ルーメンポリス(光合成都市)

大蚊豪

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第5話 油を熱して鍋を起こせ

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ヴィラが一斉に明るさを取り戻し、直後、耳をつんざく拡声器の怒鳴り声が夜空に響き渡った。



「無駄な抵抗はやめろ!さっさと出てこい!運が良けりゃ、情けをかけて命だけは助けてやる!」



ネギとショウガはそっと身を乗り出し、屋根越しに様子をうかがった。



二階のオープンテラスには、カラ・トウ氏が多数の警備員を従えて立っている。

深夜の強烈な照明の下、その表情は獣のように凶悪だった。

銃口は、脇で跪かされているニンニク頭——ガリックの額に突きつけられている。



「どうした?友達がその場で撃ち殺されるのを見たいのか?」



カラ・トウ氏はガリックの襟首をつかみ、乱暴に引きずり起こした。

口を塞がれているガリックは、くぐもった呻き声を上げることしかできず、全身を震わせている。



ネギが飛び出そうとした瞬間、ショウガがすかさず彼を押さえた。



「今のあんたは、自分の身も守れない。

助けに行けば、共倒れだよ」



声を潜めて、彼女は続ける。



「その人……そんなに大事なの?」



「彼は……」



ネギは一瞬、言葉に詰まった。



「……同僚だ」



口にした瞬間、自分でも理由が紙切れのように薄っぺらいと感じた。

歯を食いしばり、さらに言い足す。



「でも、親友でもある。

置いて逃げたら、一生後悔する。

命惜しさに仲間を切り捨てる人間と、君は組めるか?」



ショウガは言葉を失った。



目の前の男は、もう若くはない。

疲れ切った顔、失業寸前、社会の重圧に溺れかけている。

それでも、最悪の状況の中で、彼はまだ頑固なほどの善意を手放していなかった。



ただの“巻き添え要員”として利用するつもりだった相手が——今は、信頼に値する存在に見える。



そのとき、カラ・トウ氏が背後から一人の女を引きずり出した。

モモだった。



「ほら、こっちのほうが見応えあるだろ?」



彼は戦利品を誇示するように、彼女の肩を締め上げ、下卑た笑みを浮かべる。



その瞬間、ネギは影の中から踏み出した。



あまりにも突然で、ショウガですら引き止める暇がなかった。

彼は、ほとんど聞こえないほど低い声で言い残す。



「……約束通り、頼む」



次の瞬間、彼は光と銃口が集中する敵陣へ、まっすぐ歩み出ていた。



◆◇◆



野太い男の怒号と、甲高い女の叫び声が入り混じる中で、ネギはゆっくりと意識を取り戻した。

顔に鈍い痛みが走り、手足は痺れて動かない。

まるで一度バラバラにされ、雑に組み直されたかのようだ。



記憶は、拳と足が飛び交う混乱の途中で途切れている。

その先は真っ白だった。



「……うるさい」



喉の渇きをこらえながら、どうにか絞り出す。



「ネギ兄!ネギ兄、目が覚めたのか!」



右側で縛られているガリックが、すぐさま興奮して身をよじった。

三人は背中合わせに縛られており、その動きで全身が引っ張られる。

左側のモモが、すぐに不満げな声を上げた。



ネギは反射的に体をすくめ、できるだけ場所を取らないようにする。



「モモちゃん……大丈夫ですか?」



「ネギ兄、あんな女ほっとけ!」



ガリックが即座に割り込む。

どこか愉快そうな声だ。



「あいつ、自分を囮にしてお前を騙すって言い出したんだぞ。

結果、自分も一緒に捕まってやんの。

あははは!」



調子に乗って笑ったせいで、三人まとめて床の上で転がされ、鉄の床が体に食い込む。



「黙れ、このクソニンニク!」



モモの声は、普段の柔らかさとは別人のようだった。

ほとんど怒鳴り声だ。



「あんたたちが邪魔しなきゃ、今夜で階級ジャンプできたのよ!最低でも大金を掴めたのに!」



「毛むくじゃらの成金女が——」



「臭っさい無能豚!役立たず!」



「……やめろ」



ネギが小さく制した。



「警備を呼び寄せて、早く殺されたいのか?」



一度息を整え、モモの方へ視線を向けて低く言う。



「ここにいるのは……正直、意外だった」



モモの体が、わずかに強張った。

返事はない。



「ここにいる」という言葉には、いくつもの意味が含まれている——この部屋に、あのテラスに、あの個室に、あるいは最初から、彼の人生の中に現れたこと自体が。



確かに、いつだって意外だった。

そしてそのたびに、彼の中にあった過剰に清純なイメージは、少しずつ壊されていった。



モモは顔を背け、黙り込んだまま、隅へと身を縮める。

だがそれでも、背中は縛られた二人の男に密着したままだ。



三人が閉じ込められているのは、四方を金属の壁に囲まれた部屋だった。

ヴィラ地下の倉庫らしい。

出口は、ガラスのはめ込まれた鉄の扉が一つだけ。

外には警備員が二人立っている。

天井には換気ダクトが走っているが、開口部はあまりにも狭い。

細身のモモでさえ通れそうにない——そもそも、彼女が協力するとは限らない。



全身の痛みに耐えながら、ネギは素早く状況を整理した。

やがて、腹をくくったようにゆっくりと首を傾け、ガリックに顔を近づける。

そして、二人にしか聞こえない声で囁いた。



「……逃げる作戦がある。」



「ただし……少し、辛い思いをしてもらうことになる」



◆◇◆



ネギは目を固く閉じ、奥歯をぎりっと噛みしめた。

その表情は異様なほど真剣で、まるで絶対に失敗が許されないトイレ工事に全神経を注いでいるかのようだった。



モモは横目でちらりと彼を見た瞬間、露骨に嫌悪の表情を浮かべ、ふんっと鼻を鳴らして顔を背ける。



ネギの胸の上下が激しくなるにつれ、シャツのボタンの隙間がわずかに盛り上がり、淡い黄緑色の新鮮なネギの葉が、ひょっこりと顔を出した。



その葉は、まるで誰かに丁寧に導かれているかのように、少しずつ伸び広がり、淡黄色の液体が入った試験管をしっかりと支えながら、ゆっくりとガリックの口元へ運んでいく。



ごくり——

ごくり——



液体が喉を通った瞬間、ガリックの腹部から、鈍く切迫した音が鳴り響いた。

腸の奥で、何かが無理やり叩き起こされたかのようだ。

腹は目に見えて張りつめ、次の瞬間には急激にしぼむ。

激痛に、額には細かな冷や汗がにじんだ。



——ブッ。



三人の足元で、鈍い破裂音が炸裂した。

強烈な気流が一気に身体を持ち上げ、鉄の床がびりりと震える。

同時に、鼻を突き刺すような凶悪な悪臭が、怒涛のように噴き出した。



「す、すまん……」



ガリックは青ざめた顔で、かろうじて笑みを作る。

残された全神経は、最後の尊厳を守ることに注がれていた。



モモが悲鳴を上げる。

両手を縛られたまま、必死に首を振り、悪臭の中で生存ルートを探そうとする。



「もし出したら——」



——ブッ。



——ブッ。



二発目、三発目の衝撃が立て続けに襲った。

三人の身体は回を追うごとに高く持ち上げられ、狭い空間に悪臭が急速に蓄積されていく。

その濃度は、もはや物理的殺傷力を帯び始めていた。



ついに異変に気づいた警備員が、鉄扉を引き開けたその瞬間——



そこにあったのは、三人が一体となった噴射装置のような光景だった。

部屋の中を跳ね回り、背後には渦巻く黄色のガスを引きずっている。



「うぇ——」



警備員二人は嘔吐する間もなく顔色を失い、白目をむいてその場に崩れ落ちた。



「今だ!」



ネギは鼻を刺す臭気に耐えながら、必死に身体をよじる。



三人合体の“ロケット”は障害を失い、扉から一気に飛び出した。

廊下を超高速で滑空する。



モモは完全に意識を失い、舌と鼻水が慣性に任せて無様に振り回されている。

ガリックの顔色は青と白を行き来し、腹鳴りは途切れることなく鳴り続け、もはや身体は完全に制御不能だった……。



◆◇◆



ヴィラの反対側では警報が鳴り響き、耳障りなブザー音が廊下に反射していた。

警備員たちが各通路から雪崩れ込み、足音が一つの奔流となる。



ショウガは指の間に六本の試験管を挟み込み、人混みを切り裂くように突破していった。

低く、速く、無駄のない動きだ。



監視室では、カラ・トウ氏がずらりと並んだモニターの前に立ち、冷え切った目で映像を睨んでいた。



画面の中で、ショウガは常識外れの速度で跳び、走り、舞う。

自分の弱点——力不足、正面衝突では勝ち目がないことを、彼女はよく理解している。

だからこそ、決して長居はしない。

その軌道は予測不能。

ぬめる魚のように、「トウモロコシ警備員」の密集地帯を縫い、翻弄し続ける。



片側のモニターではショウガが無双している一方、もう一方の画面は、正体不明の霧にゆっくりと侵食されていった。

霧は縁から広がり、廊下を覆い、カメラを覆い、ついには映像そのものを消し去る。



監視室は、短くも異様な沈黙に包まれた。

さっきまで喋り続けていたジャガイモ議員でさえ、無意識に口を閉ざしている。



そのとき——中央のモニターが再点灯した。

ドレッドヘアを揺らした小柄な女盗賊が、カメラに顔を近づけ、これ以上ないほど挑発的な変顔を突きつけてくる。



「役立たずどもがァ!」



カラ・トウ氏の怒号が響いた。



彼はネクタイを引きちぎり、ジャケットを床に叩きつける。

袖口は筋肉で張りつめていた。



「甘い手だけで、俺がここまで這い上がってきたと思うなよ!」



そう言い捨て、監視室を飛び出した次の瞬間——

立ち込める黄色い悪臭が、正面から襲いかかり、彼の足を強制的に止めた。



喉を焼く刺激に、込み上げる吐き気をこらえつつ顔を上げる。

遠くから、重低音の轟きが近づいてきた。



視界を切り裂くように、それは現れた。

三人が縛られ一体化した、異様な形状の“飛行体”。

背後には渦巻く黄煙。

さらにその後方、細身の少女がロープに逆さまにぶら下がり、慣性を利用して一気に通り過ぎていく。



「クソがァァッ!」



カラ・トウ氏は激怒した。



上半身の筋肉が急膨張し、シャツが弾け飛ぶ。

ピーマンの緑の顔は一気にトウガラシの赤色に染まり、灼けるような辛味が体表を駆け巡る。

肩口から炎が立ち上った。



「今よ!」



空中からショウガの声が飛ぶ。



即座にネギが応じた。

背中で縛られた指を無理やり膨張させ、無数の微細なネギの種子をばら撒く。

ネギの種子はショウガ色のニンニク臭と混ざり合い、空気中に“見えない導火線”を描いた。



そこへ、唐辛子の火花が一閃。



連鎖反応が起きる。



——BOOM!

——BOOM!

——BOOM!



ネギ・ショウガ・ニンニク。



爆鍋(バオグオ・油を熱して鍋を起こせ・中華料理の技法)コンボが、廊下で立て続けに炸裂した。
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