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第ニ章 スカラー化、頻発の兆し
司令官・榊原 一茶子の限界
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「…………え?!
榊原司令官?」
普段、滅多に大声を出さない鋼一が、一茶子の姿を見て、裏返るほど叫んだ。
「…ホントだ。司令官だぁ。
ボーっとしてたし、テンション違いすぎて分からなかったー。」
「ど、どうしたんですか司令官!大丈夫ですか?!眼に光が宿ってないですよ?!」
「で、でもよ…なんか、幸せそうな顔はしてんぜ…。
あ、逆にヤバいやつかコレ!」
あまりの光景に、驚きを隠せない一同。
しかし一茶子は、未成年たちの呼びかけに応えることはなく、勝手に話を進めていく。
「やー、ヒマなんじゃないかと思ってさー!一緒にオムライスでもどうかなーって!お腹ペッコペッコなんだ今!」
「…ダメだ!早くなんとかしないと!」
「私たちじゃどうにもできません!
回復系の人を、誰か…連れてこないと…!」
「とりあえず、センセーに連絡しよう~。なんか、なんか助けてくれるかも~!」
「ま、まぁ…助けが必要なのは、俺たちじゃなくて司令官の方だけどな…。」
初めての経験で、慌てふためく若者たち。
ここはひとまず、
「なんとかしてくれそうな人を呼ぶ」
行動を取る、ということで一旦落ち着いた。
だがその間、一茶子は相変わらず幸せそうな顔で、何かをブツブツと呟きながら
半ば気絶するようにその場に座り込んだ。
「…あー、これは
『カギあけ』だよ。ヒマな時によくあるんだ。」
知らせを受けて駆けつけた楠田教官が、倒れ込んだ一茶子を楽な体勢にし、さも当たり前のように若者たちを落ち着かせる。
「カ、カギあけ…って何ですか?
そんな言葉、私、初めて聞きました…。」
凛が首を傾げる。
「カギあけ、ってのはまぁ、俗称だよ。
つまりは『過労』さ。
『科学技術局勤務明け』ってこと。」
知恵は落ち着いた様子でスマホを操作し、どこかに連絡を入れ始めた。
何かしらの手続きを踏んでいるのであろう。
「キミらも正式にスクワッドに配属されてから、司令が『テレポーター』って知らされたろ?」
「あ、はい。ビックリしました。
僕はてっきり別の人かと…。異能を発動した様子も無かったから。」
「だねー。スクワッド隊員じゃない部隊の人もいたから仕方ないんだろうけど、あれは大変だったろーね。」
鋼一と真世が、顔を見合わせて頷く。
「そう。テレポーターは貴重な上、異能の汎用性が高すぎるからね。無闇に情報を出せないんだよ。そんなわけで、
『異能と正体の開示はスクワッド隊員のみ』
って規則ができた、って経緯があるのさ。
…話を戻すけど、司令の異能があまりに便利なもんだから、この組織のいろんなところに、それが応用されてるんだよ。」
「『テレポートボム』とかですね。」
「そうそう。あとは『緊急出動ポッド』とかね。
で、司令はこういう事件があんまり起きない時に、科学技術局に自らすすんで実験台になりに行くんだって。
それがめちゃくちゃ疲れるんだって。」
知恵のその言葉が終わると、しばらく静寂が訪れた。
そして4人はポカンとした顔で、幸せそうに気絶している上司の顔を覗き込んだ。
「自らすすんで、ってのは、ちょっと大袈裟だけどね。『仕事だから』が本当のところだろう。
テレポーター、マジで貴重だからねぇ。
この組織の要、って言っても過言じゃない。
…あのコンプライアンスの鬼の堂島さんも、いつも申し訳無さそうに実験してるよ。
『司令には頭が上がらない』ってよく言ってる。」
知恵は面白がるようにケラケラと笑いながら、4人に缶ジュースを手渡し、その後自分の分を開ける。
4人の若者たちはそれを受け取り、黙っているばかりであった。
「そう、だったんですね。司令はいつも、みんなのために…。」
「司令はすげぇや。俺たちも見習わねーと!」
若者たちはふやけた大人の姿を見て、意外にも決意を新たに、そして襟を正す姿勢を顕にした。
それを見て、知恵は1人、頬を緩ませるのであった。
「お話中失礼いたします。
あらあら、一茶子ちゃん。また無理をしてしまったのね。こんなにやつれて、可哀想に。」
突然、待機室に透き通るような良い声が響く。
いつの間やら、一茶子の脇に立つ、ちんまりとしたヨボヨボの老人。その人の声であった。
「あっ、優里先生!いらしてたんですね。」
「え?!ウワサのドクター優里?!
うわぁ!本物見るの初めてぇ!」
誰にも気付かれずに現れた腰の曲がった白衣姿の老婆は、優しく一茶子の頭を撫で、微笑む。その姿は、一同には後光が差しているように見えていた。
「ふふ。皆さん、初めましてですわね。
皆さんのお話は聞いていますよ。
よく頑張っている、と。」
ドクター・優里さつき。
ラージナンバースクワッド・医療チームの長であり、組織の設立時から貢献している、長老である。
彼女の慈愛に満ちたその言動は、周囲の空気まですぐさま癒やす。
「…っふごっ…。
あ、せ、先生…。優里先生!
…うわ゛ァァァァァァァァん!!
優里先゛生゛ーーー!!」
気絶しながらもその癒やしの波動を感じ取った一茶子は目を覚まし、まるで負の感情を吐き出すように、堰を切って泣き出すのであった。
「あらあら。辛かったんですね一茶子ちゃん。もう大丈夫、私がついていますからね。」
泣き喚く一茶子を優しく宥めるドクターの背には、より一層光が輝いているかのようであった。
「…すげぇな。ホントに…めちゃくちゃ疲れてたんだな。」
「う、うん。えっと…。
多分これ、僕たち…いない方がいいよね。司令的には。」
「…で、ですね…。
いろいろと、あの、司令が可哀想になっちゃいますし…ちょっと外に行きましょう…。」
そんな、辛さを全面に押し出す大人の姿を目の当たりにして、若者たちはまた一つ、大人になっていくのであった。
後日、この一件をネタとして振り翳し、知恵が一茶子に高めの焼肉を奢らせたのは言うまでもない。
榊原司令官?」
普段、滅多に大声を出さない鋼一が、一茶子の姿を見て、裏返るほど叫んだ。
「…ホントだ。司令官だぁ。
ボーっとしてたし、テンション違いすぎて分からなかったー。」
「ど、どうしたんですか司令官!大丈夫ですか?!眼に光が宿ってないですよ?!」
「で、でもよ…なんか、幸せそうな顔はしてんぜ…。
あ、逆にヤバいやつかコレ!」
あまりの光景に、驚きを隠せない一同。
しかし一茶子は、未成年たちの呼びかけに応えることはなく、勝手に話を進めていく。
「やー、ヒマなんじゃないかと思ってさー!一緒にオムライスでもどうかなーって!お腹ペッコペッコなんだ今!」
「…ダメだ!早くなんとかしないと!」
「私たちじゃどうにもできません!
回復系の人を、誰か…連れてこないと…!」
「とりあえず、センセーに連絡しよう~。なんか、なんか助けてくれるかも~!」
「ま、まぁ…助けが必要なのは、俺たちじゃなくて司令官の方だけどな…。」
初めての経験で、慌てふためく若者たち。
ここはひとまず、
「なんとかしてくれそうな人を呼ぶ」
行動を取る、ということで一旦落ち着いた。
だがその間、一茶子は相変わらず幸せそうな顔で、何かをブツブツと呟きながら
半ば気絶するようにその場に座り込んだ。
「…あー、これは
『カギあけ』だよ。ヒマな時によくあるんだ。」
知らせを受けて駆けつけた楠田教官が、倒れ込んだ一茶子を楽な体勢にし、さも当たり前のように若者たちを落ち着かせる。
「カ、カギあけ…って何ですか?
そんな言葉、私、初めて聞きました…。」
凛が首を傾げる。
「カギあけ、ってのはまぁ、俗称だよ。
つまりは『過労』さ。
『科学技術局勤務明け』ってこと。」
知恵は落ち着いた様子でスマホを操作し、どこかに連絡を入れ始めた。
何かしらの手続きを踏んでいるのであろう。
「キミらも正式にスクワッドに配属されてから、司令が『テレポーター』って知らされたろ?」
「あ、はい。ビックリしました。
僕はてっきり別の人かと…。異能を発動した様子も無かったから。」
「だねー。スクワッド隊員じゃない部隊の人もいたから仕方ないんだろうけど、あれは大変だったろーね。」
鋼一と真世が、顔を見合わせて頷く。
「そう。テレポーターは貴重な上、異能の汎用性が高すぎるからね。無闇に情報を出せないんだよ。そんなわけで、
『異能と正体の開示はスクワッド隊員のみ』
って規則ができた、って経緯があるのさ。
…話を戻すけど、司令の異能があまりに便利なもんだから、この組織のいろんなところに、それが応用されてるんだよ。」
「『テレポートボム』とかですね。」
「そうそう。あとは『緊急出動ポッド』とかね。
で、司令はこういう事件があんまり起きない時に、科学技術局に自らすすんで実験台になりに行くんだって。
それがめちゃくちゃ疲れるんだって。」
知恵のその言葉が終わると、しばらく静寂が訪れた。
そして4人はポカンとした顔で、幸せそうに気絶している上司の顔を覗き込んだ。
「自らすすんで、ってのは、ちょっと大袈裟だけどね。『仕事だから』が本当のところだろう。
テレポーター、マジで貴重だからねぇ。
この組織の要、って言っても過言じゃない。
…あのコンプライアンスの鬼の堂島さんも、いつも申し訳無さそうに実験してるよ。
『司令には頭が上がらない』ってよく言ってる。」
知恵は面白がるようにケラケラと笑いながら、4人に缶ジュースを手渡し、その後自分の分を開ける。
4人の若者たちはそれを受け取り、黙っているばかりであった。
「そう、だったんですね。司令はいつも、みんなのために…。」
「司令はすげぇや。俺たちも見習わねーと!」
若者たちはふやけた大人の姿を見て、意外にも決意を新たに、そして襟を正す姿勢を顕にした。
それを見て、知恵は1人、頬を緩ませるのであった。
「お話中失礼いたします。
あらあら、一茶子ちゃん。また無理をしてしまったのね。こんなにやつれて、可哀想に。」
突然、待機室に透き通るような良い声が響く。
いつの間やら、一茶子の脇に立つ、ちんまりとしたヨボヨボの老人。その人の声であった。
「あっ、優里先生!いらしてたんですね。」
「え?!ウワサのドクター優里?!
うわぁ!本物見るの初めてぇ!」
誰にも気付かれずに現れた腰の曲がった白衣姿の老婆は、優しく一茶子の頭を撫で、微笑む。その姿は、一同には後光が差しているように見えていた。
「ふふ。皆さん、初めましてですわね。
皆さんのお話は聞いていますよ。
よく頑張っている、と。」
ドクター・優里さつき。
ラージナンバースクワッド・医療チームの長であり、組織の設立時から貢献している、長老である。
彼女の慈愛に満ちたその言動は、周囲の空気まですぐさま癒やす。
「…っふごっ…。
あ、せ、先生…。優里先生!
…うわ゛ァァァァァァァァん!!
優里先゛生゛ーーー!!」
気絶しながらもその癒やしの波動を感じ取った一茶子は目を覚まし、まるで負の感情を吐き出すように、堰を切って泣き出すのであった。
「あらあら。辛かったんですね一茶子ちゃん。もう大丈夫、私がついていますからね。」
泣き喚く一茶子を優しく宥めるドクターの背には、より一層光が輝いているかのようであった。
「…すげぇな。ホントに…めちゃくちゃ疲れてたんだな。」
「う、うん。えっと…。
多分これ、僕たち…いない方がいいよね。司令的には。」
「…で、ですね…。
いろいろと、あの、司令が可哀想になっちゃいますし…ちょっと外に行きましょう…。」
そんな、辛さを全面に押し出す大人の姿を目の当たりにして、若者たちはまた一つ、大人になっていくのであった。
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