生徒怪長は"ぬらりひょん"

詩月 七夜

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第六ひょん 怪長は生まれ変わる

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 俺達の高校の生徒会長は特別住民(ようかい)である。

 俺の名前は打本うちもと 越一こしかず
 この降神おりがみ高校の二年生。
 で、生徒会で書記なんかやったりする。

◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「さて、本日の会議だが」

 厳めしい表情で眼鏡のブリッジをクイッと押し上げたのは「生徒会の影の立役者」「降高オリコー生徒会最後の良心」と数々の二つ名を持つ副会長だった。
 その名のとおり、彼は縁の下の力持ちとしてこの生徒会を支える存在だ。
 校内に横たわる数多の問題・課題を解決し、生徒たちがより良い学校生活を送ることができるよう、彼が日々粉骨砕身の精神で職務に専念してくれるおかげで、俺たち生徒会メンバーはそれぞれのスペックを活かし、活動することができる。
 それゆえ、副会長は人望があり、教師たちからの信任も厚い。
 文武に長け、クールで整った外見をしていので女生徒にも隠れファンが多かった。
 そんな完全無欠な彼が、唯一制することができない存在がいた。

 それは生徒怪長こと、詩騙うたかた 陽想華ひそかである。

「怪長はどこに行った、打本?」

 当然のように俺に尋ねてくる副会長。
 俺は深く溜息を吐いた。

「…怪長のことをいちいち俺に聞かないでくださいよ、副会長。俺は怪長の付き人じゃないんですから」

「すまん。お前が一番彼女との接触機会が多いように思えたんでな」

「否定はしませんが、偶然ですって」

 あるいは、俺が貧乏くじを引く確率が高いかだ。
 完璧な副会長に対して、我が校の生徒怪長は何かと問題のある人物である。
 別に反社会的な態度をとったりしているわけではない。
 とにかく、ポンコツなのだ。
 見てくれは怜悧れいりとした完全無欠の美少女なのだが、行動は奇天烈だし、会議はサボるし、出てきてもいつの間にか姿を消す。
 その辺りは妖怪“ぬらりひょん”らしいといえばらしいのだが、生徒会のトップとしてははなはだ問題ありだ。
 そして、そのしわ寄せはすべて副会長に行くことになる。
 よって、副会長にとって怪長は制するのに苦労する相手だった。

「はあ、まったく…今日は一体どこで油を売っているのやら」

「すまん、遅くなった」

 と、突然、生徒会室の扉が開かれた。
 そこに居たのはくだんの生徒怪長だった。
 怪長は普段見せない真剣な表情で告げた。

「次の全校集会で学校側が読み上げる原稿に目を通していたら、個人的に疑義が生じてな。今まで職員室で調整をしていたんだ」

 そう言いながら、手にしていた書類を卓上に置く怪長。

「学校側はこれまで以上に風紀の強化を目論んでいるようだったが、行き過ぎたルールの厳格化は生徒会自治の委縮に繋がりかねん。多少揉めたが、何とか現状維持には持ち込んでみた。今後は今まで以上に学校側の動きを注視する必要があるな」

 そう言うと、怪長は別の書類を叩きながら俺に向き直った。

「打本、今回の生徒怪長の挨拶文はお前の推敲だったな。例年通している無難な線でまとめるのはいいが、もっと生徒たちの自主性に訴えかけるよう、呼びかけるように私の方で文体を練り直してみた。校正を兼ねて誤字脱字のチェックを頼む。急かしはせんが、明日の朝までには仕上げてもらいたい」

 そして、とどめに全員を見回して、

「それと、学校側からの通達だ。最近、旧校舎周辺で不審な人物や怪奇現象の発生が報告されているらしい。この件について今回の全校集会で学校側と連携し、全校生徒にも注意を促す予定だから各位留意しておいてくれ。また、我々生徒会側の対策として、特別住民ようかいの生徒有志を中心とした見回り部隊を編成しようと思う。以前、当校の女生徒が誘拐されて際にも同様の措置で事件を解決できた例を見ても有効な手段だと考えているが、各位で考えている案があるようなら遠慮なく進言してくれ」

しーーーーーーーーーーーーーーーーーーん

 静まり返る生徒会室。
 目を見開くメンバー一同。
 その場にへたりこむ俺。
 書類をバサバサと取り落とす副会長。
 各々、時間が停止した状態が続いた後、

「乱心だーーーーー!怪長がご乱心されたぞーーーーー!!」
「え、衛生兵ッ!!衛生兵を呼べーっ!!」
「馬鹿、救急車だろ救急車!!」
「祟りじゃ!これは祟りじゃあーッ!!」
「悪霊退散!悪霊退散!生徒怪長の身体から即時退散せよ!」
「ここは自衛隊派遣要請を!」
「いやまず気象庁の災害情報を確認しろ!天変地異の前触れかも…!」
「至急、全校生徒に校外退避指示を!何かが…何かが起こるぞ!」

 まさに上に下にの大騒ぎ。
 生徒会メンバーが血相を変えて騒ぎ出す。
 気持ちは分かる。
 怪長が立て続けにまともなことを言い出したのだ。
 本人が乱心したとか、悪霊に憑りつかれたとか、天変地異の前触れだとか勘繰られても仕方がない。

「詩騙!一体どうしたのだ!?何か悪いものでも食べたのか!?それとも隕石が頭にぶつかったとか!?」

 副会長がこの世のものではないものを見るような目でそう尋ねる。
 すると、一斉に騒ぎ出した皆にポカンとしていた怪長は、溜息を吐いて言った。

「…何を言っているのだ、副会長。あと、君達は私を何だと思っているのだ?」

「いつもちゃらんぽらんで、会議もサボれば行事もサボる非常識かつ無責任なダメ生徒怪長」

 間髪入れず、よどみなくそう答える副会長。
 怪長は苦虫を噛み潰したような顔をした。

「うーむ…事実だけにぐうの音も出ん…」

「本当にどうしたんですか、怪長…!?」

 へたり込んでいる場合ではない。
 俺は何とか立ち上がると、怪長に尋ねた。

「いつもと全然キャラが違うじゃないですか!?そりゃ皆も壮大にパニクるに決まってますって!」

 思わず詰問口調になったが、仕方あるまい。
 いま目にした言動は、普段の彼女のキャラからは180度異なるものだ。
 怪長はこめかみを指で押さえた。

「打本書記、君もか」

「俺もですよ。この騒動の元凶は怪長なんですから、説明責任は怪長にあるんです」

 俺がそう言うと、怪長は腕を組んでそっぽを向いた。

「…ちょっとしたプレゼントのつもりだったのだ」

 全員が顔を見合わせる。

「プレゼントって…誰のです」

 俺の問い掛けに、怪長は少し照れくさそうに言った。

「副会長にだよ」

「は?俺に!?」

 意外そのものの顔になる副会長。
 怪長は頷くと、

「今日は君の誕生日だろう?」

 再び全員が顔を見合わせた後、副会長に視線が集中する。
 副会長は眼鏡のブリッジを押し上げながら言った。

「た、確かにそうだが…それとお前の奇態に何の関係がある?」

「日頃のお礼というやつだ」

 フッと笑うと怪長は続けた。

「普段から君には私の片腕として、生徒会の運営に尽力してもらっている。言ってみれば、私の代わりに様々な重荷も背負ってくれているわけだ」

 怪長はややうつむくと、静かに微笑んだ。

「こんなポンコツな私など、とっくに見捨てられて当然なのにな」

「詩騙…いや、怪長…」

 怪長のその様子に、副会長も真剣な表情になって立ち尽くす。

「私はこんな出来の悪い奴だから、優秀な君にプレゼントとして贈ることができるものが無い…だから、せめて生徒会長として真剣な自分を見て欲しかったんだ」

 そう言ってから、怪長は全員を見回した。

「皆、混乱させてしまってすまない。だが、私は真剣だ。生徒会を真摯に支えてくれている副会長に、厚い感謝を込めて今の私を贈りたいのだ」

 再び静まり返る生徒会室。
 誰もが言葉を発せず、怪長の真剣な表情に見入っていた。
 俺も言葉を発することができなかった。
 まさか、怪長の口からこんな言葉を聞くことができる日が来るなんて思いもしなかった。
 普段、自由奔放に振る舞い、唯我独尊を地で行くあの怪長が誰かのために行動を正すなんて…

パチパチパチ…

 不意に拍手が鳴った。
 見れば、副会長が一人拍手をしている。
 眼鏡の奥の涼し気な目じりには、うっすらと光る何かが浮かんでいた。

「最高の贈り物だ…ありがとう、怪長…!」

 こみ上げてくるものを飲み込みながら、やや照れくさそうに副会長がそう言った。
 それに一人、二人と追従するように拍手をし始め、最後には全員が拍手をしていた。

「さすがは皆の生徒怪長!やるときゃやる女!」
「泣かせますね、怪長!」
「くそ、今のシーン録画しておきたかったぜ!」
「やだ、泣かないでよ」
「だって、感動しちゃって…」

 感動に沸く一同の中、怪長は嬉しそうに笑顔になっていた。
 その日、怪長の提案で副会長の誕生日を祝うパーティーも急遽開催された。
 パーティーは大いに盛り上がり、堅物の副会長も珍しく終始笑顔で過ごしていた。




 追伸。
 なお、副会長の誕生日が終わった翌日、怪長が元のポンコツに戻り、会議をサボったのは言うまでもない。
 それに対し、副会長がキレ散らかしたのも同様である。
 やれやれ…
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