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セレスの側近デイブ視点
セレスの側近デイブ視点
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豪勢な昼食の前で、タスニア王子を膝に乗せて食べさせているセレス王子は笑顔である。
ベタベタしている二人の前で私が空気になるのもいつものことである。
各々食べたらいいのでは? と思わなくもないが、そんなことを言ったら殺される。
これが普通じゃないって、タスニア王子は気付かない。幼い頃からこれが普通になってるから。
タスニア王子はセレス王子の情報を統制しまくってるから、生粋の箱入りである。
「セレスもこれも食べて」
「ん」
「兄様これ美味しいよ」
「でしょう?」
タスニア王子が花のように笑う。
タスニア王子が笑えば上司であるセレス王子も機嫌がいい。だから、これでいいのだ。
私は公爵家の次男で、幼少期からセレス王子のご学友で、そのまま側近になった者だ。
その地位と容貌からセレス王子は幼少期から、多くの取り巻きに囲まれていたが、誰にも興味がないようだった。
セレス王子は王位にもさほど興味がなさそうで、王には一人しか子供がいないから仕方がなく、帝王教育を受けているといった様子だった。
それがタスニア王子と兄弟になってから、王位に執着するようになった。タスニア王子をライバル視しているのかと思ったら、タスニア王子を繋ぎ止める強力な権力と地位が欲しいようだった。
何にも執着しなかったセレス王子が、タスニア王子に「兄様」と言って甘やかに話しかけているのを見たらゾゾゾっとする。
あんな甘えるような声、セレス王子の母である前王妃が生きていたころだって聞いたことがない。
セレス王子は剣、体術、乗馬、ダンスと何でも器用にこなし、一度読めばどんな難解な本も全て頭に入る。そのせいなのか何にも感情が動かない。
容姿もひどく整っているが、何にも興味がないセレス王子は人間味もなく、こういう人間が王になり統治するとこの国はどうなるのだろうかと心配になっていた。
それがタスニア王子の前だけ表情が一変する。本心からタスニア王子を慈しんでいる。
慣れない王宮で過ごすタスニア王子に王宮を案内したり、口調は頼ったり甘えたりしているが、実質はタスニア王子を甘やかしている。
タスニア王子が不安にならないようこの国にいたいと思うよう関わっていた。というか、ぶっちゃけ逃げられないようにしている。
まあ、でもセレス王子にもそんな人を気遣う一面があるんだと安心していたら、それだけじゃなかった。タスニア王子に対する酷い執着だ。
タスニア王子宛の隣国から来た手紙は、一読した後焼いて処分している。
メルニア国の王太子であるタスニア王子の従兄弟が、何回もタスニア王子に書簡を送ってくるのが気に入らないようだった。来た手紙は憎々しげに握り潰している。
相手が王太子だと知って尚更王位に固執するようになったと思う。
どうやら帰ってこいとか、寂しいとか遊びに行ってよいかなど書いてあるようだ。
一度公式に打診があった際には、王国の端で疫病が二人発見されていることを理由に断っていた。
隣国も王太子を疫病の発生している国へ行かせられないため、王太子の訪問は取り消しになった。
その疫病は対策が見つかっており、すでに収束しているのだが。
普通外交においては風評被害の問題もあるし、おいそれと公開しないような問題である。
その後、疫病を公表したせいで、後処理に忙殺された。
セレス王子がそうなるのは自業自得だが、私まで巻き込むなと言いたい。
いち早く疫病と対策を発表したとして、セレス王子が国際的に評価されるのはまた別の話。
そんなこんなで、二人の婚約発表をついにやってくる隣国の王太子の訪問にがっちり合わせたのも、偶然ではないのであった。
「おいデイブ。兄様に似合うのはどれだと思う?」
タスニア王子に新しくあつらえた晩餐服に合う宝石はどれがいいか、珍しく頭を悩ませているセレス王子。
知らんがな。
いつもならさっさと決めるのに珍しい。ただの宝石ではなくて国家予算一年分以上する希少価値のある宝石だからか、さすがに慎重になっているんだろう。
そんなのを三つも持ってくるなんて、この宝石商は仕事ができると言うのか、商魂逞しいと言うのか。
価値がありすぎて売れない代物は王族くらいしか購入できないのもあるんだろう。
「どれもお似合いですが」
私がそう返事をするのを待っていたようで、ニヤッと笑うと、「まさしくその通り」とテーブルの真ん中に恭しく載せられた宝石三つ全て買うと商人に言っている。
流石に、「王子!」と止めに入る。
「お前も言っていただろう。全部似合うって」
「それとこれとは別です!」
ちょうどいい所に、タスニア王子の来訪が告げられる。
「すぐに入るように伝えてください」王子を遮って私が先にいう。
セレス王子がぎりっと私を睨む。
国家が傾くのをおいそれと見過ごせません。
タスニア王子がにっこりと微笑みながら、入ってくる。
「楽しそうだね。セレ」
「いや、まあ、来てください」
習慣でタスニア王子を膝の上に乗せるセレス王子。目の前に並べられた宝石にタスニア王子が気づく。
「わー大きくて立派な宝石だね」
「そうでしょう。全部綺麗ですよね」
「うん」
「全部兄様につけてもらうつもりです」
「え、これ全部?」
私が頭を抱えているのをちらりとタスニア王子は見ると、テーブルの端にある三つとは別の箱に入った宝石を指さしてセレスの瞳と同じ色だからこちらが欲しいといいだした。
そしてこれだけで十分だと。
結局タスニア王子に初めてねだられたセレス王子はホクホクしているし、話は上手くまとまった。
宝石商はまとまりかけた話が消えたのに少し呆然としていたが、すぐに笑顔になり「さすがお目が高い」と褒め、今度はタスニア王子の目の色と同じ色の宝石を紹介し、結局二つ買わすことに成功している。
二つともいい値段だが、最初の三つに比べればまだマシだと安心する。
互いの瞳の色を身につけることに、タスニア王子は恥ずかしそうに、セレス王子は至極満足そうだ。
天文学的数値の支出を防げたのである。
それ以来セレス王子に合うのはタスニア王子だけだと、本心からタスニア王子を応援している。
終わり
ベタベタしている二人の前で私が空気になるのもいつものことである。
各々食べたらいいのでは? と思わなくもないが、そんなことを言ったら殺される。
これが普通じゃないって、タスニア王子は気付かない。幼い頃からこれが普通になってるから。
タスニア王子はセレス王子の情報を統制しまくってるから、生粋の箱入りである。
「セレスもこれも食べて」
「ん」
「兄様これ美味しいよ」
「でしょう?」
タスニア王子が花のように笑う。
タスニア王子が笑えば上司であるセレス王子も機嫌がいい。だから、これでいいのだ。
私は公爵家の次男で、幼少期からセレス王子のご学友で、そのまま側近になった者だ。
その地位と容貌からセレス王子は幼少期から、多くの取り巻きに囲まれていたが、誰にも興味がないようだった。
セレス王子は王位にもさほど興味がなさそうで、王には一人しか子供がいないから仕方がなく、帝王教育を受けているといった様子だった。
それがタスニア王子と兄弟になってから、王位に執着するようになった。タスニア王子をライバル視しているのかと思ったら、タスニア王子を繋ぎ止める強力な権力と地位が欲しいようだった。
何にも執着しなかったセレス王子が、タスニア王子に「兄様」と言って甘やかに話しかけているのを見たらゾゾゾっとする。
あんな甘えるような声、セレス王子の母である前王妃が生きていたころだって聞いたことがない。
セレス王子は剣、体術、乗馬、ダンスと何でも器用にこなし、一度読めばどんな難解な本も全て頭に入る。そのせいなのか何にも感情が動かない。
容姿もひどく整っているが、何にも興味がないセレス王子は人間味もなく、こういう人間が王になり統治するとこの国はどうなるのだろうかと心配になっていた。
それがタスニア王子の前だけ表情が一変する。本心からタスニア王子を慈しんでいる。
慣れない王宮で過ごすタスニア王子に王宮を案内したり、口調は頼ったり甘えたりしているが、実質はタスニア王子を甘やかしている。
タスニア王子が不安にならないようこの国にいたいと思うよう関わっていた。というか、ぶっちゃけ逃げられないようにしている。
まあ、でもセレス王子にもそんな人を気遣う一面があるんだと安心していたら、それだけじゃなかった。タスニア王子に対する酷い執着だ。
タスニア王子宛の隣国から来た手紙は、一読した後焼いて処分している。
メルニア国の王太子であるタスニア王子の従兄弟が、何回もタスニア王子に書簡を送ってくるのが気に入らないようだった。来た手紙は憎々しげに握り潰している。
相手が王太子だと知って尚更王位に固執するようになったと思う。
どうやら帰ってこいとか、寂しいとか遊びに行ってよいかなど書いてあるようだ。
一度公式に打診があった際には、王国の端で疫病が二人発見されていることを理由に断っていた。
隣国も王太子を疫病の発生している国へ行かせられないため、王太子の訪問は取り消しになった。
その疫病は対策が見つかっており、すでに収束しているのだが。
普通外交においては風評被害の問題もあるし、おいそれと公開しないような問題である。
その後、疫病を公表したせいで、後処理に忙殺された。
セレス王子がそうなるのは自業自得だが、私まで巻き込むなと言いたい。
いち早く疫病と対策を発表したとして、セレス王子が国際的に評価されるのはまた別の話。
そんなこんなで、二人の婚約発表をついにやってくる隣国の王太子の訪問にがっちり合わせたのも、偶然ではないのであった。
「おいデイブ。兄様に似合うのはどれだと思う?」
タスニア王子に新しくあつらえた晩餐服に合う宝石はどれがいいか、珍しく頭を悩ませているセレス王子。
知らんがな。
いつもならさっさと決めるのに珍しい。ただの宝石ではなくて国家予算一年分以上する希少価値のある宝石だからか、さすがに慎重になっているんだろう。
そんなのを三つも持ってくるなんて、この宝石商は仕事ができると言うのか、商魂逞しいと言うのか。
価値がありすぎて売れない代物は王族くらいしか購入できないのもあるんだろう。
「どれもお似合いですが」
私がそう返事をするのを待っていたようで、ニヤッと笑うと、「まさしくその通り」とテーブルの真ん中に恭しく載せられた宝石三つ全て買うと商人に言っている。
流石に、「王子!」と止めに入る。
「お前も言っていただろう。全部似合うって」
「それとこれとは別です!」
ちょうどいい所に、タスニア王子の来訪が告げられる。
「すぐに入るように伝えてください」王子を遮って私が先にいう。
セレス王子がぎりっと私を睨む。
国家が傾くのをおいそれと見過ごせません。
タスニア王子がにっこりと微笑みながら、入ってくる。
「楽しそうだね。セレ」
「いや、まあ、来てください」
習慣でタスニア王子を膝の上に乗せるセレス王子。目の前に並べられた宝石にタスニア王子が気づく。
「わー大きくて立派な宝石だね」
「そうでしょう。全部綺麗ですよね」
「うん」
「全部兄様につけてもらうつもりです」
「え、これ全部?」
私が頭を抱えているのをちらりとタスニア王子は見ると、テーブルの端にある三つとは別の箱に入った宝石を指さしてセレスの瞳と同じ色だからこちらが欲しいといいだした。
そしてこれだけで十分だと。
結局タスニア王子に初めてねだられたセレス王子はホクホクしているし、話は上手くまとまった。
宝石商はまとまりかけた話が消えたのに少し呆然としていたが、すぐに笑顔になり「さすがお目が高い」と褒め、今度はタスニア王子の目の色と同じ色の宝石を紹介し、結局二つ買わすことに成功している。
二つともいい値段だが、最初の三つに比べればまだマシだと安心する。
互いの瞳の色を身につけることに、タスニア王子は恥ずかしそうに、セレス王子は至極満足そうだ。
天文学的数値の支出を防げたのである。
それ以来セレス王子に合うのはタスニア王子だけだと、本心からタスニア王子を応援している。
終わり
応援ありがとうございます!
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