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神殺しなんて俺は知らない
遺言なんて、俺は知らない
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「…どうして、そう…。
…そっか、そう、だよ、ね。」
アミアはピタッと立ち止まり、後ろを歩く俺に顔を見せることなく、小さな声で呟いた。悲しげで、今にも消えてしまいそうなほどに。
「…結界のせいで探知が遅れたんだけど、ここに来てようやく、って感じ。」
流石にバツが悪くなり、俺の声も細くなる。
他人の考えなど、加護を使えばいくらでも読み取れる。
だけど、俺は必要最低限に留めていた。
人として、他人に踏み込みすぎるのは道に反していると思っているからだ。
「…黙って、て、ご…ごめん、なさい…。で、でも…。」
アミアは、大きく肩を揺らしている。
震えているのだろう。
そう、俺のことを恐れているのだ。
俺を結果的に騙したことで、アイツのように…容赦なく切り捨てられるのだと、直感的に考えているのだ。
アミアの息遣いが聞こえる。
絶え絶えだ。
先ほどの消えてしまいそうな声とは違う。嗚咽が混じる、心を曝け出したような、身体の底から湧き上がるものだ。
仄暗い洞窟に、アミアの咽せる声だけが響く。
遂に膝から崩れ落ちた彼女の背中を、俺は黙って見つめていた。
ここに来て、俺は躊躇った。
何と声をかけていいのか、全く分からない。
俺が原因だ。
俺が原因で、彼女は、こんなにも…。
「…ごめん、なさい。勇者、様。
…私、思い出し、た、ら…悲しく、
なっちゃって…。」
どれくらい時間が経っただろう。
時空の歪みにでも立ったかのように長く、そして一瞬にも感じられた。
立ち上がった彼女は、そう言って、俺へと顔を向ける。
笑っている。…どうして。
「私の、こと…嫌いに、なった?
本当に、ごめん、なさい。
でも、大賢者の、遺言。
『もし私の死後に勇者が来る機会があれば、必ず賢者の間に通せ』
って…。それで…。」
アミアは涙を片手でサッと拭うと、踵を返し、再度暗い道を進み始めた。
その言葉には、打って変わって力がみなぎっている。
「…アミア、俺は…。」
「私、ね。勇者様、の、役に立つように、って、育てられ、たの。大賢者、リートに。
山に、捨てられ、てた私、を…。大賢者、とっても、可愛がって、くれた…。
だから、私…勇者様の、役にも、立ちたいけど…
大賢者の…
お父さん、の、役に、立ちたくて…。
言い付け、を守って、ずっと黙ってた、の。
…ごめん、なさい。」
振り返ることなく、止まることなく、
俺の心を察するかのように、俺の言葉を遮ってまで、今までで一番饒舌に話を進めるアミア。
これは、本心だ。
加護を使う使わないの前に、直感でそう思った。
俺は、何も言葉を見つけられない。
俺は、彼女のことを理解しようとしてきただろうか。
こんな状況であちこち疑って、
俺のことを怖がっている、だなんて決めつけて、加護だけで分かった気になって。
本当の意味でアミアに近づこうとしたことは、あっただろうか。
込み上げてくるそんな感情が、俺を苦しめる。
「アミア、俺の方こそ、ごめん…。
俺…デリカシーとか、無かったよな。
それに、なんていうか…アミアに怖がられているような気がして…。」
歩を止めずにいるのに、アミアの小さな背中に追いつけない。暗いせいか、届いているのかもハッキリしない。
俺は俯いて、言い淀む。
「…ふふ。どうして?怖くなんか、ない、よ。
…あ、私が、泣いちゃった、から?
あれはね…お父さんが死んじゃった、こと…ひとりぼっちだったこと…思い出し、ちゃったの。」
アミアは、ようやくチラリと振り返り、微かに笑った。
何故だか俺は、その顔が頼もしく思えて、苦笑いで返した。
「あの、さ。辛くなかったら…大賢者のこと、教えてくれないかな。どんな人か、とか。」
バツが悪くなった俺は、小さくも大きな背中に問いかける。
…が。
「実は、ね。それには、あんまり、答えられない。分かって、るんだ。
私の、記憶。たぶん、消されてたり、とか、するの。もしかしたら、操作、されてたり。」
…は?
…どういうことだ?
すると、突然目の前に閃光が走る。
あまりの眩しさに、俺は咄嗟に目を閉じる。こんなに暗い洞窟に、ここまでの光があるなんて…!
「着いた、よ。ここが、賢者の、間。」
恐る恐る目を開くと、そこには
宙に浮く階段、そしてそこから繋がる神殿のような…荘厳な建造物が、
洞窟の中にいたことが幻だったかと思えるような異空間に、そびえ立っていたのだ!
よく分からない女神から、転生だなんだと言われた時よりも驚いている。
全く、何が起こっているのか。
するとどこからか、声が響いてくる。
『よくぞ参った、我が同胞よ。』
…そっか、そう、だよ、ね。」
アミアはピタッと立ち止まり、後ろを歩く俺に顔を見せることなく、小さな声で呟いた。悲しげで、今にも消えてしまいそうなほどに。
「…結界のせいで探知が遅れたんだけど、ここに来てようやく、って感じ。」
流石にバツが悪くなり、俺の声も細くなる。
他人の考えなど、加護を使えばいくらでも読み取れる。
だけど、俺は必要最低限に留めていた。
人として、他人に踏み込みすぎるのは道に反していると思っているからだ。
「…黙って、て、ご…ごめん、なさい…。で、でも…。」
アミアは、大きく肩を揺らしている。
震えているのだろう。
そう、俺のことを恐れているのだ。
俺を結果的に騙したことで、アイツのように…容赦なく切り捨てられるのだと、直感的に考えているのだ。
アミアの息遣いが聞こえる。
絶え絶えだ。
先ほどの消えてしまいそうな声とは違う。嗚咽が混じる、心を曝け出したような、身体の底から湧き上がるものだ。
仄暗い洞窟に、アミアの咽せる声だけが響く。
遂に膝から崩れ落ちた彼女の背中を、俺は黙って見つめていた。
ここに来て、俺は躊躇った。
何と声をかけていいのか、全く分からない。
俺が原因だ。
俺が原因で、彼女は、こんなにも…。
「…ごめん、なさい。勇者、様。
…私、思い出し、た、ら…悲しく、
なっちゃって…。」
どれくらい時間が経っただろう。
時空の歪みにでも立ったかのように長く、そして一瞬にも感じられた。
立ち上がった彼女は、そう言って、俺へと顔を向ける。
笑っている。…どうして。
「私の、こと…嫌いに、なった?
本当に、ごめん、なさい。
でも、大賢者の、遺言。
『もし私の死後に勇者が来る機会があれば、必ず賢者の間に通せ』
って…。それで…。」
アミアは涙を片手でサッと拭うと、踵を返し、再度暗い道を進み始めた。
その言葉には、打って変わって力がみなぎっている。
「…アミア、俺は…。」
「私、ね。勇者様、の、役に立つように、って、育てられ、たの。大賢者、リートに。
山に、捨てられ、てた私、を…。大賢者、とっても、可愛がって、くれた…。
だから、私…勇者様の、役にも、立ちたいけど…
大賢者の…
お父さん、の、役に、立ちたくて…。
言い付け、を守って、ずっと黙ってた、の。
…ごめん、なさい。」
振り返ることなく、止まることなく、
俺の心を察するかのように、俺の言葉を遮ってまで、今までで一番饒舌に話を進めるアミア。
これは、本心だ。
加護を使う使わないの前に、直感でそう思った。
俺は、何も言葉を見つけられない。
俺は、彼女のことを理解しようとしてきただろうか。
こんな状況であちこち疑って、
俺のことを怖がっている、だなんて決めつけて、加護だけで分かった気になって。
本当の意味でアミアに近づこうとしたことは、あっただろうか。
込み上げてくるそんな感情が、俺を苦しめる。
「アミア、俺の方こそ、ごめん…。
俺…デリカシーとか、無かったよな。
それに、なんていうか…アミアに怖がられているような気がして…。」
歩を止めずにいるのに、アミアの小さな背中に追いつけない。暗いせいか、届いているのかもハッキリしない。
俺は俯いて、言い淀む。
「…ふふ。どうして?怖くなんか、ない、よ。
…あ、私が、泣いちゃった、から?
あれはね…お父さんが死んじゃった、こと…ひとりぼっちだったこと…思い出し、ちゃったの。」
アミアは、ようやくチラリと振り返り、微かに笑った。
何故だか俺は、その顔が頼もしく思えて、苦笑いで返した。
「あの、さ。辛くなかったら…大賢者のこと、教えてくれないかな。どんな人か、とか。」
バツが悪くなった俺は、小さくも大きな背中に問いかける。
…が。
「実は、ね。それには、あんまり、答えられない。分かって、るんだ。
私の、記憶。たぶん、消されてたり、とか、するの。もしかしたら、操作、されてたり。」
…は?
…どういうことだ?
すると、突然目の前に閃光が走る。
あまりの眩しさに、俺は咄嗟に目を閉じる。こんなに暗い洞窟に、ここまでの光があるなんて…!
「着いた、よ。ここが、賢者の、間。」
恐る恐る目を開くと、そこには
宙に浮く階段、そしてそこから繋がる神殿のような…荘厳な建造物が、
洞窟の中にいたことが幻だったかと思えるような異空間に、そびえ立っていたのだ!
よく分からない女神から、転生だなんだと言われた時よりも驚いている。
全く、何が起こっているのか。
するとどこからか、声が響いてくる。
『よくぞ参った、我が同胞よ。』
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