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バルタス王国編 〜騎士と楽園の章〜
言葉の呪い
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広場で全員を完膚なきまでに叩きのめしたアレンは水晶盤でメモを取り始める。
「後で個人個人にチャットで今後の課題を送る。今日は身体を休めて自由に過ごすように」
何人かはまだやれると不満を顕にしていたが、アレンはそれを無視して広場を見渡した。
(誰か派手に爆弾使ってたが…ちょっと汚れただけで何も問題無い。何なんだ此処は)
アレンが石畳を調べようとしゃがんだその時、コンラッドが興奮した様子でパカフを抱えて走って来た。
「アレン、何だこの子供は!素晴らしい素質を秘めている。原石じゃないか!!」
「お、おう…?先生どうしたのさ、そんな興奮して…何か食べた?」
「さっきこの子供は君の魔力の流れを感知して全員に避けるよう言っていたが、あれは中々出来る事じゃないんだ。この子には才能がある!」
「は、はぁ…」
若干暑苦しいコンラッドに気圧されながらアレンが頷くと、コンラッドは宣言した。
「この子は私が育てよう」
「いやあんたコーネリアスじゃないんだからさ、先ずは本人の同意を求めろよ」
パカフはコンラッドの脇に抱えられたまま言った。
「俺は別に構わないよ。それで兄貴の役に立てて、騎士団や帝国をぶっ飛ばせるならさ」
すると、何処からともなく除霊師が現れてアレンに耳打ちする。
「アレンさん、こやつの教育はかなり…アグレッシブ過ぎるので気を付けてください。魔剤無しじゃ生きられない生活になりますからね」
「おい除霊師、アレンに何を吹き込んでる?」
除霊師はパカフに問うた。
「パカフ君、君は文字を読めますか?」
「いや、読めないよ」
除霊師はコンラッドの脇腹からパカフを降ろさせると、自分の元に引っ張り寄せた。
「私が文字を教えますよ」
「お前、大和の奇怪な文字を教えるつもりか?」
「失礼ですね、大和の文字はクテシア文字の次に難しい事で評判ですから教えませんよ。共通語を教えます」
コンラッドと除霊師は暫く睨み合ったが、何とか合意に達したようだ。
「じゃあ時間割はアレンさんに任せましょう」
「俺!?」
「私達では喧嘩になるからな」
「宜しく頼みましたよ、総大将。コンラッドや、手合わせをしましょうか」
アレンは自由過ぎる二人に溜息を吐くと、パカフと共にロビーへ戻った。
(時間割ね…やる事が沢山だよ)
ロビーに戻って椅子に腰掛けると、アレンは羊皮紙に表を書いた。
「まだ文字が読めなかったよな。数字は読めるか?」
「時計に書いてあるやつだろ?読めないけど、何となく分かるよ!」
「分かった。お前の生活はこれから朝の六時に起床、その後一時間はトレーニングで八時から朝食、昼の十二時に昼食、三時にはティータイムで、四時から六時まで戦闘訓練、その後は風呂だったり夕飯だ」
文字が読めないパカフの為に簡単な絵で表に書き込んでやると、パカフはうんうんと頷きながらアレンの羽ペンを目で追っていく。
「アーサーから聞いた話、構成員もこんな生活をしているらしいが…正直戦闘訓練に費やす時間が少なすぎる。他の構成員の戦闘訓練の時間は調整するが、お前は当分この時間割ね」
「分かった」
「後は、空いた時間にお前が希望する授業を入れるだけだな。コンラッドが丸で、除霊師が四角。入れたくない時間帯はバツを書き込め。コンラッドが魔法の授業で、除霊師は文字の授業。因みに文字が読めなかった俺からしたら、除霊師の授業は優先すべきだと思うよ」
「兄貴も文字が読めなかったのか?」
「ああ。お前みたいに喋る事も無かったよ。文字ってのは便利でな、それさえ書ければこの世界じゃ十分に生きていける」
「じゃあ、兄貴が最初に覚えた文字は?」
アレンは視線を床に落として言った。
「…文字って言うか文だけど、『生まなきゃ良かった』だな」
衝撃を受けたように黙りこくったパカフにアレンは言う。
「耳に残る言葉は覚えやすい。俺は言葉を話さなかったけど、唯一知ってた言葉がそれだったから、一番最初に言った言葉も、書いた言葉もそれだ」
「兄貴…」
パカフがアレンの顔を泣きそうな顔で見上げる。
(何でお前が泣きそうなんだよ)
アレンは薄々、パカフが賢い事に気付いていた。もしかしたらアレンの生い立ちを薄々でも察したのかも知れない。
アレンは話題を軽くしようとパカフの頭をわしゃわしゃ撫でて言った。
「音読しながら文字を勉強するのがおすすめだ」
パカフは頷いて記号を書き込んでいく。
(こいつが一番最初に書く言葉は何だろうな)
パカフが羽ペンを置いたのを見て、アレンは時間割を確認した。
「結構詰め込んだな。じゃあ、どんな魔法を勉強したいとかあるか?」
「…皆の役に立てる魔法が良いな…けど俺、魔法とかはっきり分かってないんだ」
「分かった、後でそのように伝えておくよ。今日は取り敢えず好きに過ごせ」
アレンはその場を離れると、ホールから出て来たクルトに声を掛けた。
「ねえ、マリアさんって見なかった?」
「マリアさんならホールで開店準備してますよ。暫くはホールでお酒や食事を提供するそうです」
「分かった、ありがとう」
アレンはホールに入ると、カウンターで食材を確認しているマリアの元へ歩いた。
「マリアさん、酒を出すよ」
「あぁ…実はね、ホールに既に酒があってね。これ以上出すと在庫過多になっちまうんだ」
「開封済みもあるなら、それはまずいか。じゃあ前の店の物は俺が預かっておくよ」
「悪いね、朝からあんな騒ぎだったのに。お詫びと言っちゃなんだけど、奢らせてよ」
「お言葉に甘えよう」
アレンはカウンターに腰掛けてメニュー表を開いた。カクテルの種類は豊富で、名前の下にカクテル言葉が書かれている。
「カクテル言葉って、どうしてあるんだろう」
アレンは適当にデニッシュメアリーを選んで言った。
何気ない独り言のようなその言葉にマリアが返す。
「例えば、今あんたは何を思ってデニッシュメアリーを頼んだ?」
「…何を思って…分からない。気になったから選んだ」
「デニッシュメアリーのカクテル言葉は『貴方の心が見えない』なんだ」
(…心が見えない…確かに、あいつの心や考えてる事は全くもって理解出来ない)
マリアは肩を竦める。
「私は信じてる訳じゃないけど、言霊を信じる人達に言わせれば、言葉は強い力を持つらしい。だからカクテル言葉や花言葉、宝石言葉はある種の祈りであり呪いなんだろうね。それは日常の会話にもあるらしい。例えば毎日後ろから『死ね』って言ったら、言われた奴は死ぬなんて事例もあるそうだ。言葉は人を縛り、時に蝕む」
マリアがカクテルを作りながらそう言うと、アレンの口がまるで勝手に開くかのようにゆっくり動いた。
「…初めて発した言葉や文って、何かに縛られてるのだろうか」
「極端な環境に居た場合、祈りか呪いになるのだろうね」
マリアはアレンを見て問うた。
「アリシアの事なら気にしなくて良い。あいつは除霊師が身柄を引き受けるらしいからね」
「除霊師が?」
「除霊師の拠点がある大和神国は美しい景観で有名なんだけど、そういう地域は癒やしの力で満ちている。アリシアはスラムで発見された時からあんな感じだから、見かねた除霊師が大和での治療を試みるそうだよ」
マリアは憐れむように言った。
「息子が己の手元から消えて、漸く愛情に気が付いたらしい。それから木の人形と青い鬘を購入して、坊やって呼んでいるのさ」
「愛情?」
「親が子を愛しく思う…私は子供なんてつくった事無いけど、当たり前の感情だよ」
アレンは言葉を反芻するように暫く黙していたが、やがて口を開いた。
「逆もあるのか?」
「そりゃあね。あんた、コーネリアスと過ごした時間は幸せだったんじゃないか?」
マリアまでコーネリアスについて知っているのは驚いたが、アレンはコーネリアスと過ごした五年を思い返す。
(眠れなくて、コーネリアスの布団に潜り込んだ事もあったな…マキシンとアラナンを連れて、あいつの為に花を買いに行ったら、間違えて人食い花を買った事もあったっけ)
アレンは目元を僅かに柔らかくして呟くように言った。
「…うん、幸せだった」
「その時、コーネリアスからは何て言われた?」
コーネリアスの笑顔が脳裏に蘇る。
アルビノの雪のように白い魔人は、暖かい日のような笑顔で言っていた。
「…血が繋がってなくても、愛してるって」
「それはアレンも同じでしょ?」
「ああ」
マリアは微笑んで言った。
「その愛してるって言葉も、あんたとコーネリアスを繋ぐある種の呪いさ。勿論、良い意味でね」
そう言ってマリアは会話しながら作ったカクテルを完成させると、アレンに渡して更にもう一つ作り始めた。
「マリアさんは何を飲むの?」
「私じゃないよ。あんたへもう一杯奢るの」
アマレットとピナクルウォッカを氷の入ったグラスに注いで混ぜると、アレンに渡した。
「カクテル言葉は『無償の愛』。アリシアに何を言われたのか、何をされたのか具体的には私は分からない。だけどね、あんたにはコーネリアスに掛けられた呪いがある。永遠に解けない、『無償の愛』という呪いか。過去に囚われ続けてはいけない。あんたが今背負う呪いは、コーネリアスの呪いだけで良い」
アレンは渡されたゴッドマザーを見詰めると、マリアの顔を見て言った。
「ありがとう。少し楽になった」
「どういたしまして。いつでも相談に来な。マリア姐さんはいつでも相談に乗るよ」
マリアがグラスにウィスキーを注いで掲げたその時。
「私の呪いは要る?いっぱいあげるよ」
突然ホールにやって来たフレデリカの声にアレンの顔が引き攣り、大きい声を張り上げる。
「何か代償に目玉とか持って行かれそうだから遠慮するね!」
「何でよ!何でマリアの方に流れていっちゃうの!ねぇねぇねぇ!」
マリアはその様子を見て爆笑した。
(少しでもアレンの傷が癒えれば良いな)
たまには楽しく賑やかに酒を飲み、酔った勢いに任せて皆で歌い踊る。そんな生活をアレンにも送って欲しい。マリアはそう祈ってグラスに口を付けた。
「後で個人個人にチャットで今後の課題を送る。今日は身体を休めて自由に過ごすように」
何人かはまだやれると不満を顕にしていたが、アレンはそれを無視して広場を見渡した。
(誰か派手に爆弾使ってたが…ちょっと汚れただけで何も問題無い。何なんだ此処は)
アレンが石畳を調べようとしゃがんだその時、コンラッドが興奮した様子でパカフを抱えて走って来た。
「アレン、何だこの子供は!素晴らしい素質を秘めている。原石じゃないか!!」
「お、おう…?先生どうしたのさ、そんな興奮して…何か食べた?」
「さっきこの子供は君の魔力の流れを感知して全員に避けるよう言っていたが、あれは中々出来る事じゃないんだ。この子には才能がある!」
「は、はぁ…」
若干暑苦しいコンラッドに気圧されながらアレンが頷くと、コンラッドは宣言した。
「この子は私が育てよう」
「いやあんたコーネリアスじゃないんだからさ、先ずは本人の同意を求めろよ」
パカフはコンラッドの脇に抱えられたまま言った。
「俺は別に構わないよ。それで兄貴の役に立てて、騎士団や帝国をぶっ飛ばせるならさ」
すると、何処からともなく除霊師が現れてアレンに耳打ちする。
「アレンさん、こやつの教育はかなり…アグレッシブ過ぎるので気を付けてください。魔剤無しじゃ生きられない生活になりますからね」
「おい除霊師、アレンに何を吹き込んでる?」
除霊師はパカフに問うた。
「パカフ君、君は文字を読めますか?」
「いや、読めないよ」
除霊師はコンラッドの脇腹からパカフを降ろさせると、自分の元に引っ張り寄せた。
「私が文字を教えますよ」
「お前、大和の奇怪な文字を教えるつもりか?」
「失礼ですね、大和の文字はクテシア文字の次に難しい事で評判ですから教えませんよ。共通語を教えます」
コンラッドと除霊師は暫く睨み合ったが、何とか合意に達したようだ。
「じゃあ時間割はアレンさんに任せましょう」
「俺!?」
「私達では喧嘩になるからな」
「宜しく頼みましたよ、総大将。コンラッドや、手合わせをしましょうか」
アレンは自由過ぎる二人に溜息を吐くと、パカフと共にロビーへ戻った。
(時間割ね…やる事が沢山だよ)
ロビーに戻って椅子に腰掛けると、アレンは羊皮紙に表を書いた。
「まだ文字が読めなかったよな。数字は読めるか?」
「時計に書いてあるやつだろ?読めないけど、何となく分かるよ!」
「分かった。お前の生活はこれから朝の六時に起床、その後一時間はトレーニングで八時から朝食、昼の十二時に昼食、三時にはティータイムで、四時から六時まで戦闘訓練、その後は風呂だったり夕飯だ」
文字が読めないパカフの為に簡単な絵で表に書き込んでやると、パカフはうんうんと頷きながらアレンの羽ペンを目で追っていく。
「アーサーから聞いた話、構成員もこんな生活をしているらしいが…正直戦闘訓練に費やす時間が少なすぎる。他の構成員の戦闘訓練の時間は調整するが、お前は当分この時間割ね」
「分かった」
「後は、空いた時間にお前が希望する授業を入れるだけだな。コンラッドが丸で、除霊師が四角。入れたくない時間帯はバツを書き込め。コンラッドが魔法の授業で、除霊師は文字の授業。因みに文字が読めなかった俺からしたら、除霊師の授業は優先すべきだと思うよ」
「兄貴も文字が読めなかったのか?」
「ああ。お前みたいに喋る事も無かったよ。文字ってのは便利でな、それさえ書ければこの世界じゃ十分に生きていける」
「じゃあ、兄貴が最初に覚えた文字は?」
アレンは視線を床に落として言った。
「…文字って言うか文だけど、『生まなきゃ良かった』だな」
衝撃を受けたように黙りこくったパカフにアレンは言う。
「耳に残る言葉は覚えやすい。俺は言葉を話さなかったけど、唯一知ってた言葉がそれだったから、一番最初に言った言葉も、書いた言葉もそれだ」
「兄貴…」
パカフがアレンの顔を泣きそうな顔で見上げる。
(何でお前が泣きそうなんだよ)
アレンは薄々、パカフが賢い事に気付いていた。もしかしたらアレンの生い立ちを薄々でも察したのかも知れない。
アレンは話題を軽くしようとパカフの頭をわしゃわしゃ撫でて言った。
「音読しながら文字を勉強するのがおすすめだ」
パカフは頷いて記号を書き込んでいく。
(こいつが一番最初に書く言葉は何だろうな)
パカフが羽ペンを置いたのを見て、アレンは時間割を確認した。
「結構詰め込んだな。じゃあ、どんな魔法を勉強したいとかあるか?」
「…皆の役に立てる魔法が良いな…けど俺、魔法とかはっきり分かってないんだ」
「分かった、後でそのように伝えておくよ。今日は取り敢えず好きに過ごせ」
アレンはその場を離れると、ホールから出て来たクルトに声を掛けた。
「ねえ、マリアさんって見なかった?」
「マリアさんならホールで開店準備してますよ。暫くはホールでお酒や食事を提供するそうです」
「分かった、ありがとう」
アレンはホールに入ると、カウンターで食材を確認しているマリアの元へ歩いた。
「マリアさん、酒を出すよ」
「あぁ…実はね、ホールに既に酒があってね。これ以上出すと在庫過多になっちまうんだ」
「開封済みもあるなら、それはまずいか。じゃあ前の店の物は俺が預かっておくよ」
「悪いね、朝からあんな騒ぎだったのに。お詫びと言っちゃなんだけど、奢らせてよ」
「お言葉に甘えよう」
アレンはカウンターに腰掛けてメニュー表を開いた。カクテルの種類は豊富で、名前の下にカクテル言葉が書かれている。
「カクテル言葉って、どうしてあるんだろう」
アレンは適当にデニッシュメアリーを選んで言った。
何気ない独り言のようなその言葉にマリアが返す。
「例えば、今あんたは何を思ってデニッシュメアリーを頼んだ?」
「…何を思って…分からない。気になったから選んだ」
「デニッシュメアリーのカクテル言葉は『貴方の心が見えない』なんだ」
(…心が見えない…確かに、あいつの心や考えてる事は全くもって理解出来ない)
マリアは肩を竦める。
「私は信じてる訳じゃないけど、言霊を信じる人達に言わせれば、言葉は強い力を持つらしい。だからカクテル言葉や花言葉、宝石言葉はある種の祈りであり呪いなんだろうね。それは日常の会話にもあるらしい。例えば毎日後ろから『死ね』って言ったら、言われた奴は死ぬなんて事例もあるそうだ。言葉は人を縛り、時に蝕む」
マリアがカクテルを作りながらそう言うと、アレンの口がまるで勝手に開くかのようにゆっくり動いた。
「…初めて発した言葉や文って、何かに縛られてるのだろうか」
「極端な環境に居た場合、祈りか呪いになるのだろうね」
マリアはアレンを見て問うた。
「アリシアの事なら気にしなくて良い。あいつは除霊師が身柄を引き受けるらしいからね」
「除霊師が?」
「除霊師の拠点がある大和神国は美しい景観で有名なんだけど、そういう地域は癒やしの力で満ちている。アリシアはスラムで発見された時からあんな感じだから、見かねた除霊師が大和での治療を試みるそうだよ」
マリアは憐れむように言った。
「息子が己の手元から消えて、漸く愛情に気が付いたらしい。それから木の人形と青い鬘を購入して、坊やって呼んでいるのさ」
「愛情?」
「親が子を愛しく思う…私は子供なんてつくった事無いけど、当たり前の感情だよ」
アレンは言葉を反芻するように暫く黙していたが、やがて口を開いた。
「逆もあるのか?」
「そりゃあね。あんた、コーネリアスと過ごした時間は幸せだったんじゃないか?」
マリアまでコーネリアスについて知っているのは驚いたが、アレンはコーネリアスと過ごした五年を思い返す。
(眠れなくて、コーネリアスの布団に潜り込んだ事もあったな…マキシンとアラナンを連れて、あいつの為に花を買いに行ったら、間違えて人食い花を買った事もあったっけ)
アレンは目元を僅かに柔らかくして呟くように言った。
「…うん、幸せだった」
「その時、コーネリアスからは何て言われた?」
コーネリアスの笑顔が脳裏に蘇る。
アルビノの雪のように白い魔人は、暖かい日のような笑顔で言っていた。
「…血が繋がってなくても、愛してるって」
「それはアレンも同じでしょ?」
「ああ」
マリアは微笑んで言った。
「その愛してるって言葉も、あんたとコーネリアスを繋ぐある種の呪いさ。勿論、良い意味でね」
そう言ってマリアは会話しながら作ったカクテルを完成させると、アレンに渡して更にもう一つ作り始めた。
「マリアさんは何を飲むの?」
「私じゃないよ。あんたへもう一杯奢るの」
アマレットとピナクルウォッカを氷の入ったグラスに注いで混ぜると、アレンに渡した。
「カクテル言葉は『無償の愛』。アリシアに何を言われたのか、何をされたのか具体的には私は分からない。だけどね、あんたにはコーネリアスに掛けられた呪いがある。永遠に解けない、『無償の愛』という呪いか。過去に囚われ続けてはいけない。あんたが今背負う呪いは、コーネリアスの呪いだけで良い」
アレンは渡されたゴッドマザーを見詰めると、マリアの顔を見て言った。
「ありがとう。少し楽になった」
「どういたしまして。いつでも相談に来な。マリア姐さんはいつでも相談に乗るよ」
マリアがグラスにウィスキーを注いで掲げたその時。
「私の呪いは要る?いっぱいあげるよ」
突然ホールにやって来たフレデリカの声にアレンの顔が引き攣り、大きい声を張り上げる。
「何か代償に目玉とか持って行かれそうだから遠慮するね!」
「何でよ!何でマリアの方に流れていっちゃうの!ねぇねぇねぇ!」
マリアはその様子を見て爆笑した。
(少しでもアレンの傷が癒えれば良いな)
たまには楽しく賑やかに酒を飲み、酔った勢いに任せて皆で歌い踊る。そんな生活をアレンにも送って欲しい。マリアはそう祈ってグラスに口を付けた。
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