凜恋心

降谷みやび

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battle9…交差する想い

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翌日の朝、雅は重たい目蓋をゆっくりと開ける。いつになく眩しく感じる日差しが、太陽が既に昇っていることに気付かされた。

「え…今…何時!?」

ガバッと起き上がると、目の前にいた悟浄と目が合う。

「おはよ。」
「あ、悟浄…おはよ、起こしてくれたらよかったのに…」
「いんや、初めて飲んだ酒に溺れたヤツ起こす程バカじゃねぇよ」
「ごめん…昨日…どうしてたっけ…」
「覚えて…ない?」
「ん…皆で楽しく飲んで、八戒のくれたお酒がすごく甘くて、美味しくて、それから……こうして悟浄と話してる…」
「そか。俺が運んだ。」
「…ッ!ごめんね…重かったでしょ?」
「いや、逆にもっと太りなさい?」

クスクスと笑うと、よっと椅子から立ち上がる悟浄に、雅は申し訳なさそうに問いかけた。

「ねぇ…悟浄?」
「んー?」
「私昨日変なこと…してないよね?」
「変なこと?」
「ん…記憶がないって…何か変なことしても解んないし…」
「あー、……それなんだけどさ、雅」
「な…何?まさか変なことした?」
「…したのは俺。」
「へ?」
「雅寝てる間に、キスした」
「……へ?…クス、またまたぁ!よかった!そんな冗談言ってくれるくらいなら!」

そう言い立ち上がった雅。『皆に挨拶してくる』と扉に向かったときだった。

「…マジだけど?」

そう呟いて悟浄は雅の後ろからふわりと抱き締めた。かなりの身長差があるため、悟浄の両腕の中にすっぽりと収まってしまった雅は突然の事で驚きのあまりにピタリと動きが止まった。

「(う…るさい…落ち着け!心臓…)」

ドクドクと煩く響く心臓に相反してびくともしない悟浄の腕。

「あ…の。悟浄?」
「俺、雅の事マジでオトしにいくから」
「落とすって……ッ」

そんな時だった。突如ガチャリと戸が開いた。

「失礼しますね、悟浄、みや…びの……」
「あ、八戒」
「……お邪魔でしたか?」
「や、違うのそうじゃなくてね?」

すーっと扉がしまっていくのを見て、悟浄はゆっくりと腕を離した。

「俺としてはラッキーだったけど…」
「絶対誤解したよ!?八戒!!」
「どっちにしても、俺はマジだから。仮に…」
「仮に?」
「…いや、なんでもねー」

そう言うと、雅は『八戒に話してくる!』と言って部屋を後にした。残された悟浄はその場に座り込み、火をつける前のハイライトをただ咥えて天井を見上げた。

「だっせぇな…マジで落とすつもりなら三蔵にコクってたのもいっちまえば良かった…」

ポツリと呟く声は誰にも届くことはなかった…

その頃、隣の部屋では雅が八戒に話をしていた。

「…あの…昨日は迷惑かけてごめんなさい」
「いえ、勧めたのは僕でしたし。」
「でも調子にのって記憶なくなっちゃってて…」
「そうですか。」
「私、さっき悟浄に聞いたら変なことはしてないって言ってたけどほんと?」
「僕的にはしてないと思いますが…ねぇ??」
「…どうだかな」
「やっぱり…私迷惑かけた?」
「酔っぱらいになれば誰だって多少は迷惑だろうが」
「……そか…ごめんね、三蔵にも迷惑かけて…」
「それより頭痛とか吐き気は?」
「それは特に…大丈夫」
「ならやっぱり飲める口ですねぇ。」
「飲むな」
「三蔵…!」
「飲み方が解る様になるまではバカみたいに飲むんじゃねぇ。」
「…ん、気を付ける。悟空と一緒にジュースにしとく。」
「…フン」

そう言うだけ言って三蔵は立ち上がり空になったマルボロのケースを握りつぶすと徐に外へ出ていった。その灰皿の様子を見て雅はポソッと呟いた。

「ねぇ八戒…」
「はい?」
「私…本当に迷惑かけてない?」
「と、言いますと?」
「三蔵の吸い殻の量……」
「…そうですね、いつもの1.5割増ですね?」
「悟浄には…なにも言われてないんだけど…」
「で…?なぜさっきはあんな事に?」
「えっ……と…内緒にしてくれる?」
「えぇ」
「変なことした?って聞いたらしたのは俺だって…その……キス……したからって……私冗談だと思って…そしたら私の事…落とすって……冗談にも程あるしなって…」
「そうでしたか。キスはさておいても、落とす宣言は昨日、あなたが酔いつぶれてる間に言ってましたね。」
「……ッッ」
「で、雅にも直接言ったと言うわけですね。」
「何か…その…言ってた?」
「悟浄がですか?」
「……その…」
「ん??」
「…やっぱり大丈夫!ごめんね、変なこと言って。私、ちょっと外…行ってくる」

そう雅は言い放って、八戒のいる部屋を飛び出すかの様に出ていった。少ししてその音に驚いたのか、悟浄が入れ替わりやってきた。

「すンげー音したけど?」 
「…あなたって人は…」
「…ん?」
「キスしたって本当ですか?」
「…あー…まぁ、にな?」

そういうと、なぜか自身の額をつんとつついた。

「場所聞かれなかったし?」
「完全に唇だと思い込んでますよ?」
「あらー…」
「全く…少なくとも、雅の心は昨日あなたも聞いたはずでしょう」
「まぁな、てか、少し前から知ってたわ」
「え?」
「ほら、紅孩児んとこの。あいつが来た時に俺が冗談で三蔵のカノジョって言ったりしてたのが気になったみたいで。直接聞かれたわ」
「そんな前から聞いてて、何であんな事。」
「三蔵がさ。何か煮えきらなかったから」
「…それだけですか?」
「まぁ、な」

そういうと、悟浄は椅子に座りたばこに火をつけた。

「う…わ…何だこの量…」
「あなたが昨日変な事言うからでしょう?」
「でも、好きにしろっていったのは三蔵だぜ?」
「そうかも知れませんが、悟浄だって知ってるでしょう、三蔵が天の邪鬼だってことは。」
「事と次第によるだろうが」

そう言い、それぞれの行き先を追求することもなく、空を見上げながらゆらゆらゆれるたばこの煙を燻らせていたのだった。
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