彷徨うヤンデレは幼馴染に求愛されて幸せになった。

くまだった

文字の大きさ
1 / 11

本編1

しおりを挟む
 まつ毛に涙の雫をつけて、リタがおれの腕の中で眠る。
 今日も好きだと言ったのに、友達の好きに変えられた。
 「リタ好きだよ。おれに振り向いて」

 寂しがり屋ですぐ不安になるリタ。おれがリタを一番幸せにするからね。

 マイラは、リタの髪にキスを落とす。

 寄り添う金髪のマイラと黒髪のリタは兄弟のようにも、恋人のようにも見えた。
 





 侯爵家の次男であるリタリヤ マーグレンは、魔術師として優秀だが、女性と付き合ってもすぐ終わるを繰り返していた。

 出会って目があって、恥ずかしそうに嬉しそうに微笑まれて、優しい声にうっとりし、真実の愛だと思って付き合い始める。

 やめた方がいいってわかっていても、好きになった人が自分以外に興味があるのが許せなくなる。

 今回こそ、やめようと思うのに、信じられる相手と再出発するのに、段々相手が信じられなくなる。疑ってしまう。

 おれを好きっていってたのに、もう好きじゃなくなったんじゃないのか?
 あるいは最初から好きじゃなかったんじゃないのか? 嘘だったのか。

 そう思ったら最後、相手に確認しないと気がすまない。相手が否定すればするほど、信じられない。強い口調で否定の言葉を並べて追い詰めてしまう。
 大抵の女性はこの時点で別れる。


 それでも、付き合ってくれても、おれのことだけを見てほしくて、最終的には軟禁みたいに閉じ込めたこともある。恋人の心が疲弊する。結局「耐えられない」と恋人が逃げていく。


 最初はいいんだ。どんなわがままでも聞くし、望みも叶える。尽くして世話もする。相手もこんなに、愛されて幸せだという。

 恋人のことを全て知りたいし、常に一緒にいたい。
ここらへんはまだ付き合いたてだからか、相手も同じように接してくれる。

 それが「どこにいくんだ」「何をしてたんだ」「だれといくんだ」毎日、確認確認してしまう。
 そのうち恋人が些細な嘘をつく。

 「心配すると思って」ってまるでおれのことを思ってるみたいに言う。
 違うだろう。おれが煩わしいからだろ?
 おれのためじゃないだろう?

 おれは誤魔化しや嘘が許せない。

 最後に付き合っていたのは男だった。
 大通りで他の男と手を繋いでいた恋人を言葉で責めて、揺さぶって、周りが騒然としている中で、「リタやめろ」って、冷静におれを止めたのは、幼馴染のマイラ。

 おれは侯爵家1位の次男で、マイラは侯爵家3位の嫡男。幼い頃から遊び友達として付き合っていた。


 おれと同じくらいの身長。おれは黒髪、黒目で鋭い目つきだが、マイラは金髪に若草色の優しい柔和な瞳に優美な顔立ちで、幼い頃、始めて見た時、天使の生まれ変わりだと思ったくらいだ。

 年齢と共に男らしさも出てきたけど、優しげな美貌は変わらない。こんな顔なのに騎士団に所属して、若くして隊長になっている。いつのまにかいい筋肉がついておれより随分逞しい。若手じゃ一番らしい。

 優しげな顔立ちで、実力もあるから男女問わず人気もある。公正で明るくて、民にも慕われているマイラ。
 結婚したい男ナンバー1だ。

 だからマイラが力づくでおれを止めるのは簡単なんだけど、マイラはそうしなかった。優しい声でおれの名前を呼ぶだけだ。

 ふん、面白くない。

 おれは脱力した。何も信じられない。おれは誰にも愛されないんだ。一生孤独で生きるんだ。

 絶望とやるせなさが襲ってくる。

 「リタおいで」
 俯くと、鬱陶しい黒髪が顔にかかる。
 おれはマイラに肩を寄せられ、導かれるままに、人混みから離れた。

 おれが詰め寄っていた相手は飛ぶように走って逃げた。一ヶ月しか持たなかった。それでも持った方か。







 「今回はどうしたんだ?」
 マイラの家で居心地が良すぎるソファでぐったりする。生気も気力もない。
 目の前にはおれの好きな酒やフルーツ、ツマミが用意されている。

 
 「嘘をつかれた」
 「どんな」
 「おれには、家にいて早めに休むって言ったのに男と遊んでた」

 「友達じゃないのか」
 「絶対に違う。仲良さそうに手をつないで歩いて、そのまま一瞬だけど抱き合っていた。普通はそんなことしない!」

 「そうだな。でも今おれたちも近い距離だぞ」
 「そんなの。お前のガタイがいいから、クッション代わりに凭れているだけ」

 「そうか」
 マイラがおれの黒髪を撫でる。
 「伸びたな」
 確かに肩より下まで伸びている。ツルツルしすぎて邪魔だ。
 「あ? ほっといたら伸びた。それにあいつが好きって言ってたからな」
 「それがメインでしょ? リタは結構相手に合わすから」

 「合わすって言うか、好きな人にはよく思われたいだけ。髪伸ばすくらいで、気に入って好きっていってもらえるならそれくらいする」
 「健気だね」
 「はあーそれを相手にも求めるから重いって言われる」
 「健気だよ。おれは好きだなー」
 「マイラー。お前だけだよ。おれのことわかってくれるの」

 「おれ、きっともう一人なんだ。だれにも愛されずにこのまま孤独に死ぬんだ。真実の愛なんて俺には一生縁がない。おれはもう猫と暮らす」
 「猫飼ってないよね」
 「これから飼うんだよ。そうやって暮らすのが一番平和なんだ」

 マイラはクスクス笑っている。
 「黒のリタリヤ様とか言われてるのに? みんなに憧れられてるのに?」
 「それ、おれの髪と目が黒いからだろ? 好きじゃない。まるでおれの心も黒いことがバレてるみたいだ。それに怖いもの見たさだろ。あのやばいやつって」
 「黒いか?」
 「うん。真っ黒、髪も目も心も真っ黒。嫉妬や猜疑心や独占欲でいっぱい」

 「おれは好きだけどな。リタの髪も、きれいに輝く大きな瞳も、切れ長なのも神秘的でいい。それにリタは相手のことが本気で好きだからだろ? だからたまに行き過ぎちゃうだけで。真っ直ぐでおれは好きだ」
 おれはマイラの慰めに、涙がじわって溢れてくる。恥ずかしいからすぐに拭く。見せられない。

 「おれはマイラみたいに明るい金髪で、綺麗な優しい若葉みたいな目で、天使みたいな顔が好きだ。マイラみたいに愛される顔になりたかった」

 「だから金髪や明るい髪の子と付き合うのか?」
 おれはキョトンする。マイラの用意した酒が美味しい。甘くて疲れが飛ぶ。

 「あーそうかも知れないな。おれと正反対の容姿に惹かれる」

 「ならおれでもいいだろ。おれリタがどんなことをしても何をしても好きだ」
 おれも酒が回ってきた。幼馴染の最上の慰めがくすぐったい。胸がムズムズする。

 「マイラお前ほんといいやつ。今日も止めてくれてありがとう。お前がいないともっと暴走してた。マイラいつまでも友達でいてくれよ」
 おれはマイラの暖かい胸に頬を擦り寄せながら、マイラの顔を見上げて笑っていう。

 「マイラと友達でよかった。おれも大好きだよ」

 おれが善人でいられる最後の砦であるマイラ。
 本当にマイラと友達でよかった。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

僕はお別れしたつもりでした

まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!! 親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。 ⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

処理中です...