猜疑心の塊の俺が、異世界転生して無双するとかマジあり得ない

エルマー・ボストン

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神殺しなんて俺は知らない

大賢者、って…何者?

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一方その頃、分裂したもうひとりの俺は、アミアを伴って、

「大賢者リート」

が住まうという霊峰・シフの奥地へと訪れていた。


「勇者様…まさか、結界を、こんなに早く、全部突破する、なんて…。」


アミアが目を丸くする。

結界?

そんなものあったのか。
なんか身体がベタベタするな、とか思ったけど、アレかな。


「道中、おおまかに何者なのかは聞いたけどさ。
本当にそれだけ?」


険しい山道を、魔法の類いを使用しながらスルスルと進む俺たち。

大賢者リート。
アミア曰く、その人物から遣わされた、とのことであったが、俺はそれ以外何も聞かされていないし、調べようとしても「何か」に邪魔をされ、一切が不明のままであった。

だが、「俺」の到来を予期し、使者を送るというその行動。
ただ者でないことは確かだ。

「大賢者リート、すごい人。
この世界の理、何もかも、知ってる。
ただ…自分のこと、何も教えて、くれないの。
悪い人じゃ、ないよ。」

というのが、アミアの談。
そう言われても、自分のことを教えない人間のことを、はいそうですかと信じるワケにはいかない。
顔も合わせていないのだから、尚更だ。


「…まぁいいや。会ってみればわかる、か。友好的な人なら、余計良いけどな。」

俺は、後ろから着いてくるアミアに聞こえるかどうかくらいの大きさで、ボソッと呟く。

その山は、青々と繁る多くの木々、断崖絶壁や大瀑布に囲まれ、おまけに凶暴な野生動物や、恐らく強い毒を持っているであろう怪しい動植物がうじゃうじゃいる。
まるで天然の要塞、とでも言える地だ。


まぁ俺にはそんなの関係ないんだけど。


侵入者を阻み、俗世から離れるにはまさにうってつけ、ということだろう。

山頂付近に近付くにつれ、そのゴツゴツとした岩山が、徐々に雪に包まれ始める。
険しいであろう道のりが、更に難所へと変貌していくその様を見れば、並みの人間は心を折ることは想像に難くない。

だが、こんなところに住んでいる、となれば、だいたいどんな人物か想像がつく、というものだ。


「見えた、よ。あの洞穴。

あの中、に、大賢者リート、住んでる。」


余程の物好きだ。


自分でも驚きではあるし、今更感もあるのだが、「神々の加護」とやらの恩恵は凄まじく、最早自分が望もうと望まざると、勝手に諸々が発動するにまで至った。

恐らくだが、「加護」の量が多すぎて、
自分でも全部が全部把握できていないせいで、

「勝手にいい感じに発動しないかな」

と考えたのがきっかけであろう。

そのため、雪山に入っても全く寒くないし、あのデカいゴリラみたいの吹き飛ばないかな、と思えば、なんかすごい衝撃波が起こって対象がどこかへ飛んでいくし、自分が飛びたいな、と軽く思えば飛べてしまう。
まさに無敵。


…なんだけど…こんなに都合良くいくもんか?フツー…。絶対おかしいだろって。


というわけなので、山道の冒険譚とかは、別に無い。

デカいゴリラを吹き飛ばしたり、滝を割ったり、麓の村に迷惑をかけているという山賊のアジトを潰したり、アミア曰く
「伝説の暗黒竜」とやらを捻ったりしたくらいだ。

そんなこんなで、大賢者リートの寝ぐらまでやって来たのである。
…まぁここまで一瞬でワープしてもよかったんだけど、この世界のことを体験するのもいいのかな、と。


「勇者様、気をつけ、て。
大賢者リート、滅多に人に会わない、し、信用してない、から。
洞穴の中、罠が…」

心配するアミアをよそに、俺はその罠の山を全部燃やしていた。


「あっごめん。やっちゃった。」


「心配、なかったね。」


アミアは、気まずそうに頭をポリポリと掻く俺の顔を見て、クスッと笑った。


「すみませーん、お邪魔しまーす。」


薄暗い洞穴を、指に灯した大きな炎で照らし、ズイズイと進む俺たち。

人の気配はする。だが本当に、こんなところに人が住んでいるのだろうか。
洞穴に入ってから、もうかなり歩いている。奥に行くほど空気が薄くなっていく感じもするし、何より人が
「生活のために出入りしている」
形跡が全く無いし、

何も美味しそうなものが出てくる感じがしない。



…何かがおかしい。


俺は、直感でそう感じた。


正直、アミアの記憶を読もうと思えばいくらでも読める。
だけどそれを今までしなかったのは、何故か俺は、アミアのことだけは信じられたからだ。理由は全く分からないが。


今、なんとなく…仄かな不安を抱き始めていた。




「なぁ、アミア。」

歩む速度を落とさずに、俺は後ろを着いてきているアミアに、正面を向いたまま声をかけた。


「…なぁに、勇者様。」


何かを察したのか、アミアの口調は、どこか哀しげであった。





「…大賢者、死んでるのか?」
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