魔王様は面倒事がお嫌い

篠月珪霞

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1.匿ってください

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「魔王様、一大事です…!!」
「何事だ」
「聖女が攻めてきました!」
「…何だと? して、軍勢はいかほど」
「それが…聖女1人です!!」
「……」

面倒なことになった、と眉をひそめた矢先、盛大な破壊音が響いた。


この世界には、明確な線引きがある。人間の住まう人界、魔物や魔力のある者が住まう魔界、自然の力を源とする妖精界。3界にはそれぞれ結界があり、通常行き来はできないようになっている。一部の例外を除いて。

その例外の最たる存在が目の前の”聖女”だ。被害状況は、…扉の破損くらいか。魔物たちは、聖女自身の結界で近づくこともできなかったようだ。無駄な犠牲者が出なくて何よりだ。


「お初にお目にかかります、魔王様。リュミエールと申します」
「─────聖女が結界を越えてまで何用か」
「はい。単刀直入に申し上げますと、匿っていただきたいのです」
「…は? 匿う? 何故?」

罪人でもあるまいに。
聖女とは人界では類を見ない神聖力と魔力の持ち主で、崇められこそすれ、疎まれたり追われたりすることはないはずである。
歴代聖女も神殿により保護されてはいたが、自由がないわけでもなく。人々に大切にされ、尊敬を一身に集め、幸せに過ごしていたというが。

「ご承知のこととは思いますが、聖女がいなくても国は存続できます」
「そうだな」
「聖女のいる地には、その力と存在により繫栄と幸福が約束されることもご存知かと」
「…それが?」
「各国で、聖女獲得の争いが勃発しております」

溜息でもつきかねない沈鬱な面持ちで聖女は言う。

「人々が私の存在によって争うのが心苦しくなりまして」

しおらしい言葉ではあるが、綺麗事でしかない。どうにもこの少女の言葉に重みがないというか、真実を語ってるように思えないのだが。聖女だけあって思考が読みづらい。

「寝込みを襲われたり浚われたりが何度も続たりして大変めんど……いえ、私自身も平穏に暮らすことを望んでまして」
「それが本音か」

面倒とか言ったな。その気持ちは理解できなくもないが、聖女がそれでいいのか。溜息をつきたいのはこちらの方である。

「生憎と私も面倒事を抱える気はなくてな」

言外に断る。未来視などしなくとも、この先の展開が読める。この聖女を城にでも置いた日には。
何かを言いかけた聖女の背後、数名の乱雑な足音が近づいてくる。
そうら、お出ましになった。意外に早かったな。

「聖女様、お助けに参りました!」
「魔王城へ捕らわれたとお聞きしておりましたが、ご無事なようで何よりです…!」
「魔王、この勇者一行が来たからには貴様の好きにはさせん!」
「聖女様は返してもらうぞ!!」

びしい!と高らかな宣言と共に指さしを受けたが、どう反応していいやら。
聖女の魔力を辿れるものでもいたのか、到着が早いのは褒めてやってもいい。できれば、聖女がこの城に着く前に捕獲しておいてほしかったが。
そもそも浚ってないと主張したところで、信用してはもらえないだろうなと遠い目をしてみる。

「ささ、聖女様、こちらへ」
「いえ、私は人界に帰りませんし、魔王様に浚われたわけでは」
「なんと! 聖女様が人界を見捨てるなどと?! はっもしや魔王に洗脳されて…?!」
「魔王様の魔力が絶大であっても、私をどうこうはできないですよ。一応聖女ですから」
「では、魔王にたぶらかされたのですか?!」
「いえだから」
「許せん!! 不可侵の掟を破った上、聖女様を言葉巧みに騙そうとしたとは!!」
「……」

なんだ、この言葉の通じなさ。独善的にもほどがあるな。
呆れた目を自称勇者一行に向け、視線を流すと疲れた目をした聖女と目が合った。


むしろ人界を去りたいのは、意思の疎通ができないからではないかと察した。







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