天使を殺した話

むーたんぽんぽん

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「あーあ、見つかっちゃった」
「ちょっ、それなんだよ……」
「ごめんね。見つからないうちに行こうとしてたんだけど、もう無理みたい」
「悪い、何言ってんのかわかんねー。なぁ、本物の高原は?」
「ここにいるよ、天道。俺が〝高原円〟」

 自分が高原だと名乗る天使はそう言って見慣れた顔で微笑んだあと、天道に背を向けてフェンスに向かって歩き出し、天道も慌ててその後を追った。

「どこ行くんだよ」
「この間の答え、教えてあげようと思って」
「答えって、どういう」
「〝天使を殺す方法〟」
「は……」

 呆気に取られる天道をよそに、高原は軽々とフェンスを超えると、突然自らの羽をひきちぎっていく。ひどく耳障りな音と共に、美しかった白は血の色で赤く染まり、高原の顔はみるみるうちに歪んでいった。

「な……なに、してんだよ!?」
「こうしないと死ねないから。じゃあまたね。俺の大好きな人」

 それはまるでスローモーションのように見えた。ゆっくりと身体が傾いて、宙に投げ出される。天道は慌ててフェンスをよじ登り、咄嗟に手を伸ばした。

「高原!」

 気が付けば身体が勝手に動いていた。高原にこんなところで死んで欲しくない、ただその一心だった。
 そんな天道の捨て身の行動に、高原は信じられないとばかりに大きく目を見開いた。

「天道———」

 間髪入れぬ所で手を掴み安堵した瞬間、そのまま地面に向かって真っ逆さまに落ちていく。このまま落ちたらきっと助からない。迫り来る衝撃に備えながら、せめて高原の顔だけでも守りたく両手で抱え込んだ瞬間、突如ふんわりと身体が宙に浮いた感覚がした。

「え……?」

 驚いて顔をあげると、高原は目を細め天道を愛おしそうに見つめていた。その背中には後光がさしているかのように輝いていた。

「ありがとう天道、俺のために」
「あの、ここは天国か? オレたち、死んじゃった?」
「ううん、生きてるよ。あ、でも俺は死んだかも?」
「あ?」

 驚いて起き上がるとそこはちゃんとした地面で、高原にあれだけついていた血はどこにもなくなっていた。

「あの、よくわかってねーんだけど、高原は人間じゃないんだよな?」
「えっとね、実は俺、元々天使なんだよね」
「天使……?」
「それでね、天使は人に恋をすると死んじゃって。さっき天使としての俺は死んだ。天道のせいで」
「オレのせいで? はぁ?!」
「そう。だから、天道は俺を殺した罪で一生俺から離れられなくなりました」
「……ちょっと、待って」

 突然の加害者扱いに、天道は頭がくらくらした。一体高原は何を言っているのだろう。もしかしたら落ちたショックでどこか頭を打ったのかも知れない。

「落ちたショックで頭は打ってないよ。意識もちゃんとしてるし」
「なんでオレの心の声がわかったんだよ」
「へへ、秘密。でね、俺本当は人間界でやらなきゃいけない事があったんだけど、天道のせいで天使じゃなくなったから、責任取って欲しい」
「責任って……どうすりゃいいんだよ」

 真顔の高原が迫ってきて、とてつもなく嫌な予感がした。ここから早く逃げ出したい。なのに身体は動かない。まさに絶体絶命だった。
 高原はそんな天道の心を読んでか、にんまりと笑うととんでもなく甘えた声でこう言った。

「俺を天道のお嫁さんにしてくんない?」

 高原の背後で真っ白な鳩たちが空へ飛び立っていった。
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