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序章 とある剣士
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神田川が星を映して流れていく。水面に浮かんだ三日月の形が波で時折歪む。
その流れを、一人の若侍が真剣なまなざしで見つめていた。編笠の下で若衆髷に束ねた黒髪が、かわいらしい顔立ちに似合っている。若草色の小袖に軽杉袴という出で立ちに二本差し。年は二十手前くらいに見えるが、それにしては小柄だった。
もう一つの影が映った。月光を跳ね返して閃光が走り、刃が空を切る鋭い音が鳴った。
「私に何の用だ」
素早く躱して若侍は叫んだ。
「私の素性を知ってのことか」
「当たり前だ」
浪人風の敵は上段に振りかざす。若侍は居合抜きの構えを取った。
目にもとまらぬ速さで鞘から刀が放たれた。敵も負けてはおらず、横に受け止めて鍔迫り合いとなる。重なった刃から微かに火花が散った。
若侍が後ろに跳ぶと、敵は緩んだ刀を構えなおした。
その一瞬を狙って、若侍の突きが敵の胸を貫く寸前まで迫る。大きくのけぞった敵の肩口に袈裟懸けが振り下ろされた。
敵はすんでのところで身を捻るが、その視界の隅に揺れる川面が見えて、自分が神田川を背に向けていることに気づいた。
「しまった…」
何とか体勢を戻したが、隙を作ってしまった。もう遅い。
若侍は冷酷な視線を向けて、敵の鳩尾に拳を叩き込んだ。
気絶した浪人は、声を上げる間もなくその場に崩れ落ちた。
「あの傷では死ぬこともない。せめて、二度とこのようなことがないように養生しろ」
若侍はそう独り言つと、振り向くことなく闇の中へ身を躍らせた。
神田川は元のように、星空を包んで流れていた。
その流れを、一人の若侍が真剣なまなざしで見つめていた。編笠の下で若衆髷に束ねた黒髪が、かわいらしい顔立ちに似合っている。若草色の小袖に軽杉袴という出で立ちに二本差し。年は二十手前くらいに見えるが、それにしては小柄だった。
もう一つの影が映った。月光を跳ね返して閃光が走り、刃が空を切る鋭い音が鳴った。
「私に何の用だ」
素早く躱して若侍は叫んだ。
「私の素性を知ってのことか」
「当たり前だ」
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目にもとまらぬ速さで鞘から刀が放たれた。敵も負けてはおらず、横に受け止めて鍔迫り合いとなる。重なった刃から微かに火花が散った。
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その一瞬を狙って、若侍の突きが敵の胸を貫く寸前まで迫る。大きくのけぞった敵の肩口に袈裟懸けが振り下ろされた。
敵はすんでのところで身を捻るが、その視界の隅に揺れる川面が見えて、自分が神田川を背に向けていることに気づいた。
「しまった…」
何とか体勢を戻したが、隙を作ってしまった。もう遅い。
若侍は冷酷な視線を向けて、敵の鳩尾に拳を叩き込んだ。
気絶した浪人は、声を上げる間もなくその場に崩れ落ちた。
「あの傷では死ぬこともない。せめて、二度とこのようなことがないように養生しろ」
若侍はそう独り言つと、振り向くことなく闇の中へ身を躍らせた。
神田川は元のように、星空を包んで流れていた。
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