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第71話 交渉と再開
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「それじゃ、まずはこの道具の名前と使い方を教えてもらえますか?」
「いやいや、とりあえず俺らの解放を先にしてもらえやしませんかね? ほら、教えるだけ教えて用済みだって言われたらかないませんでしょ?」
クリアが聞けば、兜が凹んだ男が自分達の要求を先に飲むように提示してくる。
これも大方予想通りだったが、「ここから先は長くなりそうだ」とクリアは少しだけわざと見えるように嫌そうな顔をした。
こういった場合、どちらかが譲歩するまで押し問答になることは以前の経験からクリアは知っている。
しかし、先程までの時間が無い——もちろん惜しくはあるが——とは状況が違う。
「あなた達の条件はもう半分は呑んでいるでしょう。そもそも解放するつもりが無ければ普通あの牢からこんなところまで連れて来たりしませんよ」
つまり、ここからはクリアの交渉技術が試されるということになる。
「いやいや、それは感謝はしてますがねぇ。こっちも命がかかってることでしてさぁ」
——人の命を商品として見ていた人間がどの口で言ってるんだ。
いけしゃあしゃあと言う男に、思わず手——というより【不可視疑の一部】——が出そうになるが、ぐっと耐える。
先程から交渉に口を出して来るのはこの男ばかりだ。
どうやら四人組の中で交渉を担当しているのはこの男らしく、うかつに気絶させたりするわけにもいかず。
少しだけ体から出してしまった【不可視疑の一部】を体に戻しながら、クリアは言葉を返す。
「お言葉ですが。人の命を売り物にしようとしていた人の命を大事にしろと? それは無理な話でしょう」
「そうは言いますけどねぇ。結局、あっしらから使い方を聞けないと困るのはそっちでしょう?
まあ、そもそも捕まった時点で終わってたであろう命ですからやりたければいつでもどうぞって感じですわ」
——本当に先程まで牢の中で震えていた面影はどこへやら。
べらべらと御託を述べる男とは裏腹に、クリアには後ろ——位置関係的に話している男がクリアの前におり、それ以外の三人は少し後ろの位置にいる——三人がわずかに動揺したように見えた。
——あの時も言い争っていたし、今の反応からしてこの人の独断で口にしているのかも。なら後ろの人をつついてみるのもありかもしれない。
「だ、そうですよ? そういえばさっきからこの人しか話してないですけどあなた方はどうなんですか?
……本当に命を捨ててもいいって思ってます?」
クリアの言葉に、後ろの三人は少しだけ考えてクリアから各々目を逸らした。
態度からして、やはりこの交渉役の男が譲歩させようと言っただけのようだった。
——少し非人道的だけど……。
やはりスムーズに話が進まない故、クリアは少し強引な手段を取ることにした。
しかし、それはあまり人に見せられたものではない。
故に——。
「……長くなりそうですし、先にブルーさんの用件を済ませましょうか」
突然後ろに居た自分に声をかけられた先程まで蚊帳の外だったブルーは、少し意外そうに返してくる。
「あらいいの? まあ、あたしとしてはそっちの方がありがたいけれど」
「よし、それなら決まりですね。四人はそこで大人しくボクが戻ってくるまで待っててくださいね。
……あ、ちなみにいくらでも相談してもらってもかまいませんよ?」
わざと含みがある風に言いながら、四人の方に振り返ることもなくブルーを連れて部屋を出た。
——まあ、この部屋ならギンガさん以外そんなに人は来ないから置いて行っても大丈夫……だろう。
「ここです。まあ、あの城の王女様の部屋の様な場所ではないですが……」
案内した先で、そうブルーに言いながらクリアがドアをノックし今の部屋の主の返事を待つ。
「はい、クリアさんですか? 今開けますね」
部屋の中から、特に張り詰めた様子もなく、されど事のあらましを説明されていた部屋の主は至って普通の声で返して内側からドアを開けた。
……一応敵の本拠地に連れてこられた囚われの王女という立場の筈なのだが、それは『ディールーツ』の本部の雰囲気と待遇からきたものなら良い傾向だとクリアは納得することにした。
そんな、気を張り詰めなくて良い環境だったためか、王女は聖属性の感知能力を使っていなかったらしく。
その平常な態度はドアが開いてすぐに豹変することになった。
それは、ブルーにも同じことが言えたのだが。
「お待たせしまし……た……?」
「イエナ!」
まるで生き別れの妹をようやく見つけた姉の様に、王女の名前を呼び捨てで呼び思い切り抱きしめた。
一方で、熱い抱擁をされたイエナは、ブルーがこの場にいる事に驚きはしたが、すぐに同じようにブルーの後ろに手を回して口を開いた。
「ブルーさん、わざわざ私のためにここまで来てくださったんですね。ありがとうございます」
「あんたが無事でよかったわ……! けど、あたしの前で敬語はやめてって約束でしょ?」
「ふふっ、そうね、ブルー姉様」
——へぇ、普段はそんな間柄なんだ。
幼い頃からな付き合いとは聞いていたが、やはりクリアとミヤのような関係のようで。
そんな姉妹の感動——かどうかはわからないが——の場面に、王女に聞きたい事はありつつも水を差すのは今はやめておこうと思ったクリアはそっとその場を後にした。
——別に部屋から出て暴れたり逃げたりするようなことはないだろう。
再び四人に道具の使い方を聞くため、クリアは「どこへでもドア」の部屋に足を運ぶのだった。
「いやいや、とりあえず俺らの解放を先にしてもらえやしませんかね? ほら、教えるだけ教えて用済みだって言われたらかないませんでしょ?」
クリアが聞けば、兜が凹んだ男が自分達の要求を先に飲むように提示してくる。
これも大方予想通りだったが、「ここから先は長くなりそうだ」とクリアは少しだけわざと見えるように嫌そうな顔をした。
こういった場合、どちらかが譲歩するまで押し問答になることは以前の経験からクリアは知っている。
しかし、先程までの時間が無い——もちろん惜しくはあるが——とは状況が違う。
「あなた達の条件はもう半分は呑んでいるでしょう。そもそも解放するつもりが無ければ普通あの牢からこんなところまで連れて来たりしませんよ」
つまり、ここからはクリアの交渉技術が試されるということになる。
「いやいや、それは感謝はしてますがねぇ。こっちも命がかかってることでしてさぁ」
——人の命を商品として見ていた人間がどの口で言ってるんだ。
いけしゃあしゃあと言う男に、思わず手——というより【不可視疑の一部】——が出そうになるが、ぐっと耐える。
先程から交渉に口を出して来るのはこの男ばかりだ。
どうやら四人組の中で交渉を担当しているのはこの男らしく、うかつに気絶させたりするわけにもいかず。
少しだけ体から出してしまった【不可視疑の一部】を体に戻しながら、クリアは言葉を返す。
「お言葉ですが。人の命を売り物にしようとしていた人の命を大事にしろと? それは無理な話でしょう」
「そうは言いますけどねぇ。結局、あっしらから使い方を聞けないと困るのはそっちでしょう?
まあ、そもそも捕まった時点で終わってたであろう命ですからやりたければいつでもどうぞって感じですわ」
——本当に先程まで牢の中で震えていた面影はどこへやら。
べらべらと御託を述べる男とは裏腹に、クリアには後ろ——位置関係的に話している男がクリアの前におり、それ以外の三人は少し後ろの位置にいる——三人がわずかに動揺したように見えた。
——あの時も言い争っていたし、今の反応からしてこの人の独断で口にしているのかも。なら後ろの人をつついてみるのもありかもしれない。
「だ、そうですよ? そういえばさっきからこの人しか話してないですけどあなた方はどうなんですか?
……本当に命を捨ててもいいって思ってます?」
クリアの言葉に、後ろの三人は少しだけ考えてクリアから各々目を逸らした。
態度からして、やはりこの交渉役の男が譲歩させようと言っただけのようだった。
——少し非人道的だけど……。
やはりスムーズに話が進まない故、クリアは少し強引な手段を取ることにした。
しかし、それはあまり人に見せられたものではない。
故に——。
「……長くなりそうですし、先にブルーさんの用件を済ませましょうか」
突然後ろに居た自分に声をかけられた先程まで蚊帳の外だったブルーは、少し意外そうに返してくる。
「あらいいの? まあ、あたしとしてはそっちの方がありがたいけれど」
「よし、それなら決まりですね。四人はそこで大人しくボクが戻ってくるまで待っててくださいね。
……あ、ちなみにいくらでも相談してもらってもかまいませんよ?」
わざと含みがある風に言いながら、四人の方に振り返ることもなくブルーを連れて部屋を出た。
——まあ、この部屋ならギンガさん以外そんなに人は来ないから置いて行っても大丈夫……だろう。
「ここです。まあ、あの城の王女様の部屋の様な場所ではないですが……」
案内した先で、そうブルーに言いながらクリアがドアをノックし今の部屋の主の返事を待つ。
「はい、クリアさんですか? 今開けますね」
部屋の中から、特に張り詰めた様子もなく、されど事のあらましを説明されていた部屋の主は至って普通の声で返して内側からドアを開けた。
……一応敵の本拠地に連れてこられた囚われの王女という立場の筈なのだが、それは『ディールーツ』の本部の雰囲気と待遇からきたものなら良い傾向だとクリアは納得することにした。
そんな、気を張り詰めなくて良い環境だったためか、王女は聖属性の感知能力を使っていなかったらしく。
その平常な態度はドアが開いてすぐに豹変することになった。
それは、ブルーにも同じことが言えたのだが。
「お待たせしまし……た……?」
「イエナ!」
まるで生き別れの妹をようやく見つけた姉の様に、王女の名前を呼び捨てで呼び思い切り抱きしめた。
一方で、熱い抱擁をされたイエナは、ブルーがこの場にいる事に驚きはしたが、すぐに同じようにブルーの後ろに手を回して口を開いた。
「ブルーさん、わざわざ私のためにここまで来てくださったんですね。ありがとうございます」
「あんたが無事でよかったわ……! けど、あたしの前で敬語はやめてって約束でしょ?」
「ふふっ、そうね、ブルー姉様」
——へぇ、普段はそんな間柄なんだ。
幼い頃からな付き合いとは聞いていたが、やはりクリアとミヤのような関係のようで。
そんな姉妹の感動——かどうかはわからないが——の場面に、王女に聞きたい事はありつつも水を差すのは今はやめておこうと思ったクリアはそっとその場を後にした。
——別に部屋から出て暴れたり逃げたりするようなことはないだろう。
再び四人に道具の使い方を聞くため、クリアは「どこへでもドア」の部屋に足を運ぶのだった。
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