創世戦争記

歩く姿は社畜

文字の大きさ
133 / 199
魔導王国アミリ朝クテシア編 〜砂塵と共に流れる因縁の章〜

連合軍集結

しおりを挟む
「マンゴネル、放て!」
 部隊長の号令でマンゴネル(移動可能な投石機の一種)が爆弾を城壁目掛けて放つ。
 爆弾魔達によって運ばれた爆弾は飛空艇にも積み込まれ、城塞を破壊せんと投下されていく。
「アレン、海軍が到着したわ。海兵が地下水路から侵入し始めてる」
「よし、こちらも急ごう」
 有翼人ハーピィやドゥリン達も集まり、上空から攻撃を行っている。しかし、市街へ着地する事は出来ない。生ある者が着地した瞬間、結界から放たれた光線によって焼き払われてしまうのだ。
「建物を守る結界が厄介だな」
「盛れるだけ盛ってみようってシュルークの思考が丸見えだわ」
 普通はゴテゴテと魔法を展開し過ぎると、何処かしらで破綻が生じる。しかし、シュルークは破綻が生じない加減で複数の魔法を幾重にも重ね、最強の城塞を生み出した。
 それは一種の芸術作品のようで、畏怖し絶望して、それでも尚聖祖を信奉するクテシア兵が感嘆と共に頭を垂れる程だ。
「ヌールハーンは何をやってる?」
 城壁は厚いが、じきに破壊が完了する。
「先頭で城門の結界を解析してる。けど幾らヌールハーンでも、シュルークの魔法を解読するのは難しいと思う」
 分厚いだけの城壁では、苏安が誇る爆弾に耐えられない。やはり城壁や城門に結界が張られているのだ。
「フレデリカ、攻城櫓ベルフリーを用意しろ。それから、勇猛な奴先にを入れて市街の敵陣と城門を崩す」
「分かった。手練を集めてくる」
 そう言って走り出すのを見送って、アレンは先頭列で結界の解析を進めているヌールハーンに近付いた。
「アレン…お助け…」
 そう言ったのは、ヌールハーンに抱き締められているアイユーブだ。自分より背が低く豊満な胸に顔を押し潰された彼は、窒息寸前で苦しそうである。
「助けろって、何をどうしろと…」
「我はもうこの子を離さん」
 そうした彼女の声に、アイユーブが絶望する。
 必死に手を振り回すが、ヌールハーンは意にも介さない。は成功のようだ。
(しかし…胸でっかいな…)
 アレンが今まで見た誰のものよりも大きなその胸に押し潰されるアイユーブが次第に哀れに思えてくる。
「ヌールハーン、そろそろ解放してやりなよ。死にそうだ」
 そう言われた彼女は、渋々息子を解放する。その解放された息子は逃げるようにアレンの横に立った。
「結界の解析を手伝う」
 ヌールハーンは舌打ちした。
「戦でなければ、この城の結界をじっくり観察出来たのに」
「この城に住んだ事あるんじゃないのか?」
「いや、我の父はスィナーン城主で、先王⸺女王マリカの情夫だった。だからこの城に居た期間は半年も無い」
 恥じる事無く、彼女は淡々と事実を述べた。妾子が王を弑して王位に就いた事、それに対する後悔は一切感じない。
「…じゃあ、この城を落とせばゆっくり観察出来るな」
 アレンは城壁に手を伸ばした。結界の解析結果をアレンが先に知る事になるだろうが、今は手段を選べない。
(シュルーク、お前は俺が大好きだったよな)
 智陵の地下で響いた、あの悪戯っぽい声。此処がシュルークの作った要塞で、永い歴史を持つ都市なら。何処かに聖墓があって、シュルークが笑ってこの攻城戦を見ているのかも知れない。
 空間を遮断する壁となっている結界に手を向けると、やはり彼の気配がする。
「…聞こえた。奴が居る」
 その声の主は言った。
『来たね、正義君。僕が居る聖墓まで、辿り着けるかな?』
「そこに何が在る?」
 シュルークは笑った。アレンはその笑いに何か含みを感じる。
「まあ良いや。辿り着きゃ良いんだろ?」
 アレンは結界の弱点を見付けた。一見複雑に入り乱れているが、実際は煉瓦造りの建築物やジェンガのようにちぐはぐに結界が並べられているだけだ。そして結界の隙間を魔力が流れて固定している。
 ジェンガは崩した者の負けだが、この戦いは崩した者の勝ちだ。
 結界とは魔法だ。であれば、魔法を使えない空間を創れば良い。
 アレンの視界の先に攻城櫓が映ると、アレンは指を鳴らした。
反魔法領域アンチマジックエリア
 以前はこれ程大規模な反魔法領域を展開出来なかったが、時空魔法を織り交ぜる事でより高度な物に昇華出来る。
 魔法が使えなくなり、魔導大砲からの砲撃が止んで敵陣に混乱が起こった。その瞬間、櫓から兵士達が城内に侵入する。
「侵入者だ!敵襲!敵襲ーッ!」
 直後、そことは別の場所の城壁が轟音と共に次々と大破した。
「全軍、突撃!」
 結界に守られて油断していた魔人達が次々と討ち取られる。
「西門を守れ!侵入を許すな!」
 正門を守ろうと敵が躍起になるが、それこそが狙いだ。地下水路から海軍が侵入する時間を稼げれば良い。城内で挟み撃ちにしてやるのだ。
「ヌールハーン、西門から本城キープ目掛けて真っ直ぐ進軍して欲しい。岩が転がってくるが、全て破壊してくれ」
「心得た」
 戦場と化した城塞に悲鳴と怒声が入り交じる。叫ばねば力が出ず、気圧されて殺されてしまう。叫べば砂漠の乾いた大気と熱気に喉をやられるが、構いやしない。
 クテシア城の市街地は、何が大通り以外の通路は狭く入り組んでいる。岩山と同じ黄色がかった石で造られた廃墟は、兵士達の血や臓物によって瞬く間に赤く染まる。
 アレンは敵を斬り殺しながら、この空気に懐かしさを感じていた。晴れ過ぎて乾いた空の下を満たす、砂の匂い。そして砂の中に混じる血の匂い。やはり、自分はどうしても戦場に帰って来てしまうのだ。
「アレン、十二神将が見当たらない!」
 フレデリカがアレンに向かって言う。その言葉にアレンも敵兵の中を確認するが、誰も見当たらない。
「先陣切って戦いそうだが…フレデリカ、油断するなよ!」
 クテシア城は三層の城壁に覆われており、残るは旧貴族街とかつての宮殿を守護する城壁のみとなっている。しかし何れも兵器や結界による武装が施されており、簡単には攻略出来ない。
 ウサーマと話し合った結果、攻略に要する時間は三日だと結論付けられた。そして海から地下水路を通って侵入するのに三日。地上側が素早く制圧せねば、海軍が袋叩きに遭う。袋叩きに遭わせない為にも地上側の戦力が敵を引き付ける必要があるが、それら全てを蹴散らす必要がある。
 アレンは目の前の兵士の手足を斬り飛ばして問うた。
「答えろ、この城に居る将は誰だ?」
 冷たい顔のアレンに問い詰められた兵士は、失禁しながら答えた。
李恩リーエン弥月ミィユエ、オド…」
「分かった」
 そう言って斬り殺すと、アレンは旧貴族街の方を向いた。
「ラダーン戦の将達ばかりじゃない」
 フレデリカがそう言うと、アレンは言った。
「…十二神将だけじゃない」
「え?」
 アレンは城壁を指差した。そこには、茶髪を靡かせた女が立っている。その女の衣服は砂漠では珍しい意匠で、美凛メイリンの服装によく似ている。
「武公の梦蝶モンディエだ。恐らく、ジェティも居る」
 梦蝶は特に何かするでもなく、只静かに戦場を眺めている。今はまるで何かを探しているかのようだが、何れ動き出すだろう。
 アレンは呟くように言った。
「暫くは武公の事を伏せよう。ユエさんやヌールハーンに勝手な行動をされたら勝てなくなる」
 フレデリカは頷いた。
 苏月スー・ユエはまだ理性的だが、ヌールハーンは割と本能に従って動くところがある。最悪、味方をも巻き込みかねない。それだけは何としてでも避けねばならないのだ。
 梦蝶が城壁から降りて王宮の方へ去る。
「…あいつら、何か企んでるに違いない。速やかに攻略するぞ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

最後の女

蒲公英
恋愛
若すぎる妻を娶ったおっさんと、おっさんに嫁いだ若すぎる妻。夫婦らしくなるまでを、あれこれと。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

処理中です...