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急接近
...体育祭の練習に参加するのも嫌だ。どんな顔をして須美さんの前で過ごせというんだ。
別に僕に落ち度があるわけじゃない。開き直って堂々としていたっていいはずだ。
でも忘れようと思ってもやっぱり気になる。
だって須美さんは先生には黙っておいてくれたようだけど、クラスの誰かには話すかもしれない。
僕のぐちゃぐちゃな気持ちとは裏腹に、体育祭の練習に取り組む須美さんの様子はいたって平静に見える。
そんな風に考えながら時折須美さんを見ていると、不意に須美さんと目が合ってしまった。
僕はとっさに目をそらしたけど、意外にも須美さんの方から僕の近くに走ってくると、
「優太、さっきはごめんね。体育祭の練習頑張ろうね。それじゃあ。」
と言って、僕の返事も待たずに、また元の場所に走っていってしまった。
...良かった。なんともなさそうだ。
これまで、僕にとって須美さんは、おっとりしていて、口調も甘い、女の子っぽい印象だったから、こんなにサバサバと割り切れることが意外ではあった。
須美さんから僕に、軽蔑の目が向けられることもなかった。
次の日学校に行ってみると、クラスではどこから情報を仕入れたのか知らないけど、須美さんが間違って男子更衣室に入り、中に僕がいるのを見て悲鳴をあげたらしい、という話題で大盛り上がりとなっていた。
「普通さぁ、佐和子ぉ。女子更衣室と男子更衣室って間違うことある?信じらんない。」
「佐和子って、そんなおっちょこちょいなところ、あるんだねぇ。」
「っていうか。優太もいい迷惑だよね。覗かれた上に、悲鳴まであげられたんじゃね。」
ほとんど、面白おかしいエピソードとして受け止めて、笑い飛ばしてくれる内容ばかりだったけど、中には一瞬、答えに窮するような、踏み込んだ質問をする女子もいた。
「それで?佐和子。優太の生着替えはどうだったの?見たんでしょ?」
「えっ?どうだったって言われても、間違いに気付いてすぐに飛び出したんだから、何も見てないよぉ~。」
「でも、一瞬でもさぁ、素っ裸かどうかぐらいわかんじゃん?ねぇ、優太。あんたどうだったのよ?」
「や、やめろよ。そりゃ更衣室なんだから服は着替えてたけど、素っ裸じゃないだろう?」
「ふぅ~ん...。まっ、そうだよねぇ。...でもなんか、そんなに必死に否定されると『あれっ?』て思っちゃうなぁ~。」
「もうやめろって。じゃあさ、今度、僕が女子更衣室に間違えて入るからさ、その時にどういう状況になるのか、よく見ておくことにするっていうのでどう?」
「はぁ~?バカじゃない優太。普通に犯罪だし。『あっ、じゃあそうしよっか?』って、なるわけないじゃん?バカなの?アハハ...。」
...我ながら、上手く乗り切れたと思った。ここを乗り切れば、みんなもそのうち今回のことは忘れてくれる。もう大丈夫だと思えた。須美さんありがとう。
それからまた2日ぐらい過ぎた。
もうクラスは、別の新しい話題を見つけたようで何も心配はいらないし、須美さんとも、以前より親しく話すようになった気さえする。
それというのも、あれ以来、やっぱり僕から話しかけることにはまだ気が引けるし恥ずかしいと思うけど、なぜか須美さんの方から話しかけてくれることが増えたからだ。
その日の放課後、僕はたまたま下校が遅れて、教室を最後に出るところだった。カバンを手にして席を立とうとした時、教室の扉が開き、中に入ってきたのは須美さんだった。
「あっ、須美さん...。」
「あぁ、優太。まだ居たんだ?帰らないの?」
僕は、更衣室でのことを、須美さんが誰にも言わないでいてくれたこともそうだし、何より、僕を軽蔑することなく、前以上に親しく接してくれることをとても嬉しく思っていた。もちろん、みんなが居るところで、須美さんにお礼を言えるはずもなかったから、ちゃんと言っておきたいと思っていたんだ。
「 す、須美さん。...あの、なんて言っていいか...、色々、あ、ありがとう。それだけだから 。そ、それじゃあね。」
気恥ずかしくて、早々に教室を出ようとする僕の様子を気にすることもなく、須美さんが話しかけてきた。
「 ねぇ優太ぁ?でもさ、ホント面白くない?」
「 ...えっ?何が?」
「 『本当はあの時...、私が叫んだ理由は、優太が更衣室の中でオナニーしてたからなの。』って言ったら、みんな絶対びっくりするよね?」
「...っ!須美さん...?」
「 違う違う、例えばの話だよ。...でも、今からでも、『実は言い出せなかったの。』って言って、私が泣き出せば、きっと信じてくれるでしょ?実際、本当のことだし。」
「 須美さん、頼むよ。勘弁してよ。信じてくれないかもしれないけど、『あんなこと』いつもしてたわけじゃないんだ。あの時だけ、本当に魔が差して...。」
「 あの時だけ、本当に偶然オナニーしてるところを、偶然私に見られちゃったってわけ?」
「 ...、...。」
... 須美は、もうすっかり無かったことにしてくれたんだと思っていたのに、どういうつもりなんだろう?僕をからかって面白がっているだけなのか?それとも脅そうとでもしているんだろうか?何のために?
同級生の女子生徒から、偶然見られたオナニーのことを、まさか面と向かってからかわれるなんて、
僕が、恥ずかしさと惨めな気持ちになりかけた時、また須美さんが、意外なことを言ってきた。
「 うふふっ...。冗談だよ。優太。顔、真っ赤だよ?」
「...何だよ。」
「 実は私、教室に帰ってきたのはさぁ、優太が教室に一人で居るのが見えたからなんだぁ。」
「えっ?」
「 明日から土日でしょ?だから優太。明日か明後日、私と一緒に何かして遊ばない?」
「えっ??」
「 えっ?じゃなくてさぁ、優太。いいの?いけないの?」
「 でも、それって...、(...デートっていうこと?)」
「 お願い、優太。一緒に遊ぼうよ?いいでしょ?」
「...い、いいけど...。」
こうして僕は、土曜日の午前中に、須美さんと遊ぶ約束をした。
しかも、何をして遊ぶのか須美さんに聞いてみると、
「とりあえず私の家で遊ぼ?」
と言って、家の場所を教えられた...。
須美さんの言動は、僕の常識外だ。
同級生の女子の家に、いきなり上がっていいんだろうか?
でも、須美さんから誘うってことは、僕に好意があるのか?
...いやいや、当日はきっと須美さんの友達もいるだろうし、いきなり家で遊ぼうというのも子供じみている気もするし、それに須美さんのお父さんやお母さんは?
...なんか、断っとけば良かった...。まともに寝られないよ...。
別に僕に落ち度があるわけじゃない。開き直って堂々としていたっていいはずだ。
でも忘れようと思ってもやっぱり気になる。
だって須美さんは先生には黙っておいてくれたようだけど、クラスの誰かには話すかもしれない。
僕のぐちゃぐちゃな気持ちとは裏腹に、体育祭の練習に取り組む須美さんの様子はいたって平静に見える。
そんな風に考えながら時折須美さんを見ていると、不意に須美さんと目が合ってしまった。
僕はとっさに目をそらしたけど、意外にも須美さんの方から僕の近くに走ってくると、
「優太、さっきはごめんね。体育祭の練習頑張ろうね。それじゃあ。」
と言って、僕の返事も待たずに、また元の場所に走っていってしまった。
...良かった。なんともなさそうだ。
これまで、僕にとって須美さんは、おっとりしていて、口調も甘い、女の子っぽい印象だったから、こんなにサバサバと割り切れることが意外ではあった。
須美さんから僕に、軽蔑の目が向けられることもなかった。
次の日学校に行ってみると、クラスではどこから情報を仕入れたのか知らないけど、須美さんが間違って男子更衣室に入り、中に僕がいるのを見て悲鳴をあげたらしい、という話題で大盛り上がりとなっていた。
「普通さぁ、佐和子ぉ。女子更衣室と男子更衣室って間違うことある?信じらんない。」
「佐和子って、そんなおっちょこちょいなところ、あるんだねぇ。」
「っていうか。優太もいい迷惑だよね。覗かれた上に、悲鳴まであげられたんじゃね。」
ほとんど、面白おかしいエピソードとして受け止めて、笑い飛ばしてくれる内容ばかりだったけど、中には一瞬、答えに窮するような、踏み込んだ質問をする女子もいた。
「それで?佐和子。優太の生着替えはどうだったの?見たんでしょ?」
「えっ?どうだったって言われても、間違いに気付いてすぐに飛び出したんだから、何も見てないよぉ~。」
「でも、一瞬でもさぁ、素っ裸かどうかぐらいわかんじゃん?ねぇ、優太。あんたどうだったのよ?」
「や、やめろよ。そりゃ更衣室なんだから服は着替えてたけど、素っ裸じゃないだろう?」
「ふぅ~ん...。まっ、そうだよねぇ。...でもなんか、そんなに必死に否定されると『あれっ?』て思っちゃうなぁ~。」
「もうやめろって。じゃあさ、今度、僕が女子更衣室に間違えて入るからさ、その時にどういう状況になるのか、よく見ておくことにするっていうのでどう?」
「はぁ~?バカじゃない優太。普通に犯罪だし。『あっ、じゃあそうしよっか?』って、なるわけないじゃん?バカなの?アハハ...。」
...我ながら、上手く乗り切れたと思った。ここを乗り切れば、みんなもそのうち今回のことは忘れてくれる。もう大丈夫だと思えた。須美さんありがとう。
それからまた2日ぐらい過ぎた。
もうクラスは、別の新しい話題を見つけたようで何も心配はいらないし、須美さんとも、以前より親しく話すようになった気さえする。
それというのも、あれ以来、やっぱり僕から話しかけることにはまだ気が引けるし恥ずかしいと思うけど、なぜか須美さんの方から話しかけてくれることが増えたからだ。
その日の放課後、僕はたまたま下校が遅れて、教室を最後に出るところだった。カバンを手にして席を立とうとした時、教室の扉が開き、中に入ってきたのは須美さんだった。
「あっ、須美さん...。」
「あぁ、優太。まだ居たんだ?帰らないの?」
僕は、更衣室でのことを、須美さんが誰にも言わないでいてくれたこともそうだし、何より、僕を軽蔑することなく、前以上に親しく接してくれることをとても嬉しく思っていた。もちろん、みんなが居るところで、須美さんにお礼を言えるはずもなかったから、ちゃんと言っておきたいと思っていたんだ。
「 す、須美さん。...あの、なんて言っていいか...、色々、あ、ありがとう。それだけだから 。そ、それじゃあね。」
気恥ずかしくて、早々に教室を出ようとする僕の様子を気にすることもなく、須美さんが話しかけてきた。
「 ねぇ優太ぁ?でもさ、ホント面白くない?」
「 ...えっ?何が?」
「 『本当はあの時...、私が叫んだ理由は、優太が更衣室の中でオナニーしてたからなの。』って言ったら、みんな絶対びっくりするよね?」
「...っ!須美さん...?」
「 違う違う、例えばの話だよ。...でも、今からでも、『実は言い出せなかったの。』って言って、私が泣き出せば、きっと信じてくれるでしょ?実際、本当のことだし。」
「 須美さん、頼むよ。勘弁してよ。信じてくれないかもしれないけど、『あんなこと』いつもしてたわけじゃないんだ。あの時だけ、本当に魔が差して...。」
「 あの時だけ、本当に偶然オナニーしてるところを、偶然私に見られちゃったってわけ?」
「 ...、...。」
... 須美は、もうすっかり無かったことにしてくれたんだと思っていたのに、どういうつもりなんだろう?僕をからかって面白がっているだけなのか?それとも脅そうとでもしているんだろうか?何のために?
同級生の女子生徒から、偶然見られたオナニーのことを、まさか面と向かってからかわれるなんて、
僕が、恥ずかしさと惨めな気持ちになりかけた時、また須美さんが、意外なことを言ってきた。
「 うふふっ...。冗談だよ。優太。顔、真っ赤だよ?」
「...何だよ。」
「 実は私、教室に帰ってきたのはさぁ、優太が教室に一人で居るのが見えたからなんだぁ。」
「えっ?」
「 明日から土日でしょ?だから優太。明日か明後日、私と一緒に何かして遊ばない?」
「えっ??」
「 えっ?じゃなくてさぁ、優太。いいの?いけないの?」
「 でも、それって...、(...デートっていうこと?)」
「 お願い、優太。一緒に遊ぼうよ?いいでしょ?」
「...い、いいけど...。」
こうして僕は、土曜日の午前中に、須美さんと遊ぶ約束をした。
しかも、何をして遊ぶのか須美さんに聞いてみると、
「とりあえず私の家で遊ぼ?」
と言って、家の場所を教えられた...。
須美さんの言動は、僕の常識外だ。
同級生の女子の家に、いきなり上がっていいんだろうか?
でも、須美さんから誘うってことは、僕に好意があるのか?
...いやいや、当日はきっと須美さんの友達もいるだろうし、いきなり家で遊ぼうというのも子供じみている気もするし、それに須美さんのお父さんやお母さんは?
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