チートがなくても最強です!?〜最弱勇者はハードモードの異世界を策略と悪知恵で必死こいて生きていく〜

ソリダス

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第三章 ゾムベル編

第三章幕間 魔王城にて

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 ―――これは、太郎とデイモスがハルマに向かってからしばらく時間が経過した後の話―――。


 


 太郎達がいたゾムベルから遥か遠く離れた魔王軍の領地、そのほぼ中心には『魔王城』と呼ばれている魔王軍の拠点の城が聳え立っていた。


 城壁や城の外壁は何者ですらも漆黒に染めてしまいそうなほどの深く暗い黒で統一されており、城壁に取り付けられた大きな門から城内に入る為の入口まで真っ直ぐに道が続いている。

 その道の両側には悪魔を象ったと思われる不気味な石像が等間隔で並べられ、その石像同士が道を挟んで互いに睨み合ったような形となっている。


 そんな不気味で禍々しい雰囲気を醸し出す魔王城、その城内にある一室の『王の間』と呼ばれる部屋の中に、2人の魔族がいた。


 一人は片膝をつき、誰かに向かって頭を垂れ最敬礼の構えを取っている。

 その者はボロボロの黒いローブで全身を覆っており、ローブから時折覗かせるその顔や手足には、生き物であれば必ず必要な肉や皮が一切付いておらず、ただそこにあるのは骨だけだ。


 その者はアンデッドの『リッチー』と呼ばれる種族に分類される。

 この世界でのリッチーとは、魔法や呪術を極めた大魔導師が永遠の生命を求めて自らアンデッドにその身を堕とした者、体内に存在する強大すぎた魔力の為にアンデッド化してしまう者などの事を指す。

 そのような特性から『リッチー』と呼ばれる者は、極めて高い魔法能力を持っている事が多い。


 そしてもう一人は、ローブを身につけたリッチーの正面にある髑髏や人間の苦悶に満ちた表情の禍々しい彫刻が施された玉座に腰掛けている男だ。

 男の見た目は、人間でいうと大体40歳前後くらいに見える。

 髪はややピンクに近い赤色で短く切り揃えられており、額からは2本の立派な角が天に向かって伸びている。

 さらにその男の何者も見通すような黒い瞳の眼力は非常に鋭く、その目で睨まれた生き物は立ち竦む事しか出来ないだろう。

 加えて、首元からいかにも悪役が履いていそうなつま先のとんがった黒い靴のくるぶしまでを、黒のマントですっぽりと覆っている。


 この男こそ、現在の魔王軍の頂点に君臨している魔王。


 『魔王バアル』である。


 そんな中、リッチーが頭を上げて申し訳なさそうに口を開いた。


 「魔王様、申し訳ありません。複数の死体を傀儡として操ることに使用していた力をドラゴンの死体に半分以上注ぎ込み、ドラゴンゾンビを作り出したのですが……」


 「……どうした、ビフロンスよ。何かあったのか」


 ビフロンスと呼ばれたリッチーが一瞬躊躇うような素振りを見せたが、すぐにその言葉の先を伝えてきた。


 「実は……そのドラゴンゾンビが先ほど正体不明の男の二人組に倒されました。一体誰に聞いたのか、その二人はドラゴンゾンビの最大の弱点が火である事を把握していたらしく、的確に弱点を突かれた事が今回の敗因と考えます……大変申し訳ありません」


 そう言って俯くビフロンスに、魔王はどっかりと玉座に腰掛けたまま右手の肘から先だけをスっと上げる。


 「よい、我は失敗を責めるつもりはない。我が求めるものは、その失敗から反省しなければならない点を見つけ出し、どのようにして次に繋げ、そして生かすことが出来るか。これだけである。その為ならば我も協力を惜しまないつもりだ」


 「有り難きお言葉痛み入ります」


 「ふむ、まあそれはそれとして。正体不明の男の二人組、か……。ドラグノフを倒した者との関連性は?」


 「その点も合わせて調査中です」


 「あぁ、頼んだぞ。……人間側にあのドラグノフとドラゴンゾンビに勝てる者が突然、それも複数現れたとは非常に考えにくい。我が魔王軍の中でも上位に入る戦闘力を誇るドラグノフは、ドッデ村を管轄区域にしている討伐隊の戦力を正面からぶつけてられても倒すことは出来ないという計算結果が出ていた。それに……ビフロンス、お前が全力で作り上げた訳ではなかったといえども、ドラゴンゾンビの戦闘能力は極めて高い水準にあったはずだ。これ程あっさりと倒されるはずがない。……この2つには何かしらの共通点がある。それを探し出すのだ」


 「はっ!この身に代えましても!」


 ビフロンスは再び最敬礼を取り、頭を深々と下げた。それを見た魔王はこくりと頷き「頼んだぞ」と呟く。

 すると、魔王はふと何かを思い出したのか、小さく首を傾げてビフロンスに問う。


 「そういえば、『七つの大罪』を司る10人の幹部達はまだ来ないのか。特に今回は【貧困】を司るあの者に大事な話があるのだが……」


 「あのー魔王様、その事なんですが……」


 「なんだ?」


 魔王がそう尋ねると、何故だかビフロンスはしきりに左右に顔を動かして落ち着きがない。


 「どうした、早く言え」


 魔王のその言葉で決心がついたのか、キョロキョロしていた頭の動きを止めてスっと顎を引いた。そして真っ直ぐに魔王を見つめこう言った。


 「今日、全員休みだそうです。さっき連絡がありました」


 「何っ、全員休みっ!?………はっ!まさか人類に足止めされて魔王城に来ることが出来ないでいるのか!?ならば仕方ない、この我直々に―――」


 「―――いえ、違います」


 魔王の言葉を途中で遮ったビフロンスは、真顔で(骨なので表情が全く分からないだけなのだが)懐から小さく折り畳まれたメモ用紙を取り出した。

 その用紙を開き、アンデッドなので本来はする必要もない呼吸を整えるため、すぅと息を吸い込んだ。


 「……では、それぞれの欠席の理由を読み上げます」


「―――『休暇』『組の会合』『ダルいから行きたくない』『ちょっとした段差を飛び降りて全身粉砕骨折で現在入院中』『変身ベルトの調子が悪い』『街中を全裸で走ってたら警察に捕まって現在は取り調べ中』、そして残りの4人が『風邪』です」


 「ファーーーーーーwwwwwwww………風邪、流行ってんの?」


 「ええ、ですが実際は風邪ではなくウイルス性の感染症です。これが結構タチが悪いらしいんですが、予防接種を受けてたら問題はないという事でした」


 「………我には風邪以外の問題しか見当たらないんだけど。もうサラッと流せるレベルを遥かに超えてるんだけど。えっ?だってあいつら仮にも魔王軍の最高幹部だよ?我の部下だよ?我は、一応上司だよ?しかも事前に『かなり大事な話があるから幹部は絶対集まって』って連絡してたじゃん!」


 興奮した魔王はキャラの見た目にそぐわない若者言葉で溜まった不満を口から吐き出す。

 そんな魔王の事をビフロンスはカタカタと歯を鳴らして優しく宥めた。


 「まぁまぁ、そんな事を今更気にしてもしょうがないじゃないですか。そういえば魔王様は予防接種に行きました?」


 「いや、『そんな事』って……。予防接種にはまだ行ってないが。……どうせ誰も来ないんだったら今から予防接種受けてくる。あ、あとさ、今日はもう仕事切り上げて帰っていいぞ。風邪には気を付けろよ」


 「了解です」


 ビフロンスの返事を聞いた魔王は、玉座から立ち上がり身にまとっていたマントをゆっくりと脱ぎ始めた。


 魔王がマントの下に着ていたのは、胸にゴシック体でハッキリと

 「魔 王」

の二文字がプリントされている白の半袖シャツ。

 そして下は、何故か南国テイストの花柄ハーフパンツと非常に涼し気な印象を与える服装になっていた。


 徐に履いていた靴を脱ぎ捨てて、玉座と床の隙間に空いたちょっとしたスペースに仕舞っていたサンダルをスっと取り出し、魔王は迷うことなくそのサンダルに履き替えた。


 「魔王様……、私は常日頃から魔王らしい格好をするようにと言っているじゃないですか。なんなんです?そのラフな格好は。普段と何にも変わらないじゃないですか。正直、それじゃあ威厳もクソもないですよ」


 ビフロンスの表情は分からないのでこの声の様子から察するに、ちょっと怒っているのだろう。少々強い口調で魔王にそう言った。

 それに魔王は口をへの字に曲げて拗ねたような態度を取る。


 「良いじゃないか、こっちの方が何かと動きやすいんだから。それにさ、我が珍しく今までそれっぽいマントを羽織っていたり、悪役っぽい靴を履いていたのは、てっきり今日は幹部のみんなが集まるんだと思ってたからであってだな?好きであんな通気性の悪い物身に付けてたわけじゃないんだぞ」


 「はぁぁぁぁ……分かりましたよ。それじゃあ好きな服を着ればいいんじゃないですかね」


 大きなため息をつきながら額を押さえ、やれやれと首を振るビフロンス。

 しかし、そんなビフロンスを見ようともせず、魔王はくるりと背を向けて玉座の後ろに置いてあった箪笥に近付いていく。


 ……何故、王の間に箪笥があるのかと言うと、単純に魔王が持ち込んだからである。


 この部屋のレイアウトの決定権は魔王にある。なので、洋風な外観をしている魔王城の雰囲気ぶち壊し、挙句に生活感丸出しの家具の設置を魔王が設置したとしても誰も文句を言えないのだ。

 その他にも室内を見渡すと、ちゃぶ台、テレビ、ゲーム、冷蔵庫、ロングタイプのソファ……などなど生活感が滲み出ている家具があちこちに置かれている。


 「それじゃあ我が出掛けた後に退社する時はちゃんと鍵を閉めるんだぞ。……あれ、保険証どこにやったっけ……」


 ゴソゴソと箪笥の中を探る魔王の寂しげな背中をビフロンスが見つめる。

 その背中がいつもより一回りほど小さく、弱々しく見えたのは気のせいではないのだろうとふとそんな事を考えていた。



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