LARGE NUMBER SQUAD

エルマー・ボストン

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第ニ章 スカラー化、頻発の兆し

局長・堂島 聖司の思惑

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「秩父くん、ホンッッットーーーーーに申し訳ない!あのナンパ男たちに言うことを聞かせる方法、これくらいしか思いつかなくて…!」

聖司は自ら広報部に赴き、事務仕事に勤しんでいた真帆に頭を下げ、手を合わせて謝罪の弁を述べていた。

「全然大丈夫ですよー!
…と言いたいところですけど、やっぱりちょっと不安ですよね…。
堂島さん、絶対負けないでくださいよ!
他の人たちならまだしも、あの2人とデートは無理!ムリです!」

少し困り顔で笑いながら、真帆は両手でガッツポーズをして見せる。
イケメンだが性格に難のある幸太郎とは違い、美人なのにサッパリとし、且つ裏表の無い真帆は、老若男女問わず人気があった。

時間は遡ること、数日前。
幸太郎と大五郎をその気にさせるため、真帆への協力を取り付けに来た聖司。
その理由を聞いた真帆は、快諾…とまではいかないまでも、
『平和のためなら!』と、要請を引き受けてくれたのである。

「大丈夫、絶対負けないから安心してくれ。あの2人にとって、僕はいわば
『天敵』みたいなモノだからね。」



そして今、幸太郎・大五郎コンビと聖司の勝負が始まろうとしていた。
舞台は基地内の、より実戦に近い模擬戦を行なうことが可能な大型トレーニングルームだ。
2人対1人は、そこの中央で向かい合う。
そしてナンパ男2人は、不敵に、そしてイヤらしく笑いながら、聖司を睨むのだった。

「堂島さァん…。約束…本当なんでしょうねェ…?!忘れてませんよね…?ケヘ…ケヘ…。」

「そうだぞ聖司くんよォ…!真帆たんとのデート…こっちゃあめちゃくちゃ楽しみにして来とるんだからのォ…!ウヒヒ…」

ヨダレを垂らす2人。その顔には、最早邪心しかない。

「僕の性格、知ってるでしょう?
約束は守りますよ。ま、そこまで言うんだから、そちらも必ず約束、守ってもらいます。」

そう言って気怠そうにニタッと笑いながら、左手の親指を立て、クイクイと自らの後方を指して見せる聖司。
その先は、超強化ガラスに覆われた観察室。そして中には、見届け人を引き受けた善太に連れられてやって来た、はにかみながら手を振る真帆の姿があった。


「マジだァァァァァァァァァァァァうおォォォォォォォォォ!!」


「真帆たァァァァァァァァァァん!!」


雄叫びを上げる2人。そしてそれを見た真帆の笑顔は、大きく引き攣る。

「(堂島さん…。堂島さんの言うことだから、疑ってはいないけど…。お願い…サクッと勝って…!)」


「(仕方がないとはいえ…同情するぞ秩父…。アレは下心しか無い顔だ…。)」

善太は眼を細め、乾いた表情でその異様な光景を見つめていた。


「(秩父くん、ゴメン…。負けはしないけど、こんなにこの2人がアレだとは…。
これ見せられたら…キッツいよね…。)」


真顔で、心の内で激しく反省する聖司。
その心を表すかのように、白衣を脱ぎ、放り捨てた。

「…さっさと始めますか。僕もだけど、秩父くんも大変に忙しいですからね。

…変身。」


「望むところですよ!堂島さんありがとォォォォォォォォ変身ンンンン!!」


「変身ンンんっしゃァァァァァァァァァァやったるでェェェェェェ!!」



変身を済ませる3人。
トレーニングルームには、
白いマフラーを巻いたような風貌のヒーロースーツを纏った聖司、

煌びやかな装飾が施され、全身がギラギラと輝くスーツの幸太郎、

頭に一本のツノを聳え立たせ、甲冑のようなスーツに包まれた大五郎が、

それぞれ現れた。

「ルールですけど、2対1ですから?
お2人は、僕を倒したら勝ち。
僕はお2人のうちのどちらかを倒したら勝ち、とさせていただきますよ。」

気怠そうなスタンスを崩さない聖司は、変身後は打って変わって、ヒーロー然とした佇まいで、マフラーをたなびかせながら2人に問いかける。


「ケヘケヘ、良いですよ…どうせ僕らの勝ちですからね…!なんせ…!」


「フヒヒ…そーよ…!スクワッド四天王を
『2人』相手にして勝とうなんざ…!いくらキミでもムリってモンよなァ!」

ヒーローのくせに気味の悪い笑いを醸し出しながら、2人は身体を変にグネグネと震わせながら、これまた気味の悪い構えを取る。

「ま、とっとと始めましょうかね。
秩父くん、合図をお願いします。」


「はーい!それでは、皆さん!

 レディー…

 GO!(頑張って…堂島さん…!)」


真帆の合図と同時に、2人のヒーローが1人に高速で襲いかかる。
いや、その表現は正しくない。

1人は『高速』、

もう1人は『超光速』で、はためくマフラーに迫る。


「興味があったんですよ!アナタの
『異能』、どこまで耐えられるのか、ってねェ!くらえ!

『ハッキングウィンド』!」

相津 幸太郎、コードネームは
『ターコイズウィンド』。
異能は『マインドハック』、謂わゆる
広範囲にデバフを盛り盛りにかけられる、イケメンのくせにエグい能力である。

ターコイズウィンドは高速ダッシュで迫り、まるで鱗粉のように『異能』をばら撒く。
並みの怪人がコレに触れれば、たちまち意識を失うという代物だ。


「俺っちの声、聞こえてるかは分からんが…。幸太郎ちゃんの『異能』との同時攻撃は、防げまいて!」

大河内 大五郎、コードネームは
『ミラージュベイン』。
異能は『光速移動』。
光の速さで移動ができるばかりか、光を操り、残像を作り出すことも可能。

ミラージュベインはその途轍もない速さで空中に飛び上がり、落下時にさらに加速。
その速さから繰り出されるパンチを、マフラーのヒーローに向けて容赦なく浴びせる。

煌めく粒子に包まれて、轟音が鳴り響く。

変身した聖司は、たまらず膝をつくのだった。

「ははは!流石に無謀だったんじゃないですか2人相手は!
真帆ちゃァァァァァァん見ててくれたァァァァァァ?!」

マスクの下でダラダラと鼻の下を伸ばしながら、ターコイズウィンドは観察室で見守る真帆に向かって、両手を大きく振る。

が。


「甘いですよ、ターコイズくん。
油断しましたね。」


マフラーが、ヒラヒラと宙に舞う。
そして油断したナンパ男のボディに、拳で一撃をぶちかました。


「ぐは…っ!な、何…?!アレに耐え、た…?僕の異能で、体力も減っているハズなのに!」

「マジかよォ、ちょっと自信失くすわ…!」

吹き飛び、壁面に叩きつけられるターコイズ。そしてミラージュは光の速さで着地し、彼のそのタフさに打ちのめされていた。


「僕の『異能』知ってるのに…
どこからその自信が出て来たんですかねぇ…。

僕の『絶対防御』は、文字通り
『絶対』。
何ものにも破ることはできません。」

堂島 聖司、コードネームは
『ブロスクフェアー』。
異能は『絶対防御』。
あらゆる攻撃を無効化でき、いかなる環境の変化も、彼の歩みを止めることはできない。


「ケヘ…!でもねブロスクフェアーさん!
防御ばかりで、勝てるんですか?!
あなたのスタミナが尽きれば、結局有利なのは僕たちだ!
真帆ちゃんは!渡しませんよォォォォォォォォォォ!!」


「そうそう、その通り。だからターコイズくん。どんどん『異能』、使わないとね?」


「言われなくても!
『ハッキングタイフーン』!!」


ターコイズに向かい、親指を立ててクイクイと煽るブロスクフェアー。
その挑発に乗り、ターコイズは精神に作用する竜巻を発生させ、その中に
『煌めく粒子』が踊る。


「真帆たんのためなら!!俺っちも全力よォ!!『フラッシュキック』!おらァァァァ!!」


『煌めく竜巻』の中を、光の速さでミラージュベインが飛ぶ。
『光速の蹴り』は竜巻の回転により威力を増し、きりもみキックへとパワーアップを果たしながら、ブロスクフェアーへと突撃する。無論、その速さは誰の眼にも映らないが。

音より先に衝撃波が生まれる。
一瞬にして、トレーニングルーム全体にビリビリと振動が伝わり、真帆は思わず眼をつぶった。


「ううっ…?!堂島さん、大丈夫なのォ…?!」


恐る恐る眼を開ける真帆。
竜巻と粒子により断たれていた視界が晴れていく。

するとそこには、体力を消耗し膝をつくターコイズと、ミラージュのキックを片手で掴み止め、宙吊りにするブロスクフェアーの姿とがあった。

「『異能』を発動させ続け…あれだけの攻撃を喰らいながら…平然としているとは…。」

息を切らせるターコイズ。
が、より虫の息の男が1人。

「聖司くんよォ…お前…とんでもなく強かったんだなァ…。」

ターコイズの『異能』を、光速で避け続けながらも攻勢に出ていたミラージュ。
しかし、部屋中にばら撒かれた大量の粒子を全てかわすのは、いくらなんでも無理な話。しかも、竜巻の中でなどは余計だ。

「相性ですよ、相性。僕が耐え続ければ、デバフでアナタが真っ先に参るのは道理ですからね。さ、僕の勝ちだ。約束は守ってもらいますよ。」

粒子煌めく中、ご老体をそっと床に降ろすブロスクフェアー。ご老体は強力なデバフを一身に浴び続け、身動きが取れなくなっていた。


「ず、ズルいよ堂島さぁん!これじゃおじいちゃん倒したのは、堂島さんじゃなくて僕じゃぁん…!無効だよ無効!
こんなの認められないって!」

異能を全開で出し続けた結果、スタミナ切れを起こし身動きを取ることがままならなくなったターコイズは、その場に両膝をつきながら駄々をこねた。その様は、大の大人の男とは思えないほどだ。

「はぁーっ。そんな言い訳しますか、みっともない。負けは負けでしょ。
いいですけどね?僕はキミとタイマン張っても。」

大きなため息をつき、聖司は変身を解いた。それまで直立で凛としていた姿が、一瞬で猫背に早変わりだ。

「あー参った参った、今回は完敗だの。まー次はどうなるかわからんが…
なんせ相方が悪かったもんなぁ。
だが、聖司くんの言う通り、負けは負けだわ。」

同じく変身を解き、ムクリと起き上がってその場にへたり込む大五郎。その顔は、どこか清々しさを感じさせる。

「えーーーおじいちゃんまで!
納得できませんよォォ!!つーか僕が悪いのォ?!ひどいですよォ!」

「うるせぇなぁ!潔く認めんかいバカタレが!…デートは確かに惜しいけどもよぅ!約束守れねぇヤツぁ男じゃねぇわい!」

頑なに負けを認めず変身を解除しない幸太郎に対し、大五郎は怒りを露わにし、ギャアギャアと喧嘩を始める。

その姿を見て、聖司はフッ、と笑みを溢すのだった。

「(ありがとう秩父くん…キミのおかげで、平和に一歩近づくよ。
今度お礼をしなくてはね…。今日妻と相談して、何が良いか決めるとしますか。)」

聖司は白衣を拾い上げて羽織った後、騒がしい2人を尻目に、ゆっくりとトレーニングルームを出るのだった。


そして、トレーニングルームの隅の一室で、崩れるように肩を撫で下ろす者が1人。

「(よ、良かったぁぁ~…。ホンットに…
ホンッッッッ…トにあのセクハラ男たちはムリだもん…。
どーせなら、もっとステキな殿方たちが相手だったら…私もテンション上がったのになぁ…。堂島さん、良い感じのお礼してくれなきゃ許さないんだからぁ…!」

真帆は涙目で、大きく息を吐いた。
腰が抜けて動けず、座ったまま項垂れて、安堵の表情を浮かべる。


「(よかったな、秩父…。本当に…よかったッ…!)」

特に何もしていないのに、ついもらい泣きをしまうほど、善太は涙もろかった。


キリが良く、今がまさに定時。
巻き込んだ張本人とはいえ、乙女の危機を救った聖司は、基地を後にし、夕焼けに染まる街へと消えていった。
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