チートがなくても最強です!?〜最弱勇者はハードモードの異世界を策略と悪知恵で必死こいて生きていく〜

ソリダス

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第四章 ハルマ編

第四十三話 銀色に輝く希望

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 俺はアンパン魔人と目が合ったことに気が付くと、ニタァと更に笑みを不気味に歪め、その口を開いた。


 「いやぁ~!予想してたとはいえ、改めて考えてみると結構えぐいことしてくれたよなぁ!?ドラゴンを倒した勇者が、為す術もなくボコられてる映像を生放送で全国に流すなんてよぉ!」


 そうなのだ、実は今までのデイモスとアンパン魔人の戦闘は、この部屋に設置された監視カメラを通して全国に放送されていた。


 ……まぁ、電波塔の資料を見た時に凄い量の監視カメラには気付いてたんで、『あ、こりゃ魔王軍も絶対に利用してくるな』っては思ってたんだけどね。


 そんなことを考えながら俺は話を続ける。


 「そりゃそんなん見せられたら一般人なら誰だってビビるわ。ただでさえ壊滅的な人類の士気を、これ以上下げないでもらえますかねぇ?……それとも、それが狙いだったりする感じか?ん?」


 俺はニタニタと確信めいた笑いを浮かべながら、だが、目線は真っ直ぐに向けたまま言った。

 それに対してアンパン魔人は肩をすくめる。


 「ありゃ、バレちゃってたか。どう?結構、視聴率取れそうじゃない?小さい子供向けの番組なんかより、こっちの方がよっぽど面白いってもんじゃない?……それよりもその声、ボクと通信越しに話したのは君だったんだね!」


 ヘラヘラと悪びれる様子もなく、アンパン魔人は言い放った。

 その発言は流石にマズいと、俺は聞いた瞬間ににじみ出る冷や汗を額に浮かびあがらせる。


 「確かにそうだけど!……お前!『子供向けの番組』とか『視聴率』とか言っても冗談になって聞こえないから!色々まずいって!なんというか……その外見でそれを言うと、頭の中身に餡子詰まった某ヒーローが風評被害を受けちゃうから!」


 俺は続ける。


 「……それにだ、この部屋に設置されてる監視カメラは、お前らの考えてる馬鹿みたいな目的を成し遂げる為に取り付けられてんじゃないっつーの」


 「……なるほどね。てことは、もう放送は停止させちゃったのかな……?」


 わざとらしいアンパン魔人の呟きを、俺は「きひひひ」と何処かの妖怪のような笑い声を漏らした後に、意地の悪そうな声のトーンで話す。


 「どうかねぇ?もうとっくに止まってるかもしれないし、あるいは停止させずに俺達が利用してるかもしれないぜ?……どっちにしろ、このくらいは自分に都合のいいように前向きに考えてもいいと思うね、俺は。ポジティブシンキングは大切だよ……っと、雑談もこの辺にしておくか!おかえり、デイモス。ご苦労さん」


 こっそりと俺の真横に戻ってきたデイモスの肩をぽんと叩く。


 デイモスはため息をついて、首を普通の人間では回らないところまでグリングリン動かす。その度に

 バキバキバキバキバキバキィィ!!

 と、洒落にならないくらい生々しいエグい音が鳴った。


 「あぁ~、流石の俺も疲れたような気がするな。一仕事終わった後の美味い酒が飲みたくて仕方ねぇや。それと、お前そのジャージ似合ってるぜ?いかにもオッサンっぽい雰囲気で」


 「へっ!このパーティーにオッサンキャラはデイモス1人で充分だ!あと!酒なんざここを切り抜けたら嫌というほど飲ませてやるよ!だからもうちょい頑張ってくれや!」


 軽口を叩く余裕があるらしく、デイモスは今俺が着ている安っぽいジャージを見てニタニタ笑っている。これも実は『勇者公園』に着く前に買ってきたものだ。


 それで俺がこれまで着ていたスーツと似たものを、デイモスが身に付けている。それにハロウィンマスクを装着し、中身が誰かを分からなくした。


 ……要するに俺のフリをしてもらってたわけだ。


 だって俺が本当に乗り込んでたら、ここに辿り着く前にそこら辺の名もなき下っぱに秒殺されるだろうから。

 こればっかりは間違いない。


 ……悲しくなるような現実を頭に浮かべ、それに対して心の中でガンを飛ばしていると、俺はある事を思い出した。

 スっとアンパン魔人の方向を向く。

 

 「そういやお前……さっき『一人で来るなんて馬鹿』っつったろ?俺もそれには激しく同意だ。お前みたいな底の見えない化け物相手に1人で戦うなんて馬鹿のすることさ!だが、あいにくこっちはまともに相手する気は端からサラサラなかったんでなァ!あーひゃっひゃっひゃっ!戦いは数だよ兄貴ィ!!」


 そう言い放って高笑いする俺。

 そんな俺をアンパン魔人は冷ややかな目で見つめていたが、興味を失ったのか改めてぐるりと周囲を取り囲む隊員達を見渡す。


 「うーん……確かに人数はいるけれど、この程度だと間違いなくボクには勝てないよ?」


 「んなことはこっちが1番分かってんだよ!お前、少なくとも竜王ドラグノフ以上の戦闘能力は持ってるんだろ?じゃなきゃ、ドラグノフを倒した俺のところにノコノコ出てこれる訳がないからな。……だから、確かにこのまま戦ったんじゃ俺達は負けるだろうな。このまま、だったらな?」


 このまま、という部分をやたら強調させた後、俺はすぅと息を吸い込んだ。


 そして言葉と共に一気に解き放つ!


 「だから、的確に弱点を突いてやって弱りきったお前を、この人数でボッコボコの袋叩きにしてやんのさァ!卑怯だろうが何だろうが、相手の弱点突いて数で叩き潰せばそれでおしまいなんだよ!」

 

 自分で言ってこう思った。


 …………勇者とは何ぞや?


 セリフだけ切り抜いてしまうと、これはもう完全に悪役の言葉だ。


 そこには勇者としての誇りも、敵を倒す英雄の力強さもまっっっったく存在しない。
 あるのは純度百パーセントのクソ外道成分のみ。

 『そこら辺の山賊がこう言ってました』という話を聞いて、このセリフを聞いていたら俺なら全く疑わずに「あぁそうなんだ」と信用する。そのくらいのレベルで今の発言はゲスかった。


 加えて、今の俺の表情は多分エラいことになってる。

 もう、何となく分かる。少なくとも目は限界まで見開いているし、口元もかなり歪んでるからね。


 想像するだけ無駄なので、さっさと意識を元に戻す。


 「……ボクの弱点?君は分かるの?」


 アンパン魔人の表情からは笑みは消え、この場全体を警戒している素振りを見せる。


 だが、俺は構わずポケットからこの戦いの最終兵器を徐に取り出す。

 そして、取り出したそれをまるで水戸黄門の印籠のように見せつける。


 「お前の弱点はズバリこれだ」


 ポケットから取り出したのは、キャップの付いた細長い赤色の筒。


 余程警戒しているのか、アンパン魔人は半歩引いて身構えた。この状態ではどんなに当たる攻撃もかわされてしまうだろう。


 しかし俺はそんなことに構わず淡々と作業を続ける。


 その筒のキャップを取り外し、キャップと筒の本体の先を擦り合わせた。

 その瞬間、その筒は眩い光と大量の煙を発生させる。


  俺は笑いながら、再びどっかの副将軍が持つ印籠のようにアンパン魔人に見せつけた。


 「お前の弱点……。それは、火だ!これでは少し火力が足りないかもしれないが、お前を弱らせるくらいならこれで大丈夫なはずだ!!」


 そうして俺は筒を握った右手を、真上に高くかざす。……ウル○ラマンの変身ポーズみたいになっているが、細かい事は気にしてはならない。


 そんな俺をアンパン魔人はぽかんと拍子抜けしたような顔で見つめる。


 「僕の弱点が……火?……あははははははは!!!そのくらいじゃ僕の勝ちは揺るがないよ!仮にボクの弱点が火だったとして、その程度の威力で弱体化すると?君はボクをあまりにも舐めすぎだ!」


 ここで初めてアンパン魔人は激しい感情をあらわにした。

 そのままの勢いで何かを叫んでいるようだが、そんなことなど最早俺の眼中に無い。

 まさに、アウトオブ眼中といったところか。……今の言いたかっただけです、すいません。


 今の俺の目線が向けられているのは、もくもくと上昇していく煙と天井のみだ。

 その煙が上に辿り着いた事を確認した俺は、視線は天井に向けたまま凶悪な笑みを浮かべる。


 「……いいや、舐めてないし油断も全くしてない。そういうお前はどうなんだ?今の俺の素っ頓狂な話を聞いて、内心クソほど舐め切ってたんじゃないか?」


 「それはどういう意味だい!?」


 「……そんなんだから肝心な事を気付けずに負けるんだろうがって意味だよ。こんな時こそ頭に詰まった餡子をフル回転させろや、アンパンマン」


 俺がそう言い終えると同時、周囲に警報が鳴り響き、天井から霧状になった水が大量に降り注いだ。

 それはこの部屋にいる者全てに降り注ぐ。


 「俺が『火が弱点』とか的外れな事言ったから、俺の持ってる筒の火の部分に意識がいっちゃったんだろ?だが残念。本当の狙いは煙の方だ。油断して、なおかつ興奮状態ともなるとそれに気付くのは難しいだろうな」


 俺が話している間も、一定のペースで大量の水が放出される。もちろん、これは俺たちにとって何の害も無いただの水だ。

 しかし、水を全身に浴びるアンパン魔人は、頭を押さえその場に膝をついた。

 その表情を歪めて苦しんでいるようだ。


 「あぁぁぁぁぁぁ……ッッ!!顔が濡れて……力が……力が抜けていく……ッ!何故……ッ!?何故水が……!?」


 「スプリンクラーだ。……知らないか?万が一この部屋で火災が起こった時、その際に発生する『煙』を感知して水を噴霧するって機械だ。つい最近に点検整備を受けたってんで、こっちも安心して使えたぜ。そんでこれは発煙筒。こういうのもホームセンターで手に入るんだよ。……本当、訳分かんねぇよなぁ……」


 ほんと、この世界マジで訳分からん。

 何度目になるか分からないそんな感情を込めながら、俺は簡単に説明をした。

 しかし、これだけでは不明な部分もあるわけで。

 アンパン魔人はそんな疑問を苦しみながらもぶつけてきた。


 「お前ェェェッッ!!何故ボクが水に弱い事を……ッ!!」


 「お前がアンパンマンそっくりだったから」


 気が付いたらそう言ってた。


 「……え?」


 後ろにいたヴェルデが困惑した表情で呟いた。

 デイモスも「お前頭大丈夫か?」と言いたげな顔で、俺の肩にぽんと手を置いた。


 あ、ヤバい。この2人だけじゃなく、周りの隊員達も同じように困惑した顔してる。

 本当に、本当に今のは無意識だった。俺は悪くない。


 慌てて俺は咳払いをして、無理やり誤魔化す。


 「……だけど最初から『水が弱点』なんて分かってたわけじゃないんだぜ?途中までは自分でも半信半疑だった。……だからちょっと試してみたんだ。あの雨の中、お前は外に出てくるのかどうかを」


 アンパン魔人は無言で俺を睨みつけたままだ。


 「……その結果、お前が外に出てくることは無かった。そんで通信機を通して話した時の反応、あれでほぼ確信に変わったかなぁ。……根拠としては少し弱いかもしれないが、どうせ他に手はなかったからな。一か八かの賭けだった。で、それに俺達が勝ち、お前が負けたって事だ!外は大雨だからお前は外には逃げられねぇだろ!さぁ!ふにゃふにゃになったその頭が、ボロボロと崩れていく様をたっぷりと眺めさせてもらおうかァ!」


 俺はジャージのズボンポケットに手を突っ込んだ田舎のチンピラみたいな格好で、あひゃひゃひゃ!と大声で笑った。


 勝ちを確信して、死の恐怖が過ぎ去った時ほど嬉しいことはないからなぁ!


 ……だが、何故かアンパン魔人は諦める気配がない。

 全身にスプリンクラーの水を浴びながらも、ゆっくりと立ち上がる。


 「ふ……ふふふ。いいよいいよ、そうだよねこの位のハンデはやっぱり必要だよね!それじゃあ、まずはこっちからいかせてもらう……よっ!!」


 そう言った瞬間、アンパン魔人を取り囲んでいた隊員の1人に恐るべきスピードで接近し、その拳を振るった。

 何の抵抗も出来ずにその直撃を食らった隊員は、まるで何か軽い物のように一瞬で弾き飛ばされる。

 その勢いのまま次の隊員、次の隊員と襲いかかった。


 隊員達もこれを食い止めようとするが、アンパン魔人は恐ろしいスピードで自分から隊員の方向に突っ込んでくる。これにより魔法による攻撃を行おうとしても狙いを定める事が出来ない。


 これに死ぬほどビビる俺。


 「ちょっ!流石にこのパターンは考えてなかったっ!弱点突かれてこの人数相手に互角以上とか、あいつの頭おかしいんじゃねぇの!?……いや、頭がパンだからとかいう事じゃなくてね?どうしよう!マジでやばい!マジでやばい!これって辞世の句とか考えなきゃいけない感じ!?」」


 「落ち着け!お前が慌てても状況は良くならない!何か作戦とか対抗手段とか――」


 デイモスから的確な指示が飛ぶが、今の俺はパニック状態。頭の中がてんやわんや。


 「――んなもんあるわけねぇだろ!!やべえって!ここまで割とカッコつけてそれっぽい雰囲気出してたのに!ここでやられたら普通にやられるよりよっぽど無様じゃん!嫌だああああああ!!死にたくねぇぇぇぇ!!マジ命だけは勘弁してください!あの!土下座するんで!靴の裏も舐めるんで!」


 「おおおおい!!お前勇者だろ!?何でみんなが戦ってるのにお前だけ命乞いしてんだよ!」


 デイモスがそう言うが、俺は必死に土下座をして額を地面にグリグリと擦りつけながら、命乞いを繰り返す。

 こんな時に勇者のプライドもクソもあったもんじゃない。そんなのがあっても今は邪魔になるだけだ。

 この状況を打破出来る可能性が天文学的数字レベルでもあるのであれば、俺はちっぽけなプライドなんざ喜んで放り捨ててやる。


 しかしこれは……マジでどうしようもない気がする。

 もう何も考えてない。


 俺、死ぬかもしれない。


 唯一の希望は敵であるアンパン魔人だけだ。もしかしたら俺の全力土下座で心が動いて、全員の命を助けてくれるかもしれない!


 俺はその可能性に今の俺の全てを賭ける!!


 「残念!ボクは命乞いに耳を貸さないことにしてるんだ!」


 「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」


 可能性は呆気なく打ち砕かれた。


 

 死んだ。


 

 俺は直感的に自分の死を悟った。


 ゆっくりと迫り来るアンパン魔人の拳。

 世界がスローモーションになって見えた。人間って極限状態になるとスローモーションに見えるって聞いたことがあった。あれはどうやら本当らしい。


 死ぬ間際というのに、考える事はいつも通りのくだらないことだった。


 俺は迫ってくる拳にビビって目を瞑り、顔を腕で覆い隠す。


 その直後、俺がへたりこんでいる地面のすぐ横を轟音を轟かせながらアンパン魔人の拳が貫いた。


 「……なっ!?」


 さっきの拳は急激に軌道を変えたのか?あのアンパン魔人がわざと?


 一瞬そんなことを考えるが、そんなわけがないということは既に知っている。


 それなら攻撃が外れたのはどういう事だ?と俺は思わず顔を上げる。

 そこで俺はさっきまでは誰もいなかったはずの俺の目の前に、誰かが庇うように立っていることに気が付いた。


 そこにいたのは、パンチの風圧で銀色に輝く髪をゆらゆらとなびかせた美しい少女、俺のよく知るあの人物だった。


 「……ヴ、ヴェル……デ……?」


 ビビりすぎてカッスカスになってしまった声を振り絞り、その名を呼んだ。

 ここでスっと喋れない辺り、やっぱり俺は本当にただの一般人だなと痛感させられた。

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