どうして僕を愛おしいという目でみるのですか

くまだった

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 明日にも死刑にしてやると言われても僕は動じない。

 そんなの願ったり叶ったりだ。

 ぐったりと体を血に濡れた床に預けながら、僕は小さく心の中で笑った。

 びっくりされるかもしれないけど、僕とベンは優しいキスはしたことはあるけど、清い関係のままだ。
 毎日一緒に眠って、仲良くて、周囲の人間が照れるほど二人でいると甘い雰囲気を醸し出しているらしいけど、まだ体の関係を持ったことはなかった。

 そういう欲望はないのかと一度聞いたら「あるよ!」と顔を赤くしたベンにはっきり言われた。

 「僕じゃそういう対象にならない?」
 愛している、大切だと言われているけど、体の関係はまた違うのだろうか。
 「対象になるに決まっているじゃないか! 俺がどれだけ我慢していると思っている?」となぜか怒られた。

 「ティノにおれを好きだってまだ言ってもらえていない」
 拗ねたように言われる。
 「そんなこと」

 「大切なことだろ」
 「僕ベンのこと好きだよ。ベンなら僕いいよ」
 「おれはティノが大切なんだ。ティノがおれを好きになって、おれとそういうことしたいって思ったときに体も心も手に入れる。その時には結婚式もしなくっちゃ。みんなに盛大にお祝いしてもらおう」

 「なんだそれ」
 僕は半分あきれながらも、僕を大切にしてくれるベンの言葉が嬉しかった。

 だから、こんな僕を陥れた国で、陥れた人間の愛人とか、ありえない。

 そんな風に生きるよりも早くベンの元にいきたい。











 断首台への道のりで元上官が僕の妹と思われる青い髪の女性の隣に立って、僕を忌々し気に睨んでいる。だけどそれも気にならない。

 断首台への階段を首についている紐で引っ張られながら、一段一段必死になって昇っていく。
 何度もよろけて躓くけど、顔を上げて昇っていく。ベンの元に行くために。

 子供のころ、屋根裏部屋の天井にある四角い窓から見えたのと同じ青空が、高い所に備え付けられているギロチンの向こうに広がっている。白い鳥が横切っていく。

 籠のない鳥は自由だと、いつか思ったことを今も思う。

 子供の頃に感じたことを今も同じことを感じて、自分はちっとも成長していないんだなと感じる。

 でも両親恋しさに泣いていたあの頃の僕はもういない。ベンに大切にされ、たっぷり愛されて僕は変わったのだ。

 漠然と、可愛がっていたネズミの可愛い姿や、僕を慈しむように微笑んでみているベンの顔を思い出す。

 どんなにひどい拷問を受けても出なかった涙が滲んでくる。

 滲んだ涙が邪魔で前が見れない。

 ベンごめんね。僕のせいでベンが死んだんだと思う。人はいつかは死ぬけれどベンには早すぎる死だと思うんだ。僕と出会わなければ、あの日あの時大聖堂に行かず、爆発に巻き込まれることもなかったと思うから。

 涙が僕の黒い眼から両頬に、するすると流れていく。涙が熱く感じる。

 片方の瞼は赤黒く腫れ上がり、片方の瞼は血で固まり、ほぼ開かない。それなのに、うっすら開いた瞼から垣間見える黒瞳は、晴天に煌めき純粋な美しさがあった。
 
 熱い涙に溶けた血が、頬を赤く汚してもなお美しかった。

 僕の瞳には、ベンの笑顔だけが見えていた。

 ありがとう。

 僕に無償の愛を与えてくれてありがとう。

 どうして僕はもっと言わなかっただろう。こんな風に口が開けられなくなって、ベンがいなくなってから気づくなんて本当にどんくさい。

 ベン、ありがとう。大好きだよ。

 僕にとって、ベンが最初で最後の愛する人だ。

 愛している。ベン……

 上手く歩けない僕の首と腰ににつけられた紐を引っ張られて、なんとか断首台まで辿り着く。
 僕はうつ伏せに台の上に乱暴に乗せられ、首を固定された。


 ベン傍にいくね。
 涙があふれ続けて目が痛い。

 ベン ありがとう そしてごめん……。



・・・



 斧が振られて、ギロチンを繋いでいる縄が切られる。ギロチンが重力に沿って重たい音を鳴らしながら落ちてくる。

 ギロチン台に向かって一本の刀が飛んできたのは同時だった。




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