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第六章 カラマス編
第五十六話 酒と薬物とギャンブル
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俺達は情報収集のため、町にある酒場を訪れた。
立てかけてあった看板を確認した後、木製の両扉を開き中へと足を踏み入れる。
そこは俺が想像していた賑やかな酒場とは違い、『隠れ家』と表現するのがしっくりくるような、そんな落ち着いた雰囲気の店だった。客もチラホラとではあるが見受けられる。
「まずはこの酒場のマスターに話を聞いてみようか」
小声で2人に確認を取り、反発する意見はないようだったので、早速実行に移す。
ゆっくりとした足取りで店のカウンターまで近づき、「こんにちは」と俺が今出来うる最高の笑顔と声で爽やかに挨拶した。
すると、相手も「いらっしゃいませ」と俺のような不慣れな笑みとは違い、自然に表出した笑顔と穏やかな声色の挨拶を返した。
今、俺の目の前にいるこの店のマスターは、白髪の上品な老紳士という言葉がピッタリという印象だ。マスターは身なりだけでなく立ち居振る舞いまでにも気品が溢れている。
それよりも、まずは情報収集のためには注文をしなければなるまい。相手から情報を聞き出すだけ聞き出してはいさよならなんて、ドラマでは有りがちだが現実じゃそんなに上手くはいかないだろう。
向こうだって商売人以前に人間だ。
注文を頼んでくれるやつと、注文する気なんてサラサラないやつじゃ印象はまるで違うし、それは情報収集において決定的な差を生むことになる。
それにこういうところから少しずつ人脈を作っていくのは後々大事になってくるはずだ。
なので、まずは3人揃ってカウンター席に腰掛けてメニューを確認。すると『当店オススメ日替わりランチ』というそこらへんの定食屋にありそうな名前の料理が目に止まった。まぁ、他に気になる料理もなかったし、ここで腹ごしらえをするのも良いかなぁと、とりあえずこれを注文をする。
しばらくして、マスターが3人分の料理とデイモスの野郎がちゃっかり頼んでいた酒を持ってきた。
情報収集をするならこのタイミングだな、と感じた俺はマスターに声をかけ、『女賢者』のことやこの町の様子について尋ねた。
――そうして得られた情報をまとめていくと、最近この町カラマスで違法の麻薬『ATMD』が多数出回っており、恐らくではあるがカラマスでそれらを使用している者は、町全体の半数を優に超えるだろうという話だった。
さらに詳しく聞くと、どうやらそれに『カラマス・アウトプット』という裏組織が絡んでいるらしい。しかも、その組織は魔王軍とも関係があるそうで、魔王軍幹部がその組織のリーダーを務めているのでは?という噂まで流れているのだそうだ。
加えて、この地域一帯を管轄する討伐隊も薬物による腐敗で、『カラマス・アウトプット』との裏取引など様々な汚職の巣窟と化しているという話だった。
「やっぱりあれは麻薬だったか。しかもそれには裏組織も関わってると……どの世界でも人間なんて変わりないんだな。魔法が使える以外は」
「なぁ太郎?お前が前にいた向こうの世界でも薬物はあったのか?」
デイモスは豪快に酒をあおりながら俺に訊いてきた。それに俺は淡々と答える。
「あぁ、あったよ。ほんで、違法薬物が犯罪組織の資金源になる売買の流れもこっちと同じだな」
「……ふーん、そうなのか」
「薬物乱用者の脳ってどうなってるんだろう……。一回見てみたいなぁ……」
デイモスとの割と重たい雰囲気の会話に紛れて、サラッと飛び出したサイコパス発言はガン無視して話を進める。
肝心の女賢者について尋ねると、マスターは直ぐにピンと来たらしく、
「恐らく常連のお客様です。それに、この町では結構知っていらっしゃる方は多いと思いますよ?」
と語った。
「そんなにすごい人なのか?」と素直に疑問に思った俺はマスターに質問しようとした、その時だった。
「それって『牙を腐り落とした虎』の話だろォ?」
「ん……?おわっ!いつの間に!」
突如横から聞こえてきた声に反応して振り向くと、そこには整えられた短い白髪と真っ白な無精髭を生やし、ベージュ色の半袖と股引を身に着けた80代くらいにみえる小柄な老人がいつの間にか座っていた。
「いつの間にって……。ワイは兄ちゃんらが来るずっと前からここに座ってたんだがねェ」
そういって老人はお猪口に注がれた酒にちびりと口をつけた。
「それよりも!お爺ちゃんは女賢者のこと知ってるの!?」
「あぁ、知ってるよォ。つっても、話で聞いたことくらいしか分かんねェけどな」
ヴェルデの唐突な質問にも、老人は人の良さそうな笑みを浮かべて答えた。
思わぬ形で手がかりを見つけた俺は、ここで情報を得なくてはと思い、
「その賢者について知っていることを教えていただけませんか!」
的なことを伝えて強く懇願した。もうそれは必死に。
老人は腕を組んでしばらく考え込んでいたが、何か思いついたのかぱっと顔を上げて俺に笑いかけた。
「……ほんじゃここ、兄ちゃんの奢りで頼むな?」
と、まぁそんな感じで話を聞かせてもらえることになった訳だが、何も知らなかった俺達はその話を聞いてぶったまげた。
「元々はこの町……なんてレベルじゃねェ、この国でもトップクラスの能力を持った大賢者だったんだ。だが、徐々に表舞台から姿を消していった。……奴は薬物と酒、ギャンブルに溺れちまったのさァ。……薬物なんざに手を出して依存する奴ァ等しくゴミよ。いっぺん死ねばいいとまで思っちまうねェ、ワイは」
話の最後にそう語った老人が一瞬見せた表情は、これまで俺が会ったことのある誰よりも恐ろしかった。魔王軍の奴らが俺に向けた殺気や怒りとはどこか似ているのだが、どこか異なる。そういった感覚的なものにいくら疎い俺でも、感じる何かが老人から伝わってくるのが分かった。
しかし、それはほんの一瞬。次に見た時は元通り優しそうな顔に戻っていた。
俺は長い沈黙の後、引き攣った顔面をデイモスとヴェルデに向けて蚊の鳴くような声を絞り出す。
「…………ねぇ。一旦、別の町に行かない?」
「なぁ、爺さんその他に知ってることはねぇか?」
しかし、2人には思いっきりシカトされ、何事もなかったかのように話は進んでいく。
「さぁねェ?ワイは話を聞いただけだからそれ以上は知らんな。……さぁて、若い衆と世間話なんて久々だったから張り切りすぎて、ジジイはもう疲れちまったよ。……どっこいせっとォ。そんじゃマスター、お勘定」
老人はカウンターに立て掛けてあった杖を持ち、空いた片手で懐を漁りながらゆっくりと立ち上がった。
その動作が代金を支払おうとしているのだと気付いた俺は、慌てて金を取り出す。
「いや!ここは俺が払いますよ!重要な情報を教えていただいたお礼です!せめてここは俺に払わせてください!」
だが、老人は笑いながらゆっくりと首を横に振る。
「ありゃ冗談だよォ。話聞いてもらっただけで充分さァ。……そんでついでに言っとくが、兄ちゃんらはまだ若ェ。まだまだやりたいことだってたくさん残ってんだろ?……わりィことは言わねェから、あんまり長居はしないほうがいいぞ。こんな町に居たって碌なことになりゃしねェからな」
そう言うと老人は懐から取り出した小銭をカウンターに置いて、出入口へと向かった。
それを確認した俺達にマスターが話しかけてきた。
「お客様が探しておられる方が当店常連のお客様で間違っていなければ、いつも今の時間くらいになるといらっしゃいますよ。もしかするとそろそろ……」
マスターはそう言って店の出入口に視線を向けた。俺達もつられてそちらを向くと、ちょうど誰かが来店してきたようだ。しかし、逆光で姿がうまく見えない。
まぁそんな都合良く来るわけないしどうせ違うだろうと思って、視線を戻そうとした時にマスターの声が聞こえる。
「あのお客様ですよ」
声に反応して、正面に戻しかけた顔をその人物に再び向け直す。その人はゆっくりとこちらに近付いてきており、徐々に顔が見えてきた。
どうやら女性のようだ。これで女賢者の可能性が一気に上がった。
整った顔立ちをしてはいるが死んだ魚のような目とその下に大きなクマができ、顔色もアンデッドのデイモスに引けを取らないほど悪い。
服装は白いワンピース姿に赤いマントを身にまとい、黄色のブーツを身に付けている。
とぼけた面でその女性を見つめていた俺は、なんとここで痛恨のミスを犯した。
……い、いつの間にかすぐ目の前まで来てんじゃん……ッ!
立てかけてあった看板を確認した後、木製の両扉を開き中へと足を踏み入れる。
そこは俺が想像していた賑やかな酒場とは違い、『隠れ家』と表現するのがしっくりくるような、そんな落ち着いた雰囲気の店だった。客もチラホラとではあるが見受けられる。
「まずはこの酒場のマスターに話を聞いてみようか」
小声で2人に確認を取り、反発する意見はないようだったので、早速実行に移す。
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すると、相手も「いらっしゃいませ」と俺のような不慣れな笑みとは違い、自然に表出した笑顔と穏やかな声色の挨拶を返した。
今、俺の目の前にいるこの店のマスターは、白髪の上品な老紳士という言葉がピッタリという印象だ。マスターは身なりだけでなく立ち居振る舞いまでにも気品が溢れている。
それよりも、まずは情報収集のためには注文をしなければなるまい。相手から情報を聞き出すだけ聞き出してはいさよならなんて、ドラマでは有りがちだが現実じゃそんなに上手くはいかないだろう。
向こうだって商売人以前に人間だ。
注文を頼んでくれるやつと、注文する気なんてサラサラないやつじゃ印象はまるで違うし、それは情報収集において決定的な差を生むことになる。
それにこういうところから少しずつ人脈を作っていくのは後々大事になってくるはずだ。
なので、まずは3人揃ってカウンター席に腰掛けてメニューを確認。すると『当店オススメ日替わりランチ』というそこらへんの定食屋にありそうな名前の料理が目に止まった。まぁ、他に気になる料理もなかったし、ここで腹ごしらえをするのも良いかなぁと、とりあえずこれを注文をする。
しばらくして、マスターが3人分の料理とデイモスの野郎がちゃっかり頼んでいた酒を持ってきた。
情報収集をするならこのタイミングだな、と感じた俺はマスターに声をかけ、『女賢者』のことやこの町の様子について尋ねた。
――そうして得られた情報をまとめていくと、最近この町カラマスで違法の麻薬『ATMD』が多数出回っており、恐らくではあるがカラマスでそれらを使用している者は、町全体の半数を優に超えるだろうという話だった。
さらに詳しく聞くと、どうやらそれに『カラマス・アウトプット』という裏組織が絡んでいるらしい。しかも、その組織は魔王軍とも関係があるそうで、魔王軍幹部がその組織のリーダーを務めているのでは?という噂まで流れているのだそうだ。
加えて、この地域一帯を管轄する討伐隊も薬物による腐敗で、『カラマス・アウトプット』との裏取引など様々な汚職の巣窟と化しているという話だった。
「やっぱりあれは麻薬だったか。しかもそれには裏組織も関わってると……どの世界でも人間なんて変わりないんだな。魔法が使える以外は」
「なぁ太郎?お前が前にいた向こうの世界でも薬物はあったのか?」
デイモスは豪快に酒をあおりながら俺に訊いてきた。それに俺は淡々と答える。
「あぁ、あったよ。ほんで、違法薬物が犯罪組織の資金源になる売買の流れもこっちと同じだな」
「……ふーん、そうなのか」
「薬物乱用者の脳ってどうなってるんだろう……。一回見てみたいなぁ……」
デイモスとの割と重たい雰囲気の会話に紛れて、サラッと飛び出したサイコパス発言はガン無視して話を進める。
肝心の女賢者について尋ねると、マスターは直ぐにピンと来たらしく、
「恐らく常連のお客様です。それに、この町では結構知っていらっしゃる方は多いと思いますよ?」
と語った。
「そんなにすごい人なのか?」と素直に疑問に思った俺はマスターに質問しようとした、その時だった。
「それって『牙を腐り落とした虎』の話だろォ?」
「ん……?おわっ!いつの間に!」
突如横から聞こえてきた声に反応して振り向くと、そこには整えられた短い白髪と真っ白な無精髭を生やし、ベージュ色の半袖と股引を身に着けた80代くらいにみえる小柄な老人がいつの間にか座っていた。
「いつの間にって……。ワイは兄ちゃんらが来るずっと前からここに座ってたんだがねェ」
そういって老人はお猪口に注がれた酒にちびりと口をつけた。
「それよりも!お爺ちゃんは女賢者のこと知ってるの!?」
「あぁ、知ってるよォ。つっても、話で聞いたことくらいしか分かんねェけどな」
ヴェルデの唐突な質問にも、老人は人の良さそうな笑みを浮かべて答えた。
思わぬ形で手がかりを見つけた俺は、ここで情報を得なくてはと思い、
「その賢者について知っていることを教えていただけませんか!」
的なことを伝えて強く懇願した。もうそれは必死に。
老人は腕を組んでしばらく考え込んでいたが、何か思いついたのかぱっと顔を上げて俺に笑いかけた。
「……ほんじゃここ、兄ちゃんの奢りで頼むな?」
と、まぁそんな感じで話を聞かせてもらえることになった訳だが、何も知らなかった俺達はその話を聞いてぶったまげた。
「元々はこの町……なんてレベルじゃねェ、この国でもトップクラスの能力を持った大賢者だったんだ。だが、徐々に表舞台から姿を消していった。……奴は薬物と酒、ギャンブルに溺れちまったのさァ。……薬物なんざに手を出して依存する奴ァ等しくゴミよ。いっぺん死ねばいいとまで思っちまうねェ、ワイは」
話の最後にそう語った老人が一瞬見せた表情は、これまで俺が会ったことのある誰よりも恐ろしかった。魔王軍の奴らが俺に向けた殺気や怒りとはどこか似ているのだが、どこか異なる。そういった感覚的なものにいくら疎い俺でも、感じる何かが老人から伝わってくるのが分かった。
しかし、それはほんの一瞬。次に見た時は元通り優しそうな顔に戻っていた。
俺は長い沈黙の後、引き攣った顔面をデイモスとヴェルデに向けて蚊の鳴くような声を絞り出す。
「…………ねぇ。一旦、別の町に行かない?」
「なぁ、爺さんその他に知ってることはねぇか?」
しかし、2人には思いっきりシカトされ、何事もなかったかのように話は進んでいく。
「さぁねェ?ワイは話を聞いただけだからそれ以上は知らんな。……さぁて、若い衆と世間話なんて久々だったから張り切りすぎて、ジジイはもう疲れちまったよ。……どっこいせっとォ。そんじゃマスター、お勘定」
老人はカウンターに立て掛けてあった杖を持ち、空いた片手で懐を漁りながらゆっくりと立ち上がった。
その動作が代金を支払おうとしているのだと気付いた俺は、慌てて金を取り出す。
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そう言うと老人は懐から取り出した小銭をカウンターに置いて、出入口へと向かった。
それを確認した俺達にマスターが話しかけてきた。
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まぁそんな都合良く来るわけないしどうせ違うだろうと思って、視線を戻そうとした時にマスターの声が聞こえる。
「あのお客様ですよ」
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どうやら女性のようだ。これで女賢者の可能性が一気に上がった。
整った顔立ちをしてはいるが死んだ魚のような目とその下に大きなクマができ、顔色もアンデッドのデイモスに引けを取らないほど悪い。
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