボールが輝き、ロック調にアレンジされた演歌がBGMとして流れている。
テーブルやソファーには男女の高齢者がグループで座り、その間には数名の女子高生ギャルやホスト風の男子高生が接待していた。
そんな中をボーイ姿やメイド服の若者達が注文を取り、お茶やお茶菓子を運んでいく。
かと思えば、奥では簡単なステージが作られていて、その上では上半身裸のマッチョな男子高校生がポージングをし、おばあちゃんたちから黄色い声援やチップを受けていた。
「な…なな何だ…コレは…!?」
「ようこそ『BAR 鶴亀』へ」
呆気に取られている源三の前に、バニーガール姿の少女が「歓待」と書かれた扇子を手に現れた。
ラスベガスのカジノにでもいそうなその少女は、若さ溢れるボディを誇示するかのように笑っていた。
「お客さん、初めて?歓迎しますよ♡」
「そ、そうなんだが…いや、君、これは一体どういうことなんじゃ…!?」
健康的な若い肉体に思わず見とれそうになった源三は、首を振って我に返ると、そう問い詰めた。
「き、君達は高校生じゃろう!?なのに、何でこんな破廉恥極まる真似を…!」
その口を、閉じた扇子で押さえると、バニー少女はウインクして見せた。
「野暮なことは無しですよ♡ここは人生の先輩である皆さんを、私達が持っている若さで癒すための憩いの空間」
そう言うと、バニー少女は居並ぶ高齢者達を見やった。
「日頃、老いに心を曇らせている先輩方に、青春の日々を提供し、生きるための活力を補充してもらう…それが私達のボランティアなんです」
源三は改めて周囲を見回した。
各テーブルにいる高齢者達は、皆一様に笑顔だった。
派手なアロハシャツを着込んで豪快に笑うおじいちゃんや、ラメ入りのナイトドレスで華やかな着飾り、化粧までしたおばあちゃんもいる。
「がはははは!嬢ちゃん、めんこいのう!よっしゃ、玉露煎れたる!薬缶で持ってこい、薬缶で!」
「副会長きゅんってばホントイケメンね♡どう?ウチの孫にならない?あたし、遺産持ってるわよぉ~♡」
「あ、そーれ、いっきいっき!」
歳の差も老後の憂いも関係なく、どんちゃん騒ぎまくる高齢者達の姿に、源三は思わずゴクリと唾を飲み込んだ。
「お客さん、初回でしたら開始30分はサービスで無料でいいですよ♡」
ニチャア、と笑うバニー少女に源三は目を剝いた。
「なっ…金をとっておるのか!?」
「あん、誤解なさらないで?私達がもらうのは、ただのお小遣いです」
小指を口元に当て、バニー少女は妖艶に笑った。
「ちょうど、おじいちゃんやおばあちゃんが、カワイイ孫を甘やかすのと一緒ですよ♡」
その台詞に再度喉を鳴らす源三。
逡巡する彼を煽るように、ド演歌ロックが鳴り響き続ける。
「…………い…」
「い?」
俯く源三の顔を、バニー少女が覗き込んだ。
「…一時間コースで…お願いする…」
すると、バニー少女はニンマリ笑った。
「まいどあり♡」
そして、店内(?)に向かって声を張り上げる。
「ご新規さんお一人様、一時間コースで入りまーす!!」
「「「いらっしゃ~い♡」」」
たちまち数人のギャルが寄って来て、源三を空いた席へとエスコートする。
戸惑いつつも、若いギャル達に囲まれ徐々に笑顔になっていく源三。
それを見て満足げにうなずくとバニー少女…今回の慰問の発案者である詩騙 陽想華は「養老」と書かれた扇子を広げた。
「命短し謳歌せよ老人。桜花の如く散るまでは…フッ、謳歌だけにな…!」
後日。
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