チートがなくても最強です!?〜最弱勇者はハードモードの異世界を策略と悪知恵で必死こいて生きていく〜

ソリダス

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第六章 カラマス編

第七十話 他力本願な『勇者』

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 「細胞超活性化魔法――」


 ヴェルデは構えたまま静かに唱えた。

 それによって周囲の空気が明らかに変わり、立っているだけでピリピリとした緊張感が伝わってくるほどだ。

 そして、発動する準備が出来上がったヴェルデは、最後の一言を唱える。


 「――『バルドル』ッッ!!」


 魔法陣に囲まれたアッタマルドは、全身を光で包まれる。

 しばらくして光と魔法陣は消えたが、そこから現れたアッタマルドの姿には特に変化はなかった。


 「……なんだってんだ、今のはよォ」


 これには実際に魔法を掛けられたアッタマルド自身も変化を感じ取れていないようで、己の身体を触って確かめながら様子を見ていた。


 内心ヒヤッヒヤで見つめていたが、しばらくすると徐々に効果は現れてきたようだ。


 「いや、これは……体の底から力がみなぎってきやがる!足の怪我ももう治りやがった!これは本当にワイの身体なのか!?」


 明らかなパワーアップを果たしたアッタマルドを見て、ダリルは口を半開きにして呆然としていたが、すぐに俺たちを見て疲れきったような視線を向けてくる。


 「あんたら……一体何をしたのさ。ただでさえヤバいってのに、さらにパワーアップさせてどうすんのさ」


 しかし、俺はこの問いには答えずにアッタマルドを向いたままニヤリと笑い、ヴェルデはまだ少し心配そうな面持ちで状況を見守る。


 「まあ見ててよ。それよりも、さっき話した魔法の準備ってもう出来てたりする?」


 「……まあね」


 「おお!ありがてぇ!早くてめちゃくちゃ助かる!……よし、こっちも準備万端だ」


 そう言った俺の視線の先にいるアッタマルド、その身体にはさらなる変化が現れ始めた。


 「な、なんだこりゃあ……ッ!ワイの身体が……!」


 まるで身体の中で何かが蠢いているかのように、アッタマルドの全身がボコボコと歪に隆起している。


 「今の魔法は名前の通り『細胞を超活性化させる魔法』だ。普通の人間なら、いっぺんで身体能力や回復能力が桁違いに跳ね上がる。だが、その反動で細胞が異常分裂を引き起こして原型を留めないくらい変化するんだとよ」


 俺はさっきヴェルデに聞いた魔法の説明を、ほとんどそのままの形で伝える。


 「んで、これの凄いところが『普通の人間レベルの細胞』でそのくらいのエグい反応が現れるってところなんだよ。……もし、それ以上の細胞を持ってる奴なら、果たしてその程度で済むのかねぇ?」


 ここで俺はわざとらしく一拍あけて、アッタマルドを指差しながら問い掛ける。


 「――ところでアッタマルド、今のあんたの身体にある細胞の数とその質は、普通の人間よりもはるかに上だって話だったよな?」


 ニヤァと悪役のような笑みを浮かべる俺。

 直後、アッタマルドは身体を押さえて苦しみだした。


 「ぐ……ッ!」


 「もしも、限界まで成長した細胞を無理やり活性化させたらどうなるんだろうな?もしかしたら、爆発とかしちゃうんじゃないか?」


 「うん、理論上はそうなるはずだよ。ただ、実際に結果を見てみないことにはなんとも……もしかしたらもっと凄いことに……」


 ヴェルデの声色は淡々としていたが、その表情はニヤニヤを噛み殺したような何とも言えない顔で、チラッチラとアッタマルドを見ている。


 そうでした。

 こいつは、女の子の皮をかぶったマッドサイエンティストでした。どうやら魔法の結果が知りたくて仕方ないらしい。

 ……魔法なのにサイエンティストなのかというどうでもいい疑問が一瞬脳裏をよぎったが、俺はフルシカトして進めていく。


 「まあ、そういうことらしい。……ここであんたに与えられた選択肢はふたつ。このまま黙って細胞が爆発するのを待つか、それともあんたが奪った細胞を元の人達に戻してやるか」


 「ぐ、ぐあああああああ!!!」


 「ほらほら、もうあんまり時間もないぜ?……ちなみに、個人的には是非とも前者を選んでほしいところだが」


 「……ふっ、これ以上、テメェの思いどおりにさせてたまるかってんだ」


 直後、アッタマルドの身体から数千、数万にも及ぶ光の粒子が一斉に放たれた。

 それによってアッタマルドの身体も、元の老人の姿へと戻っていく。

 肩で息をしながら、苦しげに表情を歪めて声を絞り出す。


 「やるじゃねぇか……あんちゃんら。まさかあの状況からここまで引き戻されるとは思っても見なかったぜ。……だけどよォ、ワイが細胞を戻したってことは――」


 アッタマルドが言い終える前に、今まで倒れて動かなかった人々がフラフラと立ち上がる。

 しかし、その顔色にはとても血が通っているとは思えないほど青白く、瞳には理性が感じられない。

 住人たちはゾンビ化した状態に戻っていた。


 「――こうなるってことなんだぜ?」


 「ああ、分かってるよ。……むしろ、これが狙いだ」


 「……なんだと?」


 警戒した様子で眉間に皺を寄せ、より一層アッタマルドの眼光が鋭くなる。


 「あんたに掛けた魔法は、細胞を通してこの街の人にも掛かることになる。だけど、あのドギツイ効果がそのままって訳じゃない。数万の細胞があれば魔法は均等に分けられ、ちょうどいい塩梅に弱まる」


 「そうなれば、死にかけてた人たちも……まぁ死なない程度には回復するだろうってのが俺らの考えなわけよ……ほら、見てみろよ」


 「――ッ!」


 俺は近くのゾンビを顎でしゃくる。


 そのゾンビは身体が傷だらけの酷い状態だったが、徐々に傷口が閉じていき、やがて傷口は完全に閉じて血も止まった。


 「……予想通り、怪我も治ったな」


 今日1番の邪悪な笑いを浮かべた俺を、アッタマルドは頬を引き攣らせながら恐ろしい眼で睨みつける。


 「参ったねェ……どうやらワイは『勇者』ってヤツを甘く見すぎていたらしい」


 その眼で見られただけで命を奪われてしまうのではないかと錯覚するほどの殺意を込めた視線を向けてくるが、んなもん知らんとばかりに俺は飄々と受け流す。


 「まあ、実際俺は口しか出せないし、こういうヤバい状況の時は真っ先に足でまといになるし、舐められるのもしょうがないと思う」


 「――けど、俺の仲間まで甘く見たのは大失敗だったな」


 俺はそういってニカッと笑った。
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