チートがなくても最強です!?〜最弱勇者はハードモードの異世界を策略と悪知恵で必死こいて生きていく〜

ソリダス

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第五章 アストラ編

第五十四話 過ちは消えない

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 爆発に巻き込まれた俺は、以前ドラゴンゾンビと戦った時と同様にあっさり意識を失った。


 だが、打ち所が良かったのか、はたまた気絶に慣れただけなのかは分からないが、今回はそこまで時間をかけずに意識を取り戻した。

 ……気絶に慣れるとか絶対体に良くないよな……なんて言葉は頭に留めつつ、ガバッと起き上がってデイモスとヴェルデの無事を確認する。


 「……おい!!デイモス、ヴェルデ!大丈夫か!?」


 二人は俺のそばに座って見守ってくれていたようだ。


 「それはこっちのセリフだよ!いきなり気絶するんだからびっくりしたじゃん!」


 「おっ、今回は随分早起きだな?前みてぇに半日寝られたらどうしようかとヒヤヒヤしてたところだ」


 心配そうな様子のヴェルデと、ニヤニヤしながら軽口を叩いてくるデイモス。

 それを確認した俺はほっと胸をなでおろしながら、「いやーー!まさかこんなあっさり気絶するとは思ってなかった!」と頭を掻きながら苦笑を浮かべた。


 そんな俺の様子を見て、二人もここでようやくほっと一安心したように笑い合うことができたのだった――。


 ―――と、てっきりこのままの感じで円満に終わるもんだと信じて疑わなかった俺だけど、やっっっぱりこの異世界がそんなに甘いわけがない。


 

 町に戻ると明らかに人々の様子がおかしい。俺たちを睨みつけるような視線が突き刺さる。

 ……つーか、町の入口にとんでもない人数が集まってるんだが。嫌な予感に包まれるが、なんとかそれを振り払い「きっとこの人達は俺達の活躍に感謝してくれている方々なのだろう!」と、えらいポジティブな予想を無理やり頭に浮かべる。

 そうは考えてもビビるものはビビる。あまりの迫力に若干気圧されながら、ノーヴァ達魔王軍との戦いを報告する。


 「あ、あのー……ダンジョンに立てこもってた魔王軍は全員倒しましたんで、この町はもう大丈夫だと思います。ですが、皆さんにひとつ謝らなければいけないことがありまして、実は戦いの途中でダンジョンが壊れてしまいました……」


 「お前はハルマで魔王軍幹部と戦っていた勇者だよな」


 「…………はい?え?は?」


 突然、予想もしてなかった方向に話が逸れたので思わずポカンと鳩が豆鉄砲食らったような間抜けな表情になり、脳の動きが停止しかける。

 見ると、今話したのはこの町に来た時に避難所まで案内してくれた男だった。他にも、この町に来てから見たことのある人々がチラホラと見受けられた。

 しかし、その男は俺の脳が止まる暇すら与えず矢継ぎ早に質問を畳みかけてくる。


 「この映像は本物だな?」


 そう言って男はスマホもどきの画面を向けてくる。そこに映っていたのは、俺がアンパン魔人に土下座をし命乞いするシーンと、お世辞にも印象が良くなるとは言えない外道じみた発言、他にもテレビで放送されたと思われる映像、画像が映し出されていた。


 俺、途端に顔面を真っ青にしながら警察に自分の犯行を供述するように質問に答える。


 「……は、はい。アンパン魔人の件については間違いないです……。けど、今はその話じゃなくてダンジョンの……」


 なんとか話を元に戻そうとするが、時すでに遅し。

 俺の発言を聞いた瞬間、住民達は烈火のごとく怒りだし、その怒りを容赦なく俺にぶつけ始めた。


 「この恥知らずが!この映像にもあったハルマの事もそうだが、この町の宝であり古くから我々を見守ってくれたダンジョンを破壊するなどと……貴様は疫病神だ!消え失せろ!」


 「なんでこんなことが出来るの!?信じられない!あなた、人間の心がないんじゃない!?」


 「勇者だかなんだか知らないが、お前は魔王軍の奴らに土下座をして命乞いしたんだろう!?一緒に戦っている仲間や被害に遭っていた私たちを捨て置いて!自分の命だけ助かろうとしたんだろ!……ふざけるなぁ!!!」


 凄まじい剣幕で怒鳴り散らす彼らは、次々と罵詈雑言を浴びせてくる。

 魔王軍の事件で知り合いや家族が被害に遭ったことのストレスやら怒りなど積もり積もった感情を何かにぶつけずにはいられないのだろう。

 それがこの人数による集団心理で気が大きくなってしまい、同時多発的に爆発するきっかけとなってしまったのだと推測した。


 だがしかし……これだけ散々好き勝手言われて、この俺が黙っているとでも?

 俺は拳を強く握り、顎を引いて真っ直ぐにこいつらを見据える。喉まで出かかっていた言葉を解き放つ時が来たらしいな……!俺は満を持してその言葉を言い放つ!


 貴様らの血は……何色だああぁぁぁぁぁ!!!!!


 「はい……はい……大変申し訳ございませんでした……申し訳ございません……」


 やっぱり怖くて言えなかったよ……。

 何故かむしろこっちが謝ってる。

 だってこいつらの目、本当にヤバいもん。これ以上刺激したら何をしでかすか分からない。

 『異世界は中世ヨーロッパ風の世界』なんて話はよく聞くが、下手したら勇者が暴徒化した一般市民に殺されるなんていう、それこそ中世ヨーロッパの革命で処刑された貴族みたいな結末を迎えかねない。


 それはマジで嫌だ。


 ギロチンも晒し首も、なぶり殺しにされるのも絶対に嫌だ。

 だったらここは、とりあえず丸く収めてさっさと逃げることを優先するべきだ。

 俺はこう見えても社会人、サラリーマンだった。謝罪ならまかせとけ!

 ってな訳で、俺はヘコヘコと頭を下げて謝罪の言葉を繰り返し口に出す。

 その時、2つの影が彼らから俺を庇うように前に立った。


 「――お前ら、こいつを責めるのはちょっと違うんじゃねぇか?こいつはお前達を魔王軍から守ろうとしてただけだぞ?」


 「そうです、一旦冷静になってください。今回の私たちの敵は魔王軍のはずです。何故、皆さんに危害を加えた魔王軍を責めずに、皆さんを守ろうとしたこの男を責めるのですか?」


 俺を庇った影の正体はデイモスとヴェルデだった。

 2人の大きな背中を見つめて「かっけぇ……」と無意識に口から漏らしてしまうくらい、カッコよかった。


 しかし、感情的になってしまった人間は聞く耳を持たない。これは日本だろうが異世界だろうが、どの世界でも変わらない事なのだろう。


 「うるせぇ……出ていけ……お前達は早く!この町から出ていけぇ!!!」


 男の怒号を受けた人々は、それに続くように「出ていけ」コールを始めた。


 「「「出ていけ!出ていけ!出ていけ!」」」


 俺は「逃げるぞ」という意味を込めて2人とアイコンタクトを取り、数度小さく首を縦に振った。すると、どうやら俺の言いたいことがうまく伝わったらしく、2人から返ってきた反応を確認した俺は徐に言葉を発する。


 「分かりました、出ていきます……って!ちょっと!石を投げるのはさすがに危ないって!ちょっ、ヤバ……いで!いででで!本当に痛いから!頭に当たったら割りと洒落にならないから!やめででででで!!これ以上は危ないって!で、デイモス!ヴェルデ!さっさと逃げるぞ!」


 そうして罵声と石つぶてが激しく飛び交う中、俺達は全力疾走で町の外へと逃げるのだった。


 

 ◆◆◆◆


 

 しばらく森の中を通る道を走り、町から十分に距離が離れたことを確認してようやく立ち止まった。

 全く息が乱れていないデイモスと少し息が上がっている程度のヴェルデ、そして地面に倒れ込み今にも死にそうな呼吸を繰り返している俺。

 俺の呼吸が一旦落ち着くまで、2人には待ってもらうことにした。


 ある程度落ち着いたところで、俺達は開けた場所に座って先程の事件について話を始めた。


 「さっきは庇ってくれてありがとうな。マジで助かった。……それでなんだけどさ、おい、後であの町を徹底的に焼き討ちすんぞ。時間は人目に付きにくい深夜に決行する」


 突然の衝撃発言に驚愕を隠せない2人。デイモスが慌てて止めに入る。


 「おめぇは何言ってんだ!?それじゃ魔王軍とやってる事変わりねぇぞ!なんなら魔王軍よりよっぽど陰湿で残忍なんだが!?……気持ちは分かるが、馬鹿な考えはやめろ」


 「あははーデイモス、冗談だよ冗談。んもう、ジョークってものが分かってないんだからなーデイモスは。あはは」


 「ジョークにしたって笑えねぇぞ。……ってかお前!目が全く笑ってねぇじゃねぇか!絶対今の本気で言ってたろ!」


 そんな中、ヴェルデが急に立ち上がりニヤッとして


 「私の『チャッカス』の出番再びだね。あの町に渦巻く全てを『チャッカス』の地獄の炎で焼き尽くす。悲しみや怒り、そして彼らが背負った罪すらも……」


 と、厨二病全開の意味不明な語りを始めたが、俺とデイモスはそれを聞いて思わずニヤリと笑って、あえてすっとぼけた答えを返す。


 「いやー?流石に無理でしょ。100円ライター並の火力じゃ木の枝すら燃やせないと思うんだが」


 「いやいや、どうなるか分かんねぇぞ?頑張れば暖だって取れるかもしれねぇ」


 「なんか私の扱い、雑になってきてない……?」


 ヴェルデが不貞腐れて土をいじくる中、俺はさっき抱いた素朴な疑問を口にする。


 「にしてもあの人たち、過剰なぐらい感情的じゃなかった?いや、まあ、あの状況に至る理由を考えればピリピリするのは無理もないんだけどさ」


 その問いに土をいじってたヴェルデが顔を上げ、説明してくれた。


 「魔王軍に頭を垂れる行為はマジでヤバイよ。それに加えて、命乞いをしたなんて知られたらマジでヤバイ。どのくらいヤバいかというと、マジでヤバイ。ましてやあの人達、魔王軍に襲撃を受けた直後で殺気立ってるわけでしょ?もう……ヤバいって」


 「マジか、ヤバいな。それはマジやばいわ、お前の語彙力が。せめてちゃんと意味の分かる言語を話してくれ」


 再び土いじりに戻ったヴェルデは一旦置いておいて、次はデイモスから質問が飛ぶ。


 「それでなんだが太郎、俺もひとつ聞きたいことがある。……おめぇはあの時、なんで何も言い返さなかったんだ。ちゃんと説明すれば分かってもらえたかもしれないだろ?」


 「なんでって……。お前らさ、あいつらの顔とか目を見たでしょ?あれが人の反論まともに受け止めてくれるような話の通じる状態のやつに見えたか?……ありゃ人が何言っても聞きやしないぞ。ああいう時に下手に言い返すと火に油を注ぐどころかガソリンブチ撒けたぐらいの大炎上になりかねないからさ、穏便に済ませるなら『反論せずに謝る』のが一番じゃん?ある程度歳を重ねてるデイモスならこういう経験どこかでしたことあるだろ?」


 「まぁ……確かにな。あれだけ興奮状態じゃ話なんざまともにできゃあしねぇか。……けど、それじゃあいつらはずっとお前のことを『敵に命乞いして仲間や人々を見捨てようとした卑怯で無能な臆病者』って思い続けるんだぞ?」


 「勇者としての名声なら元から無いみたいなもんだし、今に始まったことじゃないからさ。……うん。ここから盛り返していけばいいだけだから。それに喧嘩になったら俺は簡単に殺されちゃうしね。俺、死にたくないし。俺の軽い頭を下げて謝罪することで……それで丸く収まるんなら俺は迷わず謝るし、地べたにだって頭を擦りつけてやるよ。石投げられるのは勘弁してもらいたいけど」


 俺はそこまで言ったところで、ふぅと小さなため息を吐いて地面に大の字に寝転がり、日の暮れかかった紅の空を見上げながら、俺はポツリと呟いた。


 「……いつの間にか俺、ろくでもない大人になっちゃってたんだなぁ……。今のこんなザマを、昔の俺が見たら絶望して泣いちゃうよ」


 しみじみと、まるで自分に言い聞かせるように語りながら、さらに言葉を続ける。


 「ヴェルデには物理的に腐りかけのオッサンと、俺みたいな内面が腐りかけのお兄さんをぜひとも反面教師にして真っ当な大人になっていただきたいね」


 「……あの、私からすれば二人ともおじさんなんだけど……」


 「それ今の流れでどうしても言わなきゃダメだった?」


 自分より年下の女の子に何気なく言われた一言……ぶっちゃけこの言葉が今日一番、胸に突き刺さった。
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