チートがなくても最強です!?〜最弱勇者はハードモードの異世界を策略と悪知恵で必死こいて生きていく〜

ソリダス

文字の大きさ
43 / 81
第四章 ハルマ編

第四十二話 嘘つきは勇者の始まり

しおりを挟む
 勇者とアンパン魔人の1対1で繰り広げる戦い……。

 両者の戦闘は熾烈を極めるかと思われたが、いざ始まってみるとその戦いは一方的なものとなった。


 勇者は装備したヒノキの棒を使って、攻撃を何度も仕掛けた。しかし、アンパン魔人はそれら全てを笑いながら紙一重のところでかわしていく。

 さらにそうして出来たほんのわずかな隙を、アンパン魔人はひとつも見逃さずに反撃に転じてくる。

 彼は、魔法や特殊能力などは一切使わずに、拳のみを使った攻撃を繰り出す。

 しかし、その攻撃は明らかに本気ではない。

 攻撃を放つ際に全く力を入れていないのだ。にも関わらず、その威力は完全に生物としての次元を超えていた。

 それほどの力を持つ者であれば、ここにいる勇者など容易く倒せるだろう。しかし、トドメを刺す気配は一向にない。

 その表情と戦い方から、いたぶる事を目的として楽しんでいるのは明白であった。


 やはり魔王軍最高幹部を名乗るだけあって、その戦闘力は尋常ではない。


 勇者の顔はマスクで覆われているため見えないが、奥に隠したその表情は焦燥から歪んでいるだろう。


 襲いかかる猛攻に対し、勇者は必死に食らい付いていたがとうとう腹部に拳の一撃がまともに入り、それを食らった勇者は壁まで一直線に弾き飛ばされる。


 「おっ、今のは結構手応えがあったよ?」


 アンパン魔人は笑いながら、殴った感触を確かめるように拳を握って開く動作を数度繰り返した。


 一方、思い切り叩きつけられた勇者は壁にもたれかかり、そのまま俯いて動く気配がない。

 さらに勇者の全身は、強烈な攻撃を何度も受け続けたため、既にボロボロになっていた。

 しかし、木の棒を握り締めた右手の力に変化はない。


 「うーん……思ってたよりずっと弱いなぁ。君、どうやってドラグノフを倒したの?この程度じゃドラグノフに瞬殺されるのがオチだと思うんだけど」


 アンパン魔人の不思議そうな問いかけにも、勇者は俯き、無言のままだ。


 「で、どうする?もう終わりにしてもいい――」


 アンパン魔人が何かを言いかけたその時。


 突然勇者が、もたれかかっていた壁を足場にして跳躍するという重力を無視した、普通の人間には到底真似する事の出来ない俊敏な動きでアンパン魔人との距離を一気に詰める。

 ……それを、勇者は予備動作なしで行った事で、全く予測していなかったアンパン魔人は驚いたような表情を見せた。


 ヒノキの棒を振り抜く速度に更に跳躍で得たスピードを上乗せした一撃が、アンパン魔人の横顔を捉えた。……かに見えたが。


 「おお!今のはボクも驚いちゃった!流石、勇者と呼ばれるだけのことはあるね!そんな動きが出来るのなんて、僕が知る限りだとかなり上位の『アンデッド』くらいだよ!例えば、『ドラゴンゾンビ』とかね?――けど、ボクには通用しない」


 この程度の攻撃を見切るのは造作もないと言わんばかりに、空気を切り裂くほどの速度で薙ぎ払われた棒をいとも簡単に掴んだ。

 そして、勢いに更に加速を付けるため足を軸にして一度大きく回転し遠心力を加え、そのまま壁に向かって投げ付ける。


 ――次元が違う。


 そう確信した勇者は何とか空中で体勢を立て直し、地面に無理やり両足を踏ん張ることで投げられた威力を殺した。

 大きなダメージを防ぐことに成功したが、勇者にとって危機的状況である事に変わりはない。


 「……攻撃強化ッ!『インクルシオ』ッ!」


 ここまで無言を突き通してきた勇者がとうとう言葉を、それも攻撃を強化する魔法を自分に唱えた。

 勇者は身体がほんのりと赤い光を帯びる。


 「へぇ、魔法使えたんだ。全然使わないからてっきり出来ないと思ってたんだけど。……ま、そりゃ使えるか。普通の人間だって出来るのに、勇者が出来ない訳がないもんね。……っていうか、ようやく喋ってくれたね」


 勇者は先ほどよりも速度や威力が数段増した攻撃を繰り出すが、アンパン魔人は話をしながらでも余裕で避け続ける。

 更に、振るわれた攻撃を片手で受け止めて、ヒノキの棒を掴んで離れない勇者ごと軽々と振り回し、そのまま思い切り地面に叩きつけた。

 その瞬間、床が突き抜けてしまうのではと思ってしまうほどの轟音が鳴り響き、建物全体が大きく揺れる。

 それによって、人質達から短い悲鳴が上がった。


 「……残念だなぁ。もう終わりかぁ……」


 アンパン魔人は大の字に横たわる勇者に近づき、冷たく見下しながら残念そうにため息混じりに呟いた。


 勇者は動く気配がない。

 だが、マスクの奥にある瞳は真っ直ぐにアンパン魔人を見つめていた。


 「……確かに『俺の役割』はここで終わりだ。……ここまで完璧に役割をこなせた自分を褒めてやりてぇ気分だぜ」


 「君は……何を言ってるんだい?」


 唐突に喋り出した勇者に困惑した様子でアンパン魔人は勇者に問いかけるが、当の勇者は「ふっ」と笑ってまともに取り合わず、さらに話を続ける。


 「意味なんざ今から嫌というほど分かるさ。せいぜい楽しみにしてな」


 負け惜しみか?という疑問がアンパン魔人の頭に一瞬だけよぎる。

 しかし、その意味を知る機会は直ぐに訪れることとなった。


 「――突撃ィィィ!!!」


 突然、怒号のような声が聞こえてくる。

 アンパン魔人がそれを理解した時には、既に全身を完全武装で固めた討伐隊の隊員達が部屋の中に次々となだれ込んで来ていた。

 彼らは訓練された素早い動きで、アンパン魔人を包囲するように取り囲んでいく。

  人質はすぐさま数人の隊員に連れられて、入ってくる隊員達とすれ違いながら迅速な動きで外へと連れ出される。


 「ありゃりゃ……。ボクの大事な手札が……」


 その様子を残念そうに眺めながら言葉を漏らしたアンパン魔人。だが、直ぐに視線を勇者に戻す。


 「なるほどね……要は君はただの時間稼ぎ。本当はこっちがメインで、討伐隊が電波塔に突入するために君がボク達の注意を一点に引き受ける、って事かな?」


 ゆっくりと立ち上がる勇者に向かって笑いながら問いかけたアンパン魔人。しかし、その返事は勇者からではなく、部屋の入口の方向から聞こえてきた。


 「――まあ、大体はそんなところだ」


 アンパン魔人は声の聞こえた方向を振り向く。

 そこには銀色の髪と水色のワンピースを着た少女と、安っぽい上下セットの黒のジャージ服を身に着けた、本当にどこにでもいそうな男が気味の悪い笑みを浮かべて立っていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力のせいで神レベルの連中に狙われましたが、守銭奴なので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
――自由を手に入れるために、なにがあっても金は稼ぎます―― 金さえあれば人生はどうにでもなる―― そう信じている守銭奴、鏡谷知里(28)。 交通事故で死んだはずの彼が目を覚ますと、そこは剣と魔法の異世界。 しかもなぜか、規格外のチート魔力を手に入れていた。 だがその力は、本来存在してはいけないものだった。 知里の魔力は、封印されていた伝説の冒険者の魔力と重なったことで生まれた世界のバランスを崩す力。 その異常な魔力に目を付けたのは、この世界を裏から支配する存在―― 「世界を束ねる管理者」 神にも等しい力を持つ彼らは、知里を危険視し始める。 巻き込まれたくない。 戦いたくもない。 知里が望むのはただ一つ。 金を稼いで楽して生きること。 しかし純粋すぎる仲間に振り回され、事件に巻き込まれ、気付けば世界の管理者と敵対する羽目に――。 守銭奴のチート魔力持ち冒険者 VS 世界を支配する管理者。 金のために生きる男が、望まぬまま世界の頂点と戦うことになる 巻き込まれ系異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

処理中です...