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第Ⅲ章
水軍 四
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安家水軍将陶成が、舳先に立って軍扇を振り、戦棚上の矢倉で銅鑼が叩かれた。陶成の乗る一番船から八番船までが、発気のカラクリで水車輪を回す車船の闘艦。九番船から十二番船の四艘が、大櫓八十挺立て櫓走の闘艦である。さらにその脇を、艨衝二十艘が固める。柳営の入江、二百間まで寄せた。
「大鉄炮、鉄炮をつる連べう打ちに放てぃ」
陶成の乗る一番船から放ち始める。発気車船の闘艦に載せた大鉄炮は一船に二十、鉄炮が三十、これに続く櫓走の闘艦が大鉄炮十に鉄炮二十、各艨衝には大鉄炮二、鉄炮十づつを載せ、大鉄炮は総数二百四十挺、鉄炮は三百二十挺、運搬の労が無いため、水戦用の鉄炮は、陸戦のものより二まわりも大きい長筒で、矢頃(射程)も長い。使う大鉄炮の数も、陸での戦とは比較にならなかった。連べ打ちにした時の轟音は、雷霆の威に喩えられ、それこそ海上の雷を思わせる。
対する柳営の側からは、崖上から、話に聴いていた火箭が、白煙を上げて数発飛んできたのみで、むなしく水柱を上げただけだった。
さらに陶成は、船列を沖に廻らせ、軸を回る車輪のように、車懸かりに軍船を寄せて轟音を響かせる。
車懸かりに乗り回す軍船から放たれる大鉄炮の音が絶え間なく続いている。断崖に囲まれた海側の守兵は少ない。兵は皆、地に伏せるか、石築地に身を隠していた。崖の岩に弾丸が当たり、岩の崩れる音が聞こえる。まれに、石築地に当たると、隠れていた兵が、驚いて逃げ散った。後で恐る恐る見ると、石築地の外側が大きく抉られていた。
沖は、船の吐く煙と硝煙で真っ暗になり、空を裂く大鉄炮の音が迅雷に聞こえる。こちらの放つ龍勢はあそこまで届かない。
「雷雲を起こすとは、安家広起は、やはり妖魔か・・・・・」
兵の中には、震え出す者、伏して合掌し、経文を唱え始める者まで出た。
「波間に揺れる船よりの鉄炮、いくらも当たるものではない。音と煙に惑わされるな」
頴向が、太った躯を揺すって陣内を廻り、大声をあげて兵を励ます。
岬の懸崖の高さは十丈、山上の炮楼まではさらに十丈の高さを加える。巨大な闘艦といえど、その戦棚の高さは、せいぜい二丈半から三丈、その上の楼まで数えても六丈有るか無いかである。確かに、これほど撃たれながら、守兵に傷ついた者は出ていなかった。
安家水軍の軍船の周りは、車船の上げる煙と、硝煙に包まれ、黒雲がかかったようになっている。一番船の舳先に立つ陶成は、軍扇を振って、入江へ舵を切るよう命じた。再び、船矢倉の銅鑼が鳴り響く。
入江の間口はおよそ三百間、ここに一番船から七番船まで、七艘の車船が、大鉄炮を放ちながら入って行く。炮声が両岸にこだまし、水車輪が水を掻く。入江の中程、幅が百五十間に狭まった所に、鉄鎖と太綱が張ってあった。一番船の舳先が鉄鎖にかかり、船足が止まる。入江の奥に、僅かながら柳営の街が望めた。金輪聖王の勅使を迎えるという海中に立つ楼門、朱雀門も見える。
「火を焚け。釜圧を上げよ」
舳先に陶成とあった船頭が、船底の釜焚きを促すが、両舷十の水車輪は、空しく水を掻くばかりで、鎖は切れない。
陶成は、船の力で鎖を切ることを諦めた。
「子母砲を放つ。用意いたせ」
兵が、舳先横の楯板を起こす。綱が引かれ、砲門を塞いでいた重い鉄貼りの厚板が上げられる。
戦棚に上がった陶成に、入江の両岸から白煙が発するのが見えた。
「何とも見事な軍船かな」
頴向は、入江を入ってくる敵の軍船に魅入っていた。長さおよそ三十間余、全体が赤く塗られ、櫓に替わり両舷に十輪の水車、戦棚には多くの鉄炮と大鉄炮が並ぶ。舳先が広く水押しを持たないのは、ここに砲を持つためだろう。船の幅からすると砲は二つ、いやそれ以上か?はるかに多くの砲を持つ西戎の大船さえ、安家の車船を恐れると、冬門は言っていた。
「かような船が一艘あれば、いかなる敵も、この入江には入れないものを・・・・」
小舟で囲んで、一艘くらい分捕れないものだろうかとも思う。
黒煙を引きながら入江に入った車船は、全部で七艘、その先頭が鉄鎖に掛かったのが見えた。龍勢を十八、両岸合わせて三十六用意させる。頴向の命で、対岸猿賀島の炮楼へ向け、十と八の旗が掲げられた。
入江の軍船を食い入るように見つめた頴向の手が振り下ろされる。両岸の炮楼への合図に、十と八の旗が振られた。
懸崖が要害となっている岬の上は特に塁壁など無く、炮楼といっても名ばかりで、周りを囲う石築地を築き、雨除けの板屋根を掛かけているだけである。龍勢に火を着けた兵は、一目散に後ろへ逃げるしかない。入江の両岸が、龍勢の発する白煙と轟音に包まれた。頴向の立つ位置からは、入江を這う黒龍に何十もの白龍が襲いかかるのが見えた。たちまち水柱が上がり、水面が沸き立つ。頴向は、白煙を突いて、さらに八の龍勢を放つよう命を出した。振った八の旗は、対岸からも見えたらしい。両岸で合わせて十六の龍勢が、再び入江を襲う。
「大鉄炮、鉄炮をつる連べう打ちに放てぃ」
陶成の乗る一番船から放ち始める。発気車船の闘艦に載せた大鉄炮は一船に二十、鉄炮が三十、これに続く櫓走の闘艦が大鉄炮十に鉄炮二十、各艨衝には大鉄炮二、鉄炮十づつを載せ、大鉄炮は総数二百四十挺、鉄炮は三百二十挺、運搬の労が無いため、水戦用の鉄炮は、陸戦のものより二まわりも大きい長筒で、矢頃(射程)も長い。使う大鉄炮の数も、陸での戦とは比較にならなかった。連べ打ちにした時の轟音は、雷霆の威に喩えられ、それこそ海上の雷を思わせる。
対する柳営の側からは、崖上から、話に聴いていた火箭が、白煙を上げて数発飛んできたのみで、むなしく水柱を上げただけだった。
さらに陶成は、船列を沖に廻らせ、軸を回る車輪のように、車懸かりに軍船を寄せて轟音を響かせる。
車懸かりに乗り回す軍船から放たれる大鉄炮の音が絶え間なく続いている。断崖に囲まれた海側の守兵は少ない。兵は皆、地に伏せるか、石築地に身を隠していた。崖の岩に弾丸が当たり、岩の崩れる音が聞こえる。まれに、石築地に当たると、隠れていた兵が、驚いて逃げ散った。後で恐る恐る見ると、石築地の外側が大きく抉られていた。
沖は、船の吐く煙と硝煙で真っ暗になり、空を裂く大鉄炮の音が迅雷に聞こえる。こちらの放つ龍勢はあそこまで届かない。
「雷雲を起こすとは、安家広起は、やはり妖魔か・・・・・」
兵の中には、震え出す者、伏して合掌し、経文を唱え始める者まで出た。
「波間に揺れる船よりの鉄炮、いくらも当たるものではない。音と煙に惑わされるな」
頴向が、太った躯を揺すって陣内を廻り、大声をあげて兵を励ます。
岬の懸崖の高さは十丈、山上の炮楼まではさらに十丈の高さを加える。巨大な闘艦といえど、その戦棚の高さは、せいぜい二丈半から三丈、その上の楼まで数えても六丈有るか無いかである。確かに、これほど撃たれながら、守兵に傷ついた者は出ていなかった。
安家水軍の軍船の周りは、車船の上げる煙と、硝煙に包まれ、黒雲がかかったようになっている。一番船の舳先に立つ陶成は、軍扇を振って、入江へ舵を切るよう命じた。再び、船矢倉の銅鑼が鳴り響く。
入江の間口はおよそ三百間、ここに一番船から七番船まで、七艘の車船が、大鉄炮を放ちながら入って行く。炮声が両岸にこだまし、水車輪が水を掻く。入江の中程、幅が百五十間に狭まった所に、鉄鎖と太綱が張ってあった。一番船の舳先が鉄鎖にかかり、船足が止まる。入江の奥に、僅かながら柳営の街が望めた。金輪聖王の勅使を迎えるという海中に立つ楼門、朱雀門も見える。
「火を焚け。釜圧を上げよ」
舳先に陶成とあった船頭が、船底の釜焚きを促すが、両舷十の水車輪は、空しく水を掻くばかりで、鎖は切れない。
陶成は、船の力で鎖を切ることを諦めた。
「子母砲を放つ。用意いたせ」
兵が、舳先横の楯板を起こす。綱が引かれ、砲門を塞いでいた重い鉄貼りの厚板が上げられる。
戦棚に上がった陶成に、入江の両岸から白煙が発するのが見えた。
「何とも見事な軍船かな」
頴向は、入江を入ってくる敵の軍船に魅入っていた。長さおよそ三十間余、全体が赤く塗られ、櫓に替わり両舷に十輪の水車、戦棚には多くの鉄炮と大鉄炮が並ぶ。舳先が広く水押しを持たないのは、ここに砲を持つためだろう。船の幅からすると砲は二つ、いやそれ以上か?はるかに多くの砲を持つ西戎の大船さえ、安家の車船を恐れると、冬門は言っていた。
「かような船が一艘あれば、いかなる敵も、この入江には入れないものを・・・・」
小舟で囲んで、一艘くらい分捕れないものだろうかとも思う。
黒煙を引きながら入江に入った車船は、全部で七艘、その先頭が鉄鎖に掛かったのが見えた。龍勢を十八、両岸合わせて三十六用意させる。頴向の命で、対岸猿賀島の炮楼へ向け、十と八の旗が掲げられた。
入江の軍船を食い入るように見つめた頴向の手が振り下ろされる。両岸の炮楼への合図に、十と八の旗が振られた。
懸崖が要害となっている岬の上は特に塁壁など無く、炮楼といっても名ばかりで、周りを囲う石築地を築き、雨除けの板屋根を掛かけているだけである。龍勢に火を着けた兵は、一目散に後ろへ逃げるしかない。入江の両岸が、龍勢の発する白煙と轟音に包まれた。頴向の立つ位置からは、入江を這う黒龍に何十もの白龍が襲いかかるのが見えた。たちまち水柱が上がり、水面が沸き立つ。頴向は、白煙を突いて、さらに八の龍勢を放つよう命を出した。振った八の旗は、対岸からも見えたらしい。両岸で合わせて十六の龍勢が、再び入江を襲う。
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