1 / 1
1.匿ってください
しおりを挟む
「魔王様、一大事です…!!」
「何事だ」
「聖女が攻めてきました!」
「…何だと? して、軍勢はいかほど」
「それが…聖女1人です!!」
「……」
面倒なことになった、と眉をひそめた矢先、盛大な破壊音が響いた。
この世界には、明確な線引きがある。人間の住まう人界、魔物や魔力のある者が住まう魔界、自然の力を源とする妖精界。3界にはそれぞれ結界があり、通常行き来はできないようになっている。一部の例外を除いて。
その例外の最たる存在が目の前の”聖女”だ。被害状況は、…扉の破損くらいか。魔物たちは、聖女自身の結界で近づくこともできなかったようだ。無駄な犠牲者が出なくて何よりだ。
「お初にお目にかかります、魔王様。リュミエールと申します」
「─────聖女が結界を越えてまで何用か」
「はい。単刀直入に申し上げますと、匿っていただきたいのです」
「…は? 匿う? 何故?」
罪人でもあるまいに。
聖女とは人界では類を見ない神聖力と魔力の持ち主で、崇められこそすれ、疎まれたり追われたりすることはないはずである。
歴代聖女も神殿により保護されてはいたが、自由がないわけでもなく。人々に大切にされ、尊敬を一身に集め、幸せに過ごしていたというが。
「ご承知のこととは思いますが、聖女がいなくても国は存続できます」
「そうだな」
「聖女のいる地には、その力と存在により繫栄と幸福が約束されることもご存知かと」
「…それが?」
「各国で、聖女獲得の争いが勃発しております」
溜息でもつきかねない沈鬱な面持ちで聖女は言う。
「人々が私の存在によって争うのが心苦しくなりまして」
しおらしい言葉ではあるが、綺麗事でしかない。どうにもこの少女の言葉に重みがないというか、真実を語ってるように思えないのだが。聖女だけあって思考が読みづらい。
「寝込みを襲われたり浚われたりが何度も続たりして大変めんど……いえ、私自身も平穏に暮らすことを望んでまして」
「それが本音か」
面倒とか言ったな。その気持ちは理解できなくもないが、聖女がそれでいいのか。溜息をつきたいのはこちらの方である。
「生憎と私も面倒事を抱える気はなくてな」
言外に断る。未来視などしなくとも、この先の展開が読める。この聖女を城にでも置いた日には。
何かを言いかけた聖女の背後、数名の乱雑な足音が近づいてくる。
そうら、お出ましになった。意外に早かったな。
「聖女様、お助けに参りました!」
「魔王城へ捕らわれたとお聞きしておりましたが、ご無事なようで何よりです…!」
「魔王、この勇者一行が来たからには貴様の好きにはさせん!」
「聖女様は返してもらうぞ!!」
びしい!と高らかな宣言と共に指さしを受けたが、どう反応していいやら。
聖女の魔力を辿れるものでもいたのか、到着が早いのは褒めてやってもいい。できれば、聖女がこの城に着く前に捕獲しておいてほしかったが。
そもそも浚ってないと主張したところで、信用してはもらえないだろうなと遠い目をしてみる。
「ささ、聖女様、こちらへ」
「いえ、私は人界に帰りませんし、魔王様に浚われたわけでは」
「なんと! 聖女様が人界を見捨てるなどと?! はっもしや魔王に洗脳されて…?!」
「魔王様の魔力が絶大であっても、私をどうこうはできないですよ。一応聖女ですから」
「では、魔王にたぶらかされたのですか?!」
「いえだから」
「許せん!! 不可侵の掟を破った上、聖女様を言葉巧みに騙そうとしたとは!!」
「……」
なんだ、この言葉の通じなさ。独善的にもほどがあるな。
呆れた目を自称勇者一行に向け、視線を流すと疲れた目をした聖女と目が合った。
むしろ人界を去りたいのは、意思の疎通ができないからではないかと察した。
「何事だ」
「聖女が攻めてきました!」
「…何だと? して、軍勢はいかほど」
「それが…聖女1人です!!」
「……」
面倒なことになった、と眉をひそめた矢先、盛大な破壊音が響いた。
この世界には、明確な線引きがある。人間の住まう人界、魔物や魔力のある者が住まう魔界、自然の力を源とする妖精界。3界にはそれぞれ結界があり、通常行き来はできないようになっている。一部の例外を除いて。
その例外の最たる存在が目の前の”聖女”だ。被害状況は、…扉の破損くらいか。魔物たちは、聖女自身の結界で近づくこともできなかったようだ。無駄な犠牲者が出なくて何よりだ。
「お初にお目にかかります、魔王様。リュミエールと申します」
「─────聖女が結界を越えてまで何用か」
「はい。単刀直入に申し上げますと、匿っていただきたいのです」
「…は? 匿う? 何故?」
罪人でもあるまいに。
聖女とは人界では類を見ない神聖力と魔力の持ち主で、崇められこそすれ、疎まれたり追われたりすることはないはずである。
歴代聖女も神殿により保護されてはいたが、自由がないわけでもなく。人々に大切にされ、尊敬を一身に集め、幸せに過ごしていたというが。
「ご承知のこととは思いますが、聖女がいなくても国は存続できます」
「そうだな」
「聖女のいる地には、その力と存在により繫栄と幸福が約束されることもご存知かと」
「…それが?」
「各国で、聖女獲得の争いが勃発しております」
溜息でもつきかねない沈鬱な面持ちで聖女は言う。
「人々が私の存在によって争うのが心苦しくなりまして」
しおらしい言葉ではあるが、綺麗事でしかない。どうにもこの少女の言葉に重みがないというか、真実を語ってるように思えないのだが。聖女だけあって思考が読みづらい。
「寝込みを襲われたり浚われたりが何度も続たりして大変めんど……いえ、私自身も平穏に暮らすことを望んでまして」
「それが本音か」
面倒とか言ったな。その気持ちは理解できなくもないが、聖女がそれでいいのか。溜息をつきたいのはこちらの方である。
「生憎と私も面倒事を抱える気はなくてな」
言外に断る。未来視などしなくとも、この先の展開が読める。この聖女を城にでも置いた日には。
何かを言いかけた聖女の背後、数名の乱雑な足音が近づいてくる。
そうら、お出ましになった。意外に早かったな。
「聖女様、お助けに参りました!」
「魔王城へ捕らわれたとお聞きしておりましたが、ご無事なようで何よりです…!」
「魔王、この勇者一行が来たからには貴様の好きにはさせん!」
「聖女様は返してもらうぞ!!」
びしい!と高らかな宣言と共に指さしを受けたが、どう反応していいやら。
聖女の魔力を辿れるものでもいたのか、到着が早いのは褒めてやってもいい。できれば、聖女がこの城に着く前に捕獲しておいてほしかったが。
そもそも浚ってないと主張したところで、信用してはもらえないだろうなと遠い目をしてみる。
「ささ、聖女様、こちらへ」
「いえ、私は人界に帰りませんし、魔王様に浚われたわけでは」
「なんと! 聖女様が人界を見捨てるなどと?! はっもしや魔王に洗脳されて…?!」
「魔王様の魔力が絶大であっても、私をどうこうはできないですよ。一応聖女ですから」
「では、魔王にたぶらかされたのですか?!」
「いえだから」
「許せん!! 不可侵の掟を破った上、聖女様を言葉巧みに騙そうとしたとは!!」
「……」
なんだ、この言葉の通じなさ。独善的にもほどがあるな。
呆れた目を自称勇者一行に向け、視線を流すと疲れた目をした聖女と目が合った。
むしろ人界を去りたいのは、意思の疎通ができないからではないかと察した。
17
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
招かれざる客を拒む店
篠月珪霞
ファンタジー
そこは、寂れた村のある一角。ひっそりとした佇いに気付く人間は少ない。通称「招かれざる客を拒む店」。正式名称が知られていないため、便宜上の店名だったが。
静寂と平穏を壊す騒々しさは、一定間隔でやってくる。今日もまた、一人。
【完結】平民聖女の愛と夢
ここ
ファンタジー
ソフィは小さな村で暮らしていた。特技は治癒魔法。ところが、村人のマークの命を救えなかったことにより、村全体から、無視されるようになった。食料もない、お金もない、ソフィは仕方なく旅立った。冒険の旅に。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
あなた方はよく「平民のくせに」とおっしゃいますが…誰がいつ平民だと言ったのですか?
水姫
ファンタジー
頭の足りない王子とその婚約者はよく「これだから平民は…」「平民のくせに…」とおっしゃられるのですが…
私が平民だとどこで知ったのですか?
聖女を追放した国は、私が祈らなくなった理由を最後まで知りませんでした
藤原遊
ファンタジー
この国では、人の悪意や欲望、嘘が積み重なると
土地を蝕む邪気となって現れる。
それを祈りによって浄化してきたのが、聖女である私だった。
派手な奇跡は起こらない。
けれど、私が祈るたびに国は荒廃を免れてきた。
――その役目を、誰一人として理解しないまま。
奇跡が少なくなった。
役に立たない聖女はいらない。
そう言われ、私は静かに国を追放された。
もう、祈る理由はない。
邪気を生み出す原因に目を向けず、
後始末だけを押し付ける国を守る理由も。
聖女がいなくなった国で、
少しずつ異変が起こり始める。
けれど彼らは、最後まで気づかなかった。
私がなぜ祈らなくなったのかを。
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる