猜疑心の塊の俺が、異世界転生して無双するとかマジあり得ない

エルマー・ボストン

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仲間なんて俺は知らない

バレてない、って思ってた?

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真夜中。
指定された時間、指定された場所。

『一番小さい娘』とはナナのことだと判断し、指示通りに俺はロープでグルグル巻きに縛られ、仄暗く冷たい石畳みの町をやって来た。月明かりが海面に反射し、淡い光が一面に立ち込めている。

海にほど近く、そして木々に囲まれる、古ぼけた大きな洋館…最早廃墟なのだろうが…その敷地内。
俺はナナに繋がれたまま、広い庭園の中央、瓦礫にまみれた噴水まで歩を進めた。

「ソコデトマレ。」

どこからか、妖しげな声がする。
俺の世界で言うところのエフェクトがかかったような声だ。性別も、歳も、判断は難しそうだ。

「ムスメ。ソイツヲオイテハナレロ。」

言われた通りにする。
ナナは俺を残し、素早くその場を後にした。

次の瞬間だった。

何千、何万というおびただしい数の矢が、星空を覆い尽くすように降り注ぐ。

俺を目掛けて。

闇夜に紛れ、カモフラージュさせるためなのだろう。矢は全て黒く塗られているようだ。加護のせいで、俺には全部見えてるけど。

庭園の地に、矢の次々と突き刺さる音がこだまする。
俺はその場に伏せて頭を低くし、やり過ごすしかなかった。


そしてその後は、魔法の嵐。

炎、氷、雷、光に闇。
ありとあらゆる魔法が、ハリネズミのようになった俺に、ダメ押しのように浴びせられる。

燃え盛り、凍え、轟き、神秘的で禍々しい…そんな音という音が、倒れ込んだ俺の耳を次から次へと襲う。


「…カクニンシロ。」

数十分は経っただろうか。
顔をターバンのような物で隠した、体格から見て男であろう者2人がどこからともなく現れ、俺の息の根が止まっていることを確かめるため、屈んで俺の顔を覗く。

「ここまでやって生きていたら、もう人間じゃないな。ま、念には念をか。なんせ…。」

そう顔を見合わせて、トドメのナイフを俺の喉元にゆっくりと突き刺そうとしたその時。

ぬっ、と手を伸ばし、俺はターバン男たちの頭をガシッと掴んでやり、そのままゆるゆると立ち上がって、男2名を宙に浮かべた。

「がっ…?!や、やはりか…!化け物め…!!」

人を勝手に化け物扱いしないでほしい。
うわ、なんか頭ぬるっとしてる。

「殺しはしない。でも、さよなら。」

魔法をかけ、男たちを気絶させる俺。
精神に干渉する魔法なので、しばらくすれば目が覚めるだろう。
最も、その時は目覚める前の自分じゃないかもだけど。

「…さて。」

俺は堂々と正面から入り、崩れて埃で溢れ返る洋館の中を進む。階段を上り、瓦礫をかき分けて。
鼻を突く、イヤなにおい。
床の軋む、不吉な音がする。
ここで昔、何があったのだろうか。

最上階、最奥の部屋。
俺はドアノブに手をかけ、部屋に入る。

するとそこには、月明かりに照らされて白く輝く、衣服をボロボロにし、口に布を詰め込まれたミレットが、ベッドに縛り付けられていた。

俺は黙ってミレットを解き、口から異物を取り除いてやった。


「ユージーン様ァァァァ!!」


瞬間、ミレットのピンク髪がフワッと揺れ、小動物の様に俺の胸に飛び込んできた。だから…近いんだよ。

「怖かった…怖かったです…!もう少しで私、乱暴されて…殺されるところでした…!」

泣きじゃくるミレット。

「ユージーン様…必ず来てくれるって、信じてました…!お願い…このまま、もっと強く抱きしめて…。」


涙目のミレットが、俺の胸からふと顔を上げて、潤んだ瞳でこちらを見つめてきた。
触れ合った胸から、ミレットの心臓の音が、どんどんと高鳴るのを感じる。


そしてミレットは、そっと眼を閉じて、唇を近づけてくるのだった…。




















「やめろよ、そろそろ離れてくれる?」

俺は、冷ややかにミレットに言い放つ。

「…え?」

「俺はそういう、俗に言う
『ハニートラップ』に引っかからないよ。生前好きだった子のこと、忘れられなくてね。」

ミレットをグイと引き離し、着ていた上着を投げ渡す俺。

「な、何、言って…?私は、ユージーン様のことをお慕いして、それで…。」


「あーもーめんどくさい。わかったわかった。

単刀直入に言うよ。

お前、『神殺しの団』の工作員だろ?』
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