創世戦争記

歩く姿は社畜

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創世戦争編 〜箱庭の主〜

崩壊の始まり

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 日が沈み不朽城が見えなくなる頃、全軍がミレトクレタに集まった。
 先ほど派兵糧の入荷で士気が上がっていたが、今は不朽城の上空にある亀裂に誰もが戸惑いを隠せない。
「アレン、フレデリカ!あれ何?」
 美凛とアイユーブが二人の前にやって来て空の亀裂を指す。
「結界に亀裂が入ってる。元々はリヴィナベルクの上空にあった物だが、不朽城の上空にも空いた」
 アイユーブは目を見開く。
「精霊が、ざわめいてる…アレン、あの穴から何かが来るぞ」
「ああ、だが止まる訳にはいかない」
 アイユーブは怯んでいる訳ではない。彼が恐れているのは、今この場で士気が下がる事だ。
「…今まで、各国の上層部しか知らされていなかった事がある」
 アレンが徐に口を開くと、全員がアレンの方を向いた。
「リヴィナベルクの上空には、英雄アレッサンドロが張った結界に生じた亀裂があった」
 その言葉に兵士達はざわめく。大半が空に結界がある事を知らなかったのだ。誰がそんな壮大過ぎる魔法を想像出来るだろう。当たり前の反応だ。
「そして、フェリドールの皇帝は不朽城を使って空に更なる亀裂を入れた。あの結界の目的は、〈創世戦争〉でに仇なした神々の更なる干渉を防ぐ事だ」
 つまり、このままでは神々が降臨する。それは学の無い底辺の小規模傭兵団でも分かる事だった。
「逃げたい奴、居るか?」
 アレンの問いに誰も答えない。沈黙だけが帰ってくる。
「文字が読める奴なら、聖書は読んだ事あるだろう。読めない奴でも、口伝で〈創世神話〉を聞いている筈だ。分かるか?この世界は、かつて神々との戦争から逃れた者達の、俺達の世界。〈創世戦争〉の末路は知っているだろう。旧世界は滅びたんだ」
 〈第一次創世戦争〉で世界は滅び、逃げた先でも神々によって〈第二次創世戦争〉が起きた。何とか神々を撃退して十万年の安寧を手に入れたが、それは今、目の前で崩れようとしている。
「選べ。このまま逃げて火の海に沈む世界を見るか、俺達と共に来て〈第三次創世戦争〉を乗り越えるか」
 アレンは不安だった。不敗を誇る帝国軍に所属していた頃は、命令するだけで軍隊が手足のように動いた。しかし彼らは違う。全員が何か別々の目的を抱えた別種族。命令や懇願で確実に動く訳ではないのだ。
 沈黙が、冷え始めた砂漠の空気と共に皮膚を刺す。そんな中、大和ヤマトの侍達が武器をガチャガチャと鳴らし始めた。
「勝利!勝利!勝利!」
 それを見たゼオルが、隣の父親を肘で小突いて鞘に入ったままの刀を地面に打ち付ける。
「勝利!勝利!勝利!」
 大和とバルタスだけではない。圧倒的な兵数を誇る苏安が、負けじと声を張り上げる。それに続いてクテシア軍と傭兵団が声を張り上げ、ライカニアの獣人ライカンスロープがそれに応えるように吠える。
 シルヴェストロは水晶盤を持って近付いてきた。そこにはヌールハーンと苏月も写っている。
「これまでの戦死者、犠牲者への手向けは、勝利が最も相応しいでしょう。お二人もそう思われますか?」
『ああ。アイユーブ、土産は皇帝の首で頼もう』
『…部屋が汚れるしそんなもん要らん。アレン、裏方だが、私達も全力で支援する。全て終わらせよう。美凛、気を付けて往きなさい』
 二人の言葉に頷くと、アレンはフレデリカを見て頷いた。
「これで終わらせよう、永遠に」
「ええ」
 アレンは馬に乗った。
「戦死者と犠牲者に報いる為、故郷へ勝利を持ち帰ろう。帝都は目前だ。連合陸軍、俺に続け!」
 雄叫びを上げて陸軍は進む。
 少し離れた所では、水晶盤を通じてそれを見守っていたフレアとメルティアが命令を下す。
「全軍離陸用意!目標は不朽城。〈創世戦争〉の幕開けだ。良いか、神々は味方ではない。逆だ。我々の味方は時空神と創造神、そして彼らに祝福された救世主メシアのみだ。邪魔者は蹴散らし進め!」
 海軍も動き始めた。
「グラコス艦隊、錨を上げろ!海竜に負けない速度を出せ。全速前進だ!」
「グラコス艦隊に負けてなるものか!神将艦隊、錨を上げろ!弾込め用意!」
「ちょ、て、テオクリスさん、ミロスさん!うちの苏安艦隊が先の方が良いですよ!蒙衝もうしょう、着火準備!敵船を焼き払え!」
 その騒ぎに笑いながら、海中からキオネが巨体を現す。
「さあ、僕達も行こうじゃないか。海龍王親衛隊、狩りの時間だ」
「メリューン騎士団、親衛隊に続け!」
 海中戦において、海竜アクアドラゴン人魚マーメイドに勝る種族は居ない。海竜が巨体で敵の水棲種族を薙ぎ払い、下から連合艦隊の船底に穴を空けようとする撃ちもらしをメリューン騎士団が撃破していく。そして彼らの上を苏安艦隊の蒙衝が爆薬を積んで高速で進み、敵船に特攻する。
「メリューン騎士団、間もなく蒙衝が特攻する。苏安海兵の救助の準備!」
 海上で爆発が起こると、空中でも光が舞った。
「正面から飛竜スカイドラゴンが接近中!船首三連魔導砲用意!」
「船首三連魔導砲用意!」
「しっかり狙え、ウルラ王女とドゥリン王妃には当てるなよ!放て!」
 魔導砲が火を吹き、夜空に血の雨が降る。
飛空艇団が弾込めしている間、大和の〈桜狐オウコ〉とライカニアの有翼人ハーピィがすばしっこく動いて飛竜を翻弄する。
「陸軍の上に落とすなよ!」
 その陸軍は、帝国軍の精鋭と衝突していた。
 アレンは剣を振りながら、同時に魔法も操る。今の内に時空魔法を可能な限り使って、空を修復しなければならない。それは身体に負担の掛かる行為だが、フレデリカはアレンの決意を感じたのか、特に何も言わなかった。
「はあっ!」
 剣が一閃すると、敵が何人も吹き飛ぶ。その近くでは、ゼオルの刀が閃いて血しぶきが上がり、別の場所では巨大化したムニちゃんが敵兵をネメシアと共に蹂躙している。アレンのソバで巨大化したお代官様は、大量にふわふわの毛を撒き散らしながら戦場を蹂躙した。
 勝利は目前。しかしその時、空から紫色の光が溢れて来た。
「なんだありゃ?」
 アレンが首を傾げると、突然メキメキと音が響き、巨大な影が現れる。
「ヨルム!?」
 ヨルムの再生が完了したのだ。
「ゴアアアアアアアアアアッ!」
 アレンはヨルムを見て手を握る。
 その時、アレンの服と髪が靡いた。もう二度と、アーサーのような死者を出さない為に。
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