41 / 41
第四十一話 突撃!隣の(森の)エルフさん
しおりを挟む
「ここが西の森…」
“洞巨人”を“日和坊が呼び寄せた”陽の光で石化させ、光が途切れない元の位置に戻した後、俺達は“楔”を貫通するトンネルを通り抜け、反対側の「西の森」へと到着した。
広大な“緑の迷宮”の西側にあるこの森は、エルフ達が住まう集落がある。
俺達はその中でも最大の集落「精都ルミナス」を目指すことにした。
そこにはエルフ達を束ねる族長がいるという。
俺達が森の中を動き回ることについて、まずは族長への顔通しと許可を得ることは避けられないそうだ。
そして、そのためには、ダークエルフ族の中でも王族クラスの地位にいて、名前も顔が売れているアシュレーさんに上手く交渉してもらうしかない。
「ここに来る前にも言ったが、期待はしないで欲しい」
そう言ったのは、俺達の先頭に立つアシュレーさん当人だ。
西の森は反対に広がる東の森に比べると、植生も違うのか、木漏れ日が多く降り注いでいる。
彼女はその下に伸びる小道を、用心しながら進んでいた。
その後に俺とラノさん、殿をグレナスさんとクロエさんが固める。
「確かに私はダークエルフ族の中でもそれなりの地位にはいる。それゆえ、エルフ族にも覚えのある存在だ」
周囲の気配を探るように、視線を走らせるアシュレーさん。
「それでも、エルフ達にしてみれば私達ダークエルフは気を許せる相手ではない。いきなり捕縛されるようなことは無いだろうが、絶対に歓迎されん」
まあ、ここ数百年は両者の交流は無かったらしいし、俺達人間まで姿を表したらエルフ達も目を剥くだろうな。
「とにかく、相手を刺激しないことだ。下手に刺激すれば、いらぬ騒ぎが起きて下手をすれば捕虜に…」
『生体反応あり』
アシュレーさんの言葉を遮り、腰の“魔王の小槌”がサラッと報告する。
『数は10。樹上に6、地上に4。私達を包囲してるだわ』
俺の技能「直感」と「気配察知」にビンビンきてる。
もう間違いない。
「俺も捉えたよ。これってやっぱ、エルフ?」
俺の問いに小槌が答えた。
『間違いないだわ。ついでに言うと、完全武装してるだわよ』
やっぱり。
向こうは警戒しまくりだよね。
「アルト殿…?急に立ち止まってどうされましたか…?」
背後を進んでいたグレナスさんが怪訝そうな顔で尋ねてくる。
ああ、そう言えば小槌の声は他の人には聞こえないんだった。
「ええと…何かエルフの皆さんに囲まれてるっぽいです」
俺がそう言うと、全員が即座に反応した。
「本当か、アルト殿!?」
「ご主人様、私の背後に…!」
「クロエ、ラノ殿と一緒にアルト殿を守れ…!」
「はい、兄さん…!」
出会った際にアシュレーさん達の接近を見抜いた俺だ。
その索敵能力の高さは、皆も評価してくれている。
実際、ここに来るまでの間に何度も魔物の接近を警告し、感嘆されたしね。
しかし…アシュレーさん達だって野伏として鋭敏な気配察知能力を持っているのに、こうも簡単に包囲してくるなんて。
ダークエルフと同じ“精霊の加護”を持っているエルフ達っていうこともあるんだろうけど、やはりここがホームグラウンドの森だからかな…?
「…全員、武器は抜くな」
声を潜めてアシュレーさんが言った。
「先制攻撃が無いということは、少なくとも害意は持っていないだろう。こちらも敵意を見せないよう、自然に振舞うんだ。とにかく友好的に、だ」
口ではそう言ったものの、アシュレーさん達はいたく緊張していた。
それだけ、エルフとダークエルフの間には確執があるってことなんだろう。
「これはどういうことでしょうか」
不意に鈴が鳴るような澄んだ女性の声が響く。
声のした方を見ると、6人の男女が姿を見せた。
いずれも軽装だが、弓矢や皮鎧などで身を固めている。
そして、全員が美男美女ぞろいだ。
陶器の白い肌に金糸のような金髪。
そして、長く尖った耳。
まごうことなきエルフである。
いまさら説明するのもアレだけど、エルフはゲルマン神話に起源を持つ北欧州の民間伝承に登場する種族だ。
北欧神話に登場する彼らは自然の豊饒さを司る不死か長命の小神族で、とても美しく若々しい外見を持ち、森や泉などに住むとされた。
近代になるとそうした伝承からファンタジーRPGに登場するようなイメージが定着していったとされる。
そんな彼らを率いるように立つ一人の女性がいた。
一言で言うならその美貌はまさに女神。
流れ落ちる黄金の滝のごとき金髪と、微光を放っているかのような白い肌。
顔立ちはまさに神の手による創造物のように整っていて、アシュレーさんにも引けはとらない美女っぷりだ。
白い薄布に纏い、美脚を辛うじて覆うきわどい短女裳に驚かされるが、これがエルフ族の基本的な服装なら仕方がない。
いや実に仕方がない。
あと、横でラノさんがジト目で俺を凝視してくるのは、何かの誤解のせいだと思っておこう。
「セフィラ…」
グレナスさんが呻くようにそう言った。
見れば、何とも言えない苦々しい顔つきになっている。
「グレナスさん、知り合いなんですか…?」
俺がそう尋ねると、グレナスさんは頷いた。
「はい。ダークエルフとエルフの会合が行われた、幼少の頃に少しだけ」
そう答えてくれたけど、グレナスさんの表情を見ると、何か事情がありそうだな…
「まあ、グレナス。こうして顔を合わせるのはかれこれ千年ぶりかしら」
そう言って花のように笑うセフィラさん。
いや、千年ぶりって…
人間とエルフ、ダークエルフの年齢進行の格差は知識として分かってるけど、こうして当人達の会話を聞くと時間の感覚がバグりそうだ。
にしても、セフィラさんの目が笑っていないぞ。
やはり、二人の間には何か因縁めいたものがありそうだ。
「それにしても…ミストの姫までご一緒とは。こちらに事前の通告もなく“楔”を抜けて領域侵犯をするなんて、間違いなく大問題だと思いますが…」
セフィラさんの視線を受け、アシュレーさんが軽く片膝を曲げ、首を垂れる。
「その非礼については詫びよう。しかし、我々に貴方達を害する意思はない」
そう言うと、アシュレーさんはまっすぐにセフィラさんを見た。
「私達はある事情があって、ユーフェミア様に面会したいだけなんだ」
「族長に…?」
ちなみにユーフェミア様というのは、精都ルミナスにいるエルフ族の長老で、一族をまとめる存在なのだとか。
「そんなことを認めるわけがないだろう!」
突然声を荒げたのは、セフィラさんの隣に立つ若者だ。
エルフにしては珍しく短髪で、繊細さより精悍さが際立つ美丈夫である。
そして、セフィラさんとは違い、あからさまにこちらへ敵意を向けてきている。
「一方的に俺達の森に侵入し、理由も告げずにユーフェミア様に合わせろだと!?馬鹿にしているのか…!?」
セフィラさんが激高する若者を手で制する。
「落ち着いて、ユリアン」
「いいや、言わせてもらうぞ、姉上…!」
この二人、姉弟なんだ?
何か、あんまり似てないし、性格とか真逆っぽいな。
そうして俺を指差すユリアン君。
「見ればコイツは人間じゃないか!卑怯で下劣で、俺達エルフを汚す外道が!よくもこの森にやってこれたな…!」
…おお、何かすごいヘイトを食らってるな。
けど、無理もない。
以前聞いたんだけど、ラノさんが生まれ育った里なんかは人間達の戦争のあおりを受け、壊滅したという。
その際、彼女の母親を含む多数のエルフが犠牲になったり、さらわれたらしい。
人間にとってはそれなりに昔の出来事だけど、長命なエルフ達にしてみればさほど遠い過去ではないんだろう。
「アルトさんはそんな悪い人間じゃないです…!」
そうかばってくれたのはクロエさんだ。
彼女は背の高いユリアン君にも物おじせず、彼を睨みつけた。
「おや?いたのか、チビっ子」
それに気付いたユリアン君が、鼻で笑う。
「相変わらず身体も声も小さいな。小妖精の囁きかと思ったじゃないか」
そう言いながらあからさまな嘲笑を向けてくるユリアン君。
うんまあ、確かにクロエさんはモデル体型のアシュレーさんに比べると小柄な方だ。
性格も物静かな方だから、声も大きい方じゃない。
その自覚があるのか、ユリアン君のあおりにクロエさんは歯を食いしばって睨み返していた。
俺はこっそりグレナスさんに尋ねた。
(もしかしてあの二人も知り合い同士で…?)
(ええ。私とセフィラ同様、あの二人も年齢が近く、子供の頃から面識があるんです)
ちなみにグレナスさん情報だと、セフィラさんは「精霊使い」で、ユリアン君は「獣使い」らしい。
精霊使いは後衛職である魔術師の一種で精霊魔術という系統魔術を使いこなす。
エルフやダークエルフは生来この資質を強く持って生まれるけど、精霊使いの職種にある者は群を抜いていて、精霊達と交信し、様々な術を使用できるという。
つまり、彼女はアシュレーさん達をも上回る精霊魔術の専門家ということだ。
獣使いはその名のごとく、鳥獣を友とし、使役できる職種で、希少な職種でもある。
本人の戦闘能力次第では前衛もこなせるので、オールラウンダーとして活躍できる。
生来の才覚に左右されやすいうえ、友とする動物達との相性もあるようだけど、空海陸に棲む多種多様な動物達による支援を受けられるので侮れない。
味方にいれば心強いけど、敵に回せば怖い存在となるだろう。
「ここにいるアルト殿は我々の恩人だ」
アシュレーさんがそう告げた。
「彼がハモウナの町の冒険者ギルドに所属しているのは間違いない。身分も人柄も、この私が保証しよう」
凛としてそう言い切ってくれたのを聞き、俺は素直に感動した。
出会った時は印象最悪だったけど、俺が想像していた以上に彼女は恩義を感じていてくれたんだ。
「へぇ…じゃあ、もう一つ聞きますがね」
ユリアン君が意地の悪い笑みを浮かべる。
「そっちの混ざりものはどういった素性で?」
それにラノさんがハッとする。
そして、慌てたように首に手を当てた。
そこには奴隷の証である「隷従輪」が刻印されている。
ユリアン君の笑みが、敵意に満ちた表情へと変わった。
「…よう、混ざりもの。それを刻んだのは誰だか言ってみろ」
“洞巨人”を“日和坊が呼び寄せた”陽の光で石化させ、光が途切れない元の位置に戻した後、俺達は“楔”を貫通するトンネルを通り抜け、反対側の「西の森」へと到着した。
広大な“緑の迷宮”の西側にあるこの森は、エルフ達が住まう集落がある。
俺達はその中でも最大の集落「精都ルミナス」を目指すことにした。
そこにはエルフ達を束ねる族長がいるという。
俺達が森の中を動き回ることについて、まずは族長への顔通しと許可を得ることは避けられないそうだ。
そして、そのためには、ダークエルフ族の中でも王族クラスの地位にいて、名前も顔が売れているアシュレーさんに上手く交渉してもらうしかない。
「ここに来る前にも言ったが、期待はしないで欲しい」
そう言ったのは、俺達の先頭に立つアシュレーさん当人だ。
西の森は反対に広がる東の森に比べると、植生も違うのか、木漏れ日が多く降り注いでいる。
彼女はその下に伸びる小道を、用心しながら進んでいた。
その後に俺とラノさん、殿をグレナスさんとクロエさんが固める。
「確かに私はダークエルフ族の中でもそれなりの地位にはいる。それゆえ、エルフ族にも覚えのある存在だ」
周囲の気配を探るように、視線を走らせるアシュレーさん。
「それでも、エルフ達にしてみれば私達ダークエルフは気を許せる相手ではない。いきなり捕縛されるようなことは無いだろうが、絶対に歓迎されん」
まあ、ここ数百年は両者の交流は無かったらしいし、俺達人間まで姿を表したらエルフ達も目を剥くだろうな。
「とにかく、相手を刺激しないことだ。下手に刺激すれば、いらぬ騒ぎが起きて下手をすれば捕虜に…」
『生体反応あり』
アシュレーさんの言葉を遮り、腰の“魔王の小槌”がサラッと報告する。
『数は10。樹上に6、地上に4。私達を包囲してるだわ』
俺の技能「直感」と「気配察知」にビンビンきてる。
もう間違いない。
「俺も捉えたよ。これってやっぱ、エルフ?」
俺の問いに小槌が答えた。
『間違いないだわ。ついでに言うと、完全武装してるだわよ』
やっぱり。
向こうは警戒しまくりだよね。
「アルト殿…?急に立ち止まってどうされましたか…?」
背後を進んでいたグレナスさんが怪訝そうな顔で尋ねてくる。
ああ、そう言えば小槌の声は他の人には聞こえないんだった。
「ええと…何かエルフの皆さんに囲まれてるっぽいです」
俺がそう言うと、全員が即座に反応した。
「本当か、アルト殿!?」
「ご主人様、私の背後に…!」
「クロエ、ラノ殿と一緒にアルト殿を守れ…!」
「はい、兄さん…!」
出会った際にアシュレーさん達の接近を見抜いた俺だ。
その索敵能力の高さは、皆も評価してくれている。
実際、ここに来るまでの間に何度も魔物の接近を警告し、感嘆されたしね。
しかし…アシュレーさん達だって野伏として鋭敏な気配察知能力を持っているのに、こうも簡単に包囲してくるなんて。
ダークエルフと同じ“精霊の加護”を持っているエルフ達っていうこともあるんだろうけど、やはりここがホームグラウンドの森だからかな…?
「…全員、武器は抜くな」
声を潜めてアシュレーさんが言った。
「先制攻撃が無いということは、少なくとも害意は持っていないだろう。こちらも敵意を見せないよう、自然に振舞うんだ。とにかく友好的に、だ」
口ではそう言ったものの、アシュレーさん達はいたく緊張していた。
それだけ、エルフとダークエルフの間には確執があるってことなんだろう。
「これはどういうことでしょうか」
不意に鈴が鳴るような澄んだ女性の声が響く。
声のした方を見ると、6人の男女が姿を見せた。
いずれも軽装だが、弓矢や皮鎧などで身を固めている。
そして、全員が美男美女ぞろいだ。
陶器の白い肌に金糸のような金髪。
そして、長く尖った耳。
まごうことなきエルフである。
いまさら説明するのもアレだけど、エルフはゲルマン神話に起源を持つ北欧州の民間伝承に登場する種族だ。
北欧神話に登場する彼らは自然の豊饒さを司る不死か長命の小神族で、とても美しく若々しい外見を持ち、森や泉などに住むとされた。
近代になるとそうした伝承からファンタジーRPGに登場するようなイメージが定着していったとされる。
そんな彼らを率いるように立つ一人の女性がいた。
一言で言うならその美貌はまさに女神。
流れ落ちる黄金の滝のごとき金髪と、微光を放っているかのような白い肌。
顔立ちはまさに神の手による創造物のように整っていて、アシュレーさんにも引けはとらない美女っぷりだ。
白い薄布に纏い、美脚を辛うじて覆うきわどい短女裳に驚かされるが、これがエルフ族の基本的な服装なら仕方がない。
いや実に仕方がない。
あと、横でラノさんがジト目で俺を凝視してくるのは、何かの誤解のせいだと思っておこう。
「セフィラ…」
グレナスさんが呻くようにそう言った。
見れば、何とも言えない苦々しい顔つきになっている。
「グレナスさん、知り合いなんですか…?」
俺がそう尋ねると、グレナスさんは頷いた。
「はい。ダークエルフとエルフの会合が行われた、幼少の頃に少しだけ」
そう答えてくれたけど、グレナスさんの表情を見ると、何か事情がありそうだな…
「まあ、グレナス。こうして顔を合わせるのはかれこれ千年ぶりかしら」
そう言って花のように笑うセフィラさん。
いや、千年ぶりって…
人間とエルフ、ダークエルフの年齢進行の格差は知識として分かってるけど、こうして当人達の会話を聞くと時間の感覚がバグりそうだ。
にしても、セフィラさんの目が笑っていないぞ。
やはり、二人の間には何か因縁めいたものがありそうだ。
「それにしても…ミストの姫までご一緒とは。こちらに事前の通告もなく“楔”を抜けて領域侵犯をするなんて、間違いなく大問題だと思いますが…」
セフィラさんの視線を受け、アシュレーさんが軽く片膝を曲げ、首を垂れる。
「その非礼については詫びよう。しかし、我々に貴方達を害する意思はない」
そう言うと、アシュレーさんはまっすぐにセフィラさんを見た。
「私達はある事情があって、ユーフェミア様に面会したいだけなんだ」
「族長に…?」
ちなみにユーフェミア様というのは、精都ルミナスにいるエルフ族の長老で、一族をまとめる存在なのだとか。
「そんなことを認めるわけがないだろう!」
突然声を荒げたのは、セフィラさんの隣に立つ若者だ。
エルフにしては珍しく短髪で、繊細さより精悍さが際立つ美丈夫である。
そして、セフィラさんとは違い、あからさまにこちらへ敵意を向けてきている。
「一方的に俺達の森に侵入し、理由も告げずにユーフェミア様に合わせろだと!?馬鹿にしているのか…!?」
セフィラさんが激高する若者を手で制する。
「落ち着いて、ユリアン」
「いいや、言わせてもらうぞ、姉上…!」
この二人、姉弟なんだ?
何か、あんまり似てないし、性格とか真逆っぽいな。
そうして俺を指差すユリアン君。
「見ればコイツは人間じゃないか!卑怯で下劣で、俺達エルフを汚す外道が!よくもこの森にやってこれたな…!」
…おお、何かすごいヘイトを食らってるな。
けど、無理もない。
以前聞いたんだけど、ラノさんが生まれ育った里なんかは人間達の戦争のあおりを受け、壊滅したという。
その際、彼女の母親を含む多数のエルフが犠牲になったり、さらわれたらしい。
人間にとってはそれなりに昔の出来事だけど、長命なエルフ達にしてみればさほど遠い過去ではないんだろう。
「アルトさんはそんな悪い人間じゃないです…!」
そうかばってくれたのはクロエさんだ。
彼女は背の高いユリアン君にも物おじせず、彼を睨みつけた。
「おや?いたのか、チビっ子」
それに気付いたユリアン君が、鼻で笑う。
「相変わらず身体も声も小さいな。小妖精の囁きかと思ったじゃないか」
そう言いながらあからさまな嘲笑を向けてくるユリアン君。
うんまあ、確かにクロエさんはモデル体型のアシュレーさんに比べると小柄な方だ。
性格も物静かな方だから、声も大きい方じゃない。
その自覚があるのか、ユリアン君のあおりにクロエさんは歯を食いしばって睨み返していた。
俺はこっそりグレナスさんに尋ねた。
(もしかしてあの二人も知り合い同士で…?)
(ええ。私とセフィラ同様、あの二人も年齢が近く、子供の頃から面識があるんです)
ちなみにグレナスさん情報だと、セフィラさんは「精霊使い」で、ユリアン君は「獣使い」らしい。
精霊使いは後衛職である魔術師の一種で精霊魔術という系統魔術を使いこなす。
エルフやダークエルフは生来この資質を強く持って生まれるけど、精霊使いの職種にある者は群を抜いていて、精霊達と交信し、様々な術を使用できるという。
つまり、彼女はアシュレーさん達をも上回る精霊魔術の専門家ということだ。
獣使いはその名のごとく、鳥獣を友とし、使役できる職種で、希少な職種でもある。
本人の戦闘能力次第では前衛もこなせるので、オールラウンダーとして活躍できる。
生来の才覚に左右されやすいうえ、友とする動物達との相性もあるようだけど、空海陸に棲む多種多様な動物達による支援を受けられるので侮れない。
味方にいれば心強いけど、敵に回せば怖い存在となるだろう。
「ここにいるアルト殿は我々の恩人だ」
アシュレーさんがそう告げた。
「彼がハモウナの町の冒険者ギルドに所属しているのは間違いない。身分も人柄も、この私が保証しよう」
凛としてそう言い切ってくれたのを聞き、俺は素直に感動した。
出会った時は印象最悪だったけど、俺が想像していた以上に彼女は恩義を感じていてくれたんだ。
「へぇ…じゃあ、もう一つ聞きますがね」
ユリアン君が意地の悪い笑みを浮かべる。
「そっちの混ざりものはどういった素性で?」
それにラノさんがハッとする。
そして、慌てたように首に手を当てた。
そこには奴隷の証である「隷従輪」が刻印されている。
ユリアン君の笑みが、敵意に満ちた表情へと変わった。
「…よう、混ざりもの。それを刻んだのは誰だか言ってみろ」
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜
奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。
パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。
健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。
二度目の異世界では女神に押し付けられた世界を救い世界を漫遊する予定だが・・・・。
黒ハット
ファンタジー
主人公は1回目の異世界では勇者に選ばれ魔王を倒し英雄と呼ばれた。そんな彼は日本に戻り、サラリーマンとしてのんびり暮らしていた。だが異世界の女神様との契約によって再び異世界に転生する事になる。1回目から500年後の異世界は1回目と違い文明は進んでいたが神の紋章を授ける教会が権力を持ちモンスターが多くなっていた。主人公は公爵家の長男に転生したが、弟に家督を譲り自ら公爵家を出て冒険者として生きて行く。そんな彼が仲間に恵まれ万能ギフトを使い片手間に邪王を倒し世界を救い世界を漫遊するつもりだが果たしてどうなる事やら・・・・・・。
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
辺境の最強魔導師 ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~
日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。
アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。
その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。
億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。
彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。
四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?
道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!
気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?
※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる