【8月8日「妖怪の日」記念短編集】「汝、妖」 -いまし、あやかし-

詩月 七夜

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第二話 鬼女

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 昔々。

 まだ、人の世の闇が現代より濃かった頃の話。
 奥羽は阿武隈川の周辺に「安達ケ原あだちがはら」の呼ばれる原野があり、そこには恐ろしい鬼婆が住んでいると噂されていた。
 恐ろしいことに鬼婆は、通りがかった旅人を襲っては食い殺しているとされ、誰も安達ケ原には寄り付かなくなった。

 そこへ、何も知らぬ旅の若者が訪れた。
 若者…めぐるは、安達ケ原を通りがかった頃、運悪く日が暮れてしまい、途方に暮れていた。

「はぁ…参ったな。こりゃあ、野宿しかないか…」

 そう諦めかけていた時、

「もし、旅のお方。何かお困りで?」

 不意に声を掛けられ、巡が驚いて振り向くと、そこには何とも美しい妙齢の女が一人、立っていた。

「はい。実はかくかくしかじか、うんぬんそうそう…でございまして」

 このような場所に女一人で…と、不思議に思いつつ巡が説明すると、女は気の毒そうに、

「まあ、それはお困りでしょう。よろしければ、私の家にいらっしゃいませんか?」

「それは有り難い。ぜひお願いいたします」

 こうして、女に連れられ、巡は一件の家へと案内された。
 女は巡をよくもてなし、巡も大いに喜ぶが、旅路の疲れもあり、早々に床へ就いた。

 その夜。

シャーコ…
シャーコ…
シャーコ…

 夜も更けた頃、何かが擦れる音を耳にし、目を覚ます巡。
 ふと見ると、隣の部屋から明かりが漏れている。
 さては、あの女が夜なべ仕事でもしているのだろう。
 身体も休まった巡は、ささやかでも手伝ってやろうと隣の部屋を覗いて戦慄した。

「な…!?」

 そこには…

「1569!1570!1571!1572!」

 何と、トレーニングウェア姿の女がチェストブレスに励む姿が…!

ガタン

「むっ!?」

 驚きのあまり、物音を立ててしまった巡に気付く女。
 ゆっくりと襖が開かれると、そこには角を生やし、瞳を金色に光らせた女の姿が!
 腰を抜かした巡に、女は顔を赤らめ、胸を隠した。

「見たな?」

「え?は?いや…僕は何も…!」

 女がワナワナと震え出す。

「嘘を吐くな。年齢のせいで、最近少し弛んできた私の胸を見て、せせ笑っていいただろう?」

 巡の目が点になる。
 ちなみに、女の胸はトレーニングウェアの上から見ても「たわわ」であり、十分なボリュームと張りを誇っていた。

「そ、そそそそんなこと、思ってないですよ!?」

「…本当か?」

「本当!本当です!」

「よし、ならば誠意を見せてもらおう」

「は?せ、誠意…ですか?」

 女は巡の前に一枚の紙を差し出した。
 紙には「婚姻届」と記されている。
 巡の全身から、ドッと汗が噴き出す。

「あ、あの、主任、これって…」

「黙れ、主任ではない。私は鬼女“岩手いわて”だ。お前には私の良人おっととなってもらう。拒否は許さん」

「そんないきなり!?」

「ふふ…これで私も専業主婦永久就職だ。では…早速だが、初夜と洒落込もう」

「はいぃぃぃぃぃ!?」

「今まで連れ込んだ奴は皆逃げ出してしまったが、お前は絶対に逃がさん。安心しろ、なるべく優しくしてやる。それとも痛い方が好みか?私はそっちが好みだ」

 巡の襟首を掴み、奥の寝室へと引きずっていく鬼女。
 巡は絶叫した。

「うわぁぁぁぁッ!?お母さーんッ!!」


 その後、安達ケ原で旅人がいなくなることは無くなった。
 代わりに、仲睦まじい夫婦(夫の方はやつれていたが)の姿が目撃されるようになったそうな。

 あなおそろしきことなり。   
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