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輝く未来に向けて
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「僕が聞きたいのは、サキが北領に行ってどうしたいのかということだ。それによってレオたちの行動も変わる」
いったん仕切りなおして夕食を食べながら話すことになり、周囲にはローストしたお肉のいいにおいが漂っている。
レオが夕食を食べようと言ってくれて、とても助かった。
エルンストのことはずっと頼りにしていて、たまに心を動かされていた。熱に浮かされたようなエルンストの目にいちいち動揺してしまうから、ほかに集中できるものがあったほうがいい。
塊のお肉の、ぎゅっと詰まったおいしさを飲み込む。皮はカリッとしていて、脂はとろとろだ。
「銭湯を経営しようと思ってるの。経営なんてやったことがないけど、温泉スキルがあったら何とかなると思う」
「銭湯とは何ですか?」
「いろんな人が大きなお風呂に入りに来る場所かな。いつかは旅館みたいなものも作りたいけど、さすがに今は無謀だから」
エルンストに敬語で話すことをやめてほしいと頼まれてそうしているけれど、少し緊張する。エルンストは敬語のままだから、余計に。
私のちょっぴりの緊張を見抜いたのか、エルンストがふふっと微笑んで、流し目で私を見つめた。
ウッ、美の暴力!
「大きな浴槽でなくてはいけませんか? この国にはお湯に浸かる習慣がなく、誰かと一緒に入ることもありません。入ればサキさんの温泉の素晴らしさがわかりますが、入るまでが難しいかと」
「うーん、なるほど。個室だったらどう?」
「いい案ですね。浴槽の横にシャワーを設置して体を洗い、入浴することを徹底させましょう」
「お風呂場に何種類かボディソープや石鹸を置いて、帰りに買えるようにしたいの。あと、お風呂は寝湯がいいかと考えていて」
「ネーユって何だ?」
尋ねたレオが、山盛りのソーセージを頬張る。
それにつられてソーセージを食べると、口の中でパリッと皮がはじけて肉汁が飛び出てきた。そのあとにザワークラウトに似たものを食べれば、酸味が口の中をすっきりさせる。
何種類もの木の実が入ったパンはふわふわで、野菜スープは塩の優しい味わいだ。
「寝ころんでお風呂に浸かるの。私の住んでいたところではお風呂に髪をつけるのはよくないことだったんだけど、このスキルだと頭まで浸かりたいでしょ?」
すっとギルが差し出してくれた紙に、簡単に絵を描く。その横に浴槽も描いて、深さの違いがわかるようにした。
「こうすれば簡単に頭まで浸かれるかなって。一瞬でも浸かれば効果が出るから、あとはここに頭を置いてリラックスしてもらえる。個室ごとに雰囲気を変えて、部屋を選んで予約できるようにしたいな。食事も出せるといいけど、ほかの飲食店と提携して割引券を出すとかにして、話題になる飲み物を出したほうがいいかも。そうだ、タオルは有料で貸し出して、下着とかを買えるようにしないと! 化粧水とかパックとか、お化粧品とかも揃えて使用感を確かめてもらって、帰りに買えるようにすれば! あっでもパックは高いかな……うーん」
考え始めると止まらなくて、まくしたててしまった。指先でそっと口を押さえる。
どうしよう、話しすぎたかな。もし、エルンストとレオに幻滅されたら……。
そんな私の考えを吹き飛ばすように、レオが満面の笑みを向けてくれた。
「サキはすごいな! そんなこと考えてたのか! 俺のスキルが成功するって言ってるぜ!」
「本当に、サキさんはなんて素晴らしい方でしょう。微力ながらお役に立てるよう頑張ります」
輝く笑顔を向けてくれて、杞憂だったとほっとする。
ふたりに嫌われたくないと考えている時点で、ちょっと、かなり好感を抱いていることは、今は横に置いておこう。
「私がいた国にある銭湯を再現したいだけで、一から考えたわけじゃないの」
「確かに、銭湯を最初に作り出した者は素晴らしいです。サキさんの国には、銭湯は一つしかなかったのですか?」
「たくさんあったよ」
「そういうことです。銭湯を作るのが何十番目だからという理由で成功はしないし、失敗が確定しているわけでもない。この国でも、流行や優れた仕組みを取り入れるのは普通のことですよ」
「……ありがとう。エルンストのおかげで、ちょっと心が楽になった」
「それはよかった」
微笑むエルンストに笑みを返す。
エルンストはこうやって微笑む姿がよく似合う。いつか、レオみたいに口を大きく開けて笑うのを見る日が来るんだろうか。
「では、魔力測定をしておかなければいけないな」
「魔力測定?」
聞きなれない言葉に首をかしげると、ギルが説明してくれた。
「魔力量と、スキルを発動する時に必要な魔力がわかれば、何回スキルを使えるかがわかる。大抵は体で覚えるものだが、測定できるアイテムがある。まだ動くはずだ」
「ギルが作ったの?」
「うん」
「すごい! ギルはいろんなアイテムを作れるんだね!」
「それは……確かにそうだが」
「ギルはすごいんだぜ!」
なぜかレオが威張るのを、ギルがうっとうしいと見せかけて嬉しそうにしている。
その後の測定で、私の魔力はとても多く、スキルを使う時にほとんど魔力を消費しないことがわかった。
つまり、いくらでも温泉を出せる! 銭湯みたいな大きなお風呂じゃなくて個室のほうがいいって聞いた時は、どれだけ温泉を出せるかで銭湯の規模が決まると思ったけれど、これならたくさん個室を作っても大丈夫!
歴代の聖女様より魔力が多い、というエルンストの呟きは、浮かれている私の耳には届かなかった。
いったん仕切りなおして夕食を食べながら話すことになり、周囲にはローストしたお肉のいいにおいが漂っている。
レオが夕食を食べようと言ってくれて、とても助かった。
エルンストのことはずっと頼りにしていて、たまに心を動かされていた。熱に浮かされたようなエルンストの目にいちいち動揺してしまうから、ほかに集中できるものがあったほうがいい。
塊のお肉の、ぎゅっと詰まったおいしさを飲み込む。皮はカリッとしていて、脂はとろとろだ。
「銭湯を経営しようと思ってるの。経営なんてやったことがないけど、温泉スキルがあったら何とかなると思う」
「銭湯とは何ですか?」
「いろんな人が大きなお風呂に入りに来る場所かな。いつかは旅館みたいなものも作りたいけど、さすがに今は無謀だから」
エルンストに敬語で話すことをやめてほしいと頼まれてそうしているけれど、少し緊張する。エルンストは敬語のままだから、余計に。
私のちょっぴりの緊張を見抜いたのか、エルンストがふふっと微笑んで、流し目で私を見つめた。
ウッ、美の暴力!
「大きな浴槽でなくてはいけませんか? この国にはお湯に浸かる習慣がなく、誰かと一緒に入ることもありません。入ればサキさんの温泉の素晴らしさがわかりますが、入るまでが難しいかと」
「うーん、なるほど。個室だったらどう?」
「いい案ですね。浴槽の横にシャワーを設置して体を洗い、入浴することを徹底させましょう」
「お風呂場に何種類かボディソープや石鹸を置いて、帰りに買えるようにしたいの。あと、お風呂は寝湯がいいかと考えていて」
「ネーユって何だ?」
尋ねたレオが、山盛りのソーセージを頬張る。
それにつられてソーセージを食べると、口の中でパリッと皮がはじけて肉汁が飛び出てきた。そのあとにザワークラウトに似たものを食べれば、酸味が口の中をすっきりさせる。
何種類もの木の実が入ったパンはふわふわで、野菜スープは塩の優しい味わいだ。
「寝ころんでお風呂に浸かるの。私の住んでいたところではお風呂に髪をつけるのはよくないことだったんだけど、このスキルだと頭まで浸かりたいでしょ?」
すっとギルが差し出してくれた紙に、簡単に絵を描く。その横に浴槽も描いて、深さの違いがわかるようにした。
「こうすれば簡単に頭まで浸かれるかなって。一瞬でも浸かれば効果が出るから、あとはここに頭を置いてリラックスしてもらえる。個室ごとに雰囲気を変えて、部屋を選んで予約できるようにしたいな。食事も出せるといいけど、ほかの飲食店と提携して割引券を出すとかにして、話題になる飲み物を出したほうがいいかも。そうだ、タオルは有料で貸し出して、下着とかを買えるようにしないと! 化粧水とかパックとか、お化粧品とかも揃えて使用感を確かめてもらって、帰りに買えるようにすれば! あっでもパックは高いかな……うーん」
考え始めると止まらなくて、まくしたててしまった。指先でそっと口を押さえる。
どうしよう、話しすぎたかな。もし、エルンストとレオに幻滅されたら……。
そんな私の考えを吹き飛ばすように、レオが満面の笑みを向けてくれた。
「サキはすごいな! そんなこと考えてたのか! 俺のスキルが成功するって言ってるぜ!」
「本当に、サキさんはなんて素晴らしい方でしょう。微力ながらお役に立てるよう頑張ります」
輝く笑顔を向けてくれて、杞憂だったとほっとする。
ふたりに嫌われたくないと考えている時点で、ちょっと、かなり好感を抱いていることは、今は横に置いておこう。
「私がいた国にある銭湯を再現したいだけで、一から考えたわけじゃないの」
「確かに、銭湯を最初に作り出した者は素晴らしいです。サキさんの国には、銭湯は一つしかなかったのですか?」
「たくさんあったよ」
「そういうことです。銭湯を作るのが何十番目だからという理由で成功はしないし、失敗が確定しているわけでもない。この国でも、流行や優れた仕組みを取り入れるのは普通のことですよ」
「……ありがとう。エルンストのおかげで、ちょっと心が楽になった」
「それはよかった」
微笑むエルンストに笑みを返す。
エルンストはこうやって微笑む姿がよく似合う。いつか、レオみたいに口を大きく開けて笑うのを見る日が来るんだろうか。
「では、魔力測定をしておかなければいけないな」
「魔力測定?」
聞きなれない言葉に首をかしげると、ギルが説明してくれた。
「魔力量と、スキルを発動する時に必要な魔力がわかれば、何回スキルを使えるかがわかる。大抵は体で覚えるものだが、測定できるアイテムがある。まだ動くはずだ」
「ギルが作ったの?」
「うん」
「すごい! ギルはいろんなアイテムを作れるんだね!」
「それは……確かにそうだが」
「ギルはすごいんだぜ!」
なぜかレオが威張るのを、ギルがうっとうしいと見せかけて嬉しそうにしている。
その後の測定で、私の魔力はとても多く、スキルを使う時にほとんど魔力を消費しないことがわかった。
つまり、いくらでも温泉を出せる! 銭湯みたいな大きなお風呂じゃなくて個室のほうがいいって聞いた時は、どれだけ温泉を出せるかで銭湯の規模が決まると思ったけれど、これならたくさん個室を作っても大丈夫!
歴代の聖女様より魔力が多い、というエルンストの呟きは、浮かれている私の耳には届かなかった。
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